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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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0.? 異世界からの侵略者たち 6

 ロシナは、通りを歩いている。道には、灯りがない。どれもこれも各国の核攻撃のせいだ。核兵器なら、浮遊城を落とせると考えたのだろう。当たりはしないし、射つだけ無駄だ。そもそも、空間転移のできる機動要塞なのである。圧倒的な質量で、転移先を破壊する事だってできる超兵器といっていい。


 道は、人の姿が少ない。家に閉じこもっているのか。ロシナが歩くと、後ろについてくる人間たち。うっとおしいことこの上ないが、仕方がない。携帯もスマートフォンも機能していないのか、カメラ機能でパシャパシャしている様子はない。ちなみに、まとわりつくようなら蚊取り線香よろしく電磁波攻撃を見舞ってやるのもいいだろう。

 ロシナの愛機には、そのような機能もある。

 

 機体を降りてから通りを真っ直ぐいくと、目当ての場所に辿り着いた。交番だ。中には、中年の男が2人いた。忙しそうだが、


「すいませーん」

「ああ? 君、今は忙しいんだ。何のコスプレだ。警察は、コスプレイヤーを相手にしているほど暇じゃない。帰った帰った」


 怪訝な顔だ。それは、そうだろう。赤い鎧を着た兄ちゃんが現れたのだ。ロシナだって面食らう。


 そう、コスプレと思われた。

 

 仕方がないか。そういう物なのだ。柔軟性に富んでいるというか。反応が鈍いというか。固定観念で凝り固まっているというべきかもしれない。ともかく、手のひらをひらひらさせて頭のおかしな兄ちゃんを相手にしていられない風な顔をされた。


 この交番では、相手にされないようだ。すっと交番を出ると。


 ―――うぜえ。


 外は、野次馬が集まっている。しかし、カメラも携帯も壊れているのか。写メは取られないようだ。逆に好都合なのか。それは、ロシナにもわからない。間近まで迫った人間の心理とは、一体。おっかなびっくりといった感じで、やってきたのだが。相手にされないのは、まいった。服を替えようにも、金がない。


 道を逆に戻っていく。ロートヴァントを地上に下ろした場所には、パトカーが警戒線を張っている。どうしたものか。交番が使えないとなると、周辺で聞き込みでもするしか考えが浮かんでこない。ともあれ、一旦ロートヴァントに戻りたい。しかし、警官が邪魔だ。無視するのもいいだろう。どうせ、警官が持っている拳銃などロシナには意味がない。面倒なので、ずんずんと歩く。と、声をかけられた。


「お兄さん。ちょっと。えっと、外国の人ですか?」

「ん、ああ。そうだよ。何かな」


 女の子だ。中学生くらいだろうか。青いパーカーに、赤い帽子を被っている。下は、茶色のズボン。綺麗に切り揃えられた黒髪が美しい。日本人は嫌いだが、子供は嫌いじゃない。ショートカットにしているのもポイントが高い。好奇心で話しかけてきたのだろうか。わからない。だが、話ができるなら幸いだ。これを逃す手はない。少女は、見上げるようにしていう。背がずいぶんと低い。


「日本語喋れるんだ。よかったー。んと。そんな格好してさ。うろついてたら、逮捕されちゃうんじゃないの?」

「うーん。どうしてかな」


 小首をかしげる女の子は、不用心すぎる。ロシナの知る日本といえば、治安が良くないのだ。可愛い子なら、人さらいにあって路地裏でレイプでもされているのがオチである。そうでなくとも、どこかしらで犯罪の被害にあっているだろう。そして、どこかで泣いているのだ。今は違う。異世界の住人だ。そして、自然に身体へ力が入った。今ならば、どうにでもなる。仕事をしない警察など、皆殺しにだってできる。


