0.2章 異世界側が、侵略する場合1
魔法を持たない側の土民を侵略する。はっきりいって、簡単である。
なぜか?
まず、ミッドガルドの魔術は重力を無視する事ができる。敵の攻撃方法は、慣性兵器だという事が判明しているのだ。全く浮遊城へは、傷が付かない。爆弾による衝撃破壊がほとんどなのだ。
(重力を操ってる船が、銃弾で破壊されるとか接近されて侵入されるとか。いくらなんでも、ありえねーんだよ)
大抵の魔法世界では、魔法で空を飛べるだろう。およそ魔法が存在しない世界では、人が空を飛ぶには機械の力が必要だ。背中に翼が生えた人間がいれば、それはもうファンタジー世界と言っていいだろうし。
人サイズ、170cmほどの男が飛ぼうと思えば翼はそれ相応に大きくなる。
鳥を観察すれば、翼の大きさも想像できるだろう。
(ううう~、陳情とか会見めんどくせ~)
分子よりも小さい光子を内包する四角い箱を弄ると画面が、どんどん切り替わる。
城の周囲を見たり、捜索する事ができる術を補助する道具だ。
探すが、見つからない。
こうも混乱しては捜索どころではない。
核兵器をばんばん使う異世界人は、想像の埒外だ。放射能が怖くないのか。国土が、痛むはず。
重力子の発見と実用化にこぎつけた日本人とは思えない短絡ぶりに、頭が痛い。
(あ~もうめんどくせ~。どうすっかね~適当に流してっけど)
地表に生きる人間たちが、死亡してゾンビになっていくのも問題だった。
異星人と戦う事など、これでは不可能だろうに。
戦う体制など、てんでなっていない。
(政治家どももマスコミも使えないから処分してみたが、早まったか?)
面倒なので、かなりの数を死刑にしてみた。そのせいか、混乱をまとめようとする勢力がでてこない。
秘密組織とかないのだろうか。
「殿下」
「なんだ?」
目を向ければ、黒い服を着た執事の1人が畏まるようにしてしゃがんでいる。
「是非、殿下にお会いしたいという谷部の信三をお連れいたしました」
誰だ? 谷部? 知らない名前だ。
「通せ」
本来、浮遊城の暗い室内には、夕闇に相応しい灯りが煌々と付いている。
異世界を侵略してから2日が過ぎようとしていた。
1日目で、ほぼ防衛戦力を破壊している。2日目は、混乱が始まった。
目標が遠のいている気がする。
(ぐぬぬ。どうして、こうなった)
真っ暗になった東京は、まるで死んだ都市のようである。
水鏡の術を使っていると、1人の日本人らしき男が前に進んできた。
「跪き、頭を垂れて、面を下げられよ。かんばせを見る事能わぬ」
ヒロが、声をかける。そして、対面に立つ爺は無言だ。
隣には、銀髪の女錬金術師。対面に、金髪の女錬金術師。
どちらも、浮遊城のメンテナンスには欠かせない人材で。同時に、いけ好かない。
「お初にお目にかかります。谷部信三と申すもの。この度は、お願いがあって面会を希望いたしました」
政治家だったか? 日本の政治家というのは、馬鹿しかなれないというが。
たまに、弁の立つ者がいるらしい。どうでもいいことなので、計算に入れていなかった。
頬杖を付くと。
「続けられよ」
ヒロが、止まった言葉の先を促す。
「日本の治安を回復していただきたい」
警察がやるべき事を押し付けようというのか。自分たちでやるべきだ。
「断る」
「なぜですか? このまま混乱が続けば、いたずらに人命が失われる事になり統治もままならないはず」
統治? 何を言っているのかわかんねーよ。
こいつは、勘違いをしている。あくまで、婚約者を捜索しにきたのであって。
自衛隊を攻撃したのは、捜索するのに邪魔だったからだ。
日本を制圧しようとは思っていない。なぜなら、持ってこれる人口が違う。なので、運用兵力も違う。
浮遊城から降下して、まともにやりあえば人海戦術で敗れ去りかねない。頭がおかしいのだろうか。
「こちらには、統治する気がない」
白髪交じりの頭髪には、男の老いがある。
「では、なぜ、自衛隊を日本を攻撃したのですか」
なぜ? 邪魔だからだ。捜索するのに、兵隊を動かす。当然、自衛隊の兵隊と戦いになる可能性が浮上してくる。セリアは、好戦的だし民間人に被害が出る事が容易に予想できた。
