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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
132/709

128話 ゴブリン討伐

「糞ったれが。どうなっている」

「王よ。味方は崩れつつあるゴブ」

「んなこたあわかってんだ。全軍に通達だ。両翼は、下がりつつ中央の部隊と合流し中央突破を図れとな。逃走すれば、全滅する事になると告げておけ。活路は前にあるのだ。俺が直接前線に出るっ」


 ガル・ダが信頼する右翼の将ボルボ・ダが討たれた。


 その報告を受けるのは次の瞬間であった。

 多数のゴブリンがひしめく本陣にあって、なお信じられない声が上がる。

 中央が二千、左右に千づつ配置しており、早々に抜ける筈がないのである。それが、劣勢の報告を受けて小一時間で崩壊する左翼を更に援軍を回しても持たせられないのだ。

 

 数でいけば、ゴブリン側が圧勝するはずの戦いであり、それはガル・ダの計算にはない劣勢であった。つまり、ゴブリン王は質を無視した攻撃を展開しているのだ。只増やしただけの新兵は、以前のような歴戦のゴブリン兵ではなく、殆ど戦いに対しての経験が薄い兵である。訓練で身体機能が上がったとしても巧な剣捌きを持つハイゴブリンソードやデューク級、ジェネラル級、ナイト級といった経験を積んだゴブリンの少なさが響いている。

 

 ポーン級のノーマルとしかいいようのないゴブリンばかりが矢面に立って奮戦するのであるが。今回、相手に取っている冒険者たちは毛色が違う。様々な道具を使いゴブリン側がその対応に苦戦していた。毒矢から罠まで活用して相手にしているのであるが、そのゲリラ戦術もままならず。盾役が注意を引き付けるのに釣られた攻撃が多い。そして、仕留めきれないまま攻撃を貰っている。


 前線で戦うゴブリン兵は、新兵が為に一旦乱戦になれば敵である冒険者たちの動きについていけていない。それを実際に見る事が無いため、拮抗した戦線でじわじわとLVを上げつつゴブリンたちの戦力化を図るといった悠長さ。戦線を展開して半日にしてそれが、裏目に出る事になった。


 赤い巨躯の女と鈍色の鎧に傘の如き槍を構えた戦士の姿を見たガル・ダは、それが劣勢の原因であると判断した。前線に出たガル・ダの前に立ちふさがるのはその二人と後ろから援護する集団である。

 攻撃を受けるゴブリン兵が玩具のように宙を舞い、叩き潰される様を見てガル・ダが叫ぶ。


「あれを止めようという者は居らぬか」

「おおっ我が君。このブリー・ダにお任せあれっ」

「うむ。ブリー・ダか。貴様に左翼の抑えを任せたぞ」


 ジェネラル級ゴブリングレートソードである青い皮膚をしたブリー・ダに続くのは、ナイト級で緑色のゴブリンアーチャーの三人。アーチャータイプは殆どが、ナイト級であり数には限りがある。五百程がいるのであるが、その中でも腕利きをサポートとしている。


 ガル・ダとしては、数で早期に冒険者たちを駆逐する予定であった。それが早々にその目論見が潰え、今また殲滅の危機に瀕している事態に怒りを隠せない。握り締めた拳を側近たちからは、見せまいとマントに隠すのだが。


 ―――状況を何としねぇとな。

 取りえる手立ては、いくつかあった。一つは、このまま全軍をゆっくりと後退させつつ罠を張り相手の消耗を図る戦術。それとも、全軍一丸となり敵の中央をを裂いて突破していくか。元が人間であるだけに、ガル・ダにはいくつもの戦術が思い浮かぶのである。だが、それは味方が実行出来ねば意味がなかった。

 というのは、ガル・ダの配下には知略型の兵がほとんどいない。将もまた脳筋型のゴブリンばかりである。その屈強なゴブリンたちが木の実を割るように叩き潰されるのは、悪夢としかいいようがなかった。前線へと踊り出るガル・ダは大剣を振るい冒険者を威嚇する。一撃で相手を仕留める。そのつもりでガル・ダはそれを振り下ろす。


