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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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0.? 異世界からの侵略者7

 探せども、ユークリウッドは見つからない。転生先のミッドガルドからはるばる異世界であろう日本にやってきたというのに。手がかりすらない。焦っていると、良くない事が起きる。


 最悪だ。


 前兆は、ぴりっとした電気が流れる。そして、それは現れた。

 黒く巨大な巨人。日本では、ロボットと呼ばれる。

 

(やばい。なんで、この場所に!)


 ロシナが居る場所は、住民が逃げ惑っている。突然、空からロボットが降ってきたのだ。驚かない訳がない。王子が切れたのは、冗談ではないらしい。事は、一刻を争う。ロシナは、日本人が大嫌いだがそれはそれ。ナナのような子供まで嫌いではない。そして、弱い者を守るのが騎士だ。


 セリアのシュヴァルツシュヴェアートは、市街地の方に降りた。ロートヴァントがある場所に近い。

 まさかとは思うが、愛機を蹴倒す可能性もある。

 彼女もまた、ちょっとどこかおかしな所があるのだ。

 見つからない腹いせに、いつぞやの仕返しをしないとも限らない。


「兄貴。やばいぜ。セリアが降りたら」


 兄貴と呼ぶのは、弟でもなんでもない男だ。長槍を手に、唇を歪める少年。

 クーフーは、部下でもある。


「ああ。急ごう」


「えっ。お兄さんたち、避難しないと危ないよ」


 可愛らしい子供だ。ちょっと年下なのが、残念である。

 ああ。しかし。どうして、こうも子供というのは可愛いのか。ロシナは、手を振ってナナと別れた。小さな子どもには出来るだけ生き残って欲しい物だ。今から始まるであろうセリアの暴力が一体何を巻き起こすのか。


 簡単に想像できてしまうだけに、恐ろしい。


 道は、逃げようとする人と見に行こうとする人で半々のようだ。わかっているのだろうか。彼女は、簡単に人を殺す。日本人の感性だと、どうだろう。拒否反応を示すか。或いは気絶してしまうのかもしれないが。黒き剣シュヴァルツシュヴェアートが放つ閃光だけでも、市街地は焼け野原に変わる。


「兄貴。上から行こうぜ」


「仕方がないか」


 目立つのは、避けたかったが。もはや形振り構っていられない。彼女は、ユークリウッド以外の男に触れられた場合。大抵、血を見ることになる。そして、相手が誰であろうともそうしてきた。父親であるはずのウォルフガングが、泣いてというのににべもないという。


 さて―――


 建物の壁を蹴って、跳躍すると灰色のそれを駆け上がる。


「どこだ」


 下では、通りを往く人びとから声がするけれど。無視しておこう。早く、セリアと出会わなければならないのだ。彼女は、法律など知らないし。この国がどのような国だとかいう事もどうでもいいという。そんな女なのである。


 命令があれば、これ幸いに思い知らせるだろう。

 たたっと屋上を走って、次の建物に飛び移る。普通では、ありえないであろう光景も慣れたもの。

 重力を無視して、建物と建物を飛び移っていけるのは爽快だ。鎧を着ていてもみなぎる力。現代風の日本ではありえないだろうに。


 やがて、見つけた。と、思ったら。


「おいおい。セリア、やっちゃってるぜ」


「……」


 セリアが、槍を振り回していた。

 頭が痛い。痛くないが、そうでもしないとやっていられない。子供の遊びではあるまいに。


 銀髪の少女は、黒と白の鎧姿で日本人であろう男たちと大立ち回りをしている。青いティーシャツの少年は、横槍でも入れようというのか。セリアは、邪魔されるのが嫌いだ。殺し合いにすぐ発展してしまう。彼女と戦えば、どうだろう。十に十はクーフーが負けるだろう。


 必殺の槍技は、彼女には効かない。


「静観しよう」


「いいのかよ」


「訳がわからん。下手に手を出すと、彼女と戦う事になるぞ」


 実に不味いが、彼女が手にかけているのは。刺青の入った男であったり、金髪に染めているジャージ姿の男であったり。腕を切り落とされたのに、激昂したのだろう。男の1人が銃を抜いた。そして、首から上が無くなった。


「やっちまったぜ」


「ああ」


 日本でなら、殺人罪に問われるだろう。喧嘩だろうが、なんだろうが。殺せば、罪に問われる。しかして、セリアはアルの配下の1人。降伏した日本では、その罪を問う人間もいないだろう。居たとしても、それがどうしたと。そういう風に言われるに違いない。


(問題は、この先だ。警官隊が出てくるのは違いない。そこで、彼女はやはり力を振るうだろう。それは、まずいの・・・・・・。 あ?)


