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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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0.1章 異世界からの侵略者たち17

 ロシナは、力の抜いて寝そべった。

 獣人の攻撃が、体力を奪っていたのだ。不可視のバリアを貫通してくる攻撃で。

 壁によりかかるはずが、そこには物言わぬ人間だったモノがある。


(烏賊くせえ。勘弁してくれよ)


 鼻の千切れた女は、瞳孔を開いたまま動かない。糞でも漏らしたのか、耐え難い匂いだ。

 カップルだったのか。隣には、男が腹から桃色の細長い物を垂れ流していた。


(翔じゃねえよな。南無南無)


 匂う。といっても、動こうにも手足が痺れている。ミミーの攻撃に、痺れをもたらすスキルでも乗せていたのだろう。アルーシュが介入しなかったら、死んでいたに違いない。


 2対1とは、卑怯だろうに。弟分が現れる様子もない。

 ビルの隙間。路地のようだ。翔は、逃げられたであろうか。

 ロメルは、殺す気でいたようだが。ミミーとミーシャが言うことを聞くかどうかである。


 通りでは、銃声が止まない。そこかしこで、銃撃と爆発音が聞こえる。

 よくも放置していたものだ。仮にも、敵国で拉致をしていた国の機関をそのままにしておくとか。

 すごく頭がおかしい。


(たたねえと。翔たちを追いかけなきゃな)


 復讐をしようと思っていたのに。どうして、こうなっているのか。

 アルーシュが止めろと言っているから? そうではない。いざとなれば、結局巻き込まれて同じような人間を作ってしまうからだろう。

 

 『騎士』には、自然治癒能力が備わっている。

 ただの人間であれば、出血多量で死んでしまうようなダメージでも死なない。

 肉が裂けて、骨が見えていたって元通りだ。


(いてて、ミミーめ。どんだけどつきやがったんだ)


 ロメルとミミーを相手にしては、ロシナだって苦戦する。天秤が傾けば、一気にやられるものだし。


 傷と疲労で立ち上がるのも、一苦労だ。路地を見れば、老若男女を問わず死体が転がっている。

 放っておけば、蝿が卵を産み付けるだろう。通りに目を向けると、ガードレールに停まっている白い自動車が炎上していた。


 ロシナは、自分の身体がどうして治るのか知らない。しかし、治るのだから考えないようにしている。

 翔が逃げた方向には、死体が散乱していた。どれも、統一性がない。銃撃で傷を受けたようだ。

 簡単には、死ななかった者もいるようだ。 


(真っ直ぐなはずだ。にしても、テロに対する防御手段が死ぬしかないってのはな)


 丸腰の日本人を好き勝手に銃撃していったのだろう。現代火器の暴力が、雨のように降り注いでいた。

 電磁波の影響で高性能な車は、故障を起こす。地表を電子レンジにかけるようなものだ。

 であるなら、用意していたのは旧式の二輪車というところか。


 だんだんと傷が治ってきて、歩みも元通りになっていく。赤い光が、ビルと言わず道路をも照らしている。夜中だというのに、真昼のようにそこかしこが明るい。

 道には、死体と死体になりかけているのと残骸が転がって足の踏み場すら難しいほどだ。


 正面に、腰掛けている兵士と思しき男が銃を向けている。にやにやしているので、殺す気でいるのだろう。剣を振るうと、そのまま斜めへと身体がずり落ちていった。避けもしないとは。なんとも貧弱である。

 倒れた男を見て、隣にいる男が銃を上げてきた。


 同様に、一閃。原理は、わからないがスキルを持っていれば剣を振るう事で対象を割断できる。

 銃を持ったまま上半身が、後ろへ落ちていく。引き金を引こうとして、できなかったようだ。

 間合いは、遠いし剣が届く距離ではない。


(ひょっとして、進む方向を間違えたか?)


 そんな訳は、ないと思いつつ。ミミーやミーシャ、雪城が『隠形』を使える事を思い出した。

 ロートヴァントを起動させれば、邪魔をする人間を排除するのも容易い。

 しかし、その場合は東京の都市部が更地になっていくだろう。それは、好ましくない。

 

(俺は、翔を守ってどうするつもりなんだ)


 復讐するために、帰ってきたはずだった。その力は、十分にある。ロートヴァントで暴れまわれば、貧弱な日本人たちは死体すら残らないだろう。

 それで? 


