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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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0.? 異世界からの侵略者たち8

青い制服を着た警棒と銃を腰に下げた暴力集団。

 民事不介入という建前で、面倒ごとを避ける糞の塊だ。

 ロシナにとっては、殺しても殺し足りない組織である。


(また現れたのかよ。いや、普通に現れるよな)


 さて、どうするべきなのか。銀髪の少女は、身を翻すとやはりその集団に槍を向けた。

 そして、写真を見せている。ユークリウッドの写真だ。金髪と青い目。

 この国では、外人に当たる。ましてや、金髪。青い目。

 当人に自覚が無くとも他人の目を引く美少年だ。


(おいおい。写真を見せたって、相手がわかるはずねえじゃんか)


 中身が、どうとかいう事は無視するとして。指揮官と思しき男が声を発すると。

 警官たちは、腰のホルスターから銃を向けて撃つ。


「あー。なるよな」


「おいおい。警官たちが、銃を撃ったぞ」


 そりゃ、そうだろう。増援が着たところに、少女が襲いかかっている。

 一方的な展開だ。車が砲弾のように飛び交う光景。日常を木っ端微塵に粉砕しているだろう。

 彼らの死に場所は、そこに決まった。


「帰るか。ここに居ても、収穫はないな」


「兄貴。あいつら、本気でセリアを捕らえるつもりなのか?」


「さあね」


 無理に決っている。彼女は、ミッドガルドが誇る最強の一角。

 倒せる人間といえば、ユークリウッドくらいだ。

 せいぜい、死体になってもらうとしよう。

 

(ゴミどもが、死にさらせ!)


「兄貴、悪い顔をしているぜ」


「ふふ。そうか? こい、ロートヴァント」


 ロシナの意識に反応して、移動してくる赤いロボット。低空飛行で現れたそれに、警官たちは混乱している。それを容赦なく刈り取っていくセリア。日本人からすれば、ありえない光景だろう。まさか、銃弾を弾く人間がいるなんて。アニメか漫画からでてきたかのような存在だ。


 そして、赤い巨人に飛び乗る。

 中には、光化移動もできる。あえて、飛び乗るのも一興だろう。

 ユークリウッドがこの騒ぎにでてこないのは、おかしい。


 東京の方角に、巨大な反応がある。浮遊城だ。東京都か。

 狙いは、どこにあるのかしれないが。

 同様に乗ったクーフーの身体で、中が狭い。匂う男なので、困ったものだ。


「で、どうすんだよ」


「一旦、周囲を移動してから帰るか。現れれば、好都合だしな」


 空は、晴れている。その気になれば、地上をなぎ払うのも思いのままだ。


(思い知らせてやるぞ? ゴミどもめ。貴様らには、死すら生温い) 