 だが、大剣は黒い炎をまき散らしただけで人間の男に防がれてしまう。


「ぐるぅあああ(雑魚がっしぶといっ)」

「こいつ。只のゴブリンじゃねえな。ジェネラル級か? おいライル、援護頼む」

「おーけーおーけー。ほいよ高加速(ハイ・ブースト)っ」

「おらっ」


 人間の魔術師が呪文を唱え、その杖から光が放たれる。対象となった人間の戦士は、淡いオーラを身に纏いながら裂帛の気迫で斬りかかってきた。流石にガル・ダも余裕のない攻撃にたたらを踏む。

 

 ガル・ダの怒りは唸り声となって相手には通じていない。勿論自身は人間の言葉を理解するのであるが、相手に対して喉から人間の言葉が出ないのだ。つまるところ交渉しようにも相互理解を深めようにも言語が違いすぎた。

 果たしてゴブリン語を理解できる人間が、いるとも思えないガル・ダには交渉による講和も諦めている。

 

 ―――うっとおしいぜ。

 咆哮と共に放たれるガル・ダの一撃は、並の冒険者たちであればたちどころに仕留められる程鋭い。そして、今日までガル・ダは中級以上の冒険者を相手に戦った経験がほぼなかった。つい最近、少年から逃げ出した事が初体験である。それまでは、持ち前の巨躯と筋力でもって相手を蹂躙する戦い方であった。


 前世では日本人として、剣道をたしなんでいただけにガル・ダにはゴブリンたちよりも遥かに剣が使える。前線に立てば、皆一丸となり敵を粉砕し勝利を手にしてきた。

 だが―――

 中央突破を図ろうとするガル・ダの中央軍の勢いは、左翼から回ってきた敵の一隊によって完全にくいとめられている。増援を回した左翼も半刻と持たずに、潰走状態であった。

 ガル・ダの放つ渾身を込めた上段からの一撃を受け流すミハイルと呼ばれた戦士。うっとおしい事に、蠅のようなしつこさで回避してはガル・ダの隙を伺い一撃を見舞ってくる。


 左翼の崩壊につられて、中央軍までもが潰走しかねない状況に。


「ぐらあぁあ(ちいっ。持たないとはなあ。何時までもこいつと遊んでも居られんっ)」

「うおっ。こいつ? もしかして、ゴブリンキングかっ。マルコ、矢で援護しろよ」

「無茶いうなよ。俺は槍は得意でも、矢はなあ。弓兵は、ってうおぉっ」


 ガル・ダを狙って、後方より放たれた矢が人間の戦士とガル・ダの間を分ける。

 両者が間合いを取ると、ガル・ダの親衛隊が走り込んで相手に向かっていく。中央だけを見れば、勢いは拮抗状態なのである。ガル・ダが戦況の把握に努めようと、首を右翼側に回せばそちら側でも激しい魔術の応酬が行われていた。ジェネラル級ゴブリンウィザードと人間の魔術師が双方共に魔術合戦をしている為か飛び交う稲妻と火炎に混沌とした状況。そして、土塊が乱舞し水流がほどばしる。

 

 中央で前線にでるガル・ダ自身も集中して飛来する稲妻を受けて、ダメージが蓄積している。先程の人間から間合いを離したのも、只の雑兵と匹夫の勇を競っては居られない為だ。オーラでもって魔術の効果を大分減らしているとはいえ、全体を見る必要がガル・ダにはあった。

 

 戦況を読み、次の一手を思案する。そうしている間に、ガル・ダに迫る物体を咄嗟に躱す。それは、三メートル程の巨大槍であった。先がドライバーのように四つ角を張るようなランスであり、ガル・ダには一見して何なのかわからない。親衛隊のゴブリンたちを数珠つなぎのように抉り、それは容赦なく貫通して行った。

