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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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125話 牛の迷宮

閲覧ありがとうございます。

「(水田をいきなり作り始めた時はどうかと思ったけど、米よく見つけられたな?)」

『そうだね。空間魔術で米を売っている商人を探して、買うだけなんだけどね。後、味噌とか醤油とかそこいら辺は忍者から買う事が出来るよ。彼ら作っているから』

「(え。それじゃあ、俺のしようとしている苦労って一体・・・・・・)」

『えっと。そんなに落ち込まなくてもいいと思うけど。まあ、忍者と味噌やら醤油を連想するのは難しいだろうけどね。少し頭を働かせれば、東の小さな島にある何々から来たどこかでみたような服装のそんな連中が、十字手裏剣やら苦無やら持っているのだからね』


「(ふんふん。そういえば、お前がプレイしていたVRMMOって何よ)」

『いきなりだね。僕のはヴァルキリーオンライン。爺がやっていたそれと似ているね。黄昏時を迎えるまでに鐘を全て集め脱出するっていうデスゲームをクリアーした矢先だったのに死んだし。運命って残酷だよねえ』

「(で、全キャラオールカンスト? 別アバターとか持っているタイプ?)」

『そだね。僕も全キャラ最強装備を整えるタイプだったよ。よく全盛り系っていわれてたね色々持ってたけど。こっちに資産もアイテムも持ってこれてないし。意味有ったのかどうか不明なステータスあったりするよ』

「(まあ・・・・・・似たようなもんか。爺は・・・・・・って寝てやがる)」

『みたいだね。うーん、これを見ているのもここまでかも。誰か気が付いたみたい。ユウタ、色々気が付いたよね』

「(そうなのかよ。ありがとな。刺されないようにがんばるわ)」


 ユーウの指摘に、ユウタは頭を下げるしかない。




 最初の一、二日は、ずっと一階に留まりパーティーのレベル上げに励んだ。ユウタはつまらないのである。しかし、全体のレベルを上げない事には二階に進む事すら難しい。

 ユーウは朝ご飯の支度を済ませると兄弟を起こしにかかる。


 その日は、何時も手伝いをしてくれているルーシアとクリス、オデット姉妹を朝食に誘ってみれば、ニコニコした顔で二人が現れた。銀髪を後ろで纏める次女のクリスは仏頂面をしており、ユウタは残念な気持ちになる。二人ほどクリスはユウタに対して心を許してはいない様子であった。


 三姉妹の父が営むのはパン屋であり、早々にユーウは手を付けている。味や腕は悪くないのであるが、拵えた借金で苦境に陥り、一家そろって身売り寸前の所をこっそり助けた。材料の仕入れや新規の客を呼び込む作戦にアドバイスしてみたりだ。


 当初は半信半疑だった姉妹の父コルトも経営が上向くにつれ、ユーウの家に出入りする事に何も言わなくなった。特に、石窯の改良などはユウタが手ずから行っており良い出来である。


 ペダ村で作っているのとかわらないそれにユウタは、愕然とする。パンを王都に売りに行ってもこれでは、勝負するのも辛いと感じた為だった。


 姉妹との朝食を終えると、ユーウは午前中の仕事に取り掛かる。三人は、魔術書を読み漁ったり何故かユーウの真似をして剣や拳を鍛えていた。下町に当たる外周部は治安が悪いという事でねだるルーシアにつられて色々教えている。 

 ユーウが拵えた巻き藁を見て、銀髪を弄るクリスが熱心に槍を模造した木槍を振るうオデットに尋ねる。


「ちょっとこれどうやって蹴ってるの?」

「それはこう蹴るのでござる」

「オデット。ござるはやめようね」

「うっルー姉が苛めるでご・・・・・・」


 ルーシアが咎めれば、クリスが取り成すといった風に和気あいあいとした雰囲気であった。薬草の栽培も軌道に乗り始めユーウが次に手を出すのは、歯ブラシや爪切りといった小物の開発である。

 

 あまり売れないだろうとユウタは考えていたのだが。それは、回復魔術の効果が再生を促すタイプの物であり、歯医者が失業するであろう効果を持っているからである。とはいえ、治癒魔術を使える術士の数は限られているため国民全員が魔術の世話になる訳ではない。


