0.?話 異世界からの侵略者たち2 (アルーシュ、ヒロ、ロシナ)
ミッドガルドの王城。そこにはアルーシュの宮殿がある。宮殿の玉座に座ったまま、ロシナに問う。
「なぜ、見つからんのだ」
「はあ。それがわかれば、苦労しませんよ」
使えない配下だ。ミッドガルドをくまなく探させて、草の根をかき分けるように探しているというのに。それで、探知系の神術にもかからない。おかしい。どこかにいるにしても、魔力を吸い取る事ができるはずなのに。それが出来ないとなれば、一大事だ。無理やりレイプしておくべきだったか。
アルーシュも女なので、無理やりレイプというのは気が引けた。達磨にしてやるといったのは、失敗だった。
それで、この有り様とは。人質をとって、どうこうしようにもユークリウッドの家族は死んでいる。彼の妹であるシャルロッテと入れ替わりにしてしまおうというのも無茶だった。
この世のどこにもいない。となれば、縁のある冥界か竜界にでも逃げたのか。であるならば、ヘルかDDが小躍りして攻め込んできそうな物である。彼らに、慈悲はない。人間死すべしなのだから。大侵攻が起きていないということは、即ち別の場所なのであろう。
「日本。日本か。交渉は、進まん。戦争だ」
「は? まさか」
「そのまさかだ。ロシナ、さっそく攻めこむぞ。セリアを呼べ、奴の力が必要だ」
「仰せのままに」
ロシナは、大急ぎでかけ出した。ヴァルハラ城にある宮殿。その玉座の間から、浮遊城へ転移する。多数の飛空艇と巨人を搭載する侵略兵器を作ったのは、日本人だ。有翼人の技術を学習した彼らの手で整備される。運用するのは、ミッドガルド人。魔力を持たない日本人たちでも転生者と転移者とでは、大分違う。
転移者、即ち日本で何がしかに巻き込まれて移動してきた日本人。こちらは、殆ど魔力がない。あっても、それを伸ばす事ができない。神様にスキルや魔力を与えられてミッドガルドに来る人間もいるが、稀だ。
転生者、こちらは幼少時より魔力を鍛えているパターンが多い。魔力の大きさは、根性に比例するといってもいいだろう。固有スキルを持っていたり、有用な人間が多い。
日本人の使い勝手は、素晴らしくよい。大抵の日本人がモラルを持っているためだ。これが、獣人やミッドガルド外の人間となると殺人も忌避感なくやってしまう。ころころと裏切りを働いたり、寝返ったりする事が多くて使えない。ユークリウッドに言われるまで、黒髪黒目の日本人が迫害されているのに放置しているのがまずかった。
帝国に多数の日本人が流出した結果、巨人を作る技術では拮抗している有り様だ。15m級の巨大なゴーレムといっていいそれと5mクラスの小型版まで作る帝国の力は日に日に増している。目障りな事この上ない。せっかくアルカディアとブリタニアを併合して、世界制覇に向けて動きだそうというのに。ユークリウッドが逃げ出すとは。
「準備が整いました。いつでも発進できます」
「うむ。アルルとアルトリウスの方は北米と北欧でいいのだな?」
「そのように承っています。アルル様の方にはシグルス殿とセリア殿がついておられるので、問題ないかと」
「そうか。では、参ろうか。もっとも近い世界から、当たるとしよう」
「はっ」
兵は神速を尊ぶ。
世界は、広い。が、探せばアルーシュにとって訳なく探せるのだ。それで見つからないのだから、異世界でも攻め込むしかないだろう。宣戦布告から、およそ2日もあれば日本を攻略できるだろう。1年も2年も悠長に戦争しているなど、阿呆だ。人口の差が、戦力の決定的な手にならない事を教えてやる必要がある。
そして、結局のところやはりそうだった。移動した世界では、ユークリウッドの魔力をかすかに感知できた。しかし、術者を検索しても名前が出てこない。名前を変えている可能性がある。宣戦布告と同時に攻撃を開始した。が、降伏する気はないようだ。東京上空に陣取って、敵の戦力を壊滅させる事を優先した。
民間人を虐殺することは、絶対に許されない。ユークリウッドを怒らせて、喧嘩になってしまう。下手をすると、そのまま巨人で戦争になるかもしれないのだ。なので、極力軍事力を叩き国会議員と日本国の首相を押さえる事が肝要。
