0.?話 異世界からの侵略者たち4 (ロシナ、ヒロ、アルーシュ)世界からの侵略者たち4 (ロシナ、ヒロ、アルーシュ)
「貴国の無法、断じて容認することはできない! 即刻、停戦して退去を願う!」
「(こいつは、馬鹿か)」
ロシナは、思った。
日本の首相は、国会議事堂を制圧されて、自身も捕縛されているというのに言い放つ。
アルーシュが面倒くさいと思ったのもこの辺りに事情がありそうだ。アルーシュは、とにかく面倒が嫌いである。年かさのいった人間は、ヒロくらいの物で他には若い人間ばかりだ。ヒロは、白い目で首相を見ている。危険な兆候だ。
玉座にアルーシュ。隣にはヒロがいる。その前に跪くようにして、日本の首相がいた。首相は、50代くらいか。玉座の間には、騎士たちが整列している。ロボットを操る機動騎士でもある。ロシナが隅に加わった格好で話が進もうとしているようだ。アルーシュは、半眼でいう。流暢な日本語で。
「こちらは、無条件降伏しか認めない。ぴーぴーうるさい男だ。無能の癖に、偉そうないいようだな」
「む、無能だとっ! 失礼な!」
男は激昂した。しかし、味方が1人もいないのに激昂するだけの余裕があるのか。すぐにも首をおとさんとする人間が揃っているのに、だ。
「自衛隊は、無力だ。この上、どうしようというんだ? 貴様が、条件を飲もうが飲むまいが結果は同じだぞ。ロシナよ、基地の破壊は済ませたのであったな」
「はっ。適当に破壊しておきました。が、反撃する手段はないはずです」
「ふむ。この城には、貴国を陥落せしめた兵器が200はある。どうするね」
「貴国は、暴力で服従させようというのか」
「うむ。その通りだよ。圧倒的な戦力だろう? 日本など2時間もかかっていない。世界中の軍事施設を破壊するのに24時間なのだからな。認識せよ」
アルーシュは、冗談が嫌いだ。すぐにも、偽物でも立てて無条件降伏を発表させるだろう。別に、本物が生きている必要もない。騎士たちからは、苦笑が漏れた。厳しい容貌の騎士ばかりが揃っている。歳のいった騎士で構成されている上層部に、ロシナのような若い騎士というのは場違いのように思えて仕方がない。
日本の首相が、何か言おうとしたが。そのまま両脇にいた騎士が引きずっていく。
「で。ここで、あっているかな。ま、違ったら違ったで面倒だ」
「は。テレビ、でしたか。それが復旧次第、声明を発表させます。本格的な捜索は、それからですな」
「うんうん。各自、のんびりしていてよいぞ。私は、ロシナから話を聞くから」
騎士たちが、玉座の間を後にする。残ったのは、ヒロとロシナだけだ。アルーシュは、頬杖をついて話しかけてくる。
「どう思う」
「ここにいるか。ということですか」
「そうだ」
ユークリウッドが日本にいる可能性は、限りなく高い。しかし、捜索するのに自衛隊だけでも少なくない人間を殺している。1人殺せば、100人殺しても同じか。いや、戦争だから殺していいという訳でもない。ロシナは、日本人を手にかけているのにびびっているのだ。仇をきっと討ちにくる人間がいるだろう。それを考えれば、気が重い。
「どうやって、見つけるんですか」
「それが、問題なんだ。魔力探知機を各所に設置して、包囲網を作るか。それとも、セリアに任せてみるか」
「それは」
嫌な予感がする。セリアにやらせたら、大破壊をやりそうだ。彼女の機体は、根こそぎ食うとか分身するとか大味な攻撃が持ち味。捜索も、片っ端から殴って聞くとかやりそうである。ことほど、彼女は暴力的な少女なのだ。できる事なら、日本の警察に捜索をやらせたい。ロシナは、アルーシュの意見に反対することにした。
「やめたほうがいいかと」
「何故だ。理由を言ってみろ」
「セリアが暴れたら、日本がぼろぼろになりかねません。漫画、読めなくなりますよ」
「それは、困る。じゃあ、どうすればいい」
聞かれても困る。
「すぐすぐには、事も運びませんよ。まずは、日本の設備が復旧するまで待ちましょう。警察を使った方がいいです。彼らは、優秀ですよ。あと。国会議員を拘束しているようですが、どうするのですか」
「あいつらか。全員、死刑だな」
「そんな乱暴な」
「給料分、仕事をしていないではないか」
「戦うのが、議員の仕事じゃないですよ」
そこで、黙っていたヒロが割って入る。
「彼らは、なぜ剣を取って戦わない? 国に仕えているのだろう」
