127話 お肉
閲覧ありがとうございます。
ユウタは腹部に柔らかな感触を感じて身を起こそうとするが、上半身はピクリとも動かなかった。胸に頭を乗せている女の姿が次いで、目に飛び込んでくる。身体の痺れに対して、治癒魔術をかけながら女に声をかけ、
「セリア。一体何をしているんだ」
「うん。たまには私ものんびりしようかと思ってな。声をかけても起きないので、添い寝をするにはいいチャンスだと考えたのだ。それとも・・・・・・こっちの方が良かったか?」
目が覚めた所でユウタが目撃したのは、自らの身体に跨る女の姿であった。そして、セリアは、すんすんとユウタの首元で匂いを嗅いでからかじりついた。
「何の真似だ。痛いぞ」
「眠気覚ましだ。それよりも、ユウタが枯れているのが気になる。普通の男だったら、この場面ではイタダキマスするのが普通だろうに。・・・・・・もしかして、不能になったのか?」
「・・・・・・」
そんな事はない。と言いかけユウタは思い留まる。股間のそれは皮鎧の下衣で押さえつけられ、立つに立てない状態なのであった。きつい痛みをセリアに悟らせないようにユウタは、セリアを手でどけて立ち上がろうと上体を起こす。手でどけようとした所、四つ手になり見つめ合った後でセリアが動かない。
結局持ち上げて強引にどかす事になった。
股間でセリアを押し上げるように持ち抱える恰好であったし妹の事がなければ、アーティーの事が無ければ、セリアとしっぽりとした事になったかもしれないのであるが。
屈伸をして立ち上がりながら、横の手下に目をやる。
次いで黄色いヒヨコがユウタの頭に飛び乗ってきた。
ユウタは、それを手で撫でながら一同に声を出す。
「雪城に、ドス子、エメラルダ、ユミカか。あれモニカとティアンナはどうしたんだ?」
「昨日の夜は、邸宅でアイテム作りに励んでおる。今朝は、学園に通うみたいじゃの。妾たちはお前様が帰って来んので迎えに来たというやつじゃな。でもって筆頭奴隷がそういう事をし始めたので、時間がかかっておるわけじゃよ。もう朝じゃしな」
雪城は顔をセリアの方に向け、水を向けられたセリアが口を開く。
「ん。そうだ。早速だが、黒い森に向かおう。話を聞くところによると、森でアーバインの騎士団が苦戦しているらしいのだ。ユウタ、ルナ様を助けてやってはくれないだろうか」
「わかった」
二つ返事をするユウタは、直ぐに首を縦に動かして城の外へと移動する。それから転移門を作った。滑らかな動作に、セリアと雪城は目見張らせる。今までとは違う雰囲気を僅かながら感じたのだ。二人が中に入り、お腹を押さえるドス子、杖を背に抱え続くエメラルダとユミカ。ユウタもその中に入る。辞去する次第を置手紙をして。門番に、近衛副長宛ての事づてを頼む事も忘れない。
ユウタが向かった先は、アーバインの冒険者ギルドである。
早朝だというのに、そこは人でごった返した様相となっていた。明らかに人手を掻き集めた頃よりも更に人が集まっている様子にユウタたちは戸惑いを隠せない。様々なクランが参加をしているのだ。それを明確に示すのぼりであったり、旗をかざしている冒険者の姿が見受けられた。ユウタはそこで、見かけない人物がいる事に気が付く。
ハイデルベルで会ったきりの異世界からのトリップ者である智であった。人懐っこい少年は、人の輪を作って話をしている様子だ。そしてそれを取り囲むように男たちが輪を作っている。ユウタとしては、この子犬といったイメージを持つ智に好感を抱いているのではあるが、流石にその男ばかりのむさくるしい集団に入って行く気にはなれない。
智が連れていた少女たちは、テーブル席でくつろいでいる。
ユウタの方を見た少女たちは、手を振ってくるのでユウタもまた会釈で返す。
カウンターの方向を見ればセリアが、勝手にカウンターで受け付けをしているのである。ユウタとしては、一体何をしているのか。それが気になるが、ユウタはユウタで並ぶ事にした。そうしている間にセリアがカウンターでの話を終えて、ユウタの傍に来る。長い列の中腹まで来ていたのであるが、ユウタの腕を引っ張り、