ロシナが出撃した後、すぐに核攻撃がやってくる。予想どおり。迎撃に成功すると、電磁波が撒き散らされていく。ため息が漏れた。自分たちの首がしまるではないか。自爆とは、これ如何に。
「核兵器を使うとは、何を考えている?」
「恐れながら、こちらを落とすにはそれくらいしか連中にはないのでは。威力だけならば、一撃で済みますからな」
玉座の隣に控えるヒロは、事も無げにいう。が、民衆の生活だとかそういうのを無視した攻撃だ。出撃したロシナの攻撃が苛烈さを増した。同時に、北米ではセリアのシュバルツシュヴェーアトが出ている。ロシナのロートヴァントは、高機動型で高火力。セリアのには劣るが、それでも広範囲をカバーする光学兵器は脅威だ。バリアまでも使えて、隙が見当たらない。
自衛隊は、抵抗する間もなく白旗を上げるだろう。彼らの使う、銃だとかミサイルだとか迫撃砲だとかそういう攻撃が通用しない相手だ。浮遊城を国会議事堂の真上まで移動させると、攻略を済ませたロシナの帰りを待つ。地上は、大混乱だろう。自分たちの友好国、或いは敵対国かもしれないが核をつかったのだ。その余波で、文明が滅んでしまうとは。予想もしていなかったに違いない。
予定では、首相を押さえて国会議員を捕縛して中枢を押さえる。民間人に手を出す事など、あり得ない。万が一にでも、ロシナが出すとは考えにくい。アルーシュ自身もよく見るアニメや映画では、ロボットを使う月に住む宇宙人や火星人やらが虐殺を行うだとかあるが。何も考えてはいないのではないか。アルーシュは、神族だ。だからといって、地球人が憎いとかそういう事はない。
後々を考えれば、むしろ占領にも気を使う必要がある。例えば、工場を間違って攻撃したりだとか。そうした場合、日本の経済が死んでしまう。アニメが見れなくなってしまう。ゲームができなくなってしまう。アルーシュの兵は少ない。が、別に人口差を埋めなければならないだとかそういう必要性にはまったく至らない。
質量兵器を地表に落としまくって、人類を殲滅しようだとか。馬鹿馬鹿しい限りだ。そんな必要は、全くない。なぜか。それは、ちょっと食料を全世界に供給している穀倉地帯をセリアが焼けばどうなるのか。
或いは、海上をちょっとロシナに封鎖させてみればどうなるのか。日本に石油が全く入ってこない状態になればどうなるのか。食料が入ってこなくなればどうなるのか。
車は使えなくなるだろう。食料を巡って、地球人同士で争いだすのは必然だ。それとも、日本人だけはちゃんと列にならんで配給を待ったりするかもしれない。日本人だけは、他人と争わずに餓死する人間が続出するかもしれない。
漫画が読めなくなるのは、嫌だ。なので、この世界でも保護する必要がある。愛読している漫画が、明日から連載を中止するなんて言われたらショックである。
とはいえ、ユークリウッドにはそれらを無視するだけの要素が詰まっている。他に、替えが効かない。椅子の背もたれに首を預けると。柔らかな感触に満足感を得た。これも、とある日本人が作ったという椅子だ。ミッドガルドにも椅子職人はいるが、以前の硬い玉座に比べると雲泥の差がある。つい先ほど行われた核攻撃に、腹が立つ。
民衆の生活をなんだと思っているのか。説教をしなければならないだろう。アルーシュは、ユークリウッドの魔力を探すが、やはりわずかにしか感知できない。相当、巧妙に化けているようだ。日本にいる事は間違いない。元が日本人だというのだから、日本に帰るのが自然という事か。日本人は、同化するか帰るかだ。大抵の日本人は、現地に溶け込めずに悩むらしい。
ぽよよんとした人形の半分目を開けたぬいぐるみを叩いた。下手くそなぬいぐるみだ。ユークリウッドが昔、作ってくれたのだ。ちょっと汚いが、大事にしている。
「連中、自分たちで衛星を破壊したようですぞ」
「残っている軍事衛星を壊せ。そっちのは壊して、構わん」
また、頭が痛くなってきた。ヒロは、冷静に指示を出している。浮遊城には、巨人が200以上格納されていて転移も可能だ。ロシナのサポートもやろうと思えばできるが、過剰な戦力を出してどうするのか。
手間だ。
相手がさっさと白旗を上げてくれればよいのだが。降下していく突撃部隊を指揮するのは、ヒロだ。暗黒騎士団の精鋭は、警備部隊を容赦なく血祭りにあげている。
