0.? 異世界からの侵略者たち10 (ロシナ)
子供が騎士に詰め寄っているのが見える。
斬られるかもしれない。だが、自業自得だ。
バーコードのハゲ頭を掴むと。
「とりあえず、1人だな」
盗賊騎士たちが慄いている。女を殺すのに、彼らは未だにためらいがあるようだ。
「な、何をする! 君は、私を誰だと思っているんだっ。社長だぞ! 放したまえ!」
「…ただのハゲだろ? 死ね」
「ひぃい、やめ、やめてくれえええ」
男は、放り投げるとビルの下へと墜落していく。しょんべんをしたのか。周囲の空気にアンモニア臭が混じる。バーコード男は、糞をしたのかもしれない。
振り返ると、静まり返った集団。男も女も黙ったままだ。
「アインゲラー卿。まさか、女まで処分するつもりでは…」
「ふっ。お前らは、やっぱり騎士なのか」
「……」
手前にいる男の名前は、わからない。だが、剣を抜いて歯向かって来そうな雰囲気だ。
そこへ、女が近寄ってくる。シルバーナだ。躾がなっていない。
部下が歯向かってくるとは。
「ふふふ。お困りのようだねえ。連中が到着したみたいだよ。任せてもいいのかい?」
「もちろんだ。どうせ、こいつらの死は確定している」
「悪いねえ。でも、本当にいいのかねえ。ニダどもを使うのは、さあ」
いいに決まっている。やがて、屋上にやってきたのは銃をぶら下げた朝鮮人どもだ。
エラが張っているのでわかりやすい。入れ替わるようにして、盗賊騎士たちは去っていく。
蔑みの視線が乗っていた。目的の為ならば、なんでもやるのだ。
跪いた格好で、
「アインゲラー様。お呼びニダ?」
「こいつらを処分しておけ。逃がすなよ」
「何をしてもいいニカ?」
「好きにしろ」
そういうと、マシンガンを持った男たちと襲いかかる男たちの半分に分かれた。
彼らに任せれば、どのような残虐行為でも平然とやってのけるだろう。
バーコードをもう一人捕まえて、そのまま走り出した。
地上に降りるのに、ご招待しよう。
「なにを、する。放せえええ!」
放す訳がない。そのまま飛び降りる。
地表までは、あっという間だ。めくるめくスピードを伴って、景色が上に流れていく。
地面には、赤いシミが二つになった。そして、くるりと着地。
減速には、バリア。着地もバリアでノーダメージだ。アスファルトが、多少ともへこんだ。
地上に降り立ったロシナが目にしたのは、少女が取り押さえられるところ。
「どうした?」
「これは、アインゲラー卿。この少女が、抗議してきまして。困っていたところです」
「公務執行妨害で、捕縛しておけ」
「ハッ」
配下ではない。盗賊騎士だ。騎士でありながら、騎士でない。彼らは、盗賊すれすれの任務を帯びる。
故に、盗賊騎士。スキルも盗賊のスキルを覚えている事が多い。
女を取り押さえたはいいが、困惑しているようだ。捕縛するように促す。
放置しておけば、朝鮮人たちが可愛がってくれる事だろう。
そう。この国は、もうじき分割される。
アルーシュの勘気をもらわないように立ち回って、それから見つかるか見つからないか。
2重の意味で、役に立つだろう。ユークリウッドが早いか、それとも殺し尽くすのが早いか。
とっと、背後に立つのはクーフー。気配でわかる。
「兄貴。上は、いいのかよ」
「もちろんだ。彼らの残虐さは、俺でもビビってしまうほどだからな」
「だからだ。あれは、まずいんじゃないか」
「俺は、どうなっているのか知らん。止めたければ止めてもいいぞ。そのあとで、奴らをお前が処分するのならな」
それで、黙った。クーフーには悪いが、止まらない。
目当ての人間が、見つからないのだ。書類をめくっても、どこにも見当たらない。
どういうことなのか。名前がないのだ。
ロシナにとっては、重大かつ忘れがたい事件だというのに。
その凶行は、まるで覆い隠すかのように忘れられているようだ。
(何故、だ?)
