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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
146/709

0.?話 外伝だから侵略者に 挿絵有り●(ユーウ、アルーシュ、与作丸、シルバーナ)三人称

挿絵(By みてみん)

 深い森の中で、少年は向き合う。

 しとしとと、雨が降っていた。やがて、相対する少年に見える少女が口を開いた。


「付き合ってくれ」

「駄目ですよ」


 言っているのは、金髪の少女。言葉を受け止めているのは、金髪の少年だ。

 男装する少女言われた方のユークリウッドことユーウにとって、ホモに見られるので勘弁だった。薄暗い森の中で言うべき言葉ではない。

 彼女はいないけれども、好きな人はいるのだ。どうやって断ろうか。

 と、悩むのだが―――

 

「好きなんだ」

「はは。またまた、ご冗談を」


 そんなことはお構いなし。

 告白している相手が悪い。王族であり王太子として王位を継ぐ事が確定している王子なのだ。

 神術を解いた中身は、女で違うけれども。見た目は金髪の孺子といった風の少年である。

 あまりにも距離が近いので、ホモではないか。という風な目で見られている。

 陰で付いたあだ名はホモ王子。不敬で捕まってもおかしくないような代物である。

 そんな彼女が。見せかけだらけ、嘘だらけ、傲岸不遜を地でいく。

 普段とは、うって変わって情熱的というべきか。絶叫するように。


「愛してるッ!」

「嘘でしょう?」

「どうして信じてくれないんだッ!」


 相対する少年の髪は、金。長いもみあげが特徴的だ。

 兜も鎧も金色だが、にじみ出ている闘気(オーラ)はどす黒い。


「あのー、アル様。僕は、ちょっと用事があるんで。失礼します」

「ユーウ。待てってッ!」


 地団太を踏む少年アル。

 ふるふると少年は、手を震わせる。そして、取り出したのは、金色に輝くの刀身を持つ剣。

 名をティルフィング。持つ者に勝利を約束するという剣だ。

 妹が持つのはエクスカリバー。

 もっとも、妹は妹で姉だという。気が短いのは、性分なのか。

 手にした剣をじっと見つめてから、目を瞑る。

 そこで、黄金の鎧を着た少年は意を決した様子である。

 抜き放つ様を見て。本気だと。


「本気ですか?」


 彼女らしくもない素振りに、ユーウも慌てる。


「ああ。真剣と書いてマジと読む。その通り。お前を達磨にして、可愛がってやる」

「もしかして、セリアに命じたのは」

「本気も本気だ。今日、この日ここからお前を私の物にするとしよう」

「ちょ……」


 アルと呼ばれた少年は、正眼の構えを取る。そして、必殺の立ち位置だ。

 ユーウが動けば、そこで真っ二つに成るに違いない程。

 然るに、ユーウも魔術師である。至近距離が苦手なのが魔術師というのが一般的な通念なのだが。


「せああっ」


 仕掛けたのはアル。手に持った剣を下段からすくい上げるようにしてユーウの腕を飛ばそうとする。

 が、


「ふっ」


 ローブの袖からは杖が現れる。がっという音を立てて、アルの持った剣を弾き返す。

 返しながら、アルの動きを縛らんと土を動かす魔術を発動。

 

