132話 ゴブリン討伐その後
「はむ。美味い。はむ、美味いなこれ」
「あらあら、ユミカさんまで食意地が悪くなってますよ」
「いや、これ何でかわからないのですが。食欲がとまりませんっ」
ぱちぱちと焚火で木が弾ける音がし、そこかしこでは冒険者たちの勝ち鬨を上げる声がしている。折しも夕暮れ時に差し掛かっていた。つるべのように落ちる宵闇が、その色を濃くしている。
ユウタは、夕暮れ時をオークの肉を切り取って魔力で加工した焼肉パーティーで過ごしているのだが。
誰も寄ってこようとはしない。小首をかしげていると、厳めしい装備に身を包んだ集団が前線から戻って来る。
白髪をオールバックにまとめた壮年の男は誰であろうか。ユウタは、ドスである事に気が付いた。
「む。ユウタくんじゃないか。そんな所で、どうしたんだ?」
「いえ、肉を焼いて夕食をとっている所ですが」
「ふうむ。そうか、それじゃあな。どうやらお嬢さん方の邪魔をしているようだ。また、暇がある時に話をしよう」
あっと言いかけてユウタは思い止まる。傍にいる狼少女の尻尾がピンと逆立っていた。
ユウタはもっと話をしたかったのであるが、それを許さない周り。周囲に血走った眼を向けるのだ。誰も近寄ろうとしないのもそうした訳があった。肉を焼く人。それに成りきったユウタに後戻りをする道はない。只の鉄板の上でじゅうじゅうと肉が焼ける音とぎゃあぎゃあと騒がしい奴隷たち。
―――どうしてこうなったんだ。
とは言えないユウタは肉を裏返す。ひょいと黄色いヒヨコのくちばしに肉を運んでやると、豚肉もいけるようである。流石に蜥蜴の肉を焼いて出すのは躊躇われた。オークの奴隷なんて取らないので、豚肉は最適である。
去って行ったドスたちは、多数の冒険者を引き攣れていた。レイドパーティーに違いない。それの為に結成された討伐を目的とした集団には、出足から負けていたという事だ。ユウタが見つめるその後ろ姿は、最早英雄と言っていいだろう。ユウタは悔しくもあるが、同じ冒険者として彼の成功を祝うつもりである。ユウタが周りを見れば、付近にモンスターたちの気配もなく、人間たちの勝利を祝う乾杯が行われていた。
セルフィスの姿は見えなかったが、サワオ、クー、ルイム、ナルといった旧来のメンバーとスールパーティーだったジェット、テラ、ネルチャ、サワが見受けられた。ユウタは、故郷に帰った二人の姿と怪我の酷いセルフィスは未だに療養中なのだろうと推察する。
メンバーは、苦笑ぎみにこちらを見て手を振ってくれるのである。
ユウタもそれを返しながら、胸の内に熱を帯びてきた。
一行を見送る少年。肉を適度に焼いては、取り皿に乗せて他の奴隷たちに配ってやるのだ。が、狼耳をピンとそそり立たせる少女は面白くなさげな風である。どうも豚肉は好物のようで、セリアには堪らない匂いを発して本能を刺激するのであろう。だが、ユウタは焼くスピード上げる気はない。鉄板で焼いているのではなく、鉄鍋を使って焼いているのだ。
もっと前線に出て、功を競うべきだったかと反省するのである。しかし、出る杭は打たれるが運命だ。そう感じ取るユウタは、ドスが有頂天になりちやほやされて堕落するかと否かを想像すると。
答えは、否だ。
心配するだけ無用という物だろう。ユウタはそう考え、焼いた肉がしっかり焼けているのを確認して渡していく。
涼しげな風に乗って、誰か笛を吹いて鎮魂の歌を奏でているのが周囲に響いてくる。りーん、という虫の羽根音と相まって哀愁を誘う。異世界にも、鈴虫の如き昆虫がいるのであった。
周りも様子をちらりと眺めるセリアが、ユウタを見つめ、
「それで、今日はもうここで寝るのか?」
「いやいや、それはないから。当然、帰って寝るよ」
「ふむ。モニカとシルバーナ、ティアンナにも焼肉を作ってやらないとな」
冒険者たちが天幕の用意をし始めているのを見て、ユウタもそうするのかと考えたのだろう。
しかし、天幕の持ち合わせはない。
楽に転移で移動出来る為に、そのような考えを持ち合わせていなかったのは不用意であった。