(それでも)


 癒されるんじゃないか。そう思うのだ。右を見れば、高校が燃えている。

 線路と神田川を挟んだ場所に、それなりの大きさを持つ校舎が赤く染まっていた。

 だれが、放火したのか。考えると、簡単な図式だけれど。


 線路は、破壊されているのか電車が走っている様子がない。

 左に曲がる道は、元来た場所へと戻る道だ。先に進むに、死体が減っていく。

 銃を持っている人間は、基本的に敵のように見える。


(どっちに逃げたかね。ここから進めば、水道橋にいけるが)


 水道橋では、敵が待ち構えている確率が高い。西にも、高校がある。東光高校だ。

 そちらも、火の手が上がっている。交差点では、車が並べられていてほとんどの物が炎上していた。

 焚き火のつもりであろうか。その周囲では、また人が倒れている。

 

 高校の入り口には、門がある。入り口には、人の姿がない。首から上が削り取られた残骸が銃を持ったまま地面に座っている。


(何があったんだろうな)


 ぱっと思いつくのは、獣人に銃を向けようとして首を狩られたというところだろうか。

 門から見える広い通路には、人で山が作られていた。おぞましい事だが、倒れている人間は動かない。

 銃で殺されたのか。校舎に伸びる奥の通路では、銃を手にしていた人間がうつ伏せに倒れている。


(頭がねえって事は、『首狩り』持ってそうな奴だよな)


 しかし、特定には至らない。獣人の兵士なら、誰でも持っているスキルだからだ。

 

(翔の生体パターンを登録しておくべきだったわ)


 そうすれば、簡単に見つかる。ミッドガルドの魔導科学は、それくらい可能だ。

 重力子を検出して、城を飛ばすくらいの魔導力がある。

 魔法でそれをしようと思えば、神クラスだろう。 

 

 出歩いている人間は、少ないようだ。水道橋の上でも簡単に通れないように車が、散乱している。

 足に、嫌な感触を覚えた。手だ。人の手が千切れて落ちていた。

 小さな手である。本来なら、警察が守るべきなのだが彼らはどこへ行ってしまったのだろう。


 南側の道路からは、人が歩いてくる。北へと向かうべきだ。東京を脱出するのなら、水道橋かもっと西にある飯田橋を渡る必要がある。


(北だな。銃を持った奴らが倒れているし)


 南に戻っても翔たちを見つける事はできないだろう。何をやっているのかといえば、山田の弟を助けるということだ。アルーシュからは、暴徒をなんとかしろと言われている。そのついでという訳でもある。どっちも対応しようとすれば、そういう事だ。


(高校に、何か恨みでもあんのかねえ)


 校舎が燃えていて、それでいて広い場所では死体で山を作っている。在日韓国人たちの戦略がよくわからない。適当に、殺しまくっているように見える。


(際限のない弾薬でもあるんなら別なんだろうけどな。どんだけ隠し持ってんだよ)


 銃声は、止まないし。進んだ先では、首のない人間が銃を手にしたまま転がっている。

 右手で炎を上げるのも高校だろう。水道橋では、また死体祭りになっていた。

 橋の脇では、動かなくなって鼻血を出したままの人間が、下半身むき出しのままにL字を描いている。


(探すけれど、いねえし。暴徒っていっても、日本人殺し隊だからなあ)


 更に進めば、悲鳴が聞こえてきた。

 前方からだ。生きている者がいるのだろうか。そこへと急ぐに、目に入ってきたのは裸になった状態で積み上げられた人だ。まだ若いだろうに。下半身が、無残に破壊されたものから斬り刻まれたものまで。


 燃え上がっている車と車の脇を抜けて進んでいくと。近づくにつれて、死の気配が濃くなる。


「これは、ロシナ様。どういった進捗状況ですか」


 男の頭を足で押さえつけているようだ。散らばっているのは、仲間か。銃を手に倒れている。

 足で、蜜柑を踏みつけるようにして押し潰すと。幼さが残る顔立ちに、艶然とした笑みを浮かべる。

 ぴんと立つ白い耳と毛並みが特徴的だ。着流しに、血で染まった下駄が揃える。


「ミーシャくん。翔は?」


「あの日本人ですか。それよりもユーウ様は見つかりましたか。こちらの方が優先されるべきでは?」


 質問を質問で混ぜっ返すのは、駄目なようだ。辺りを見て、白狼族の戦士は獲物を探している。


「残念ながら、まだ見つからないようだ。しかし、おかしいとは思うね。あいつが、こういった事を黙って見ているとは思えない。ひょっとして、既にこの世界にいないのかもしれんなあ」


