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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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異世界側が侵略する場合3 (ガーフ

 画面は、ゆっくりと下がっているが危機が去ったわけではない。

 下方を見れば、闇夜に上がる火の手が。

 後方頭上からは、味方の機体が飛来すると。


『おや、アインゲラー卿。任務の進歩はいかがでござぁいましょうか』


 いやな男が話かけてくる。魔導無線越しに聞くのも嫌な声だ。

 

「誰だよ、この声」


『日本人、の、穢らわしいこぉえが聞こえますねえ。死滅しろ日本人ども』


 如何に理由があるとはいえ、相手のやりようといえば。

 壊れて、狂った騎士。鋼鉄の巨人に乗る分だけに始末に負えない。


「てめえぇ!」


 翔が怒りを乗せて叫ぶ。壊乱のガーフは、炎を帯びた槍をくるくると回し。

 操る機体は、赤黒く。降下した巨人の足は、蜘蛛のように多脚で建物を押しつぶす。絶対にわざとだ。


『おやぁ? 怒りましたか? ぬっふっふっふ。そう! そうでなくてはいけません。ジャーップボォーオィ』


 正道を歩む謹厳なる騎士だった。どうして、そうなったのか。とは、遠い昔の話でしかない。

 彼もまた、力によって狂ってしまったのだ。

 普段は任務に忠実な騎士だが、日本人に対しては。


「やろお!」


 翔は、吠える。が、地面を動く相手に攻撃が加えられないでいた。

 走りながら、攻撃を避けてみせるのだ。ビルよりも大きな体躯をしていながら、それでいて車以上に速い蜘蛛足の動き。その鋼鉄の魔導兵器は、通常兵器では傷一つつかないだろう。


 なんせ、100トンだかの重量を支えているのだ。


「あいつを、とめないと!」


 言うが、簡単ではない。

 翔の乗る機体が着地したのは、学校のグラウンドが見える場所。道路に足を置くと。

 赤い蜘蛛足をした機体は、嘲笑うように建物を破壊しながら走り去っている。

 舞う破片に、人の姿が見えて気持ち悪くなってきた。


 どうして、そんな真似をする。そして、彼の気持ちも知っていたけれど。


「当たれ!」


 翔が銃を向けると、その引き金を引こうとするのだ。阿呆だ。


『やめろ! 東京を火の海にする気か!?』


 はっとして、指が止まった。考えもなしに、ぶっぱなすつもりだったもよう。

 ロートヴァントの火力なら、すぐだ。ぐるりとエネルギーを射出しながら回転すればいい。


「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


 答えをすぐに、人へ求める。悪いところである。


『接敵して、剣で切り倒すしかない』


 難しい話だ。何より、相手が動き回る。そして、銃を撃つのと違って勝利条件が問題だ。

 飛び上がって、加速していくが。


「なんで、相手の方が速い!」


 当然ながら、機体に搭載されたエーテルドライブは搭乗者の魔力に左右される。いまだ解明される事のない原初の魔導。フォトンドライブとどう違うのか。わからない。

 そして、ユークリウッドの補助がなければ、性能が限りなく落ちるとはいえ。


『相手は、やっている事がキチガイでも熟練の騎士だ。だから、にわかのパイロットでは』


「わかってんだよ、んなことは! だから、どうやってあいつを倒すかって事だよ」


 機体の出力が上げられない。

 飛んでいるのに追いつけないのでは、倒しようがないではないか。赤黒い蜘蛛足の機体は、新目白通りに降りて、そこからまだ建物の残っている南西へと向けて走っている。

 都庁へ向かえば、アルーシュに咎められるだろうからか。


『手がないわけじゃあない』


 危険な賭けだが。


「じゃあ、はやくやってくれ」


 翔は、簡単に言うけれど。人の過去をほじくり返す事は、やっていけない事だと知っているけれど。


『あいつは、こんな事をする奴じゃなかったんだよ』


 誰より、隊にあっては規律正しく。誰より、正義を追い求めて。誰より、差別を嫌った彼が。


 狂う事になったのは、


「もう、撃つしかっ」


「やめて」


『あいつは、家族を』


『いけませんなあ。それは、それを! て、あ”あ”。てめええがっ、言うか、この、ジャップが、黄色い外道が! 死に絶えろ! 絶対にゆるさんぞ』


『日本人に殺されたんだよ』


 だから、ではない。それも、あるかもしれない。でも。


『ああ、これはいけませんねえ。ほうら、わたくしめがちょっと走ればジャップどもがこれ、この通りでございまぁす。頑張って6000万だか8000万だかちょいと殺し尽くさねばなりませんのでなあ』