ユウタは、異世界の空を見ようと顔を上げる。そして、満天に輝く星を眺めた。
最初は突っ走る。けれども素直に欲望のまま正直になれないのが、ユウタという少年だ。そうしている内に、何時の間にか大所帯になってしまった。こちらの世界に来る前は、はっきり言ってここまで女の子たちとの接触などなかったと記憶している。どちらかと言えば、イケメンたちの眩しさに追いやられて飲み会等では隅でちょびちょびとやっているタイプなのだから。
天に広がる星は、北極星が見えるのが不思議な面持ちだった。
そして、空の端に登る月が白い。次いで赤い月も見える。異様な夜空だ。
「なあ、セリア。あれはなんだ? あの赤い月。あんなのあったか」
「はむっ。うん? ああ、あれは『魔の兆し』だな。この星を回る衛星が姿を現し赤く輝く現象をそう言うという奴だ。世界の何処かで魔界の門が通じるという前兆であるが、この世界に新しい魔族が侵攻してくる。あれは、そういう可能性を秘めているのだ。最も、魔王軍などという奴は見た事はないがな。とはいえ、強力な力を持つ魔族というのは人間にとって脅威だろう。迷宮には、稀に魔族がいたりするが総じて強いぞ」
ユウタは、月といえば淡い黄味色をしていたように覚えているのだが。
セリアが上機嫌だと色々な情報が引き出せる事に、ユウタは気が付く。
元の種族が肉食だけに、肉メインに料理はするべきだと確信を抱き、
「てことは、世界の危機なんじゃ?」
「いや、そうでもない。むしろ世界の危機はユウタだからな。他のどんなモンスターや魔王よりも厄介だ。南の方では、飢餓や貧困にモンスターの群れによる都市攻撃等といった悲惨極まる事態が起きているが、それよりも更に重大だからな」
「俺の方が、危険なのかよ」
ユウタは、がっくりと肩を落としながらも肉を焼く事を止めない。正面を見れば竜の化身である赤毛の女ががつがつと食い気に走っていた。ドス子は、長身なのだがそれとわかるくらい腹を突き出して食べている。まるで、妊婦のようであり隣に座るエメラルダやユミカはドン引きの表情だ。
―――ゴブリンキングを本当に討ち獲ったのか。
ドスが現れた際には、ユウタは【鑑定】をかける腹積もりでいたのだが、ふとそれは思い止まる事にした。他人のステータスを読み解くそれを、相手に黙ってかけるのはつまり個人情報を勝手に盗み見るという事なのだ。それについて、ユーウが何かしらの対策を講じている可能性は有りえた。これまでに、アベル辺りにスキルを使用していた。その時には、何もなかったのだ。
だからといって、ドスに黙ってかけるのも気が引けた。
「なあ。黙って他人に鑑定スキルを使うのは、この世界ではどういう事になるんだろうか。ロシナさんから貰った本にも、書いていないんだけどさ」
ユウタの言葉に、セリアが箸を止めて返す。
「それは、勿論N、Gだ。K、Y行為だったかな。KYとは、空気読めらしい。ユーウの奴が言う意味がわからなかったが、ユウタたち日本からの来る異世界人は総じてこれが強い。簡単に言えば、同調圧力らしい。他人のステータスを勝手に読み取る行為は覗きに当たるからな。人族相手に勝手にやっては、即逮捕されても文句は言えないぞ。これもユーウの奴が作った軽犯罪法の一つだ。だが、まあ。大体、やるのは碌に物を知らない異世界人だ。捕まって取り調べを受けると、大概異世界ファンタジーじゃ皆使っているんだっ、と強弁する。保釈金を積めば解放されるが、今は昔と違い厳しいぞ」
「何だかやけに厳しいな。モンスター相手にはいいって事だよね」
セリアの話を聞いていたユウタは、「じゃあキューブ情報をロックする意味は?」
と、聞ききたかったが彼女がここまで饒舌なのだ。大人しく聞き役に徹する。鑑定のほかにも鑑識というスキルが有る事を思い返す。
焚火の炎で顔を照らされた少女の横顔に、汗でべったりと髪がくっついている。それがとても艶めかしく女の色気を醸し出していた。
セリアは、そのまま顎を引きこくりと縦に振りながら、