「ユウタ。受付は済ませたから、早速向かうぞ」
「え? ああ。それならそれでいいか。・・・・・・で、どういう条件になっているんだ?」
「ふ、功績値はユウタのランクポイントに加算されるようにしてある。それで、依頼料はわたしの額を準拠という訳だ。まあ、こんな辺鄙な所に上級冒険者が依頼を受けに来るというのもおかしな話だ。が、ギルドにとっては願ったりという事で、ゴブリン王襲来クエストというのを受けてきた」
「へえ。なんか良さそうだな。よし、皆に説明してやってくれ」
セリアが銀の髪を撫でてから説明をテーブル席でし始める。周囲からは、ユウタに剣呑な視線が突き刺さるのであるが、少年はそれを一顧だにしない。女を連れた冒険者というのは、そもそもが少ないのである。大体が、結婚して引退してしまうので十八を過ぎれば殆ど見かけなくなってしまう。ユウタにも男たちが発する殺気に気が付いているのである。だが、気にしていては話が進まない。
「まずは、アーバインの騎士団を支援するべく結成された冒険者たちの連合体。これが、森の外に天幕を張って待機している。それに合流してから、森に入る。殆どのパーティーがレイド形態をとっているが、私たちには必要ないだろう。二十四人で、一つの部隊としそれが凡そ百ほど結成されている。基本的に冒険者たちの戦闘力というのは、ゴブリンと真っ向からやりあえば同数では楽勝。倍ならばやや苦戦するが犠牲なく勝つ。というのが適正レベルの冒険者だ。これら・・・・・・」
ユウタは、雪城やドス子の様子を見る。真剣な面持ちをしているのは、セリアの話を真面目に聞いているからだろうと推測した。要は、冒険者たちと一緒になってゴブリンの数を減らすという事だ。そこまでわかっていればいいとユウタは思うのであるが、セリアは豆な性分である。細かい作戦について打ち合わせをするのだから、ユウタとしては手間が省けていいのであるが。
エメラルダとユミカの二人は、注文した紅茶をすすっている。とても二人は仲がいいようなので放ってあるが、少々百合の花が見えそうになるのでユウタには心配であった。二人を見つめていると、キッと睨んでくるユミカと笑顔を綻ばせるエメラルダで対照的な印象である。
ユウタは、話が終わるとそのまま準備を整える。アイテムの欠けはないか。等やるべき事をやっておくに越した事はない。それよりも、今日も学校を欠席してしまうのである。ユウタ自身はともかくとして、セリアが不登校になってしまう。そこで、ユウタは説明が終わった後でセリアに疑念を投げる。
「セリア。今日は学校に行かなくていいのか?」
「ああ、その件か。既にモニカに頼んである。誰かが学校に連絡をしないといけないからな。あと、ティアンナの奴も学校に通わせる。ついでに、モニカの護衛だ。悪い差配だったか?」
ユウタは、セリアの勝手な行動に頭が沸騰しかけていた。が、よくよく考えてみれば手間が省けたという事である。全員の面倒を見るには、はっきり言って無理であった。自分で考えて行動してもらわなければならない。例え奴隷という身分であったとしてもだ。
普通は、何も考えるな。命令された事以外はするな。
というのが、奴隷の扱いなのである。だが、ユウタとしてはそれでは困る。熱くなりかけた所で、冷静な部分が出来たのは過去夢のおかげであっただろうか。セリアが進んでユウタの手が届かない部分を担ってくれるのであれば、それはユウタにとって願ったりかなったりである。なので、ユウタはそれについては不問とする事にした。
「いや。いいけど。急になんでかなって」
「ふ、確かに。私も急にやる気が湧いてきたというのは偽らざる気持ちだ。それは、まあ何かあったような気もするが。世界・・・・・・まさかな」
「引っかかる部分もあるけど。それじゃあ出発するか」
ユウタの宣言に、一同は頷く。