 最悪だが、まあアルーシュの事だ。しーらね。で、済まそうとするだろう。


「そうですか。私は、ここで武器の回収作業をしております。日本人なら雪城とミミーが連れていきましたよ。その、状態がよろしくないのならコーネリアスさんでもスカハサさんでも呼べばいいのでは?」


 呼べる訳がない。特に、吸血鬼であるコーネリアスを呼んだが最後。東京が、死都と化すだろう。


「いやいや。それには及ばないよ。悪いね。任務の邪魔をして」


「そうですか。それはそうと、ロメル様と喧嘩されたとか。あの方は、日本人に強い恨みを持っているので危険です。遊んでいるつもりでも、死んでしまうかもしれませんよ」


 言われるまでもない事だった。ミーシャも腕が立つ。喧嘩する気もないのだが、ロメルが突っかかってくるので仕方がないではないか。白い毛並みの獣人少女は、見つけた別の獲物に寄って行く。情報を得るためとはいえ、暴徒に拷問を行うとは。


(セリアの配下って、大概だよな)


 本来なら、ロシナは赤騎士団を連れてくるべきなのだ。

 だが、それをすればロシナの目論見を看破されかねない。


(んー。アキラが居ればなあ)

 

 ガーフとかガリオンだとか。近い人間だと、その仕草だけで悟られてしまう。

 であるから、こうして徒歩で追いかけているのだ。


 走るにしては、死体が多すぎる。踏まないで、進むしかない。

 空を見上げるに、星がまたたいている。人間のやることなんて、大抵かわらない。

 その規模が大きくなって、残酷に見えるだけだ。

  

(痺れが取れねえ。さっさと追いかけねえといけねえのに)


 ミーシャは、穏やかな性格をしている。雪城は、難しい。ミミーは、わんこでロメルに回れと言われると回ってしまう従順さがある。前方では、ひっくり返った車が燃えていたり。そこから這い出そうとしたのか、肉が焼ける匂いがする。


 翔たちが、北へ行ったのは違いない。しかし、ユーウを探すという目標を見失っているようである。

 すなわち、己の事なのだが。復讐もままならず、指令もままならぬとは。


(同じ痛みを味合わせてやるなんて、やっぱできねえよ)


 いざ、そうなってみれば出来っこなかった。所詮、ロシナは復讐鬼になれなどしないのか。

 思ったのなら、やり遂げろよと。倒れているのは、復讐対象ではない。

 関係ない日本人が、自業自得とはいえ死体になっているのだ。


 もぞりと背後で、動く死体。これも、自業自得だ。古来より日本の霊を鎮めてきた由緒正しい神社仏閣が、焼け落ちた為である。


 正確には、菌を打ち消す効能がご神体などに宿るなんていう。眉唾な話ではあるが。


(そういった、神社が焼けても無関心だからな。日本人てのは)


 長い歴史ある神社寺が焼けても何もしないのだ。防犯カメラをつけたりだって、金の問題があるという。


 残念ながら、犯人が逮捕されたなんて事は少ない。靖国神社に火をつけようとしても、死刑になったりしないほど緩いのだ。馬鹿ばかりになっているのだから、早晩、日本中が動く死体まみれになるだろう。

 銃声が聞こえるのが、進む方向へ絞られてきた。


 派手な戦闘でもやっているのだろうか。死体、多すぎ。朝鮮人たちは、支配するという事を考えていないようだ。もっとも、彼らの頭にあるのは積年の恨みだとかいうもので。ロシナには理解しがたい。


 倒れている人間に、生きている者もいるようだが動かない。

 疲れて動かないのか。それとも、今を夢幻と思っているのか。

 数日前は、天国とするなら今が地獄で動けないのかもしれない。


(中国も韓国も攻撃を受けているから、日本人たちが体制を整えたら駆逐されるだろうけどな)


 新潟を含めた日本海側は、北と南の攻撃を受けている。何故だか、彼らは手を取り合って攻め込んでいるという事態だ。ついでに、自衛隊と米軍が無力化したのを良い事に日本を占領しようというつもりらしい。小型の船舶で乗り込んできているのでやりずらい。


 武器を持たない自治体は、凄惨を極めるだろう。


(追いつかねえ。ひょっとして、俺の歩きが遅いのか)


 足の痺れが取れない。麻痺して、30分は立つ。どこかで、座って休息を取る必要がある。

 西側を見れば、コンビニの看板が目に入った。

 ひょっとすると、食料を求めて翔たちが寄っているかもしれない。

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