「いや、だからですね。議員というのは、法律を作ったりする官僚貴族のような存在でして。剣を持って戦うのは自衛隊という専門家です」
「訳がわからないな。国あっての貴族ではないのか? それとも、彼らは領地があって謀反でも企んでいるのかね」
段々、頭が痛くなってきた。アルーシュはまだいい。が、ヒロや他の騎士たちには訳がわからないのかもしれない。ケンイチロウを呼べればいいのだが、あいにくと彼はアルトリウスについて西欧に攻撃をしているはずで。この場には、いない。ケンイチロウは、日本人の転移者で力のある騎士だ。ロシナと同様にミッドガルドに仕えている。
説明していると、時間があっという間に経ってしまう。
「ふむ。なんとなくわかった。ような。しかし、彼らには誇りというのはないのか」
「誇りで勝てるなら、そうするでしょう。こんな飛んでる城に攻撃してこれるならですが」
「日本は、漫画の産地なのだろう? 巨人の1つや2つ持っていないのか」
「あるなら、出してくるんじゃないですか。実際には、戦闘機でしょうけど」
「空飛ぶ棺桶か」
酷いいいようだ。しかし、ファンタジーではあるまいし現実的な機械だと空を飛ぶのは戦闘機が一番に上がる。アルーシュの浮遊城シュバルツゴルトに接近できる戦闘機などいないけれど。大体、光学兵器で迎撃されてしまう。電磁波攻撃も意味がないので、墜落することもない。動力源は、フォトンドライブ。それでもって、どうやって浮かせているのかわからない。そう、魔術という代物だ。
戦闘機が、城に近づいても棺桶になるだけだ。
「棺桶は、否定できないですが。アルーシュ様は、外に出ないでくださいよ。何かあったら、城が墜落してしまうんで」
「じゃあ、さっさと探せ。でないと、ヒロを倒してでも探しにいくからな」
「姫様」
ヒロが渋い顔をロシナに向ける。無茶苦茶だ。元から無茶苦茶だが、浮遊城が陥落してしまう。アルーシュは冗談のようにいうが、冗談では済まされない。帰る手段を失って、異世界を彷徨う羽目になる。アルーシュを縛り付けてでも、外に出してはならない。他の騎士たちにも話をしておくべきだ。捜索するのは、ロシナくらいにしておいた方が無難だと思っていたが。アルーシュは気が短い。
婚約を破棄させて、それから婚約するという。強引な手段でユークリウッドと結婚しようとして、逃げられている。だからか、アルーシュは自ら動こうというのか。ここで、婚約を破棄してまた変えようという人間でもない。ユークリウッドに捨てられたなどとなれば、王族の沽券に関わろうというもの。という訳で異世界の日本を捜索するなどという事態になっている。
ロシナは、帰りたい。さっさとすませて。
「俺の意見なんですが」
「なんだ?」
「やっぱ、いきなり達磨にしてやるとか。びびっちゃいますよ。あと、婚約発表したのも不味いです」
「うー。それは、反省している」
「でしたら、撤回しては?」
「そんな事はできない。一度言い出したことを反故にしていたら、信用が無くなってしまうではないか。それで、信じる人間がどれくらいいるのだ」
婚約者をころころ替えたりしたら、ただのビッチだ。王族ともなると、よくよく考えなければならない。というか、それで信じる人間がいたらもうそれは人間なのだろうか。信じないだろう。少なくともロシナは、ビッチが嫌いだ。ころころと婚約者を変えるような王族など上に仰ぎたくもない。
「いませんね」
「だろ。当面は、探してから話をするという事でいく。時間はたっぷりあるのだ。私としては、急がないがな。臣下たちは、急な出張だし元の世界においてきた妻子の事もあるだろう。だから、そうだな一ヶ月以内に探しだそう。見つからない時は、また来ればいい。アルルかアルトリウスは戻す必要があるし、浮遊城を3つも持ってきたのはやり過ぎた」
「はっ」
過剰だ。浮遊城1つで、地上を制圧するのも容易いロボットが200以上あるのだ。ロシナのロートヴァントだけでも破壊だけなら、可能である。地上を滅茶苦茶に破壊しなくとも、海上を運行している船を狙撃するだけで脅威だろう。日本に入る石油タンカーなり資源を輸送する船を破壊しているだけで、干上がる。
資源が入ってこないだけでも、日本のような資源弱国は終わりだ。大量虐殺をやっていないとはいえ、日本人を殺している。それが、ロシナの心を揺さぶっていた。いいのか。いいのか。と。ミッドガルドに転生して、王国に忠義を誓っているとはいえーーー
