異世界側が侵略する場合2 (翔、黒竜、麗花、ロシナ)
覚めない悪夢を見ているようだ。
歩いても、生きている人間に出会う事はないのだろうか。
そして、
「何あれ」
麗花の言葉で、空を見上げると。
流れていく光。
流星だ。しかし、あり得ない量だった。
「ハレー彗星じゃ、ないよな」
「あんなに沢山の流星なんて、見たことないよ~」
悪い予感がする。核兵器の余波で、街灯はなく月明かりだけが頼りだった。
そして、
「ぼさっとしてんじゃねえ!」
剣から人形が出てきた。あり得ない事に、驚きつつも。
「無事っていうか。その、どうしたんですかこれ」
半透明なのだ。しかも、小さい。
「理由は、後回しだ。剣を握って、叫べ。来たれ、赤い壁ってな」
「え?」
「え? じゃねえ。早くしろ」
「ええと、来たれ赤い壁?」
赤い柄の剣は、まるで燃えるように熱くなってきた。
そして、音もなく頭上に現れたのは赤い巨人だ。空を飛んで腹を見せる格好で。
巨人の腹から、光線が伸びてきた。
「麗花ちゃんも」
言われずとも手を引くと。そのまま上へ引っ張りあげられていく。
「ちょっとまった。これ、どういう機能なんだ? というか、なんで敵のロボットに乗るん」
「だから、このままじゃ日本つーか世界が滅ぶんだよ。おいおい説明すっから」
腹の部分が、開いて青い光沢の面が見える。そこへぶつかると思った瞬間、翔は内部へと吸い込まれた。
「これ、どうなってんの」
「さあな。さっさと座って、流星を迎撃しろ。地球が、質量兵器で破滅する前に」
コックピットに座ると、全周囲に広がる光景にただ衝撃を受けるばかりだ。
「こいつに乗るって、抵抗があるんだけどな」
「乗らにゃ、ユーラシア大陸は消滅しちまう。世界がどうなっても良い気もするが、流石に見過ごせんだろ?」
「これに乗ることができるってことは、ロシナさんは敵側ってことじゃんか。どうして、助けてくれるんだよ」
念じるだけで、流れていく星をロックオンしてくれる。なんて、規格外の兵器だ。
そして、流れ込んでくる感覚。射てば当たる。
後ろには麗花が、おっかなびっくりで周囲を見ているようだ。
「さてなあ。俺も気が狂ったのかもしれねえ」
「こいつで、城を撃ち落とす……とは考えないのかよ」
そうなのだ。流星を射撃しつつ、つい空を飛ぶ城を狙いたくなる。
全ての厄介事は、かの城が引き起こしているのではないか。
そう思うのも、仕方がない。と。
「いいが、その瞬間に翔は死ぬか放り出されると思う」
「隙が、ないのな」
「有る方がおかしいだろ。敵機の乗っ取りとかな。あれ、どうかんがえたって自爆装置を積んでいないのが不思議だっての」
「だよなー」
残念。この機体で、ゾンビを始末していけないだろうか。東京都は、暗闇に包まれている。辛うじて灯りがあったはずの空。星降る夜に、月が突然消えてしまった。
「じゃあ、さ。教えてくれよ。この機体で、何をしようってんだ? 流星とは、関係がないのか? 流星は、誰が降らせているんだよ」
ちびっこになったロシナは、腕を組んで麗花の頭の上に乗っている。
「良いおっぱいだな」
「とぼけんな」
「敵は、竜族。その頂点に立つ竜神だろうな。月を砕いて、地表を更地にしちまおうって腹だ。ついでに、それでユーウが見つかればラッキーな感じでやっているようでな」
射撃が止まりそうになった。いきなり扱えるのもおかしいが、ゲームと一緒である。
ロボットゲームに似ていて、簡単に習熟できた。思えば、レトロなゲームであったがよく出来ていた。
「なんで、竜族が人間に攻撃してくるんだよ。おかしいだろ」
