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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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0.? 異世界からの侵略者9 (ロシナ)

 ロシナが向かったのは、一つの新聞社だ。

 報道機関を制圧する。というのは、多分に私情が混じっている。

 報道機関の名前は、日朝鮮報。古くから続く由緒ある新聞社ではあるが、


(さて、どんな死に様がいいか。ね)


 鼻に針金を通して、引きずり回す。無理。

 生きたまま腹から腸を引きずり出して、死に居たらしめる。無理。

 両手両足を切断して、豚にする。無理。

 尻穴と口を一直線に結んで、見る。無理。

 釜茹。無理。生皮を剥ぐ。無理。

 陵辱。無理。生きたまま引きずり回す。無理。

 凌遅刑。無理。手を針金で連結して、数珠つなぎにする。どれもこれも無理がある。通州事件のように。


 日本人には、無理ではないかという残虐をやるには。 


 そう。結局、なんやかんやといっても残虐な殺しは無理だ。

 その場での勢いがあっても、やはり生理的に無理。


「あんたにしちゃあ、やるじゃないのさ」


 栗色の髪をした盗賊騎士がよってくる。長い髪の女だ。

 むかつく事に、女の手を借りる事になった。ロシナの配下では、残虐な行為に難色を示すだろう。

 皮鎧に身を包んだ女の名前は、シルバーナ。と、忍者の集団が現れる。


「よろしく、頼む」


「げっ。シルバーナじゃんか。こいつらの手を借りるのかよ」


 弟分は、顔をしかめた。


「そうさ。俺1人で、全員を切り倒す訳にはいかないからな」


 道路では、行き交う車がない。交通が麻痺して人の流通も混乱の極みだ。

 電車も時刻通りになるまでには、数日かもっと掛かる。電磁波攻撃のもたらした弊害である。

 人類の文明を破壊しようと思えば、別に強力な武器など必要ないのではないか。

 便利な機械を破壊すれば、それだけで立ちゆかなくなっていくだろう。


 すなわち。


「さあ、とりかかるよ。全員、逃すな」


「逃すなって、敵の方が多いんじゃねえの」


 クーフーの意見は、もっとも。しかし、敵は放っておけない。何しろ、自分たちの都合のいいような報道を書き連ねて悪びれない悪の集団だ。捏造と偏向を繰り返す事だけは、今も昔も変わっていないだろう。近くにいた警備員が抵抗してか斬られる。


(日朝め、地獄へ落ちてしまえ)


 残虐な殺しができないとしても、胸に残る怒りが鈍い痛みを引き起こした。

 脳が、割れるようだ。


「ふふふ」


「何がおかしいんだ」


「そりゃあ、おかしいさ。普段は、こんな真似を許さない栄光ある大騎士さまが盗賊騎士と一緒になって汚れ仕事をしているんだからねえ」


 否定できない。盗賊と見まごうばかりの男たち。 

 もしも。


(こいつが、あんな事を言わなければ…)


 ロシナの傷が、ほじくりかえされた。だれが、それをやったのか。

 目の前の女が、ロシナに告げなければ日本人に対する非道を許さなかったろうに。

 燃え上がる怒りは、燎原のように広がっていく。


 ロシナが、死んだのは雨の日だった。空は、恐ろしいくらいに青く澄んでいる。

 弟分は、

「てめえ」


「ふふふ。クーフーは、なーんにも知らないんだねえ。ロシナの抱えている痛みも、なあぁーーんにも知らない」


「よせ」


「あいよ。けどまあ、わからなくないさ。復讐ってのは、さ。やらざる得ないだろ? 今更、迷うのかい」


 新聞社は、直接的に関わっているのではない。だが、間接的に何度も姉と弟を殺してきた。そうだ。

 何を迷う必要があるというのだ。思い知らせると、そう誓ったではないか。

 