「どうした。日本人を殺すのが、苦になっているのか」
「はっ。そう、です」
「そうか。代わりの騎士を出そう」
「いえ。自分がやります」
「いいのか? その手で日本人を殺すのは、気が引けるのだろ。代わってもらえ。かまわんよ。裏切るとは、思っていない」
「やらせてください。俺が、やります」
「ふむ。限界だと思ったら、すぐにいう事だ。おかしくなられても困るからな」
アルーシュは、心でも読んだかのような事をいう。実際に、読めるのかもしれない。ヒロは、というと剣呑な輝きが瞳に浮かんでいる。裏切り者を見るような、そんな目だ。元が日本人の転生者という事を知る者は少ないが、それでも知っている者は危惧するだろう。ロシナのロートヴァントが敵に回れば、恐ろしい性能だという事を知るからこそ。
ロシナは、ミッドガルドに忠義を誓っていなければならない。不穏当な素振りを見せても、親兄弟に火の粉が飛んでしまう。ユークリウッドと違い、ロシナには守るべき物が沢山あるのだ。領地も部下も友達も捨てて、異世界に逃げ出すなんてことはできはしない。
「それでは、俺は寝る。何かあれば、知らせろ。見つけたら、よくよく考えて行動するように」
「はっ」
アルーシュは、あくびを盛大にして奥に引っ込んだ。魔力が切れかかっているのかもしれない。ユークリウッドがいなくては、その補給が大変だ。元の世界の修復と魔力の循環に、彼がどうしても必要だというのはわかる。他の人間にも知らせてもいいのだが、頑なに拒むのはどうしてか。ヒロは、アルーシュが完全に引っ込むまで奥の方を見ていたが振り返ると。
「あの話を知っているか」
「どの話ですか」
「ユークリウッドが、見つかればアルーシュ姫と入れ替わるという話だ」
「本気でしょう。それしか手がないですし」
入れ替わるかどうかは、不明だ。が、アルーシュが姫になるとそれはそれで困った事になる。他の2人も女なのだから。ちなみに、もっと困った事がある。その2人も本気だから、国が3分に割れるとかそんな風になってしまう。ロシナとしては、ユークリウッドは女のまま輿入れするとかいうのが望ましい。
が、彼の身になるとそれはどうなのか。己の身に置き換えれば、女装なんてしたくない。
「にしても、他の貴族たちが納得するのか。エッフェンバッハ公にキルギスタン公が五月蝿いぞ。特に、ソル様を擁するエッフェンバッハ公は、マリアベール様の義父だ。マリアベール様が継承を降りたから、アル様が王位を継ぐという事になっているが。事が公になれば、大変な事になる」
「血の雨が降りそうですねえ」
と、ヒロは危惧するがロシナは戦いになっても一向に構わない。セリアと戦うより、ずっとマシだ。アルーシュとセリアが切ってきれない関係で、ルナとセリアも切れない関係だとしても。セリアがユークリウッドを捨てるだろうか。どちらを捨てるかといえば、ルナとアルーシュを捨てそうだ。女よりも男を取るだろう。と、ルナとアルーシュは争っても、ユークリウッドと2人が争うかといえばそうはならないはず。
複雑だ。
「ユークリウッドは、なんだ。そのテレビとやらで、放送すれば出てくるのかね」
「どうでしょうねえ。達磨にするとか言ってましたしねえ」
アルーシュがユークリウッドに言っていたらしい。四肢をもぎ取るのが、達磨だ。なりたくはない。
黒髪の将軍は、天井を見た。
「そうだな。そう考えると、忍者を放ったりしたのも不味かったな」
「アルーシュ様は、間違った選択肢を連打する時がありますから」
ヒロは、目をつむると玉座の間から出ようとする。あわてて、背を追う。
「俺は、戦争が嫌いじゃない」
「知ってます」
「ただ、その理由が男1人を追いかけてするというのが、な」
「お気持ち、わかります」
「あと、相手が弱すぎて戦う気になれん。雑魚を蹂躙しているだけじゃないか」
「それは、しょうがないですよ」
「まだ、オーガロードかゴブリンキングを探しに行った方がマシだ」
すごく、小さい理由なのだ。これで、蹂躙されるのもそうはないのではないのか。男を探して、戦争をするというのも。理由がしょぼすぎて他の騎士には、詳細を語る事が難しい。現に、出た所で廊下の先に年配の将軍が立っている。黒騎士団の団長はヒロだ。待っていたであろう黄金騎士団の団長は気むずかしい。
戦争の理由が気になるのか。黄金騎士団の団長の口元はへの字を作っていた。