画面をセリアに向ければ。
チンピラに声をかけられて、虐殺。ヤクザともめて、虐殺。
うん。やべえ。
男と目があったら、頭を掴んでボウリングのように投げる。
壁にぶつけられたトマトよろしく、男の頭は弾けて赤い花を咲かせる。歩く暴力兵器だ。今も、狐目のように細く潰れたドルジ顔の男をどういう理由でか地面に叩き漬けている。180cmはあろうかという男の手足は、逆方向で。過剰な暴力を振るっていた。
白いコートが赤く染まる彼女を止める人間が、いない。どうにかしなければ、その背後を闊歩する軍団で日本人の命が危ういだろう。ぜんぜん面白くもなさそうに、狐目をした男の頭部がアスファルトにぶちまけられる。
目を逸らさずにいられぬ所業。
「話を聞かないからな。朝鮮、中国、ロシアから攻撃を受けているは当方と関係がない。自分たちでどうにかされよ」
泣きっ面に拳という状況。日本は、反撃するどころではなかった。話では、最強とも噂されていたのに。
「そんな無茶な。自衛隊は、その戦力をほとんど失っているんです。銃では、装甲車にだって勝てない。ご理解ください」
銃弾が、装甲車に効かない。まあ、わかるが。
理解? 何を言っているのだ。もしかして、慈悲だとかそういうモノを期待しているのだろうか。
日本は、日本。ミッドガルドではない。
「竹槍で戦えばよい。最終兵器だと聞いた事があるぞ」
最強の武器にして、農民ジョブのファイナルウェポン。
「は?」
頭が動いた。ぽかんとした顔だ。しわくちゃで見れた顔を上げている。顔芸ができる男のようだ。
面白い。頭の片隅には、置いておくのも良いだろう。
「連れて行け」
手で追い払う仕草をする。
勿論。ユークリウッドなら、竹槍で戦闘機だろうが戦艦だろうが撃破可能だ。1人でも竹槍で敵を殲滅してくる事だろう。そう日本だ。日本なら素手でも、無敵の格闘家がいると信じている。セリアも、それを探してうろついているのだろう。
ただ、まあ、見渡すかぎりの地面を耕す攻撃力を持つ彼女と戦うのは無理ではなかろうか。
谷部は、両腕を掴まれて連行していかれる。事前に、身体検査を受けたせいが自爆しないようだ。
「あのさー。探知器を設置しちゃってぱっぱと探した方がいいんじゃねえの」
憎たらしい胸を2つもぶら下げた女が、爪を鉄の棒で擦りながら言う。赤いドレスといい。
育ち過ぎである。人によっては、退化したともいう。毟り取りたい乳だ。
「当然だ。明日にも設置を完了させる」
己がやるわけではない。権力で。
「そのためにはさー。ゾンビとか反乱を起こしている兵隊って邪魔じゃん?」
こいつが言わんとすることはわかる。だが、思い知れ土民どもと思わずにいられないではないか。
事を穏便に運ぼうとしたら、ロシナは重体で動かない。バリアの使い過ぎで、昏睡状態。
回収したが―――
「わかっている。しかし、兵隊がな」
「エンシェントゴーレムを奪われたら事だもんねー。そこで、じゃんじゃん」
アルストロメリアの対面に立つ女が、アイテムボックスから台を取り出すと。
空中に、地図が描かれる。
「こっちが、うちらの居る場所でーす。探査結界を拡大していくように、設置中なんですよー」
できる。四角い箱は、魔導科学でできている。水鏡の術では限りがあるのだ。
「むう。早急にな。私の気は、長いほうじゃない」
はっきり言うと、短気で損気だった。流石に、達磨にしてやるなんて言うのは不味いと反省している。
「にひひ。わかってますって。ニャムちゃんよろしくー」
翼の生えた猫が、空を飛びながら操作していく。ここで操作されても困るのだが。
「でさ。やっぱ、兵隊で鎮圧した方がいいんじゃねえ?」
「わかっているとも。だがなあ」
戦争しにきた訳ではない。
兵士が降下すれば、騎士の中で情に絆されて反旗を翻す者がでてくるだろう。
その中に、エンシェントゴーレムの乗り手が居れば落城しかねない。
詰まるところ、そっちの方が怖かった。
やはり、なんといっても最初の一撃で城の動力部でも破壊されるとどうにもならない。
