異世界側が侵略する場合5
福岡の街が赤く燃えている。
旗艦創生大王から出撃した部隊は、対馬を攻略して福岡へと進軍した。
日本の抵抗は、驚くほど少ない。
まるで、狩られる獲物のようであった。
人口が100万人とも言われる大都市なのだから、そこに配属されている部隊も精鋭。
そういう触れ込みであったのだが、命乞いばかりだ。
「助けてー」
か。
「なんで、こんな事をするの」
とか。
「畜生、ぶっ殺して……」
生意気にも歯向かってくる者には、弾丸をお見舞いして黙らせてやる。
立てこもっているようなら、火炎放射器の出番だ。
驚くほどに、燃えやすい。
通りには、火の粉が舞って煙が立ち上っている。
1日程経った今、死体が通りの脇でごろごろと積み上がっていた。
男は、殺し。女は、遊んでから殺すのが礼儀である。
不当に、東韓を占拠する歴史修正主義者たちの末路。
当然と言えよう。
「少佐。完勝ですね」
「当然だ。貧弱極まりないジャップどもに抵抗など許されんだろう?」
そこで、別の部下が、
「これだけ破壊しては、現地調達が難しくなるのではないでしょうか」
「ふっふっふ。その点は、心配いらん。既に、同志が地下倉庫に備蓄済みだ」
「なるほど」
能古島近海から砲撃する韓国軍は、焼夷弾と併せて進撃をしている。
燃えているのは、地表だ。
そして、制空権も韓国軍のものである。
雑魚ジャップたちには、抵抗する事もできないのだろう。
全ては、米軍に頼っているせいだ。その在日米軍が無力化したから、易易と支配できる。
四角い無線機を手にすると、
「同志諸君、時は来た。今、まさに悪辣卑劣なる日本人たちを討ち倒すときである。チョッパリたちは、我々の同胞を連れ去り非道なる拷問を加え地獄へと突き落とした! ならば、どうするべきか! 殺すのだ!」
「然り、然り、然り!!!」
周囲にいる部下が、激しく反応する。
「一切の手加減は、不要である。老いも若きも、男女に区別なく殺すべし。チョッパリどもに、慈悲はいらん。一切合切を破壊し、奴らの痕跡をこの地上から消し去るべし。これは、大宇宙の意思である」
「然り、然り、然り!!!」
割れんばかりの銃声が、響く。制裁を加えていた女の腹から、赤い血が吹き出す。
細長いものが飛び出してくる。汚れた血だ。天へと向けられた銃と動かない女の姿が目に入る。
制裁なのだ。浄化といってもいい。
「故に、宣言し誓おうではないか。我らは、チョッパリを殲滅すると! 地上に蔓延る全ての害悪は元を正せばチョッパリのせいであるのだ。これを正さずして、世界の平穏は訪れない! 神は、言っておられる。チョッパリこそ異世界を侵略する悪魔だと! さあ、見つけよ。悪魔退治の時だ! 一人のチョッパリも見逃してはならん!」
「然り! 然り! 然りぃ!」
戦士たちが、飛び出していく。世界で最も量産された銃を手にして。
◆
てくてくと歩いて海へと向かっている。
だが、それで助かるのか。
動く死体は、切りがない。倒れた死体が、燃え上がっていくのも不思議だ。
「こっちで良いのか」
「さて、なあ」
ロシナには、秘密が多い。多すぎるくらいだ。その疑惑ときたら、踊らされているのではないかという思いが募ってきた。
だが、ロシナが居なかったらどうであろう。翔たちは、とっくに死んでいるに違いない。
崩れ落ちた瓦礫の山を避けるようにして進んでいる。
灰色の山には、死体がうごめいていて剣から出る炎が便りだ。
存外に、俊敏な死体はいなくて助かっている。
のろのろと寄ってくる死体を焼いて進む。隣にいる女の子が心配だ。酷い匂いが漂ってくるし。
「正義の味方とか出てこないのかな」
「出て来ると良いね」
空想の世界では、タイミングよく現れてくれるのに。どうして、現れないのであろう。
めらめらと火が上がって煙が流れていたりする。目的は、家に帰る事だったのに。
海へと向かっているのは、北からの放射能を避けるためだ。
北が駄目なので、南下しているのだが……。
「なんだあれ」
普通ではない色の人がいた。葉っぱの色というか。緑だ。肌が緑で、座っている。
何かに触れるようにして、掴んでいるようだ。瓦礫に向かって、3体程。
周囲を警戒していると見られた緑色の人が、手に棒を持って走ってくる。
「ゴブリンだな」
「はっははあ?」
ゴブリン。ファンタジーでは定番の魔物だが、日本にいるはずがない。
警官は、何をやっているのだろう。手に剣だかなんだかを持って、駆けてくる。
周りに、人の姿はない。助けてくれる人は、居ないというわけだ。
これは、もう斬るか燃やすかしかない。
赤い剣を前に、炎のイメージを作ると。はたして、吹き上がる。伸びていく炎が緑色の魔物を包むと。
「距離をとって放つのは、正解だ。だが、疲れてないか?」
「いや? 全然、平気だ」
「ふむ。適正が高いのかもな。とにかく、魔物が増えるだろうから気をつけろ」
前に進む。早く休憩する場所を探さないといけないのだ。南側というか。東京よりも下に行った事がないのだ。神田川から南に向かっているはずだが、瓦礫ばかりで何処なのか知れないのだ。
スマートフォンは、とっくに電源が切れてしまっている。
充電したくとも、コンビニが見当たらなかった。ゴブリンという魔物が、普通にいる。
自衛隊は、何をしているのだろう。追い回されている人を発見するも、ゴブリンの群れを見つける。
助けるのは、無理で避けていくしかない。
あまりにも数が違う。銃を持っていたとしても、戦えるかどうか。
進んでいく方向には、ゴブリンの姿もないが近い。
「急ごうか」
「あのロボットで助けてあげられないのかな」
「そうすると、ガーフに見つかる。まずは、寝床を確保するのが先じゃないか?」
そうだ。寝床をどこにするか。それが問題で、魔物を退ける場所が望ましい。
南へ向かって歩いていくと、ぽつぽつと人に出くわす。
剣を持っているので、怖がっているのか。逃げていくではないか。
瓦礫のない方向からもある方向からも人の叫び声がする。絶叫だったり、悲鳴だったりと。
聞く度に、いたたまれない気持ちになった。
「駄目だ。ひょっとして、日本中がこんな風になっちまってんの?」
「さてね」
状況は、絶望的で行く方向すら定まらない。スーパーらしき場所も潰れてしまって食料が手に入らない。
生き残っていたコンビニでは、略奪が起きている。
それを避けていくと、緑色の魔物と人が戦っていたりする。
人の方が、包丁だかなんだかで応戦してたりと。武器も統一性がない。
緑色をした魔物だけではなくて、桃色の肌だったり白だったりと奇怪な姿をしていたりする。
戦えるの? と言われれば、戦いもしよう。しかし、空腹だ。
何かを口に入れたい。食料が必要だった。
(災害救助活動とかないんかね)
どこもかしこも瓦礫であれば、被害は甚大だろう。
今後も食料が得られる保証がないとすれば?
ひょっとして、餓死してしまうかもしれない。早急に、食い物を手に入れる必要がある。
死なないために。