「そうだ。ゲーム感覚でこちらの世界にきた日本人がよく犯してしまう間違いの一つだな。街中で攻撃魔術を使ったりするのも王都では、危ない。アーバインには設置されていないが、魔術師組合の広域探査器が目を光らせていて探査魔術【サーチ】を使う騎士か忍者が飛んでくるからな。王都の治安が良いのは、ユーウが作ったとも言える。ま、気をつけないといけないのは他にもあるぞ」
「何かあるのか?」
周りにいた冒険者たちは、ついに酒盛りをし始めた。森のあちこちで焚火を囲んで酒に酔った人間の声が聞こえてくる。ユウタは、こんな所で酒を飲む気にはならないのだが明らかに高LVとわかる人間たちだけにそんな心配は無用なのか。
それを判断できないので、黙っていると。
「ふー、食べた食べた。もっと食べたいところだが、ユウタの肉が無くなってしまいそうだな。王都で魔術による暗殺をした場合だが、基本的には死刑だ。王族には適用できないがな。不平等だという人間もいなくはないが、その場合はどうなるのか」
「死刑になる?」
「そこまで極端な話ではないが、前者は死刑。後者は不敬罪で国外追放だな。ちょっと考えてみて欲しい。発動体であるメイスや魔導器無しに魔術を使える人間がいて、街中で鎌鼬やウィンドカッターなどを使っている様を。普通の人間には、それが何か見える筈もない。風系の魔術を遠距離から狙撃スタイルで使われるのは、非常に脅威だからな」
他のメンバーは、ユウタが取り出した椅子の上で食後をくつろいでいる。風系の魔術が脅威な事はユウタにも理解できる。何しろ見えない、というのは戦闘でも相当なアドバンテージだ。現代風に言えば、街中で毒ガスを撒く瓶を装備したまま行動しているといっていい。普通に、危険極まりない事は理解できる。
ユウタは頷き、腹を丸々としたまま寝ようとするドス子を起こす。
「そろそろ、帰るか」
ユウタの言葉に全員が頷く。
◆
邸宅に戻ったユウタは、モニカたちが帰宅している事に安堵していた。邸宅には、明かりがついている。それを見て、中に入っていくと中では静かにユウタたちを見つめる眼が六つ。テーブルを囲むようにして座る彼女たちに、ユウタは謝り倒すしかなかった。
「それで、私たちを除け者にして焼肉パーティーをしていたんですか」
冷たく言い放つモニカには、気圧されっぱなしであった。元凶であるドス子は、さっさと上に上がって睡眠に入ってしまった。他の奴隷たちも風呂に入ると言ってこの場にはいない。つまり、ユウタだけが矢面に立たされている。
「そうなんだ。と、言う訳で焼肉のタレをかけて食べないか?」
「ご主人様は食べたのではないのですか」
「いや、肉を焼いていた」
何しろ味付けがないまま食べるのはどうなのかと思うのが文明人だ。塩でも醤油でもあった方がいい。ユーウが如何にして醤油と味噌の精製を成し得たのかは不明だが、こうしてソースつきで肉を食べられるのはいい。焼くのに夢中になりすぎて、ユウタは全く食っていない事に今更気が付く。
「じゃあ、あたしらと一緒に食事にしようかい」
不機嫌そうなぶすっとした顔を見せていたシルバーナが一転して足取りも軽く、厨房へと入って行く。
まるで、自分の家のように振る舞う彼女にユウタも言葉がでない。
ティアンナと言えば、冷静な顔でテキパキと書類をこなしている。どうやら、提出する為の書類のようであった。
そして、
「これから、モニカと一緒に行動する事にする。私が居ないとこの子は危ないから」
「ちょ、ちょっとティアンナちゃん?」
宣言するティアンナにモニカは、焦った様子で手をぶんぶんと上下にする。
青い髪をした少女は、その枯れ木のように細い腕でモニカの乳をわっしと掴んだ。
「この凶器が男を狂わせる。でも、大丈夫。わたしがいるから。安心していい」
「そりゃ心強い。それで学校はどうだったんだ」
「授業を受けたら、迷宮を探索した。同行者が何人も希望していたけれど、全部断った」
「そうか。で、何かしら収獲はあったのか」
「残念だけど、ない。迷宮のボスでも狩らないとドロップも剥ぎ取りもない」
タンクと回復役をやったのであろうか。ユウタにはわからない。