 もののついでに、いっそ浄化してやろうか。そんな危険な考えが浮かぶが、女の子はきょとんとした表情を浮かべていて毒気を抜かれる。無防備な少女を見下ろすと。


「どうしてって、知らないの? 携帯もスマフォも使えなくなってるんだよ。外国人がうろついてたら、不味いって」

「うーん。でも、俺は任務があるからね。ちょっと、先を急がないと」

「じゃあ、家に来なよ。それか、学校がいいかもね。緊急の避難所だよ」


 なんて心優しい子なのだろう。見ず知らずのロシナを案内してやろうというのか。アキラはそんな女の子は大抵が強姦の被害に合うと説教したい気になるが、折角の出会いだ。そんな薄汚れた記憶でこの少女を汚してはいけない。名前も知らぬ女の子は、ロシナの手を引いていく。避難所か。ロシナにとっては、避難する意味が薄いのだが。少女は、そんなロシナの都合を知らずにいるようだ。


 襲っているのは、ロシナの方なのに。


「やばいんだって。お兄さんは、外人なんだからさ。あのロボットを見た? なんか宇宙人が攻めてきたとかって噂があるんだからあ」

「へえ、そんなことになってんだ」


 少女は、宇宙人だという。思わず噴き出しそうになるのを堪える。


 宇宙人とは、また珍妙。しかして、そっちの方が信憑性があるのだろう、日本人には。ロシナだって、異世界人が攻めてきましたとか信じがたいし。宇宙人がいて、ロボットで攻めてきたという方がずっとわかりやすい。大体、この鎧からして日本ではミスマッチだろう。明らかに、頭のイカれた兄ちゃんがコスプレをして金色に頭を染めてうろついているように見えるものか。


 ぽんっと、手を打つと。


「そうだ。服屋とかないかな。近くにあれば、連れて行って欲しい」

「んー。お兄さん、町は、大変な事になってんだから入れないよ。イマムラは、電気が使えねえからお休みに決まってんじゃん」


 悲しい事にイマムラは、お休みのようだ。金のないロシナにも、三千円ほどの軍資金が渡されている。捕縛した国会議員の財布から、いくらか奪ってくれば良かった。が、過ぎ去った過去を思い描いても仕方がない。やっていたらとか考えるのは、愚にもつかない思考だ。前向きに検討するなら、どこかの交番で金を借りるかチンピラを締めあげて小遣いを貰うか。


 しかし、どっちも強盗の類だというのに、気がついた。


 イマムラがお休みなのは、想定外だ。騒動があっても営業しているかと思ったが、当てが外れた。


「なんだって? そりゃ、困ったな」

「だから、ちょっと来なって。服くらいどっかでくれる人が居るかもしれないし」


 第一の目的は、決まっている。逃げた魔術師を探さないといけない。


 ユークリウッドを探すどころか。服で、つまづきそうだ。しかし、買う金がなかった。今、思い出したのだ。ミッドガルドと日本では、紙幣が違う。金貨を使用しているし、紙の技術は開発中だ。何しろ、魔術で紙に印刷する付与技術がないといけない。魔術で、大量に紙幣をコピーされてはたまったものではないからだ。金ばかりは、魔術で生み出すのが困難だと言われているけれど。


 行く先でも人は、まばらだ。略奪を恐れてか、シャッターを下ろしている店が多い。電気も入らないので、商売ができないのだろう。日用品の買いだめをしている所は、儲けがでそうだ。女の子は、


「あっ。そうだ。うち、ナナっていうんだ。お兄さんは?」

「ナナちゃんか。俺の名前は、ロシナ」

「どっから来たの?」


 ナナか。知り合いになると、攻撃の手が鈍る。困った事にロシナは、元日本人なので日本人を攻撃する際にはやはり気が引ける。軍人相手なら引き金が羽毛のように軽くなるけれども。ナナの相手に困った。が、それらしい事を適当に言っておけばいいか。どこから来たのか? アメリカかイギリス辺りでいいだろう。

