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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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0.1章 異世界からの侵略者たち14

 処刑場。

 元は、東京都知事がいる場所だった。

 すでに、処刑されているが。

 死因は、落下による衝撃で身体を破壊された事による。


「放せっ。こんな馬鹿な話があるか! 私は、元首相だぞ! SP、SPは何をやっている」


 何もこうも、死んでいる。果敢にも男を守ろうとした忠義に満ちていた男女は、真っ二つ。或いは、ばらばらな肉塊へとへんじて虚ろな目でアキカンを見ていただろうに。


 塵芥だ。存在する価値がない。

 

 喚き散らす男に、興味が失せた少女は椅子に座ったまま冷たく告げる。


「こいつら、役に立たんにも程があるだろう」


 顎に手を添えて、死刑宣告の合図を送る。スーツ姿で首を横に振るが、両腕を抱える騎士たちはがっちりと挟み込んで引きずっていく。足で抵抗を試みるも、全く無駄であった。空中へと放り出されて、地面へとまっしぐらだ。


「は。こやつらは、国会議員です。情報を知らなくとも仕方がないのでは?」


「ふん。居ても、役にたたない人間を放って置くほど資源が余っている国か。豊かすぎる」


「ですが、その燃える水を輸入に頼っている構造的な欠陥と食料が自給できないらしいのです。見せかけの豊かさでしょうな」


 黒い鎧を纏った配下ヒロが問答に応じる。列を成すのは、武官と文官。日本人たちは、奴婢のように並べられて裁きを待っている。総じて使えない、というか身にあっていない高給取り。放っておけば、逆らうであろう人間ばかりだ。


 普通ならば、平民ごときがアルーシュと話をするなど許されない事だ。ユーウがそれを良く見なさないので媚びを売っていただけである。それも、見ていなければ売る必要がない。まるで、寒風にさらされるかのように魔力が薄まっている。


 ミッドガルド。

 その世界に、ある魔力は有限だ。夢幻の神跡。浮遊城の核が、溜め込んでいる魔力を放出している。当面は、持つはずだが。そう、当面は。


 逃げた男は、絶対に手放せない。すぐに、気が付く物ではない。何しろ、隠しているのだ。彼が、膨大な魔力を持っていてもそれとわからせないようにしているから。どうして、隠しているのかと言えば。


「目立つと、ろくな事がない、か。奴め、田舎暮らしでもしているというのか? あるいは、ニートをしているやもしれんな。ともかく、電力の復旧だ。これを急がせろ」


「それが、大変な事になっております。各地の原子力発電所では、テロリストが侵入。所員を殺害して、爆破している模様。放射能が撒き散らされているようでして」


「なんだと!? 誰が、そんな事をしろと言った」


 冗談ではないのか。攻撃目標に、原子力発電所はなかったはず。間違っても、ロシナが光学兵器で破壊するとは思ってもいない。念話を送ってなんとかさせるしかない。


『おい』


 ややあって、


『は、アルーシュさま。何用でございましょう』


 雑念が入り乱れている。この男には、色々とあるので他に替えるべきなのだろうが。それにしても、日本を勝手知ったる人間だ。ガンコか健一郎の方が、よかったのかも知れない。暗い想念が、ちくちくとしていた。澱んだ恨みを感じ取って、胸糞が悪くなるのだ。


『は、ではない。原子力発電所が襲われてだな。放射能が撒き散らされているようなのだ。なんとかしろ』


『宇宙空間にでも捨てますか? 太陽にでも投げ込めば、解決するでしょう』


 また、無茶苦茶な事を。しかし、地中、土壌の汚染を防ぐにはそれが適当かもしれない。日本の科学力では、原子力発電所をまるごと宇宙に投げ捨てる事は不可能。では、ロシナの駆るロートヴァントなら? 持ち上げていくのも不可能ではない。皮が崩れて、中身が出てしまう可能性もあるが。


「全部で、何箇所の発電所が攻撃されているのだ」


「それが、その、全部です」


 頭が痛くなってきた。急に、目の前が暗くなり、次いで吐き気がする。ユーウがいれば、穴にでも捨ててすぐに解決なのだが。いないのでは、どうしようもない。


『セリアは、どうしている。お前の方で対処ができそうか?』


『捜索中で、セリアも探している最中でしょう。連絡を取られてはいかがですか。ご命令であれば、一時、中断して暴徒の対応に回ります』


 どちらがいいのか。東京もまた、朝鮮人たちが暴れまわっている。彼らを倒すのに、騎士団を動員している。自衛隊も警官も同時に相手をしなければならなかった。さらに、電気が来ていないのだ。真っ暗な市街を照らす光が必要なのだが、それができる魔術師というと。


『お前は、そのまま捜索だ。ヒロの黒き圧壊で、対処させる。わかっていると思うが、これ以上の朝鮮人たちの横暴を見過ごすな。やつらもまた奴婢でしかない。相手にするのもほどほどにしておけ』