「兄貴。迷っているなら、やんねー方がいいんじゃねえの」


「……突撃だ」


「あいよ」「しゃあねえな」


 でっぷりとしたガリオンが、手を振ると。凶暴な男たちが走りだす。玄関を警備をしている男を引きずり倒すと、容赦のない蹴りが見舞われる。警備員は、どこにでもいるような男だ。柔道だか何かをやっていても、スペックが違いすぎる。盗賊騎士団こと灰の騎士団に所属している騎士たち。


 彼らもまた弾丸程度なら物としない。末端にいる盗賊とも違う能力の持ち主たちだ。

 何らかの理由によって、騎士を廃業せざる得なかった騎士を拾っては使っている。

 もちろん、金か恐怖か。ミッドガルドで騎士を止めるという事がどれほど恐ろしい事かわかる事柄だ。


 なおも抵抗する警備員の腹に蹴りがめりこんで、くの字になった。なんでもやる騎士団だけに、拷問もお手の物なのだろう。


「見つかるといいねえ、あんたの姉をやった奴」


「言うなよ」


 クーフーが飛び出していった後は、周囲も寂しくなった。中では、目を覆わんばかりの暴力が嵐となって日本人に襲いかかっているだろう。そして、くの字になった警備員に蹴りを見舞う。くの字から二を描く事になった。苦悶の声は、止まっている。


(ざまあみろ。糞どもめ)


「よほど、溜まっていたんだねえ。手加減もないじゃないのさ」


「こいつらを地獄へ送ってやる事だけが、手向けだ。誰も逃すなよ」


 中では、盗賊騎士たちが日本人の男女を地べたへと這わせている。


「逃げようとした奴は、どうするのさ」


「斬り捨ててかまわん」


「おやおや。こいつら、よほどの事をしたんだねえ」


 追いかけると。

 クーフーは、きょろきょろとして女までもが捕らえられている事に目を剥いた。


「兄貴。女が混じってるじゃんか」


「ん? 俺には糞ぶくろしか見えんな」


「…おいおい。気が狂ってるんじゃ、治癒術士に見てもらった方がいいんじゃないのか」


「生憎と、俺は正気だ。いくぞ」


「まじか。どんだけ恨みがあるんだよ。まさか……」


 そのまさかだ。その為に、シルバーナと与作丸の手を借りているのだ。全員を捕らえて、拷問してやるつもりであったが。さて、どうするべきか。このような場所に彼がいれば、決して許すまい。だから、進めば。


「暴力は、止めてくれ! 女の子に暴力を振るうなんて最低だぞ!」


 灰色の背広をきた男がいけもしゃあしゃあと言ってのける。


(ふふふ)


 近寄ると、男の顔を掴む。


「むごおぉお」


「豚が、人語をしゃべるな。声だけの貴様らに比べて、自衛隊員は勇敢に戦っていたぞ? ぶーぶー喚く豚以下でしかない。護国の戦士を後ろから刺す塵屑どもが、恥を知れ」


 顔面を床に叩きつけると、痙攣を起こす。白い歯がパラパラと落ちる。それを数度。

 灰色のスーツを着た女が悲鳴を上げる。


「きゃああっ」


「あんたら、一体、どういう了見だっ。何者で、何の權利があって会社に侵入している!」


 死亡寸前の男を放すと、別の社員と見られる男に詰め寄る。目は、真っ赤に充血している。

 涙目だ。


「家畜が、しゃべるなよ」


「家畜、だと?」


「そうだ。貴様らは、今日から家畜という訳だ。服もいらんだろう? 家畜にはなあっ」


 男は、立ち上がると手を伸ばそうとする。だが、そんな事はできなかった。

 剣を使うまでもなく、反対に手を掴んでへし折ったからだ。

 腕を押さえて、苦悶の声を上げる。そこに、股間への蹴り。泡を吹いて倒れた。

 ぷちぷちと潰れる感触。そして、鳩尾への蹴り。ごぼごぼと血反吐が吹き出る。


(汚えゴミは、処分するに限るな)