 アメリカは、今もあるだろうか。セリアが全力でばれたりすると、地球がやばい。


「アメリカからさ」

「そうなんだ。コスプレしに来たの?」


 鎧がコスプレに見えたんだろう。あえて否定しないでいると、どうやらナナと名乗る女の子はロシナに興味があるようだ。逃す手はない。好奇心を利用することにした。


「いや、そうじゃないんだけどね。これは……。コスプレさ」

「やっぱそうじゃん」


 ナナは、納得してくれたのか。そこから道に沿って歩いていくと、パトカーが通り過ぎていく。きっと、赤い巨人を見た日本人が通報したのだろう。大地震が起きても慌てないで、整然と行動ができる日本人。といってもやはり現場の人間がそうできるかといえば、やや違う。行き交う人は、波のように走っていたりするのだ。流石、巨大ロボット。ファンタジーの塊である。


 流れる人に従って、行った場所には校庭があった。そこに多くの人がいる。避難しているのだろう。ロシナの機体が攻撃すると、一瞬で蒸発してしまう。誤射というのは、いつだってあるし戦争が起きれば犠牲になるのは平民が多い。ナナに手を引かれるままについていくと。


「こっちこっち」

「いいけど。どこへ行くんだ」


 あからさまに、不審者だ。おかしな人間を見る目で見られている。しょうがない。ロシナは、所詮は外人で金髪で、そしてコスプレをしているようにしか見えないのだ。頭がおかしくなった人間を装うのも一興か。ロボットを攻撃している人間の数がそれなりいるようだ。感覚で繋がっているロートヴァントは、ロシナのもう一人といっても過言ではない。動かすべきか動かさざるべきか。


 ナナに促されるままに、柔らかいシャツとズボンが手渡される。魔装の技を使うのがいいだろう。それらしき服装にしてこなかったのが、悪手だった。鎧姿を解くと、それはそれで悪目立ちをする貴族の衣装なのだ。 


「おい! 鈴木! どこ行ってたんだよ。先生が探していたぞ!」


 男の子が寄ってくる。おそらくは、ナナに気があるのではないだろうか。でなければ、このような状況で気にしたりはすまい。で、あるからここでお別れしてもいいだろう。ロシナは、笑顔を作るとナナにいう。

「彼氏が探しにきたようだよ」

「か、彼氏なんかじゃないです。もう、サトシくんてば声が大きいよ」

「なら、早く行くぞ。そんな外人に構ってたら先生に叱られちまうぜ!」


 サトシか。また、知り合いが増えてしまう。それにしても……。そんなにも怪しい人間だろうか。ロシナは普通の格好をしているつもりになってしまうのだが、どうも異世界の常識に染まっているというべきだろう。鎧を着て背中には大剣を持っているのだ。それがレプリカだとしても銃刀法違反で捕まってしまうではないか。怪しすぎる。すると、案の定。


「いたいた。君、そんな格好をしているがちょっといいかな」

「あれ、さっきは忙しいと言ってませんでしたか?」

「いや、君のそれを見過ごす訳にはいかんだろ」


 男の警官が二人組で立っている。逃げるのは容易いが、それよりも捜索に協力してもらう方が先決だ。ロートヴァントへの攻撃も止めてもらわねばならない。


「いいですけど、カツ丼をおごってくださいよ」

「ああ、わかった。それから、そいつを預かってもいいかね」


 年配の男が、無造作に近寄ってくる。まさか斬られるとは思ってもいないのだろう。ロシナも、善良そうな警官をいきなり斬り殺すような真似はしたくない。普通の対応だし、何も悪い事はない。悪いのは、アル王子である。はっきりいって、日本に対するというか全世界に対する侵略行為にほかならないし。誰がどう見ても、エゴの押し付けで納得できないだろう。


 死んだ兵士が可哀想なくらいだ。ロシナが、アル王子の配下でなければ。


「ええ。構いませんよ」

「そうか。そりゃあ、よかった。実は、変な宇宙人が空からやってきて国会議事堂を占拠しただとか自衛隊の基地が壊滅しているだとか言われていてね。俺たちもぴりぴりしているってわけだ。じゃ、同行してもらえるか」