「アースバインドかッ!」


 さらには、覆わんとする土の壁。隆起する土がアルを覆う。

 それを、


「せいっ」

「ちょっと話を……」

「問答無用だッ!」


 斬撃の筋が壁に入り、一瞬で無効化される。ユーウとしては、相手を殺す訳にはいかないのだ。

 なんとかして、無力化して話をしなければならない。

 だというのに。

 アルの身体からにじみ出る黒い闘気は、物理的な攻撃力を持つ。

 それを伸ばしての打撃と斬撃は、躱す事も許さない。

 魔術による不可視な魔術障壁がなければ、とっくに挽肉か達磨になっていた事だろう。


 上級魔術程度では、アルを止める事は不可能。

 もっと上の最上級。或いは特級魔術が必要だ。属性的には、アルが闇。

 安全を期すならば、神威級魔術が必要になる。けれども、そんな隙があるのか。

 眼前の相手に、それは無い。ならば、 


「我に力をッ! 光よッ!」


 杖を手に加速と光系統の魔術を連続で発動させる。とはいえ、相対しているだけでアルに魔力を削りとられていくのである。大変よろしくない事態であった。

 斬り合う事、数合。アルは、スキルで以って相手を圧倒するのが身上だ。

 だというのに。


 歩み寄っての一閃。二閃。

 アルもスキルを封じて、やりあうしかない。相手を殺す訳にいかないのは、互いに都合が有る為。

 身体の位置を変えながら、互いの手足を飛ばさんとする。

 今一、本気なのかわからない。なぜなら、対するアルの手は震えている。

 今も尚、迷っているのが見て取れた。本当に、やってしまっていいのか。というような躊躇い。

 そんな風である。


「何で、いきなりこんな事を言いだすんですか」

「愛、故に」

「またまた、あ」


 顔には、大粒の涙が浮かんでいる。泣きながら斬りかかってくるのだ。

 困惑しながら受け流し、立ち位置をまた変える。


「私は、本気だッ!」

「僕には、好きな人がいるんです」

「わかっているとも。だから、今日まで先延ばしになってきたッ」


 横薙ぎの剣。そして、反対側からも黒い腕が迫る。

 ユーウは、後ろに飛び上りながら動揺に光の腕を形成する。

 縛る手(マジックハンド)と呼ばれる魔術に類するそれであった。


「いきなり言われても、困ります」

「ふっ。どうせ、聞こえてないとかなんだろ」

「えっ」


 両の手で、伸ばすそれをアルが斬り払う。


「そんなだから、私は、私たちは困るんだよッ」

「ええっ?」

「お前のそれだ。安心しろ、私が手ずから修正してやるよ」


 唇の端を釣り上げたアルは、闇色の弾を投げる。常人が当たれば即死するであろう代物だ。

 そこから、一気に間合いを詰めてくる。

 杖で、受け止める度に鈍い光を放つ。ノリに乗っていると言うべきか。

 常日頃の彼女からしても、速いのだが―――


「・・・(迷ってますね)」 


 普通の魔術師であれば、これでも十分膾にする事も可能なレベル。

 とはいえ、己もまた同様に研鑽した身。

 接近戦が不得意という訳ではない。


 杖で斬り合いを演じながら、アルを気絶させるか説得するかで迷っている。

 前者であれば、さらに事態が混迷する可能性もある。

 己は、ただ薬草にプレゼントに。そんな物を用意しにやってきただけというのだ。

 こんな事になるなど、神ならぬ身で誰が想像しえようか。

 

(レアな角なし兎が見つかったというのを聞いてきただけなのになあ。どうしてこんな事に)


 剣舞だけで、数十合。互いに、腕の程を知り尽くしている為に決着がつかない。

 アルの手は、「流れ」に「樹槍乱れ撃ち」「暗黒剣黒茨」

 更には、アブソープ。どれもこれも見知った技で、容易くしのげる。

 持っているのは、只のワンド。愛用して、長い事使っている。

 がつっと黄金の刀身がそれに食い込む。その度に、折られないかという心配が襲ってくる。


 と、苛立たしげなアルは手を併せて呪印を組む。

 「樹神降誕」に違いない。


「樹神降誕。これをしのげるか? ユーウ。見事、世界(わたし)を倒してみせろ」


 もこもこと樹がアルの身体を覆っていく。世界と繋がるそれ。

 それを使われては、多少の本気を出さざるえない。

 諫言もしておく。


「そんな物を使いだして……マリア様に叱られますよ?」

「うっ。煩い。それだけ本気だという事だっ」


 姉の事は、効いているようだ。

 とはいえ―――アルの使ったスキルは、生半なものではない。世界である樹と、己を結びつけるものだ。

 従って、因果律の改変などもお手のモノなのだが。

 ユーウも負けてはいられない。鎧に変化する。そのままロボットという風だ。

 中には、がらんどうな空間がある鎧であった。

 互いに五メートル程度の大きさである。が、


「せあっ」


 轟っという音を立てて、アルの変化した巨体が倒れる。

 殴りかかった処に、カウンター気味のパンチ決まり、その上前蹴りまで貰った為だ。

 彼女の皮は、無敵の性能である。そして、だからといってやりようが無い訳でもない。

 つまり、同じ事をした場合、だ。


「くそっ。汚いぞ」


 言うに事を欠いて、それをいう。短い時間ではあるが、何でも出来るようになる術を使っているというのに。そんなアルを捕まえてヘッドロックの体勢をとる。「樹神降誕」大した名前を持っているのだが、反面使い込んでいない為に本当の性能を引き出せていない。まあ、出したとしても。己にとってはいなせる範囲である。

 

 大体の相手が、変化して一秒持たないのも悪い。従って、こうなると。


「ぐああ。放せ」

「うりうり。どうしました?」

「うっううー」

 