「いいのか。アインゲラー卿。あんたあ、赤騎士団の団長なんだろう?」


 男は、盗賊騎士の1人。名前は、出てこない。


「ふっ。こいつらは、家畜といったろう。しゃべる豚だ。何かをしゃべっていても取り合うな。どうせ、大した事は言っていない」


「くくくっ。いうじゃないのさ。さあ、豚狩りの時間だよ。屋上に追い立てて、処分だ」


「なるほどな。そういうやり方もあるか」


 微笑を浮かべるシルバーナ。何を考えているのか知れたものではない。だが、そんな事はどうでもいいのだ。脳内を占めるのは、絶望の表情で死んだ姉と苦悶が伺える傷だらけであった弟。何がそうさせたのか。すべては、弱いのが悪かったのだ。


 弱いからいじめられ。弱いからなぶられ。弱いからからかわれる。弱いから笑いものにされる。


 ならば、強くなければならない。 


 ロシナの弟は、顔が整っていた。どのようないじめに合っていたのか。それを知る事になったのは、死んでからだ。その証拠も奪われる事になったのだが。そして、弟の後を追うようにして姉も死んだ。自殺なのか他殺なのか。それすらもわかりづらい状況だ。


 警察は、役に立たなかった。そう。今にして思えば、鼻薬を効かされていたのだろう。

 権力に弱い。ロシナの家は、いじめられる側で。父親が、マスコミに訴えかけると何故か悪者のようになっていた。姉は、遊び人で。弟は、薬でもきめていたかのように。


 家庭は、崩壊して家の前には連日のように報道陣が押しかけて。それが、ずっと続けば頭もおかしくなる。ほどなくして。いや、どれくらいが過ぎたのだろう。妹は、いつの間にか売春に手を染めていた。それ見たことかと叩くマスコミたち。


 ロシナは、己が狂っているのかそれとも世間が狂っているのかすらわからない状況だった。

 誰も、助けてくれない。友達は、1人ずつ離れていった。残っていた友達も、怪我をして病院に入る始末。父親が事故にあって死ぬと母親が狂った。父親も狂っていたのかもしれない。


 売春をやっていた姉。それを助ける弟。ありえない。が、そうなっていた。


 意味が、わからなかった。そんな事をするはずがないと言っても、誰もとりあってくれなかった。


 助けを求めても。顧みられなかった。力がないから。弱いから。汚れているから? 


 汚い者を見る目だった。あざ笑う視線と聞こえよがしの嘲笑。殴りかかれば、犯罪者にされた。


 仕事は、とっくになくなっていた。貯金もなくなっていた。何もかもがなくなっていた。


 誰も助けてくれなかった。何故だ。力がなかったからだ。弱かったからだ。


「我々は、暴力に屈しない! こんな事は、法律に反しているぞっ。警察がくれば逮捕されるに決っている」


「そうだっ。君たちが何者か知らないが、こんな真似はよしたまえっ」


「豚が、鳴くなっ」


 ふんっと。適当に男の髪を掴む。そのまま壁に叩きつける。一撃で、ぐにゃぐにゃとなった。

 男の股間からは、黄色い汁が染み出てきた。

 抵抗しようという男たちも居たが、所詮は付け焼き刃。殺しの場面をくぐってきた盗賊騎士たちとでは、出来が違う。そもそもが、筋肉の壁に包丁やらナイフが突き立たない。


 屋上では、日本人が1人ずつ空中へとダイブしていた。無抵抗だけに、やりやすい。

 彼らは、「暴力反対!」とか「こんな事をしてなんになる!」と言っていた。

 誰の為でもない。己の為になる。

(マスコミをまずは押さえる。ゴミどもには、いい薬になるからな)