 翔の持つレバーには、力がこもっている。しかし、だからといって機体が速くなることなどない。

 例え、追いついたとしても勝てるかどうか。と、急に蜘蛛足を止めて槍を繰り出してきた。


「あっ」


 上に飛び上がって避けるも、手に持つ銃で追撃を仕掛けてくる。盾の光が輝いて弾丸を弾く。

 

『あいも変わらぬ硬さ。臣ガーフ感服するところであります、が』


 またしても、走り出し。都庁ではなくて、中野区へ向けて走りだす。一体、どれだけの人間が死んだ事だろう。想像するだけで、嫌な気分だ。止められないのは、ロシナが人形だからか。


『これも、任務ですぞ?』


 翔が、視線を向けてくる。任務? 何の任務だ。そんな任務は、聞いた事がない。


『知らない話だ』


 立ち止まっている相手へ向けて、建物を巻き込まないようにするけれど。

 ビルを安々と破壊する足に、小さな家が踏み潰されている。


「なんの、話だよ」


『ふっふっふ。ですから、見つからないのなら殺し尽くせばよろしいではないですか』


「てめえ、頭、おかしいだろ」


 確かに、そうなのだ。だが、それは無差別の殺しではないか。ユーウが例え見つかったとしても、今度は彼との戦いになるだろう。きっと。


『くくく、ですので、私は任務を続行させていただきます』


「やらせるか!」


 空中から、接近するものの。手にした相手の槍に、手が出せないでいる。

 手にした銃は、使えない。射てば、箱根の山でも消滅するだろう。或いは、富士山に当って大爆発なんて事もあり得る。


「らちが、あかねえ。あいつを殺る武器。ないのかよ」


 全部、一撃で殺れる武器なのだが。おおよそ、味方同士の機体ではセーフティーロックがかかってしまう。自慢の魔導【グラムロック】も放てない。


 と、槍を掴んだ。


『甘いですねえ。死ね』


「なに? ぐぇ」


 そのまま、持ち上げようとしたのだろう。だが、結果は逆に地面へと叩きつけられてしまった。

 建物を押しつぶしているはず。


「くっそ」


 悪態をついても、追撃する槍が迫る。シールドを叩いては、弾かれても攻撃をやめようとはしない。


「いいかげんに」


 縦に突かれて、また転がる。どれだけの建物を押しつぶしたのか。想像すらしていないのか。


『騎士アインゲラー、その未熟な騎手にまかせておいてよいのですか』


 あいにくと、身体がないのだ。できる事ならやっている。わかっていて煽るのだから。


「なろっ」


 跳ね起きて、飛びかかるも槍で押し返される。仰向けにひっくり返り、回転して地面へ。

 なんとも無様。


『てんで相手になりませんねえ。これはもう、相手にするだけ時間の無駄。無駄な事は止めて、木偶のように立っていなさい』


 熟達した槍の前に、乱打を貰い、返す一撃を浴びせる事すらできない。全周囲をくまなく覆う異能があってこそ、立っていられる。でなければ、とっくに翔の乗る機体は破壊されているだろう。