ついでにいえば、日本人は大罪人でもある。犬を苦しめて殺すとか云う。
朝鮮人と仲良くするとか。
重力子の研究を盗まれて、爆弾にされたとか。頭がおかしい。
おかげで、先の地球は地殻が崩壊寸前だ。神の手によって、第二の地球が創造されたというのに。
早くも、この世界。魔法以外の手で崩壊する因果線がある。この重力子。
操り方によっては、惑星すら終わる。よく考えて欲しい。地面に衝突した戦艦が崩壊しないのに、銃弾で穴が開いたりするがばがば具合。いくらなんでもおかしいと思う。日本人にツッコミたくなるのは、まさにそこだ。アルーシュは、アニメに煩い。
アニメーターと漫画家の保護は、最上位にある。最下層にあるのは、政治家だった。
「迷ってんなら、さっさとやろうぜ。手をこまねいてたら、益々悪化するじゃんよー」
むむむ。確かに、そうなのだ。そうとわかっていても、滅茶苦茶にしてやりたい気分であった。
実際には、八つ当たり。わかっているとも。本来なら、攻撃だってしなくていい話だ。
圧倒的戦闘力を見せつけて、交渉するという。
日本人の転移者もよくやる力を背景にした恫喝。
歩く原爆の扱いは、腫れ物を触るが如しだ。
「わかっているんだがな」
大阪と呼ばれる土地がある。そこは、阿鼻叫喚すら生温い地獄が生まれていた。
覗くと、吐き気を催す。人で、柱を作ったり。電極を口に咥えさせられて、死ぬまで電流を流されるとか。肌色の何かで、壁画が作られたり。どうして、これほどの殺意を人類に対して向けられるのだろうか。
犬と犬人族に、関係がある。
「西の事、大変だし。ほらっ、ここで救世主としてこうりーんっ。みたいなー」
「それ、あざといってレベルじゃねーぞ」
いくらアルーシュが、尊大で厚顔だったとしても軍の施設を攻撃したのは事実なのだ。
それが、今更、人助けで救世主気取りとか。
ちょっと、婚約破棄されたからといって。やってはいけない事もある。
「ちょっと、日本を滅ぼしてみる、なわけにもいかないからな」
勝手に自爆して滅ぶのは、知った事ではない。
「では、よろしいですか」
と言うものの。そういうわけには。エッダは、エッダで冷静なマッド・サイエンティストなのだ。
日本に着た彼女が、どういった行動にでるか読めない。
かといって、
「俺が行ってくるぜ。ぱぱっと済ますわ」
といって、なんでも分析、分解しかねないマッド・アルケミストも困りもの。
結論。日本に詳しいロシナが、回復するまで動きようがない。
「良し。少数の配下でなんとかしろ」
と念を押す。無視する確率30%といったところか。好奇心で、2人とも瓦礫の町と化したアキバをうろつきそうだ。
「へーい」
嬉々とした声を震わせて、仮面をつけた女は姿を虚空に消す。
転移できる錬金術師というのは、厄介だ。
「じゃ、また。吉報をお待ち下さいませ」
全然。期待できない。
「よろしいのですか。彼女たちは」
ヒロは、胡乱な目で見送っていた。
「よろしくない。シルバーナに連絡を入れておく」
捜索犬に、捜索犬をつけるという。訳のわからない事になる。
「見つかると、思うか?」
思えない。理由、その1。彼が本気で隠れれば、探しようがない。
その2。日本が攻撃を受けて黙って見ている。正気ではないか。あるいは、死んでいるのか。
死にかかっているのか。
「見つかる事を期待しております。婚約破棄をするとは、彼に一体どのような不満があったのでしょうな」
ああ。不満ね。なんとも。昔から、わからない。王族になりたいというものは、星の数ほど居るというのに。誰もが喜んで跪く権威。王権とは、そうしたものだ。
「奴は、権力が欲しくないというのだぞ。信じられん」
「左様で」
手を振ってヒロと爺を下がらせる。面会の時間は、終わりだ。
(どうやって、ころころしてやるかねえ)
是非、反撃してきて欲しい。ちょっと、日本を滅ぼしてみたいし。
しないが。
ちょっと、手が滑った感じで。婚約破棄をした、報いだ。そうして、彼が涙ながらに土下座してきたら許してやろう。
アルーシュは、寛大なのだ。勝手に、日本が崩壊するのだって防いでやるくらいには。