「これ、いいのかよ」


「ふふん。アルさまを侮辱する内容の記事を発見したよ。これで、あんたの賭けは勝ちだねえ。それとも、仕込みだったりするのかい?」


 一枚の紙だけではない。色々な物証が集められるに、不敬罪で全員死刑だ。


「いや、こいつらなら書くだろうと思っていたからな」


 確信は、あった。どうせ、首を物理的に斬られるだとか体験したことはないのだろう。これから、実体験できるのだ。


「侮辱って、アルさまをか? 冗談だろ」


「冗談じゃあ、ない」


 字は、クーフーでも読める。【翻訳】スキルを持っていれば、誰でも読めるようになったのだ。

 異世界の言語でもスキルがサポートしてくれる。どのような世界でも対応してくれる便利なスキル。

 利用しておいて、損はない。


 普段は、へらへらした所のある少年の顔が引き締まった。


「こいつら、書いていいことと悪い事がわからないのかよ。とんでもねえ連中だな」


「ふふふ。それだけじゃあ、ないのさ。ロシナと新聞社の関係ってのは、さあ。どうするんだい。ぱっと死なせてやるのは、勿体無いと思うんだけどねえ。人豚の刑とか、相応しいじゃないのさ」


 頭がイカれていると思うのは、こういう時だ。よくもまあ、反吐がでるような事を平然という。

 人豚の刑とは、四肢をもぎ取って再生魔術をかける事にある。死ねない上に、適度に再生する四肢は激しい痛みを呼ぶという。残虐きわまりない刑罰。ユークリウッドが、それを止めさせるまで存在したらしい。


「よせ。いくらなんでも……」


「おやおや~。もしかして、ひよっちまったんですかあ。こいつらに、された恨みはそんな事でも許せないと思うんだけどねえ。ロシナは、肉親の情も薄いのかい」


 訳知り顔でいうシルバーナ。目は、細くて獲物を狙うよう。恐ろしい女だ。

 一度食らいつけば、喉笛を掻き切るまで離れないという。


「ぐっ」


「一体、こいつらに何をされたってんだよ」


 言える訳がない。そもそも、終わった事ではないか。過ぎ去った事で、関係のない人間をいたぶるのはどうかしている。だが、それでいいのか。無念が、恨めしい顔が、振り下ろされた何かが、ロシナの頭に鋭い痛みを呼び起こす。まるで、目の奥から血潮を吹き出てくるような。


「親を殺されて、仇も討てないんじゃあねえ。ヘタレもいいところさね」


「本当かよ。兄貴。でも、親は生きてるだろ。妙な事を」


 クーフーには、想像できないのかもしれない。


「だからさあ。こいつが、前世の記憶持ちって事を忘れてるだろ」


 シルバーナがそういう横で日本人は1人、また1人と空中に飛んでいる。泣きながら、飛んでいる。

 飛んだ後は、自由落下だ。


「んん? てことは、こいつらがその仇って事か。……なら、さっさと皆殺しにしようぜ」


「簡単に、殺しちゃあつまらないだろ。時間をかけて、たっぷりとしなきゃねえ。そうだ。土下座ってのを見せてもらおうかい。焼いた鉄板を用意してさあ」


 楽しそうに、栗色の髪をした少女が床を切り裂く。硬いはずの床が、バターか何かのようだ。


「お前ら」


 急に萎えてきた。新聞社、報道機関というのは殺しても殺したりない。だが、いいのか。

 迷うのだ。恨みを晴らしたところで、姉が、弟が、父、母、妹が帰ってくるのかと。

 晴らせぬ無念を晴らしてこそ、と考えてばかりいた。だというのに、迷う。

 騎士は、弱い者を助けるのが原則だ。弱い者をいじめる行為は、同じではないか。


 姉の死体には、腹に子供がいた。死体になっていたという。


(今更、何を迷っている! のうのうと生きているだろうあいつらをっ殺すのだろうがっロシナ!)


 真っ赤な血潮を眼下に、見下ろすと。遥か彼方の地面。


 1人の少女が、騎士に斬りかかっている。


(何者だ。子供か?)



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