 日本人に、怒れる己の拳を叩きつける。その為に、方方に媚びへつらって生きてきたのだ。

 灰色の大地に、死をまき散らすだろう。

 巨体を駆りながら、どうやって怒りをぶつけるか。思案のしどころだ。

 セリアのようなやり方が、いいのか。


「なんか、悩んでるみたいだなあ」


「まあな。俺だって、悩みくらいあるさ」


「てっきり、帰ってからの事かと」


「俺が、この世界、日本の転生者だって事は話をしたよな」


「そういう事か。で、どうするんだ」 


「どうもしないさ。面倒だが、騎士道を弁える身だしな。過去は、忘れがたい。けど、関係ない奴に当たるのもおかしな話だろう」


 嘘に決っている。癒えぬ傷は、かさぶたを剥がれた。じくじくと痛む。

 誰にも見えないし、誰にも癒せない。かつて、死んだ家族の想念だけが癒せる。

 そうだ。


「行き掛けの駄賃に、ちょっと破壊したいな」


「また、妙な事をいうよな。やっぱり、見に来て正解だったぜ。どうしたんだよ」


「冗談だ」


 あからさまに、ほっとするクーフー。義兄弟とはいえ、心の奥底までは見通せないらしい。

 みるみるうちに、角ばった城の下部へと接近する。中空には、見えない結界があって接近する物体を阻む。だが、認証を受けている魔導機なら別だ。


 攻撃らしい攻撃をしないままの帰還に、妙な顔をされるかもしれない。

 と、


「ロシナさま。そのまま、都庁に向かってください」


 通信が入る。


「どういう事だ」


「アル様は、都庁にて会見をするとかいう話をされまして」


「了解した。しかし、…いや、急行する」


 王子らしい行動でもしようと思ったのか。暗殺される可能性をまるで考えないのが、彼女らしい。

 天然、くるくるパーに見える。何も、浮遊城で宣言すればいいのではないか。いや、敵を招きいれるのが嫌なのかもしれない。ともかく、彼女の後を追うしかない。


 高速で移動すると、特徴的な2つの塔がある。


「ありゃ、なんだよ。城か?」


「城じゃない。ただの行政機関、の建物だ」


「大した建物を作るんだな。まるで、どこかの迷宮みたいじゃねえか」


 迷宮。言ってみれば、迷宮か。中に入った事はない。その2つのビルには、飛空船が引っ付いている。

 周囲には、珍しい物を見ようと野次馬が集まっている。

 これで、いいのか。日本人は、のんきな物だ。アルーシュの気分次第では、鏖殺が始まるというのに。


「困った方だ」


「昔からじゃんか」


「そうだよ。だから、困っているんだ。彼女を扱えるのはあいつしかいなかったからな」


「どっちかっていうと、逆なんじゃないか? どう見てもユークリウッドが奴隷扱いだったろ」


「ふふ。さて、な」


 実際の所。ユークリウッドが、アルーシュに呆れて逃げたのではないか。という憶測に、不自然さはない。何しろ、朝から晩までこき使うので何時死んでもおかしくないくらいだ。なんでも、あいつにやらせておけばいいだろうというのはブラック企業も真っ青である。


 ただ、男と女の関係だったかというと微妙な所で。ユークリウッドは、困っていたように思える。

 ロートヴァントを反対側に置くと、地面へと降りる。飛び降りる場所には、誰もいないようだ。

 道を歩いていくと、入り口には騎士が詰めていた。


 自衛隊や警察の姿は、どこにも見えない。

 警備員もいないようだ。代わりに、赤い斑点が落ちている。

 殺したのか。


「これは、アインゲラー卿。今、会見をしておられるそうです。至急、向かってください」


「ああ」


 嫌な予感がする。だいたい、ロシナの予感は当たってしまうから困る。

 1階を歩くと、エレベーターの場所まで血がない場所がない。

 どこかしかに血がついている。恐ろしい事だろう。日本では、血を見ることなどなかったであろうに。

 職員らしき人間がちらほらと見受けられた。


 どこか、上の空のよう。


「こいつが、えれべーたーか!」


「ん。クーフーは見たことがないのか?」


「んにゃ。迷宮じゃ昇降機はあったし、つか転送器ばっかじゃん」


「まあな」


 ある意味、進んでいるとも言える。科学技術では、再現不可能な転送。

 ひゅんと消えて、ぱっと現れるのだから不思議だ。浮遊城には、それが大量にある。

 一体、どのような技術が使われているのか。門外漢のロシナには全くわからない。

 都庁は、48階まであるという。しかし、どの階なのか。


『ロシナ』


 脳内に響く声。念話だ。アルーシュの念。


『はあ』

『はあじゃない。どこだ?』

『今、30階を超えた所です』

『そうか。なら、48階に来い』


 どうやら、最上階と思しき場所で何かをやっているようだ。何か良くない予感が強まってきた。

 1階が、騎士や兵士で占拠されているように中は占拠されているのかもしれない。

 扉が開くと、敵が現れ、なかった。

 出迎えたのは、赤い鎧を着た兵士だ。赤騎士団の団員だ。

 

「これは、アインゲラー卿。中で、アル王子がお待ちです」


 てっきり、戦闘でもあるのかと思っていたのに。中は、すでに制圧された後のようだ。

 エレベーターを降りて、中を進むと。1人の男が、駆け寄ってきた。中年の男は、ガーフ。

 正義感の強い男だ。ロシナの副官でもある。


「坊っちゃん」


「坊っちゃんは、…何かあったのか」


 坊っちゃんは、止めろというのに焦っているときのガーフは止めない。ぽろっと出てしまうのだろう。

 だからか。


「中、中に入ってください」


 扉を開けると、そこでは背広を着た男が抱え上げられて哀れな悲鳴をあげていた。

 そして、どうなるのか。アルーシュと目があう。


「遅かったな」


「アル、様。これは?」


「ふん。ゴミクズ風情が、私に説教をたれようだと? 死んでよし!」


「戦争反対! このような横暴が許されるはずがない!」


「黙らせろ。五月蝿くてかなわん」


 すぐに顔面を床へ叩きつけられる。数度、動かなくなった。

 死んだか。


(はあ…)


 金髪の孺子が、綺麗に整った柳眉を逆立てている。

 2mを超す騎士に掴まれた男は、逃れようとするも逃れられない。首根っこを掴まれた猫のようだ。

 そのまま外の方へと向かっていく。どうするというのか。

 想像するのに、数秒かかった。だが、


(ああ。死んでいいな)