 それを引きずる相手を探し、


「がるう?(なんだぁ?)」

「ん、外したか。勘のいい奴だ。だが、次はどうかな?」


 そううそぶくのは銀髪が眩しい女の戦士であった。その身体に不釣り合いな槍を引き戻し、再度放とうと構えをとる。そこに、人間の戦士が声をかけ、


「ちょっと待て、銀の騎士。そいつは俺の獲物だっ」

「そういうならば、さっさと倒してみせる事だ。別に、誰が倒してしまっても構わんのだろう?」

「くそっ。おいリオナ、回復をもっと寄越せっ。前へ出る!」

「はいはい。でも、あんまり無茶するのはだめだからね」

「早く仕留めろ。ルナ様の元へあのゴブリンをやる訳にはいかない、ここで倒す予定だ」

「人の話を聞けよっ」

「ふっ。聞いているとも、ミハイル殿が前へでれば攻撃は止めよう」

「言いやがったなこの女っ」


 敵を目の前にして仲間割れの様相を呈しているのだが、大剣で遠距離攻撃をすれば反応する。魔炎を斬撃に乗せて飛ばすという技なのである。しかし、それを槍で軽く払う女獣人には恐怖を感じ、皮膚には粘つくような黒い汗が出ていた。それで、ゴブリンには似つかわしくない震えを腕に宿す。


 ガル・ダと冒険者たちの前には親衛隊のゴブリンたちが立っていた。それを無視して攻撃しようというのか。ガル・ダは人間の男戦士よりも獣人の女戦士に計り知れない脅威を感じている。

 それは、過日に会った少年剣士と同質の物であり、屈辱の記憶でもあった。人間の男が、前へ出るよりも早く女の方がガル・ダの方へと槍を投擲してくる。それを魔炎を纏わせた大剣で受けるのが精いっぱいであった。間に立つハイゴブリン兵を易々と貫いて、尚手に痺れを感じさせるのだ。


 黒い炎が飛び散り、ガル・ダの防御を少しずつ削る。尚且つ強烈な衝撃波と伸びる槍身で、周囲のゴブリン兵を貫く。女戦士が放つその攻撃の前には、精鋭で鳴るハイゴブリン兵たちも後ろ足を見せていた。 

 明らかに、削りにきている。そして、供回りが居なくなればどうなるかは火を見るよりも明らかであった。そんな状況に腹心のゴブリンが、


「王よ。ここは、一旦引き態勢を立て直すべきだ」

「何っ。だが、この状況で引けば全滅だぞ。わかっていっているのだな?」

「ああ。このラー・ダが身命を賭して食い止めよう。王は落ちのびられよ」


 そう告げられたゴブリンの王は、臣下であるはずのラー・ダに向き合う。つるりとした緑色の顔を見たガル・ダはその黒い巨躯を翻した。折しも、人間の戦士が槍を投擲する女戦士の射線上に移動し、槍による攻撃がおさまっている。


 今しかない。

 そうラー・ダは目で訴え、ゴブリンの王も側近である部下を連れて後方に下がっていく。


 この時、ゴブリンの王が前へしゃむにに進んでいればどうなっていたであろうか。勿論、ユウタたちの部隊はそれを望んでいる。そして、十重二十重に取り囲まれたゴブリンの王は嬲り殺しにあったであろう。

 それを回避せんと智謀の臣であるラー・ダはゴブリンにしては、細身の身体に杖を構える。ラー・ダの率いるのはゴブリンマジシャンとゴブリンシールドの混成部隊。ポーン級と頼りない構成であったが、ガル・ダの率いるゴブリン軍の中では一等の防御力を誇る。


 ―――切り札を切るか。

 帝国から貸し出された兵に、要請を出す。

 苦渋の決断であった。下知を貰ったゴブリンが走り出す。 


 下がるゴブリンの王を支援する為に、盾を構えたゴブリン兵が人間たちの集団に立ちふさがる。それらを率いるラー・ダはゴブリンの王であるガル・ダが人間の女に産ませた子供でもある。というよりも、優秀な兵はゴブリンの王がこさえた子であった。そんな訳であるから、欲望に忠実なゴブリンたちであるが一定の忠誠心を王に持ちここまで繁栄してきた。