名前がない。どこかに消えたとでもいうのか。名前がないのはおかしい。
だが、あるはずの名前が見つからない。
特に、犯人と思しきは。きむらつかまろう。おおもりじゅうや。やすだこうた。やまだこういち。
見つからないのなら、どうするべきか。
皆殺しにしてしまえばいい。
そのついでに、ユークリウッドが見つかるのなら幸いだ。
そう。
日本に恨みを持つ人間は、1人や2人ではないのだから。
セリアもちょっとつつけば、容赦なく日本人たちを殺害していくだろう。
彼女には、国を蹂躙された恨みがある。おくびもださない少女の力が、加われば日本人たちとてひとたまりもない。一撃にて、百万の人口が消し飛ぶだろう。いっそ、関東地方を焼き払ってしまうのもいい。都合よくかたまっている彼らをなぎ払うのに、ロボットの力がいるだろうが。
(さて、と。ここまでは順調か)
アルーシュを止まるまでもない。むしろ、ロシナが推し進めたいことにすり替えていくだけだ。
そのついでに、九州を韓国軍が。沖縄を中国軍が。ロシアが北海道を。
分割する予定だ。
身を持って知るだろう。植民地支配とは。一体、いかなる物なのか。
日本人は、馬鹿なのでされないとわからないのだ。民族浄化。これくらいやってこそ晴れるという物。
なにも、ミッドガルドがやらずとも他の民族が浄化してくれるだろう。
70万の支那人と70万の朝鮮人たちが。すでに、武装して各地で制圧という名前の虐殺を行う。
そういう予定だ。それを、横からミッドガルドが助けるというストーリーができている。
絵にも言われぬ吐き気を呼ぶ邪悪さ。それであってこそ日本人は、変わるかもしれない、と。
そこかしこで、聞こえる悲鳴がここち良い。
兄弟分は、心地悪そうにしているが。
「兄貴。おらぁ、けえるわ」
「そうしろ。納得できないだろうしな」
「あばよ」
例え、弟分に殴られようとも。例え、仲間を裏切ることになろうとも。
一度、決めたことなのだから。
すると、前方の方で獣人たちが群れているのが見える。
狼人たちだ。
「何をやっている?」
狼の耳と尻尾を生やしただけの人。ウォルフガルドの兵士たちだ。
一人が振り返ると、
「これは、アインゲラー様。何って、日本人の皮を剥いでるんでさあ。こいつに、ヒールを掛けてやってスクロールを作ってやらねえとねえ。ゾンビにして、思い知らせてやらんといかんでしょう」
「やめさせろ!」
素材にするとか。邪悪の極み。いや、下種の極みか。
アルの管理監督責任が問われる案件だ。断じてやらせる訳にはいかない。
いかに、指揮系統が違うとしても。
いくらなんでも、度が過ぎている。子供か。ナイフをさっと突き立てた獣人は、ニンマリと笑顔を浮かべた。まだ、年端もいっていない子供だ。どうして、そんな事ができるのか。先ほどの事がチラッと頭をよぎった。しかし、子供だ。子供にどうして、そのような真似ができる。
生皮を生きたまま剥いて、ヒールをかけるなど。絶対に、やらせてはいけない。
「なんですか? 文句があるのなら、セリア様に言ってくだせえ。いえね。アインゲラー様といえども、セリア様と戦って勝てるとは思えませんや。それに、こいつはやられた事をそっくりそのままに返してやってんですぜ? ねえ。教えてくださいよ。やられたことをやり返すのは、悪いんですかい?」
「ぐっ」
返す、言葉がない。奇しくも、セリアとロシナの目的は合致している。
そう、日本人に復讐するという1点で。
ロシナの家族を滅茶苦茶にした人間が見つからない。
それと相まって、敵を拡大したように。
ウォルフガルドで、殺戮をやった日本人たちを許さないという。
獣人たちが、生皮を剥ごうとしている。
「それでも、それは、間違っている」
「へえ。ほんじゃ、まあ。おいっ、ミミー!!! こいっ」
! ミミーがいるとは。すっと影から現れたのは、目を真っ赤にした犬人だ。
それに、ネリエル。分が悪い。ネリエルとミミーは、セリア配下の12獣将。
斧を肩に構えたネリエルが、
「アインゲラー卿。どうしても止めたければ、我らが相手になりましょう」
「……くっ」
腰だめに剣を抜く姿勢。しかし、止める事ができる気がしない。
ロシナの弱点を知る2人に、いつでも倒されそうだ。
なぜなら。ネリエルとミミーは、ユークリウッドに鍛え上げられたから。