「なんでだ?」
なんで? なんでって、竜なんて非現実的存在で。敵対しているなんて、信じがたい。
攻撃を受けるような事をしたのだろうか。
どういう理由があって流星を降らせているのだろう。
「なんでって、そりゃあ。何かしたのかっていうね。理由を知りたいじゃん」
「さてねえ。竜といえば、人間に討伐される存在として描かれる事も多い。邪悪な存在みたいにな。当然、相手も人間へ敵意を持って接してくるようになるとは思わないか? それでなくても、かませ扱いだからな。さても、竜。知性を持った人間以上に強靭な肉体を持つ生命体だ。彼らは、人間を殺して餌にする必要もない。地球を攻撃するのは、ただ目障りだからだろうな。人間が、竜を討つように竜も人間を討つべしと。ま、ともかく手下の竜を使って隕石を降らせてだな。人類を殲滅しようとしているワケよ」
「だから……」
「だから、理由は簡単。人間とは相容れないってやつさ」
月を砕くというのも荒唐無稽なら、竜というのも同様。動く死体に、ロボットを操縦して頭がどうにかなりそうである。そんな浮ついた気分でも、正確に流星を撃ち落としていく。
腕は、疲れを訴えている。
レバーを操作するのも、同じように動かさないといけないという。これは、人体が疲れる。
「竜って、味方のイメージがあるんだけど。なんでかな」
「日本人が抱くのは、龍っぽいよな。でも、竜の棲む世界じゃ色々いるらしい。知っているやつは、知っているんだがあんまり喋らなかったしなあ。語彙が少ねえっていうのかねえ。おい、上に上がれ。このままだと、降ってくる奴が地表にぶつかってとんでもない被害を出すぞ」
上? 上と聞いて足を上げるようにするが浮かばない。
「どうやってよ」
「ともかく、念じろ。こいつは、そういう機械だと思えばいい」
「はいはい。つか、他人に自分のロボットを貸すか? 普通」
「こまけーやつだな。とてもあの人の弟だとは思えねえよ」
違和感をずっと感じていたが、ロシナは。つまり、知り合いなのだ。
失踪した事になっている兄の。
テレビでは、連日報道されて。今でも、たまに聞く。
あまり、仲が良かったとは言えない兄だが。それでも兄弟なのだ。気になって仕方がない。
上へと。念じれば。
「おお? なんで、浮かぶんだよ」
「俺に聞くなよ。こいつは、話によると重力子を操る機能があるんだとか。それがどういう機械で、どういう仕組なのかわかったらノーベル物理賞もんだぜ」
「すげえ。ロボって、浮かぶんだな」
「感想はいいから、もっと高度を上げて迎撃しろ」
上に、赤い丸が表示されて危険を訴えている。表示されている文字が読めない。
なんと書いてあるのかと。思っていれば、
「おいおいこいつは」
拡大されて、それが見えてくる。
「怪獣?」
「やべえな」
射つのだが、赤い光は外皮に反射されて拡散してしまう。空中で、激突すると。
猛烈な勢いで、殴りかかってきた。
画面の文字を見れば、2,1mなんて出ているのできっとマッハが出ているのだろう。
空中で、黒光りする怪獣と格闘する事になろうとは。しかも、ロボットに乗って。
「上手いじゃないか」
「どーも。つか、頭、割れそう」
バリアとみられる光の膜を拳が突き抜けてきたし。スウェーの要領で、上半身を後ろに反らしながら持っていた銃で腹を殴ってやった。かなり、硬い。銃も竜も。折れずに、殴れるとは。
後ろに反らして、躱したと思ったのだが。
「直撃してたら、頭が吹っ飛んでたな」
「ふむ? 貴様。ロシナではないな? 誰が乗っている」
声が響く。ロボットアニメにありがちな、回線を合わせているのだろうか。