 と、考えて。果たして、それが不味いのかどうか。ロシナにしてみれば、怒りが募る警官達が死ぬのは快哉を上げるべき事だ。例え、それがどのような警官であってもロシナにとって家族を守ろうとしなかったのだから。むしろ、率先して警官たちを切り捨てるべきなのではないか。


(そうだ。そうだった。どうして、俺は忘れていたんだ)


 誓ったではないか。いずれ、いずれ。日本に帰る事ができたのならば、警官という警官。警察という警察。その組織を必ずが潰すと。結局、法律などを守っているから死んだのではないか。警察は、民事に不介入。それで、どうやって悪から人を守れるというのか。


 国民を守れないような組織など、不要。

 むしろ。


「どうしたんだ? 兄貴。あいつらを倒して、いいのか」


「セリアと知って、銃を突き付けているんだ。殺される覚悟は、しているだろうさ」


 嘘だ。

 腕を切り落とされた男にしろ、銃を構えた男にしろ。はたして、死ぬ覚悟ができていただろうか。

 ごろつきの類であろう男たちは、ニヤけた顔から一点して必死の形相だ。銃を構えているというのに、間合いを詰める彼女に躊躇したのか。したところで当たらないのだが。


 腕を切り落とされて、地面を転げまわる男に叫び声を上げる男。いろんな男がいる。遠巻きに見守っている群衆も、蜘蛛の子を散らすように遠くに輪を広げた。そりゃあ、そうだ。銃まで持ちだしてきたのだから、まともな集団ではない。


 ロシナには、それに心当たりがあるけれどクーフーはわかって居ないようだ。


「しかしまあ、なんだ。飛び道具を持ち出すってな、どういう了見なんだよ」


「銃弾を避けられるようなのはいない。そういう国だし、こんな荒事には慣れていないんだろ」


 いるかもしれないが。


 そもそも。滅多にお目にかかるような事ではないはずだ。剣だとか、槍だとか。男たちは、ナイフを振り回すけれど。リーチが違い過ぎる。そして、銃を抜いたはいいけれど。今度は、それが当たるとは限らない。銀髪の少女は、特に目がいい。銃弾を見て弾く事ができる位だ。


 いったい、どれだけ動体視力がいいのか。

 血しぶきすら避けて見せる。彼女は、凶暴だ。

 

 そこに紺色の制服を着た集団が現れる。警官隊だ。間違いなく彼らは、いうだろう。そして、血を見るのは明らか。割って入るべきか。いや、静観するべき。彼らが血の海に沈むのはロシナにとって望むべき事なのだ。


(現れたな糞どもめ。地獄に落ちてしまえ。ああ、俺がやるべきか)


 坊主が憎ければ、爪垢であってさえも憎たらしい。

 役に立たない連中という認識を今更のように、思い出す。


「このまま行くと、あいつら死ぬけど。いいのかよ。警官ってのは、騎士に当たるんじゃないのか」


「いや、糞だ」


「は? おいおい。国民を守る役目を担っているんじゃないのかよ」


「ふふ。それは、そうじゃないんだな。これが」


 いや、そうなのかもしれない。だとしても、1山いくらで処理したい。憎しみは、全然薄れていないのだ。例え、彼ら自身が関わりがなかろうとも。ロシナにとっては、そびえ立つ糞の山。そのように感じるのである。守るとは、一体なんなのか。お役所仕事という。


 やがて、警告とともに赤く染まった地面にうずくまる男たちを放って少女が動いた。

 警告の為に、銃を向けたのだ。それが、どういう事を意味するのかわかっていない。

 警官たちは、自分たちで自殺をしに来たような物だ。銃弾が地面に当たり反射する様を見下ろしながら、思案する。


 ここで出てていっても、止められまい。いや、止めたはいいが両方から攻撃される事になりかねない。そもそも、セリアは日本人自体に怨念がある。彼らから受けた借りをここぞとばかりに晴らすだろう。武器を向けなければいいのに。


 いや、日本の法律に照らし合わせるならセリアは死刑だ。もう、何人の男を切り倒したか。

 警官の数は、10、20。どんどん増えているが、その増える数だけ死体が出来上がるだろう。

 テレビが機能しているならそれこそ報道されていただろうに。

 ユークリウッドが出てこない所を見るにどこか僻地にいる可能性が高まった。


 いや、テレビを見ていないかもしれない。彼は、テレビや新聞をほとんど読まないし。

 経済的な物は、商人の口から聞いて判断するタイプだ。或いは書面を見て、考えるというような。

 紺色の制服に身を包んだ男たちが、地面に倒れ伏したのを見て行動するとしよう。

 

「この国の人間って、みんな、ああなのかよ。弱すぎるだろ」


「いや……。まあ、そうかもな」


 銃弾を弾ける人間がどれだけいるというのだ。銃器を持った人間には、勝てないのが道理という物。まさか、2mは超すであろう剣とも槍とも付かない物体を振り回す人間がいるなど。想像の埒外だ。物理法則を無視するスピードで、弾丸を避けてまわるとか。囲んでいたはずの男たちは、1人また1人と倒れていく。