銃弾の効かない事に、呆然と立ちすくんでいる。王国の剣を発動するまでもなかった。衛星放送が見れなくなる。そっちの方が、心に影を落とす。衛星放送が見れなくなって、天気予報も見れなくなる。生活に重大な影響がでるだろう。そして、GPSやら先端技術が意味をなさなくなる。というような事の方が気になっていた。
勝つのは、当たり前だ。魔力やスキルなどという埒外のものを使う人間とそうでない人間とが争えば、どうなるのか。子供でもわかる事である。やがて、突入した騎士たちが国会議員を取り押さえている映像が映し出される。国会は、警察が包囲している格好だ。突入しようというのか。ロシナの機体が、どんっと屹立している。無理だろう。
「のう、ヒロよ」
「はっ、なんでございましょうか」
「もしかして、地球人というのは馬鹿ばかりなのか?」
「けっして、そのような事は。ただ、こちらの武力が圧倒的過ぎるのではないでしょうか。巨人の能力は、この世界では桁が違う武力ですからな。連中の使う鉛玉など、ゴブリンが投げる投石に劣りやもしれませんぞ」
「ふうむ」
ロシナとの戦闘を見る限り、馬鹿ではないようだ。的確に、弱点を探り試行錯誤する。しかし、ロシナも案山子ではない。なので、バリアの穴が光学兵器を使う際に発生しているのを掴まれているのを逆手にとる。というような真似もやっている。戦いは、一方的であった。自衛隊の使う戦闘機など、ミサイルを搭載しているようだ。が、射程が違い過ぎた。
ロシナは、見敵必殺である。容赦なく、翼を破壊するとパイロットは脱出するしかなかった。いくらなんでも、戦闘機から脱出するパイロットを焼いたりするのは騎士道に反する。
やっていいことと悪い事がある。
そのような真似をしては、騎士失格。戦車は、砲塔を潰そうとすると本体まで焼いてしまうようだ。手加減できないのは、つらいところだろう。砲塔を手でもぎ取ってしまうのは、舐めすぎか。
日本国の首相を取り押さえると、やることは決まっている。無条件全面降伏以外には、ない。日本人は思い知るだろう。憲法が守ってくれるだとか。意味がわからない事ばかりを言っているバカさ加減を。侵略されても、そう思えるというのならしょうがない。交渉しても、子供の戯言だといって信じようとしないのだから。
アルーシュは、この世界にやってきた。
「ん。…おい」
「はっ。何か。不手際がございましたでしょうか」
「今、思ったんだが。テレビが使えないんじゃないか…?」
「そうでございますね。科学とやらを使うのは、無理でございましょう」
「はっはっは。ふざけんなよっ」
本当に、ふざけるな。だ。テレビが使えないとか。あり得ないだろう。浮遊城では、そういった機材に関する防御も完璧だ。いや、そもそも浮遊城自体が科学というよりも魔導科学という訳がわからない代物で浮いているのだから言ってもしょうがないのか。日本のテレビが見られない。お茶の間が楽しみだったのに。
ロボットアニメも見られなくなる。いや、それもあるが政権が交代したとか無条件降伏したとかそういった。動きを日本の国民に伝えられなくなる。今日、明日にも世界はミッドガルドに降伏しただとか。一体、どうしてくれるのか。ユークリウッドを見つけて、連れ帰る。それだけなのだ。別に、虐殺して植民地にしようだとかそういう考えはない。
半導体関係が使えなくなると、日本の国民の生活は、酷いものになるだろう。電車は動かないし、バスも動かない。船も動かせなければ、食料を生産する器具や機材も動かなくなる。世界は、暗黒面へとまっしぐらだ。対策をしているところはなんとかなるだろうが。ユークリウッドが、早急に見つかればよいが。それで、怒られるかもしれない。
別に、アルーシュが核攻撃をした訳ではないのだから開きなおるしかないけれど。美味しい食べ物が食べれなくなる。色々な店を回って行くつもりだったのに、核攻撃のせいですべてがおじゃんだ。それを指示した機関、個人、国。絶対に許しておけない。徹底的に、核を持つ国を叩くべきだろう。
核兵器を発射した国には、慈悲はない。アニメ、漫画、食べ物、アルーシュの楽しみをぶち壊しにした。とりもなおさず、間抜けな面をした日本の首相を張り倒す。最初は、グーだ。