 時間さえあれば、以前のような戦闘力を取り戻す事が出来たかもしれない。後方へ下がるガル・ダは歯噛みする思いであった。

 それで腹心の配下であるボー・ダに、


「まだ北から援軍はこないのか?」

「はっ、王よ。青き鬼王は援軍を率いて南下中でありますれば、時間を稼いで相手の消耗をはかりましょうぞ」

「駄目だな。それでは、相手は止まらん。人間相手に奴らが嫌がる手と言えば、火を放つ事だがな」

「それは、なりませんぞ。森で火を放てば、エルフ共を敵に回す事になりますぞ」

「そう、だな」


 森に大規模な火壁を作り、敵の侵攻を防ぐという案も脳裏にはあったのだ。が、それをしては巨大なる樹の守護者を自称する妖精族たちも黙っていない事は必定である。中央突破を諦めたガル・ダは伏兵を置きながら、罠と魔術で援護しながらの退却戦に挑む。





 黒いゴブリンが後方へと下がっていくのを眺めるしかないセリアは、ランスを肩で支えている。

 セリアの苛立ちを感じ取ったユウタだが、セリアとドス子の豪快極まる攻撃に唖然としていた。どこから調達したのか不明であるそれ。同時に、セリアは腰に収納鞄を装着している。そして、そこから取り出したのは、三メートルはあろうかという一本の巨大なランスであった。槍というには太すぎる胴体で、斬ってよし叩いてよし突いてよしといった感じの武器を眺める。


 それを担いで突撃し始めた頃には、新手として現れたゴブリンを瞬殺する。中々の体格と供回りを付けていた大剣持ちのゴブリン兵だったのだが。銀髪の少女が投げるランスによる攻撃は、新手の弓兵タイプと戦士タイプを悉く貫く。エメラルダとユミカの乗る蜥蜴による攻撃も相まって、左翼のゴブリン群はあっさりと潰走し始める。

 次いで移ったのが、側面からの中央を攻撃するという伝令にミハイルが声を上げる。


「追撃する部隊は、1、2、3番隊だ。俺たちの4番隊は側面からの攻撃に移行するぞっ」


 青年の声が辺りに響き、魔術による攻撃が開始される。魔術をひとしきり撃てば、次は突撃であった。突撃するのは、セリアである。主に、傘の如きランスを投げて敵の陣形を崩す。と同時に、敵のゴブリン兵をすりつぶしていく蜥蜴の巨躯にユウタは圧倒される。ユウタが相手をしていた時よりも数倍の巨体になっていた相手を前に、平静では居られない。


 敵が下がる気配を見せると同時に、盾を構えるゴブリンたちが出てくる。

 それに身構えるユウタに声をかけてくる中性的な少年の声。


「あっ。ユウタさんたちは、側面から攻撃ですか?」

「智くんか。そうみたいだ」


 男だらけの隊に智が混じっていた。仲間である女の子二人が傍に立っているのが救いか。

 男の戦士も傍に付いているが。

 

 前線を見れば、ドス子が雪城と共に敵のゴブリン兵を殴り飛ばしている。視線を戻すユウタは、男たちばかりを率いている智に同情の感情を投げかけた。

 ひとしきり話をして、 


「じゃあ、僕たちは正面の敵を追撃するので頑張ってください」

「ああ。最も、俺の部隊は前衛が倒してしまいそうなんだがな」

「そうっすねえ。でも、負けないッスよ。ではっ」


 智は、質素な青い剣を振り別れをユウタに告げる。ユウタはもっと話をしていたかったのであるが、後ろに立つ戦士風の男を魔術士の女、治癒士の女がこちらを気にかけていた。智が駆け出していき、ユウタは前線に視線を戻す。僅かな時間で、中央のゴブリンの群れは浮足立っている。


「ごあああっ」

「ふ、他愛ないな。弾け飛べ、絶槍雷神!」


 上段に傘状のランスを構えるセリア。ゴブリンたちに放つ槍からの攻撃は、範囲攻撃といった風を見せる衝撃波と雷撃であった。扇状に広がりを見せるそれに巻き込まれたゴブリンたちは、ローストビーフを焦がしたのような異臭を放ちバタバタと倒れていく。盾を構えていようがいまいが関係ない破壊力で、ゴブリンたちは蹂躙される。その傷跡を広げようと、エメラルダとユミカがファイア・ストームを敵にぶつけるのであった。