「坊っちゃん、見ていないで止めてください」


「ん? なんでだ?」


「如何に、非礼を働いたとはいえ平民に手をかけるとは…。騎士の名が泣きますぞ」


 騎士。騎士か。騎士だが、その前にロシナは帰ってきた復讐者なのだ。

 存分に、思い知らせてやるつもりだ。彼に、彼女らに、無抵抗がどのような結末をもたらすのか。

 徹底的に、無慈悲に蹂躙してやるつもりなのである。

 その為に、生きてきたといってもよい。


 もしも、この記憶を捨てられるなら。忘れられたならどんなによい事か。

 じくじくと痛む記憶は、年々鋭さを増している。どうか、どうか死んでくれ。

 己の為に死んでくれ。果たせぬ無念に、涙しても他人に迷惑をかけられなかった己は死んだ。

 そして、帰ってきたのだ。

 

「騎士な。ここでは、兵士だ。ここ、この場に限っては俺は、兵士なんだよ」


「なっ? 何故、何故ですか」


「俺は、果たせぬ無念を胸に生きながらえてきたんだ。もしも、もしもと願わずには居られない。俺を止められる奴は、今、いないんだ。存分に晴らさせてもらうとするさ」


 ロシナには、後悔がある。どうして、復讐しなかったのか。どうして、諦めてしまったのか。

 もしも、転生してすっかり何もかもを忘れていたのならどんなに良かった事だろう。

 だが、ロシナは忘れなかった。死んだ姉も弟も狂った母も父も妹も。

 都合よく、どうして忘れなかったのだろう。

 

 この痛みだけは、残さずに支払ってもらうしかない。

 怒りが風化して消えてくれるなら良かったのに。まさか、帰ってこれるとは。

 これが、どの宇宙でもどの日本でもよい。ただ、一度でいい。

 

 ロシナの受けた痛みをせめて、彼らにだけは味わってもらわねばならない。

 だが、同時に思うのだ。どうして、手を汚す必要がある。とも。

 

「その無念は、どのようにしたら晴らせるのでございますか」


「さて、な。見ているだけで、晴れるのかもしれない。それとも、哀れみが優れば消えるのかもしれない。だが、どうしても我慢しているというしかない状況なんだよ。それに、アル様に逆らうのか?」


「いえ、そのような事は…」


 いかに、ガーフとて見過ごせない。不忠か正義か。ガーフの中では、彼らに対する哀れみが優っているのかもしれない。だが、本性をしればどうだろうか。でっぷりとした男が、ガーフの肩を掴んだ。男は、首を振る。


「よすんだ。殿下の御前だぞ」


 団長にくってかかる部下を許しておくのかという風ではない。あくまでも、王子の前だから我慢しているという感じだ。ガーフの目からすると、無力な平民を高層から投げ捨てる行為が残虐に見えるのだろう。確かに、そうだ。

 日本人でなくても、高層から投げ捨てられればどうなるのか。カメラを持った男から、手帳に物を書こうとしていた人間までもが投げ捨てられようとしている。


(いい気味だ。死にさらせよ。死体は、焼いてやる)


 ロートヴァントが持つ銃ならば、一撃で何も残らず焼ける。

 悲鳴を上げて、鼻水をすする男たちは地上へと投げ捨てられていく。

 すると、


「で、ユークリウッドは見つかったのか?」


「それが、手がかりも得られておりません」


「セリアが、暴れているのだろう? 何故、出てこない? どうなっている」


 このような横暴を見過ごすような奴ではない。

 であれば、やはり空間転移の際に何かがあったとみるべきだろう。


(でてきたら、終了だ。それは、それでいい。いや、良くないな)


 出てこない上に、手がかりもない。では、どうやって探すのか。それが問題だ。マスコミをどんどん死刑にすると、尚更見つけにくくなるのだが。その辺に、アルーシュは考えが至っていないに違いない。


「いっそ、浮遊城を地上にぶつけてみては?」


「ほう。同じことを考えていたか。だが、それには及ばん。こいつらは無能な上に、あること無い事を報道するゴミみたいな連中らしいからな。処分しても一向に、困らん。が、他の人間に影響が出るのはまだ控える方がいいな」


 一体、どこから情報を得ているのだろう。アルーシュは、四角い画面を見ながらいう。

 このような絶対的権力者によくも平然と対応したものだ。

 彼らは、アルーシュを知らなかったのだろう。不幸だが、内心の快哉は止まらない。

 己を下衆さをことほどに痛感しながら、同意する。


「左様で」


「引き続き、貴様は地上での探索を行え。人手が足りんのなら地上の警察とやらを動かしてもいいだろう」


 残念。アルーシュは、寸での所で踏みとどまっている。もっとも、浮遊城を本当に地上の都市へぶつけられても困る。ポーズという奴だ。それでも出てこない場合には、長時間かかるだろう。その分、ロシナの復讐する時間が伸びる。いいことだ。


(糞なあ奴らには、死あるのみ。地獄になんとかして、送りつけてやらんとな) 

 

 マスコミ、警察。さても、数が多い。 

 

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