ロシナと同じ高みにある。ロボットも持っている強敵だ。ロートヴァントに匹敵するロボットを呼び出せば、都心は瞬く間に更地になってしまうだろう。
両手に双剣を構えたミミーは、動かない。動かない間に、
「えっと、その。ロメルさん、止めましょうか」
「どういうつもりだ? これで、ユークリウッド様が出てくるのなら安い演技だったはずだろうに」
汗が、止まらない。
「おいっ。まさか……」
「ぷっ。だーまされたー。ロシナ、ばっか。ロシナのあほー」
ミミーが、姿を消す。ネリエルは、ばつが悪そうに。後ろだ。
しかし、油断できない。嘘でも、ロシナを押さえられればやらかしかねないのだから。
ネリエルは、口を押さえて、
「ああ。完全な演技すぎて、騙されてやがる」
「なにーーーー!!」
髪をかきあげたが。
演技には、とても思えない。
後ろの獣人たちは、憎しみにそまった瞳を向けていた。
どうして、そのような嘘が。いや、嘘なのだろうか。
本気で、生皮を剥ごうとしていたはず。現に、今も男の子は抵抗している。
「くくくっ。どうやら、騙されたようだな!」
阿呆の子に騙されるとは。一生の不覚。
ロシナは、ビルの上から聞こえてきた声に衝撃を受けた。
どうして、ビルの上から声をかけてくるのか。銀髪に黒い革鎧。黒いコートを羽織って。
「…あれ、なんのつもりだ?」
「おそらく、ユークリウッドが罠にはまるのを確信しているのかと」
どうみても、どこからでもわかるだろうに。しかし、ロシナは罠に嵌った。
彼が嵌らないとは限らない。というものの、すごく限定的な場面。
近くを通りがからねば、少年に暴行を働いているのもわからないだろうに。
「とりあえず。真似でも、心臓に悪い。スクロールの素材にするとかゾンビの素材にするとか。見過ごせねえよ」
「はっ。けど、こいつらをそうしたって文句は言われる筋合いじゃあ、ないな。えっ、転生者さんよおっ」
「ロメル……」
顔がくしゃくしゃになっている。熊の耳を生やした男は、見覚えのある男だった。
鎧は、ぴかぴかに磨き上げられている。12獣将の一人、早手のロメルだ。
憎しみの篭った声音から、彼が何をしようとしているのかが伺える。
国が受けた恨みをここで晴らそうというのか。
近寄ってくれば、ロシナよりも背が高い。見下ろすようにして、息を荒げて。
「あんたは、いいよなあ! 都合よく、始末できてさあ!」
「……」
手には、人が隠れるほどの斧。片手で、扱う膂力は、並ではない。
「俺らも、こいつらを焼き殺したいんだが? そんで、食わせたい。なあ、やらせてくれよ! なあ!」
「……悪魔の所業だ。断じて、見過ごせない」
「てめえは、てめえの都合で動きまくってるじゃあねえか!」
たっと降りてくる。セリアが、着地すると。
「こいつは、ロシナは大事な仲間だ。私の友をいじめるな」
「ぐっ。しかし、ですねえ」
斧を下ろした熊耳の男は、手をもじもじと合わせた。気持ち悪い。
「ふっ。たかだか魔術の素材の為に、日本人の子供を殺しても士気が下がるだけだ。もっと、効果的な事をしろ。見世物にしても、あちらの方が上だぞ」
仲間。セリアは、仲間という。復讐を止めようというのか。セリアは、澄まし顔だ。
指差す方向では、惨劇が続いていた。上では、朝鮮人が老若男女を問わず突き飛ばす。
上から、男が降ってくると日朝のビルの前が赤く染まる。
その度に、騎士に取り押さえられた少女がもがいているが。
誰も、それを止められない。とっくに、警察あたりには通報が入っているはず。
アルの手で制圧された警視庁や官庁が機能不全に陥ったか。
ふと街灯を見ると。電気がつかない。夕暮れが迫っているのに。
「ここの通りも、電力が来てない。という事は、まさか」
「ふっ。そのまさかだな。予定とは違うが、日本人どもは放置してよかろう」
空を巨大な影が通過する。蜥蜴だ。巨大な蜥蜴が、空に現れた。
己の復讐を棚に上げて、子供が皮をはがされるだけで傾いてしまうとは。
ぎゅっと、手を握った。
今が大事なのか。それとも過去が大事なのか。
(迷う、な。なあ、ロシナ。決めたじゃあないか)
それでも、子供の皮を剥ぐのだけは。見過ごせない。
学校、報道の関係者だけを叩く。だが、名前は? 見つからないのなら?
どうするのか。
まとめて、皆、殺してしまえと。悪魔が囁いている。
全部まとめて、綺麗さっぱりと。
過去を精算してしまえと。