 しかし、ここにきて敵のゴブリンたちは土壁を作り始める。明らかな戦力差に、撤退の意志を統一できた様子であった。それにぶち当たる蜥蜴二匹は、突出した突破力を見せる。次々、発生する土壁の妨害を乗り越え敵陣に食らいつく。

 それを眺めながらユウタは黄色いヒヨコに話を振る。


「(DDは、敵の動きをどう見る?)」

『そうだねえ。空間転移術を使えるなら、裏をかいて小娘の所にいくんじゃないかなあ。僕の見た所そんな兆候はないし、相手の手札はないと考えているよ』

「(そうか。俺も空間魔術で敵の動きを見ているんだが、敵は引いて逃げるつもりみたいだな。しかし・・・・・逃げてどうする気なんだ?)」

『一つ考えられるのは、援軍を待っているのかもね。でも、セリアとドス子の突破力は激しいよ。魔術師二人の範囲魔術も強力だし。僕がゴブリン側だったら、とにかく逃げるね。百でも二百でも逃げ出せれば、何とか立て直せるからね。つまり、ユウタたちの世界でいう処のゴキブリ退治にも似ているよ。さて、ここで問題です。ゴキブリを退治するにはどうしたらいいでしょうか』


 腕を組んで瞑想するユウタは、うんうん唸るのであった。そして、一つの結論を出す。


「(毒入りの食料を撒くとか。ゴブリンほいほいになりそうな餌を撒く感じ?)」

『それもいいね。けど、手間暇がかかるでしょ。一番いいのは、王を仕留める事。けれど、セリアはこれに失敗しているよね。ミハイルとかいうのが邪魔しなければ、この戦い直ぐに終わっていた感がするよ』


 これにはユウタも同意せざるえなかった。すんでの所で相手に逃げられて、泥沼の戦いに嵌る。そんな風になるのは御免こうむりたいのだが。さりとて、雪城が邪悪な笑みを浮かべて「あの男、妾が殺しておくがいいかえ」などと囁くのには拳骨を見舞って止めるしかない。

 

 雪城は黒い感情を露わにするが、仮にもミハイルは味方である。

 使えない味方ではあるのだが、背中から撃つほど落ちぶれてもいない。そして、それを奴隷にやらせるなど男の沽券にかかわる事案であった。ユウタは、頭を押さえる雪城に回復をかけながら全体の動きを空間魔術でもって把握に努める。


『一応、敵の暗殺兵を警戒してセリアを後方の騎士団に張り付かせるのもありなんじゃないかな』

「(それは、そうだなあ。あるあるだが、後方に対してというよりも空間魔術『全て掌の中』が強力すぎて奇襲とか意味がなくなりそうな気がするんだがな)」

『えっ? ユウタ、それ何時の間に使えるようになったの? もしかして、時間魔術も思い出した? それなら、それでこっちの・・・・・・』

「(おかしな奴だなあ。最も、俺がやりたいのは元の世界から肥料に農具の買い付けとか発電機を用意したりする事なんだがな。ネットしたいし。二チャンはいいもんだ。って話がずれているか。ともかく心配と用意はしてある)」


 ユウタの言葉に、ヒヨコはぺぺんと頭を叩き反応が薄い。

 前線にユウタは、向き直す。 


 



 側面を切り崩されたゴブリン側というと、盾を持った兵が吹き飛びゴブリンマジシャンたちに動揺が走るのをラー・ダは苦々しい思いで指揮を執る。

 必死の形相で敵の猛攻を食い止めんとするゴブリン側は、勿論罠を仕掛けているのだが。敵である人間たちは動きを止めないのである。それどころか、更に火がついたかのような突撃をみせてゴブリン群は総崩れ寸前まで追い詰められていた。中央のゴブリン軍も既に半壊しかけており、後方では武器を手に脱兎の如く走り去る兵が後を絶たない。