『拝命、承りました』


 どこまでわかっているのか。朝鮮人たちを焚き付けたのも、ロシナだろう。元日本人だったのに、その歪んだ憎悪があずかり知らぬ日本人に向けられている。命令に違反していないが、さりとてその思惑を許す訳にはいかない。


 ヒロに命令をするか。それとも、セリアを呼び戻すべきか。セリアだと、そのまま原子力発電所を破壊してしまいかねない。放射能は、有害で日本の土地を長く痛めつけるだろう。ヒノキやスギノキが苦しむ。ばんばん同族が伐られる。が、大事にされた樹も多い。


 丁寧に刈り揃えられた樹をみると、大事に育てられたというのがわかろうという物だ。

 さて、どうするべきか。アルーシュの目的は、たったひとつ。

 ユーウを連れ戻す事だ。


 次に、連れて来られた女は口を開くと。


「助けてください。何でもします、しますからあああああ」


 押さえつけられるように、髪を引っ張られた。


「駄目だ。これ、なんなのだ」


「はあ。帰化議員のようです。日本には、忠誠心の欠片もない議員が多いようで」


 年収は2400万だったか。アイドルだかなんだか知れない女は、厚化粧をしているのか。年齢を感じさせない。白いスーツも高い値段がするだろう。それにつけても、忠誠心のない貴族とは。解せない。


「このような女が、当選する民主主義とは機能しているのか」


「国民が選んだ訳ですからな。女に忠誠心があろうがなかろうが、選ばれれば議員なのでしょう。それが、他国に利する者であっても処刑されぬ国のようで」


 手を振る。

 見ているのも、気持ち悪くなるからだ。なぜ、忠誠心のない人間が議員になれるのか。

 民主主義という物は、理解できない。いや、日本という国が理解できない。

 国民は、優れている。だというのに、

  

「メンポー、貴様は死以外に道がない。そもそも、貴様、裏切り者ではないか。また裏切るというのか。この売女め。口を閉じていろ。穢れるわ」


 スパイでも、もう少しこそこそするものだ。それが、国を代表する者になれるとは。なんという自由。

 なんと狂った国か。普通は、成れないし許されない。ましてや、名前を偽る者など。

 しゃべるのも、面倒になってくる。


 黒い鎧を纏う男たちが、逃げようとした女を殴りつける。あっさりと、動かなくなった。

 投げ捨てるまでもなく、首が折れている。が、無慈悲に宙を舞う。


「名前が、なぜ2つも3つもあるのだ。訳がわからないぞ。何故、この国はそのような事を許しておいた。偽名ではないか」


「は、それは、おい、何故だ。答えろ」


 禿げ上がった頭の男だ。豆電球のような。叩けば、あの世にまっしぐらか。そんなもやしを見て、並ぶ日本人たちを見る。いづれも権力の座にあった国会議員に官僚だ。使えない人間は、死刑にしておく。使える人間でも、気に食わなければ死刑だ。


 顔を青くしたり、白くして。


「行政上の通例になっておりまして、前例を翻すには、その」


 豆電球が語るのは、行政機関の体面という奴だった。もう、話を聞くに耐えない。


「ここにいる官僚ども、全員処刑しておけ。これ以上、話をしていても時間の無駄だ」


 民死党も凶産党も存在させていても、意味がない。どうして、こうなのか。

 片方だけに、まともな人間がかたよるとでも言うのか。そうでもないのが、奇怪だ。

 窓が割られる音。と、同時に黒い物体が放り込まれる。


 広がる煙を外へと追いやれば、次に入ってくるのは戦士だった。筒、ではなく自動小銃という武器を持つ。騎士たちが、壁を作る。銃弾を防ぐようにして、


「恐れを知らぬか」


 立ち位置が悪い。背には、日本刀か。銃を使えない位置だ。撃てば、議員たちにあたる。

 高層だというのに、壁をよじ登ってきたというのなら大した執念。迎え撃つは、黒鉄の城。

 

「よくも来た! 戦士たちよ、名を名乗るがよい!」


 ヒロが、大きな声を張る。耳が痛くなるような声だ。彼らの退路は、壁か。空中をホバリングする機械の姿はない。あるのであれば、気がつかないはずもない。青みがかった暗い色をした男たち。壁と同化する色を選んだのだろう。


 無言だった。


「隊長!?」


「私の名は、大暮。この特殊作戦群を率いる者だ。総理を、国会議員たちを、返してもらうぞ!」


 30か。反対の窓からも、突入してきた。対する騎士たちの数は、40。

 まず、戦いにならない。1人で、戦車に匹敵する戦闘力だ。彼らの持つ銃弾は、シールドに阻まれるかそれともガードウォールに阻まれるか。どちらかであろう。

 

 残念。今は、絶えた陰陽士でもいれば別であろうが。


「面白い。ここまで、やってきたのだ。同数で相手をしてやれ、下の階には……まだ味方が残っているではないか。ここを奴らの墓場にしてやるがよいわ」


 突撃していく。邪魔な机が、この時は武器だ。手近な四角い物体が凶器となって、覆面姿の戦士たちに襲いかかる。転がって避ける者、そのまま斬られて2つになる。と、やられながらも手榴弾。爆発するが、その煙と衝撃から無傷の騎士が出てくる。