 腕やら足やらが無くなって、大変だ。


「しかし、こうしてみると帰ってきたんだよな」


「のんびりしてんなあ。兄貴は」


「魔物の居ない世界だからな。のんびりもできるじゃないか。折角帰ってきたんだから、こんな事は止めてゲームしたいぜ」


「またゲームかよ。やってたら義姉さんに怒られるぜ」


「わかってる。家族サービスも辛いんだぜ。あれで、どこそこに連れて行けってうるさいし」


 きっと、帰るのが遅れるだけでどやされるのだ。子供が居たりするので、給料は全部彼女に持っていかれる。完全に、スカハサに尻に敷かれていた。気が強くて、どうこうできる玉ではない。嫁の選択を間違えたとは言わないけれど。どうして、こうなったのか。


 ユークリウッドと一緒に居たら、いつの間にか嫁が増えていく。訳がわからない。


「ふーん。でも、女ばっかだよな。兄貴のとこ」


「そうだよ。なんで、女ばっかなんだ。意味がわかんねえよ」


 ちなみに、産み分けるとかいう方法はミッドガルドになくて。ユークリウッドに相談したら、なんか変な返事が帰ってきた。生命操作は、人倫にもとるとかなんとか。彼がやらないせいで日本が元の世界がこのような目に遭っているというのに。


(そういや、羊水検査、とかあったような)


 子供は、4歳になる。ちょっとどうかしているくらい早熟だった。としても、相手が求めてくるのだから突合ないといけないのだ。夜の方だけれども。


「兄貴。顔が崩れてるってばよ」


「お、おう。もう、終わりそうだな」


 銃弾を避け、警棒をへし折り。白黒の車を蹴飛ばして。肉塊に変わった警官たち。何が悪いって、彼らの価値観で戦闘を挑んでしまった事だろう。ここで、戦車でも出てくれば容赦なく黒い剣が動きだす。セリア1人でも、十分過ぎる戦力だった。


 加勢するまでもないし、生暖かく見守るのがベストだ。

 戦いの中に加わっては、後から責任を問われかねないし。

 すると、彼女は手をくいくいっとロシナに向けて動かす。


(気づいていたのか)


 気配を殺していたというのに、気がついたのは偶然でもなんでもないのだろう。彼女は、超感覚の持ち主だ。ちょっと馬鹿だけれども。くいくっと、手招きを手招きで返す。どうして、目立つところに居なければならないのか。


 銃撃戦に、巻き込まれるのもごめんだ。そして、倒れた男たちは重症ですぐにでも救急車が必要だろう。この世界に、治癒術士がいるとは思えない。一瞬で怪我が治ったりすることもないのだ。としても、彼女がそれを理解しているとは思えなかった。


 わざわざ下に降りていくのは、危険だ。待っていれば、せっかちな彼女の事。

 来るに違いない。 

 やがて、建物の上に駆け上がってきた少女が槍を手にして。


「おい、ロシナ」


「ふふふ。どうしました。セリア。こんな事をして」


「奴を探しているんだろうな」


 怒っているのか。流麗な顔についているのは、何もない。人を殺したというような、そんな罪の意識もないようだ。そう、向こうの世界では普通の荒事で。日本人の感性とは、まるで違う。殺人も傷害も罪に問われないと、そう思っているに違いない。実際に、罪に問われるという事があるとすれば。


「もちろんです。アル王子の命令ですからね」


 命令を守れない時か。或いは、自国の民を無用に傷つけた時だ。

 そもそも、自国の民ではないのだからどのようにでも扱っていいと思っていそうだ。

 この少女は。


「ふっ……。あいつらは、なんなのだ。いきなり、姉ちゃん、いいからだしているなとか無礼にもほどがあるぞ」


「マジかよ」


「ちょっと小突いたら殴りかかってきたからな。殴ってやったら、得物を抜いたのだが……貧弱な奴らだ」


 もしかすると、セリアは魔術で簡単に治療するとかそういう風に考えていないだろうか。一生物の怪我を負って、地面で呻いている男たちが憐れになった。と、同時に。


(いい気味だ。塵どもめ。これから、もっと思い知らせてやるぞ)


 そんな気を知らず。クーフーが、呻いた。たまさか、そんな事をいう人間がいるとは。信じられないだろう。しかし、日本では言論は自由だし。何を言ってもいいような風潮がある。


 この国は、なんでも自由なのはいい。が、向こうの世界でミッドガルドで、ウォルフガルドでそのような事を言えばどうなるか。


 首が、物理的に飛ぶに決まっている。


(最悪だ。テレビがないから、これだけの騒ぎを起こしてもまるで報道とかないだろうし。ユークリウッドもでてこねーよな。だって、わかんねーもん)


 彼は、神ではない。

 パソコンも電磁波攻撃でやられている可能性が高い。そうなると、どうなるのか。

 もはや、すぐすぐには見つけられないだろう。

 どうするのか。ロシナは、くらくらしてきた。

 

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