 左翼の将ゴー・ダは良く支えていたが、膠着した戦線から次第に下がり始めている。左翼は崩壊。中央を支える筈のゴブリンシールドはその数を大きく減らし、ラー・ダは悩んでいた。つるつるの頭を撫でながら、ゴブリンマジシャンには突出する敵兵の方へと火力を集中する。


 するのであるが、ランスを片手に持つ女戦士には魔術が当たらず。かといってもう片方の赤毛を生やす竜人にも、攻撃が通用しない。どういう風な魔術か、ラー・ダにとっては不明である。槍や弓による攻撃が当たっても、その筋肉なのか鱗なのか判別しがたいそれで武器が溶けてしまう。


 更には、蜥蜴に乗る人間の魔術も脅威であった。二千に加えて、更に五百が加わった中央と左翼を支えようと回った千。部隊は、連携を重視した造りになっているのである。しかし、崩壊につられ戦意のある兵までもが逃げ惑う有様を露呈するようになっていた。 


 中央軍で殿役を担うゴブリンマジシャンの前衛を務めるゴブリンシールドとそれを率いるギー・ダは良くやっていた。

 が、それも限界。半円状に広がり、敵を押し包む陣形も人間たちが見せる連携の前には流される葉のような拙い物となっている。

 

 ―――前線を押し上げる兵の無さが敗因か。

 以前のようなモンスターを軍に組み込むには、森のモンスターが減り過ぎていた。加えて、大型モンスターであるベア系や昆虫系を調教するにはゴブリンテイマーが欠けている。

 アーバインに奇襲をかけた将ミル・ダは、品の無さでは類がなかった。だが、モンスターを使う点と戦術における連携には巧な物があった。ガル・ダ王が率いるゴブリンたちの森。その南東側に広がる人間の領土を切り取ろうと画策し、二つほど村を手中におさめたのも記憶に残る偉業であった。

 

 そのミル・ダは先に行ったアーバイン平原の戦いで戦死している。その死後、更に手を伸ばした村では失敗続きであった。とはいえ、また攻撃を仕掛けんと意気込んでいる者も少なくなかったのである。オークの方に取られる心配もあり、ラー・ダとしては早い者勝ちの楽観視する同僚を諌めるのだ。


 ―――とはいえ、早く切り札が効果を発揮してくれなくては。

 戦況が更に悪化すれば全滅に追い込まれる事は、間違いなく。そして、そうなった場合北からの援軍はそのまま敵になりかねなかった。ラー・ダの王は、青鬼を信じている様子であったが。智謀で鳴るラー・ダには信じがたい事である。拮抗しているからこその同盟であり、弱肉強食といった言葉を良く放つ王の言葉通りになるという展開は容易にありえた。


 土壁を放つように下知を飛ばし、自らも土壁の魔術で味方の撤退を支援する。流れは敵にあり、最早それを巻き戻すには味方の士気が低すぎた。無尽蔵のように味方であるゴブリン兵が、敵を恐慌に落とし込み勝つという基本的な戦略が成り立たない相手。それを圧倒するだけの武威を持つ人間には、全くの無力であった。

 魚鱗の陣に陣形を再編する指示を矢継ぎ早に出すと、ラー・ダはその身に纏ったローブを引きずりながら撤退する。


「(王よ。貴方は、他人を信じないのに。どうして他人から信じられましょうか。身内のみで固められた上層部には、彩のない兵ばかりになり、才能は埋もれてしまう。敵が圧倒的であれば、尚の事です。ですが、貴方は運がなかったのかもしれない。ゴブリンを軍として率いるのは、他にもない偉業ですから。もっと小さな王国であれば、あっさり勝てたのかもしれません。敵が、こちらを放置しておくような馬鹿なら戦力の充実を図り勝てたのかもしれません。偉大な王になりそこねたガル・ダ王よ。状況次第では、この国から逃げるべきです。何処かで再起を図りましょう。貴方ならやれる)」


 その背に迫るのは土壁を破壊しながら突進してくる女の獣人。それに赤毛の竜人であった。

閲覧ありがとうございます。

艦これもモンハン4も面白いです。

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