「何か、ないのかよ」


『羽は、使ってしまってないからな。もはや、銃剣で斬るしかないんだが』


 エーテルソード。魔力を用いたエンシェントゴーレムが持つ切り札。

 威力の程は、町を破滅させるほどの巨獣であっても一撃で切り伏せる。

 山のような竜とて、相対して油断できないだろう武器だ。


 だが、


「そいつだ。どうやって、使うんだよ」


 無理なのだ。魔力を保たない翔には、使えない。いや、日本人全般に渡って使えないだろう。

 仮に、使おうとしてもそれは、


『翔は、自分の命をかけられるか?』


「そりゃ…」


 麗花を見て、それからロシナを見る。


「例え、そう、でも」


 全く、どうかしていると思えば。


「しょう、ちゃん」


「全く、俺も、どうかしてると思う。けど、あいつを止めないといけない。それが、騎士ってもんだろ」


 悪にあっては、悪を斬り。善にあっては、それを助ける。完全超悪。

 悪だけを滅して、善を助けるのだ。

 かつて、彼も信じていた。そして、己も信じていた。


 戯れに日本人が放った魔法で、多くの無辜なる人々が死ぬまでは。

 守りきれなかった悔恨と憎しみが、狂乱へと捻じ曲げたのだ。


『勇ましいですねえぇ。ですが、これ、この通り』


 残骸だらけの街。水爆の余波と、戦闘で滅茶苦茶になっている。

 そして、日本人が塵芥のように散らばっていた。


「これ以上は、やらせねえ。力を貸してくれ」


『無論だ』


 熱くなった。どうして、異世界で無法を働くのか。

 来る人間が、全てそうではないとしても。異世界だからといって、大量虐殺していいはずがない。

 魔術が、魔法が存在しているのだ。殺せば、殺される。その理が帰ってくると。


『接続。魂魄剣』


 ユークリウッドが居れば。使える武装も、命がけ。


「これを」


 闇夜を切り裂く剣を。高ぶる怒りを気合に変えて。憧れたのだ。


『ふひひ。いやいや、これは、逃げさせてもらいますよぅ』


 ガーフは、機体を沈めて後ろへ。流石に、棒立ちしない。脱兎のごとく間合いを開けようとするが。


『騎士道に、敵を逃がす文字はない!』


 剣から噴き出る命の煌めきが、噴流を作る。押し出されるのは、機体と。


「どぅりゃあ!」


『なんと! しかし、甘い!』


 赤黒い輝きを纏う突きを避けられず、盾に当ってしまう。構わず進んで、すり抜けるように足を薙ぐ。

 

「やったぜ! げえ」


 すぐに接続を切ったが、翔の口からは「おぶっ」と赤い血が溢れてきた。 


『見事。でぇすが、ここは逃げさせてもらいますよぅ』


「誰が、逃がすか!」


 血を吐きながら、言う。だが、駄目なのだ。討てば、仲間が仇を討ちに来る。

 そうなれば、今のロシナでは助ける事もできないだろう。

 今の攻撃すら、内輪もめで処理されている可能性が高い。


 きっと、面倒だから更地にしてしまえ派と。そうしてはいけないという派と。


『殺意は、ありませんでした~、にひっ』


 身体が、頭が船に揺れるように。景色が、歪む。それは、それだけは。


「おいっ、どうしたんだ」


 足を破壊したのだ。もはや逃げる事ができないように見えて、空へと浮かび上がる。

 足は、飾りだ。


『ふっふっふ。それでは、ごきげんよう。ジャップくん。ロシナさまに殺されないといいですねえ』


 ぐらぐらする。寒い。寒いのだ。ああ、どうして。忘れていた。


「何言ってやがる、逃げんな。クッソが~~~」


 煩い。どうして、忘れていたのだ。弟の事を。どうして、見過ごせようか。

 なぜ、日本人に味方せねばならないと思ってしまうのだろう。

 さても、関係ない人間を殺す事を良しとしなかったから?


 だから、


『いこう。奴は、退けた。ここにいては、次の敵がやってくる』


 弱ければ、死ぬ。翔も連戦させれば、死んでしまうに違いない。これ以上は、駄目だ。


「なんでだよ! なにを日本人がしたってんだっ」


 知ったところで、どうにもならない。彼らは、彼らが受けた痛みを倍返しにしようとしているだけなのだ。それが、日本人というだけで無条件に憎いのだろう。

 ひとり残らず、殲滅するまで憎しみが尽きる事はない。


 何かにつけて、虐殺をするに違いない。彼らを止める事ができる者がいるとすれば。


『虐殺だよ。ちょっと、異世界を滅ぼしてこようとかさ。異世界で考えた奴、する奴、けっこういるんだぜ?』


「んなキチガイと一緒くたにすんなよ!」


 そう言うけれど、足は動かない。気分も萎えてしまった。

 殺される方が悪いのか? 殺す方は、守られる。そんな悪法を知らないのか。

 いずれにしても、変わって吹き上がるのは憎しみと悲しみだ。


 なんという気分屋。


「おい?」


 機体の腰を下ろすと。


『一旦、修復モードだ。腕が取れてしまう』


 修復に、休息が必要だ。ロートヴァントにも、翔にも。


「こいつ、勝手に治るのかよ」


『箱に収納されると、こいつはな。あっちは、魔導技士たちの手で治すから時間がかかるのよ』


 そこらへんを説明していたら、夜も空けてしまう。

 真っ暗だった都市が、ガーフの攻撃で煌々と燃え上がっている。

 ちょうど、水爆から被害を受けなかった中野区から杉並区にかけて赤い海ができあがっていた。


「あいつは、何がしたいんだ。めちゃくちゃにしやがって」


 機体から降りると、麗花の肩に乗る。


『日本人を皆殺しにしたいんだろ。わかれよ』


「だから、それがわかんねーんだよ!」


 どうやら、説明してやらないといけないようだ。

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