セリアの話が長い事続いたので、皆尻を押さえていた。椅子は堅く、とても長時間座っては居られない。そのように作るのも、配置するのも経営者としてギルドの考えなのであろう。ユウタとしては、普通に回転率を計算にいれた接客業に面白味を感じない。むしろ、長居してもらう方で利益が出るように仕向けるのが良いと考えるのである。だが、このアーバインの冒険者ギルドはそういう風ではない。
立ち上がりながら周囲の様子を見れば、次々と依頼を受けた冒険者たちが外へと移動していくのが見える。馬を使っている人間も少なくない。非常に高価なのであるが、その有用性は極めて高い。学園にも騎士科なるものがあり、そこには一騎打ちがあるのである。ユウタはこれが非常に気になっているのであった。
騎士道かぶれというか、今や従騎士となったユウタは正騎士になる日も近い。周囲からすれば、アルとくっつくのではないかと言われるのだが。そんな事をすれば、ヒモである。理想のヒモ生活など、ユウタにとっては悪夢に近い。加えて、アルが女として女王を気取るとは思えないのだ。だから、ユウタは騎士としてアルに仕えているのである。
魔術で変身や女装して、王妃のふりなど死んでも御免こうむりたいのが内心の叫びであった。
逆だとしたら、どうであろうか。ユウタには、王など無理である。息がつまりそうな生活にとてもそれを演じられるとは思えないのだ。何故なら、道を歩いていると捨て猫を拾って帰ってしまう性分なのである。犬も猫も最終的には、世話に出してしまうのだが今ならばユウタには腐る程の食料と村があった。村が限界を迎えるまで、人を拾ってくるのはありえないのであるが。
王ならば、導かねばならない。孤独であったとしてもだ。
果たしてユウタにそれができるのか。ユウタは自身に問いかけるのであるが、答えはいつも決まっている。無理だ、と口から出るのだ。何しろ、色々な決断を迫られる。邪魔な相手が居れば、それを容赦なく排除する決断をしなければならない。この国にあって貴族がかなりの特権を有している存在であり、ユウタにはそれが鼻につく。
王になれば、それを無くすことも可能なのである。が、それはそれとしてもユウタにとって魅力的には映らない。食って寝るだけなら乞食でもいいわけであるし。征服王といった覇王を演じるのはまた骨がおれるとすぐにわかってしまう。部下の統制に心臓麻痺でも起こしかねない気苦労が起きそうである。そういえば、とユウタは急に気掛かりを思い出し、
「なあセリア」
「どうしたのだ」
「学園の迷宮とかでは、学生同士の殺し合いというか。モンスターの擦り付け合いとか起きないのか?」
「いきなりだな。確かに、それはある。昔、ユーウが大量のモンスターを引き連れた学生を殴り倒した事があったな。勿論、連れてきたモンスターは全部魔術で倒していたが。あれは、学生に非が明らかにありその後退学となっている。今でも、そういう事はあるしそれで逆恨みから殺人に至るケースも少なくない。が、貴族を相手にすると話が違ってくる。悪かろうが厳重注意止まりだし、それで注意された方がした方を殺すというのもある。そして・・・・・・」
「そして?」
決まり悪そうにセリアは、ユウタの顔を見る。
「ユーウは変えられなかったのが、それだ。友達を殺された方が平民だとすれば、相手が貴族だと大体有耶無耶になる。更に被害者の友人が相手の貴族を討ったりすれば、例え仇討ちだとしても死刑だ。そもそも友人と貴族には、直接的な関係がないのだしな。怨恨といってもかなり薄く、友人が利益を得ていたりすれば加害者の疑いすらある。・・・・・・話は飛んだが、モニカ一人で学園の迷宮に潜らせるのは危険じゃないのか? という事だろう? その為のティアンナだ。彼女は、エリアスに匹敵する魔術師だ。あれを討ち取るのは至難の技だと言っていいな。安心していい」
この様に饒舌なセリアをユウタは見た事がない。何時にも増して、狼耳を揺らす少女は上機嫌であった。ユウタの目からしても、尻尾をふりふりとしていて浮足立っているのだ。ユウタは、DDとしばし見つめ合う。しかし、黄色いヒヨコは黙ったままだ。何かしらの疑問を感じつつユウタは、転移門を開きメンバーと共に町の外へと移動していく。