会話する気分になれないのに。
「誰よ? 知っている人?」
「しっ。こいつは、戦闘を楽しむ野郎だからな。相手していると、きりがねえよ」
「聞こえているぞ」
どうやら、聞こえているらしい。ゆったりと近寄ってきて、しかも力任せに腕を振ってくる。
避けるしかない。光の膜が失われて、格闘戦になってしまった。
光の膜がバリアだと感覚が教えてくれる。
「どうやら、不興を勝ったか? 赤い死神」
「死神じゃねえって、何回言えばわかる」
「死神かよ。とんでもねーな」
「お前ら、ひょっとして気が合うのか? つか、敵としゃべるんじゃねえっての」
と言っても、終わりが見えそうにない。ぶんぶんと振り回される手足。
黒い鱗に覆われた身体には、ロボットの赤い光が通じない。
そして、武器といえば。羽だったりする。相手も、黒い光が漏れてきて全身を覆っているし。
「くっ。流石に、神機相手では秒殺できないか」
仕方がないので、羽からも射撃をする。不思議な感覚だ。
「武装が偏りすぎだろ。実体弾がねえのかよ」
「あいつに、物理攻撃はほぼ効かねえ。それこそ、太陽でもぶつけねえと衣が剥げねえんだ。ユーウが居れば、そもそもさくっと解決っていうか。こんな事も起きなかったのにな」
「ユーウって奴が元凶なのかよ。最低な奴だろ」
すると、黒い竜の太い足が避けきれずに腹に突き刺さった。
おかしい。赤いロボットの動きも悪くなったという。避けれたはず。
「ふむ。我が主の主を愚弄するとはな。もはや、容赦はせんぞ。鉄くずにしてやろう」
また、ゆったりと近寄ってくる。わかっているのだが、攻撃できない。
何をやっても攻撃を受け流されるのだ。
まさか、怪獣と空中格闘戦をやろうとは。
「仕方ねえ。あれだ。銃に、気合を入れろ。野郎をふっ飛ばしてやれ」
「ふん。そんなものが、があっ?」
正解は、羽を突き刺してやる事だった。
「え? ちょっと待て。そんな使い方ねえぞ」
「ばーろー。こいつにゃ、読まれる。なら、こういう使い方もありってこった」
「まじかよ」
銃をブッパすると見せかけて、羽は赤い光に包まれて竜の身体に突き立つ。
腕は、落ちないが。重症は間違いない。背中の羽は、8枚。
3つめを腹に突き立てるところで、
「おのれ、聖上?」
「ちっ、逃がすなよ。ここで、逃がしたら」
だが、相手は余力がありそうだ。間合いを詰められない。詰めたら、いけない気がする。
流星を撃ちを再開して、様子を見ていると。
羽を投げ返してきた。危なく自分の武器で、死ぬところだ。
「名前を聞いておこうか」
「誰が、名乗るかばーか」
「煽るな。こいつは、翔。お前に、土をつけた野郎だぜ。はっはー」
竜の目が、すぼまったような。これ以上戦闘を継続できるようには見えないが。
「ロシナが、手を貸しているとはいえ俺を退けた腕前は称賛に値する。なるほど、面白い」
「やべーな。こいつは」
「ロートに乗ってんだ。どんといけ、どんと」
だが、同時に敵に狙われるという事ではないか。翔は、普通の学生である。
頭は、良くないし。小説がかけたりもしない。漫画やアニメをみるくらいで、ヒーローになりたいとも思わない。ごくごく普通の。
「これで、終わったと思うなよ?」
ゆったりと、しかし一気に離脱していく。上へ向かって。
「やれやれだな。他のが来る前に、退散するとしようか。次は、セリアが出るだろうし」
「つか。もう、一生分くれー疲れたんだが」
気がつけば、汗で全身がぐっしょり。真夏のよう。
眠気が、翔を襲ってきた。まさか、敵のロボットに乗るとは想像すらしていなかった。