「なっああああああああ!」


 驚きに満ちた男の声。そして、魂を揺さぶる声を出す。


 渾身の力を込めた剣を、騎士が捌く。反撃は、縦斬り。半身をひねって交わした戦士に蹴りが飛ぶ。当たれば、間違いなく天井と地面を往復するであろう。それをまたしても、くぐった。


「やるな。遊んでいるわけでは、あるまいな?」


「無論。我が団に、そのような痴れ者はおりませぬ」


 ヒロの率いる騎士は、総じて暗黒騎士。憎しみを糧に、剣戟は威力を増す。そう、それが相手であっても。相手から、その闘志を奪う事に真髄があるのだ。 

 ここで、特殊作戦群が戦術型核兵器でも使うのなら面白い。

 

 だが、


「その首、もらい受ける!」


「ふんっ」


 黒い鎧を着る騎士の急所を狙う逆太刀。が、鋼を切れず。股間を通そうとした手練の戦士は、半分になった太刀に目を細めた。


「ははっ。日本っ」


「待てっ松田ぁ!!!」


「バンザーイ!」


 手榴弾を抜いたのか。間近で、爆発する。自爆だ。まるで意味のない爆発。衝撃と破片は、騎士の磨かれた鎧に傷をつけていない。

 目を見開く戦士たち。


「失望させてくれるなよ? 戦士よ」


「おのれええ」


「そこまでだ。隠し玉もないようだし、殺すには惜しい。全員、捕らえろ」


 と、逃げ出そうする男がいる。これまた気持ちの悪い男だ。

 戦っている戦士たちは、男たち国会議員を助けようとしにきたというのに。死に場所が、このような男を救出するというのではいかにも報われないではないか。


 その刹那。

 弦を伸ばす。茶色の蔦で、身体を絡めとると。亀甲縛りに仕立て上げて、放置した。

 剣を打ち鳴らす音が、心地いい。命のやり取りでは無くなっているものの。

 多少の術を使う者が、いるようで手こずっている。


「この汚物は、なんだ」


「白、新君とか。これも、外人ですな。思想は、隣国寄りのようで」


 ぺらりと紙をめくる。どうして、隣国のスパイが潜り込んでいられるのか。不思議で仕方がない。

 これで、世界第三位。かつては、二位だったという。

 理解しがたい国だ。よほど、国民一人一人の質がいいのであろう。

 

 その王なれば、どんなに楽であろうか。


「こいつは、餓死刑にする」


「はっ。では、原子力発電所の件は如何致しましょうや」


 原子力発電所。撒き散らされる放射能と地下に潜っていく可能性がある核物質。

 どうするか。ヒロは、忙しい。

 しかし、セリアはやらないだろう。忙しい、故に断る。とか。汚染? 知らない話だ。とか。

 

 ユーウを見つければ、彼に全部を押し付けるつもりに違いない。

 いや、アルーシュも押し付ける気であった。こうなってしまったのも、全部彼が悪い。

 逃げるから、こうなったのだ。


「ロシナは、使えん。であるなら、放置して中心核かマグマまで行かせてみるか?」


「また、ご冗談を」


 手を振って苦笑する。ヒロに頼むしかないだろう。


「では、頼む。ここには、大した者が入っていないようだ」


 戦士たちは、小国の達人にいずれ劣らぬ剛の者。しかし、異世界にあってミッドガルド人は桁が違う。銃弾をものともしない身体。

 戦車の砲弾だろうが、核兵器だろうが効かない。そんな物は、見慣れてしまっているから。


 この世界にある常識をこえなければならない。だというのに、


「おおっ」


 どよめきが起こる。血だ。去っていくヒロは、ちらと見たようだ。

 鎧の隙間から、剣を通した者がいる。捕らえようとした事が、隙になったのか。隊長格の男、大暮だ。

 動きを読まれれば、通常の突きも入るという。


「これでっ」


「終わりだ」


 首に刺さったかに見えたであろう。筋肉で、掴んでいるのか。手で戦士の剣を掴む。

 直後に、戦士の腹に蹴りが突き刺さる。内蔵が破壊される一撃だ。

 床で、痙攣している。即死、していないだけでも称賛すべきだろう。

 手を叩く。


「大した戦士。見事、見事だ」


 スキルもなく、ステータスもないというのに。

 一撃をかまして見せた。瞠目に値するだろう。

 惜しいかな、こういう男は寝返らないのだ。残念な事に。


 見渡すように見れば、抵抗も終わって勝敗がついていた。


「他愛のない。少しは、期待したのだが。まあ、山田よりはできるか」


 鈍い痛みとなった男を思い出す。なぜ、裏切ったのか。わからない。

 その男の事を。きっと、意趣返しなのだ。面白い男だったのに。

 面倒になった餓死刑の男。


 宙へ放り込んだ。

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