町の外に出たユウタたちは、魔術で制御する絨毯に乗って移動する事にした。エメラルダとユミカは箒で飛行出来るのだが、一応全員そろって移動する。
「では、全員乗りましたね」
「うむ。だが、我は飛んで行った方が早いのだ。どうだろうか主ー」
「駄目だ」
「そうだの。あれじゃぞ、目立つ事この上なき事甚だしいのじゃ」
エメラルダの問いかけにドス子が妙な事を言う。ユウタが否定し、雪城がフォローを入れると一行はするすると絨毯に乗って移動し始めた。城門の外では、検閲を行う兵士と馬車や馬を駆って走る冒険者たちの姿が見える。荒れ果てた耕作地を抜ければ、すぐに冒険者たちの天幕が見えてくる。かなりの距離であったが、一行は暫く絨毯による浮遊と飛行を楽しむ。エメラルダの操る絨毯の乗り心地は満足するものであった。
ドス子に飛行させて移動させるのは無理があった。戦時ではないこの国で、巨大な竜の恰好のまま上空を飛び回ればどうなるか。最悪、討伐体に認定されてしまう可能性がある。その辺を言い含めるのであるが、赤毛の女はふくれっ面であった。気に食わないというのがありありと見えるのに加えて、腹を空かしているのだ。岩でもなんでも齧りそうな位の剣幕であったので、ユウタは魔力を食わせてやる事にした。
泡の園の力を使った漫画肉である。ハルジーヤで奪った食料から肉を選んで魔力を込めるのだ。ユーウから教わった一つがこれである。確かに、指定された魔力でもっ物質を膨らませると同時にモンスターという巨躯の魔物に対して満腹感を与えるアイテムになるのだ。竜であるドス子が満足を得ないのは、食事に魔力が篭っていないのが原因であるとユウタは推測していた。
絨毯から降りると、満足した表情のドス子と辺りの様子を伺うセリアとで対照的である。天幕が張られる冒険者たちの休憩所は、戦時といっていい様相を呈していて参加するユウタたちはそれを避けて移動するのだった。
「これからどうする? このまま森の中に入るか?」
「そっちの方が早くもあるが、あちらで冒険者たちのパーティーが組まれている。あれに参加するのはどうだろうか」
セリアが指を指す方向には、今にも出発せんと点呼を取られているレイド形態のパーティーがあった。ユウタが頷き、セリアが走っていく。帰ってきたセリアは、
「いいそうだ。入る方がいいのかどうかはユウタが決めるべきだ」
「うーん。六人で行った方が楽かもしれないのだけれど、まあいいか」
ユウタたちは、レイドパーティーの後ろについていく事になる。
ユウタたちを含む一行はずんずんと森の中にはいっていくのだが、良くある遭遇戦もないまま森の中にある騎士団の駐屯所まで辿りつく。道中に出てくるモンスターは、殆ど狩りつくされている様子であった。森の中では、火の魔術も遠慮なく使われていて火の手が方々で上がっているようである。延焼を示す煙が森の奥の方に向けて広がりを見せていた。
「全員止まってくれ。一旦休憩にする。進行方向については、騎士団で協議してからにするので暫く待っていてほしい。以上だ」
ユウタたちは、樽に座ったり冒険者たちを横目に見ながらイベントリから椅子を取り出して座る。レイドパーティに加わった事を早くもユウタは後悔し始めた。あまりにのんびりした進行に、気が急いてしかたがないのである。騎士団の雰囲気が落ち着いているのは、良い事なのであるが。
ユウタは、泡の園を使って結界探査を図る。広域マッピング機能とでもいうべきそれは、敵と味方の位置を正確に捉える魔術であり会得している魔術師はそういない。空間を支配する魔術を良くしたユーウならではの魔術であり、その特筆すべき点でもある。ゲームでいうところのマップに赤い点で示される機能のような物を作り出し、パーティーメンバーに見せれば戦況は一目瞭然であった。
待っている間、人間側が優勢に戦っている事に満足したユウタはそれをしまう。レイドパーティーのリーダーとなっている人間が騎士団の騎士を連れてきたのだ。誰かと思って視線を走らせた先には、ユウタのよく知る顔があった。その顔は、子犬系騎士のレオだった。