迷宮の浅い場所で、雑魚モンスターを狩ったとして果たしてそれが収入になるのかどうか。
ユウタには、とても収入になるとは思えないのである。
「その顔。わたしたちが何の目的も無しに迷宮に入ったと考えている」
「違うのか?」
「勿論ある。馬鹿にするのは失礼。海底洞窟を基本とする迷宮に行けば、水を基本とするモンスターにあう。風雷型にとっては、御しやすい相手。そこでカエル型モンスターを探して狩っていた。飲まれると死ぬけど」
「凄かったんですよ。ティアンナちゃんのおかげで、五千ゴルの収益です。それも時間当たりですよ」
むふーっと鼻息を吐くモニカ。鼻息も荒く、銀貨を取り出して見せる。ユウタにも意外であったが、二人はコンビネーションよく狩りをした様子だ。しかし、カエルに飲まれたら死ぬような場所で狩をしてほしくない。そんなユウタの思いとは裏腹に二人が盛り上がっている。
そこにシルバーナが戻ってきた。両手にはサラダの盛り付けに、うどんではなくスパゲッティ―を乗せた皿を持っている。
「盛り上がっているみたいだねえ」
「いい匂いだが、お前。料理できたんだな」
「失礼な事をいうと食わせてやらないよ? でもまあ、そう見えるだろうねえ。こう見えても家庭的な盗賊なのさ」
三人でスパゲッティ―としか見えない料理を口にすると、ユウタは口腔に広がる麺の柔らかさに目を剥く。
「ほんとかあ・・・・・・げえっ、美味しい!?」
「だから、失礼な事言うんじゃないよ。傷つくだろうに。あーもう、ハイデルベルで後始末をしてきたっていうのにユウタがそんな事を言うんじゃ話をしたくなくなってきちまうねえ」
「済まない」
頭を下げるユウタに気を良くしたのかシルバーナは、フォークを手に持ち上機嫌で麺を食べ始めた。
聞けば、どうやらハイデルベルの混乱は収まりつつある様子であった。ユウタとしては、何故か独立愚連隊のような扱いで、且つ所属が曖昧のままに使われる事に違和感を感じでいる。騎士ならば、どこどこ所属の騎士団となる筈なのだが。想像していた物とは、余りに違うのである。
「俺ってさ、一体どういう扱いなんだろうか」
「どうって、そりゃあ最終兵器という名の危険物? ま、一つ所に置いておくには利権が有り過ぎて内戦になっちまうからねえ。本来なら、公爵家の跡取りな訳でさ。今のままで行くと、女装した王妃になりそうだね。あんた」
ユウタは衝撃の余り、ポロリとフォークを手から落とした。だらしなく開けられた口から魂が抜ける様が目に見えるようである。
「何だってぇ? それは本気で言っているのか」
口から泡を飛ばしながら畳みかけるユウタに、
「だから、しっかり働いて王配という名のヒモになる方が良いと思うけどね。あたしとしてもそっちの方が助かる。けど、女装王妃っていうのも新しい道かもねえ。恐らくだけど、未だかつて居ない王妃になるよ。ぷぷっ」
シルバーナは、ポニーテールを揺らしながら気色の悪い笑みを浮かべていた。ユウタといえば、真っ白に燃え尽きたような風に固まっている。新感覚というよりは、何かおぞましいモノをユウタは感じて周りを確認した。しかし、視線とは裏腹に姿は見えない。ユウタの勘になるが、アルの中身である三人の誰かがユウタの周囲を覗き見しているのであろう。
腹を抱えて笑い転げている様を想像して、ユウタは奥歯を強く噛みしめる。
「ありゃ、拗ねちゃったかい。それじゃあ、良い知らせを教えてやるとするかねえ。まずは、ハルジーヤの反乱軍が王国側に降って、王国は一息ついた形さ。東からのハイランド軍を扮する帝国軍は成りを潜めているけど、王都の治安と相まってまだまだ油断は出来ないねえ。後は、西からの反乱分子を虱潰しにしていくだけだけど。アルル様の援護にあんた来るんだろう? それでちょっとは好転するだろうね」
「た、大変だな。俺は迷宮でレベルを上げたりとかしたいんだけど」
「へえ、アルル様が討ち死にでもしちゃったらどうすんのさ。あんた責任とれんの?」
「・・・・・・」
―――いや、俺の責任になるの?