 すっと差し出されたのは、手だ。で、行く先は交番だろう。逃げようとすれば、現行犯逮捕か或いは射殺しかねないだろう。

 

 ナナには、ろくに係われなかったがそれでいいのだ。ロシナにはやることがあって、それが最優先事項である。 


「すまんね。これも、仕事なんだ。パスポートを見せてもらえるかな」

「実は……」

「あっ、お兄さんいたいた。駄目じゃん、ついてこないと」


 ナナだ。何故戻ってきた。これでお別れのはずなのに、少女はスポーツドリンクのラベルが張ってあるペットボトルを手にしていた。反対の手にはおにぎりが握られている。それを見て、警察官は


「君、この人と知り合いかい?」

「そうですよー。ちょっと、頭を打っちゃったみたいでおかしな事を言い出すようになっちゃいました。近くでふらふらしている所を連れてきたんですよー」

「そうか。それは、困ったな。しかし、精神病か。それじゃあ、職務質問をしたって訳がわからない事をいいそうだ。君、どこから来たんだね」


 困った。素直に答えるべきだろうか。


「ええ。俺は、異世界から来ました」


 すると、2人の警官が困ったように顔を見合わせる。後ろの方では、爆笑する少年の声がした。先ほどの少年だろう。ナナを追いかけてきたに違いない。しかして、この怒りをどこにぶつけるべきか。アキラにも納得の行くように、少年をスカイダイビングさせるべきかもしれない。空中遊泳をすれば、反省するに違いない。無論、ロートヴァントの手で掴んでぐるぐると回すのも有りだ。その際には、生命を保証できないだろう。


 警官たちは、2人して。

「おい、こいつは本当に気が触れているのかもしれないぞ」

「しかし、先輩。剣は本物ですよ」

「いや、でもなあ。こんなの連れて行っても病院に搬送するのが手間だろうよ」



 精神病患者に認定されそうだ。さもありなん。そして、肩を叩かれた。


「兄さん。いやー探しましたよ。あっ。どーも、マイケル・ヤマダです」


 振り返ると、そこにはクーフーがいた。幼少の頃からの腐れ縁である。人呼んで、番犬の再来。

 槍の名手で、ゲイボルグを扱うミッドガルドの戦士だ。それが、ラフな青いTシャツに黒のジーンズで陽気に振舞っている。髪は、黒い髪だ。ちなみに、これの師匠はロシナの嫁に収まっている。子供の頃に結婚してしまったという。


「おっと。これは、ええと。はあ、なるほど。外国から来日された親戚さんですか。困りますねえ、銃刀法違反ですよ。あれ、許可証? どういう事ですか」

「どうもこうもないぜ。ちゃんと、そいつを読んでから上に問い合わせてくれや。じゃ、俺らは行くんで」

「ちょっと、君」

「どうしても文句があるんなら、警視総監にでも電話で聞いてみてくれや。そんで、首がとんでもしらねーぞ?」


 相変わらず、はったりの利く男である。


「兄さん、困るぜ。んな簡単に役人に捕まっているようじゃ、四天王の名前が泣くわ」


 髪をぼりぼりと掻く少年は、困った顔をした後でにやりと笑う。


「さあ、さっさと探そうぜ」

「あてもないのに、良くそんな事が言えるな」

「騒動を起こせば、出てくるんじゃねえの。とりあえず、都市の市民を人質にとってみればいいんじゃね」

「却下。それは、流石に無責任だろ。もっとこうすっとするような方法を考えろよ」


 切符のいい弟分なのだが、何分に豪快な事をやる。


「それがなー。王子が切れて、東京を壊滅させてあぶり出すか? なんて言ってんだぜ。俺の人質なんて可愛いもんだろ」


 やばすぎる。セリアも大概だが、アルーシュもまた沸騰するヤカンのような王子だった。

 ―――どうかしてる。

 急に気が変わるのは、女だからだろうか。生理がきたのかもしれない。

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