「皆さんありがとうございます。この度は参戦していただき、アーバインの騎士団として本当に心強い思いです。この森のゴブリンは、成長著しく手強いです。皆さんのご協力を何卒よろしくお願いします」
リーダー役が拍手を送り、皆も続いて拍手を送る。そして、一同に目を向けるレオの視線がセリアの所で釘付けになった。慌てる素振りはないのであるが、それでも口元がわなないていた。
「よーし、皆。出発だ」
「ちょ・・・・・・」
「ん。どうかされたか?」
「あ、いえ何でもありません」
リーダーである男は、ミハイルといいそれなりに出来る男のようである。レオの慌てふためきように不審な眼差しを見せていた。ユウタの隣に立つセリアの姿を見たレオは、出発する冒険者たちが移動し始めるとすぐに中の方に向かって姿を消す。セリアの方では、手を振って駄目だという合図を出していたのであるが、レオにそれが正しく伝わったのかは不明である。
人の住んでいたであろう小屋等とそれを補強したような家が建てられ、冊を拵えては要塞化を図っている。更には、ユウタが使う土木魔術と同様に堀を作り塀を作った外郭が見られた。その外に冒険者用の天幕があり、冊で覆われた格好で大きく森を切り開いた様子が伺える。単純に、百もレイドパーティーが入っているのだ。それらを計算にいれれば、あっという間に森が切り開けてしまう。
ゴブリンたちと出会う事なくユウタたちを含むレイドパーティーは、前線の左翼に位置する場所に辿りついた。会戦のような戦いではなく、どちらかと言えば森の中で行われるゲリラ戦の様相を呈している戦い。それで拮抗した戦いになっており、冒険者を含む騎士団には大した被害が出ていないままである。
拮抗しているのもここまでの話であった。
ゴブリン狩りに参戦したセリアがドス子が草を刈るように左翼に位置する相手を狩り始めたからである。罠が張られていようがお構いなし、そして降り注ぐ弓矢は弾くなり躱すなりであった。そうして接近すれば、果実のように弾け飛ぶゴブリンたちは、あっさりと恐慌状態になりそれを追撃するユウタたちのパーティーは左翼を壊滅状態に追い込むまでそう時間がかからなかった。
更には、
「モン狩りのあれじゃないか」
「主、それはなんなのだ?」
「い、いや」
ドス子が呼び出したのは、どこかで見た事の有るような巨大蜥蜴である。四足歩行を得意とし、稲妻を放つやつと土塊を飛ばして来るあれには、ユウタも苦戦した記憶がある。友人のオトモと化している苦い思い出にユウタは、騎乗を勧められるのであるが。
「あら、可愛い子じゃないですか。ユミカもさあ」
「ほ、本当に乗るのか?」
青と黄色の蜥蜴の背に乗るエメラルダとユミカは度胸がある。と一人ごちる羽目になっていた。何しろつい数日までは、敵だったのである。その背に乗る等、とても無理だ。という言葉を胸にしまう。他のメンバーは近接タイプなので騎乗には向かない。
馬ならば別なのであるが、地形的に騎乗しての突撃は用をなさないのである。あのまま森が放置されていたままであれば、このような巨大な蜥蜴と戦う事態になったのかとユウタは安堵していた。
ドス子は、ゴブリンの肉はお気に召さない様子であった。不味い、という言葉を肉と共に吐き出す。セリアと雪城は、レア級のゴブリンを秒殺していくのである。ユウタも魔術で補助するのであるが、味方が多い。従って、攻撃魔術よりも補助系か回復を選んで前衛の補助に努める。常に体力やスタミナといった素養を回復させるのが補助の醍醐味であり、HPバーが見えるのであればユウタはマックスにしておかなければ安心できないタイプでもある。
―――自分が敵ならばどうするか
ユウタならば、一旦部隊を下げて再編を図る所である。しかし、それでは逆転が難しい。ユウタの前で、セリアがデューク級の名付きと思しきゴブリンを仕留める所で全滅寸前のゴブリンたちが引こうとするのだったが。敵が決死の特攻を仕掛けてくる可能性もある。
そんな頃合いであった。