 「樹神降誕」も解けて、ユーウも「鎧化」を解く。

 アルが、泣き出してしまった。ユーウは、ばっと離れるのだが。

 憎しげな瞳に涙を湛えて、立ち上がる。

 そこに、


「ほら、いわんこっちゃねえ」


 不意をつく声が振りかかる。




「ぐすっ、お前たち。どこで、道草を食っていた?」

「遅くなったぜ」

「お待たせっ……まあ、こうなるんじゃないかって心配した通りじゃないのさ」

 

 鼻紙を渡す女は、シルバーナ。口笛を吹く忍者服を着た男は、与作丸。

 二人組の男女で手練れだ。共に見知った顔である。


「うっせえ、シルバーナ。お前も両方供に、もうちっと説得しておけよ」

「へいへい。で、与作丸はどうすんのさ」


 死地だ。アルだけでも五分という名の苦戦を強いられているのに、忍者と盗賊が現れた。

 

「手伝うしかねえだろ」

「だよねー」

「君たち本気?」

「まあ、手足の一本二本無くなっても大丈夫だろ」


 ユーウは、確認するようにつぶやく。本気なのか、と。だが、それが仇になった。

 回り込む二人に後方をとられ、三方を囲まれる恰好。一足飛びに、斬りかかられる位置だ。


「もう一度いう。クリスの事は諦めて、私と付き合え」

「えっと。何で、知っているんですか」

「シルバーナが言っていたぞ」


 背後から迫る少女が、


「ごめんよ。あたしゃ、黙っておくつもりだったんだけどさ。ついねえ」


 ぽろっと漏らしたとでもいうつもりなのか。そんな事はない。

 まちがいなく嘘だ。断定できる程、ユーウとシルバーナは因縁がある。

 大元の火はシルバーナ出会った事が疑いない程に。このシルバーナが言い寄ってきた時にも、なんとかして断った訳である。そうしたせいか。


「観念しろや、ユー。いいじゃねえか、女装王妃。妾作り放題だぜ?」

「やだよ」

「一穴主義かよ。今時、流行らねえぜ。んー。片腕と片足ですませてやっからよ。シルバーナ、俺は右だ」

「あいよ」

 

 ブラフか。そうでなくても、死地だ。と、同時に。

 与作丸は、煙玉を投げつける。そこで、


「おい?」


 困惑するアルを他所に二人が突っ込んでくる。土人形を作り出しながら、アルの剣を受け止めようとするのだが―――

 アルが差し込こんだ剣は、

 

「あっ。あああ、あ」


 右の胸を確実に貫いている。


「うっ、ぐっ」


 刺した方が、顔面を押さえてぼろぼろと涙を零している。好機であった。

 逃げるには、ここしかない。

 土人形に取り込まれて倒れている忍者やシルバーナを他所に。剣を引き抜くと。

 煙をに紛れてゲートを使用して転移した。

 胸からは、呪詛が流れ込む。只の呪詛では、無いようだ。剣に込められた代物が、何であるのか。

 想像もつかないのであるが。

 

 ユーウには、どうしてこうなったのか。どうしてこうなるのかわからない。

 彼もとい彼女はいじめっ子で、己はいじめられっ子だった。常にパシリに使われているような。そんな関係である。全力で、逃げざる得ないだろう。

 だが、この追跡を逃れるには…禁術にでも手を出す以外に方法が見えない。

 運命を変えるには。


 どうしても、叶えたい望みがある。


 その為に、王子に頭を垂れてきた。

 復讐を遂げて、是が非でも叶えなければならない。

 

 ユークリウッドことユーウは転生者だ。

 最初から、前世の記憶があるというのではなかったが。

 物心が付いたときに、はたと思い出した。

 だが、その時点でもう詰みであった。


 そう、乞食だった。妹の手を引いて、あてども無くあるく。

 絶対に叶える。それは。

 たった一人の妹を蘇らせるのだ。

 不可能だと言われても、どうしても叶えたい。

 是が非でも。神を倒してでも。


「お兄ちゃん、お腹が空いたよう」


 何もできなかった。


「ああ」


 と。一緒に寝ていた。

 何でもやって、何でもこなして、なんとしてでも。

 この想いだけは、誰にもわかりはしない。


「…(こんなところで、倒れる訳にはっ。絶対にいかないんだよ!)」


 誰であろうと、倒して叶える。

挿絵(By みてみん)

「ん? 自己紹介をしろ? 出直してこい下郎」

「ま、まあなんだ。ゆっくりしていってもいいぞ」

「いや、ずっと居てもかまわん」

「中の人がころころ変わるがな! ゆっくりしていくがよい」


▷ 留まる

  引きずり込まれる

  気絶する

  死んだふり

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