そんな言葉を吐きたかったのである。しかし、ユウタもアルルを見捨てるつもりはない。が、ただの従騎士が何やら特殊部隊の隊員の如き役割を担うのはどうかと思うのである。ここの所、戦闘続きで全く気の休まる事がない。ユウタにとっても過酷な物である。ここはゲームのように死んでも生き返れる保証などどこにもないのだ。
村の事もあるので、明日の早朝にはまた森の探索をしつつユウタ自身が作った迷宮の様子も確認せねばならない。食べ終わる頃には、モニカとティアンナがあーでもないこーでもないと言って議論をしていた。
風呂に行こうをするユウタだが、中には未だに気配が残っている。
そのまま中に入るのはギャグでしかなかった。中に入るには、自身の持つ気配察知が邪魔である。しかし、中にいるとわかってラッキー助平をできるほど大胆でもない。
ユウタが向かったのは、玄関である。外に出て汗でも拭いて着替えようというのだ。
外で、汗を取り夜空を眺めていると、セリアが中から出てきた。
「何をしている?」
「見ての通り、夜空を眺めていたんだ。こんなにも綺麗なのだから」
「ふうん。まあ、いい。これを受け取っておくといい」
セリアの細い手で渡されたのは、一つの果実のようだ。ユウタには、それが何なのかわからない。
夜空に向かってその果実を掲げて眺めるユウタに、
「何時ぞや預かった『黄金の林檎』。確かに渡したからな。アルトリウスから渡すようにと預かっていた物だ」
「これで、どうしろというんだ」
「さあな。ただ、それは『ユグドラシルの葉や実』などよりも遥かに貴重な代物だ。ありとあらゆる万病に効き、その人間の寿命を百年程伸ばすという」
ふうんといって珍しそうに見つめたユウタは、さっさとイベントリにしまう。少し聞いただけでも大変貴重な代物のようである。
それから満天に広がる星を眺めていたら、他の奴隷たちがぞろぞろと酒を持って現れた。
顔をきりりと締まらせたシルバーナがユウタに顔を近づけて、
「あんたも今日は飲むよ。ほら」
「あ~いや。俺は未成年だぞ」
「何いってんのさ。この国じゃあ十二歳を過ぎれば成人と見なされて、結婚も出来るんだよ。流石に性交渉は無茶だろうけれどね。酒位強くなくちゃあ、盗賊の頭は務まらないよっ」
ユウタが勧めを断りきれずに、一口飲む。その間に、他の奴隷たちはごくごくと喉を鳴らせて飲んでいる。ユウタは、注がれたコップを見た。異世界に持ち帰った容器は二ホンで出来たそれと寸分たがわないレベルの物だ。中に注ぎこまれた酒の匂いはしないが、喉を通るとひんやりとしているのである。
そこから先は宴会状態になった。男はユウタだけなのである。
他に男がいたならば、間違いなくユウタは殴られるであろう状態だった。
幾ら飲んでも酔わない体質のユウタは、そのまま酔っぱらった少女たちを寝かせると寝室に向かう。
そこには、先客がいた。赤い子犬サイズの蜥蜴とヒヨコサイズの蜥蜴だった。
二匹を脇に寄せてユウタは、ベッドに倒れ込む。
そして、あっさりと睡魔に飲み込まれていった。
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