 とはいえ、ユーウは露店以外には商品を流通させる術を持たない。アルをこき使って無理やり市場を掻き回している有様だ。ギルドとの交渉事もまたアルに丸投げしている。アルの視線は時折複雑な物が混じっている為ユウタには判断がつかなかったが、悪い物は感じていない。若干尻の心配をするくらいであった。

 午前中の間に薬草とポーション作りを終えて、魔術の復習をする。一通り表の魔術はこなせるユーウだが、十六回連続でファイアを撃ちだすファイア・リボルバーや大量の水を生成した球をぶつけるアクア・スプラッシュといった惨事になりかねない魔術はアルたちと迷宮にでももぐらねば使用する機会がなかった。

 ルーシアが巻き藁にファイアを飛ばす。そこから離れた場所で格闘の修練をするクリスとオデットの二人。そこに混ざろうと言うのであろうクラウザーとアレスがユーウの傍に寄って来て、


「兄貴。俺たちも混ざっていい?」

「いいけど。怪我だけは気を付けてな」


 すぐにクリスたちと仲良く修行するようになっている。妹のシャルロッテは、もう四つん這いで歩くようになっていた。が、まだまだ目が離せないユーウは付きっきりである。そうして、妹を背負って水田の様子を見に行ったり、風呂屋の状況を観察したりすれば、すぐにアルが来る時間になった。




「今日もあそこにいくぞ」

「あそことは?」

「迷宮に決まっているだろ。早く支度をしろ」


 アルとの会話は、最初からこんな風になりつつある。どうにもユーウがアルの思考を理解しているという思い込みを少年は抱いている様子だった。通りの路面の改装をアルに提案する予定であったのだが。そんなユーウの都合などアルはお構いなしである。しょうがない。という溜息を飲み込んだユーウは迷宮に潜る準備を整える。大抵のモンスターを秒殺出来ると自負するユーウであるが、迷宮には底知れないボスがいるかもしれないのだ。 


 出る前に軽く試合を行うのだが、ユーウはセリアとアル以外の全てを瞬殺で倒した。セリアとは組み打ちの時間が大幅に伸び始めている。その日のアルは、初めて妙な剣を使ってきた。黒い刃を生成し、伸ばして来るのである。躱しざまにインベントリから取り出した鞭でアルの足をもぎ取り勝負は決したが。危険な技にユウタは、治療した後でアルの尻を出し、


「死ぬかと思ったんですがっ」

「けど、避けたじゃないか。どうしてあれを避けられる? まさかお前・・・・・・」

「ふふっ。悪い子にはお仕置きですよねぇ」


 手をにぎにぎとして黒いモノを顔面にのせたユーウがアルの尻に迫る。裏返しにされる恰好で抱えられたアルは必死の形相で暴れるであるが、


「わあっ、やめろ。せ、セリア。こいつを止めろーーーっ」

「アル様。自分でしでかした事ですよ。殺す気で無限剣その一をかけたでしょう?」

「う・・・・・・」


 金髪の少年王子に助けを求められたセリアは素気無く断る。

 次いで、パァーンという乾いた音が庭に鳴り響く。

 そういう出来事もあったりするのだが、ユウタは何時の間にかクリスとアドルが仲良さげに談笑しているのが目についた。金髪の少年と銀髪の少女は非常に絵になっていると。


 この時はぼんやりとしていたのが、後悔となってユーウのしこりとなっている。全く予想しなかった訳ではない。ないのであるが、ユウタはそれを阻止したり邪魔したりするのは気が引けた。なんともみっともない真似だと。


 シャルロッテの事の方がユーウにとっては重要で、その他の事は全て些事に過ぎない。そんな風であったから、自分の本心に気が付くのも遅すぎた。


 ユーウたちが向かったのは、牛神王の迷宮第二層だった。ユーウの転送門を抜ければ、すぐにギルドの転送部屋である。様々な人種の坩堝と化しているそこには、ユーウと同年代の姿は見受けられない。職員と話すアルの姿を横目に、ユーウは腕が立ちそうな人間の観察を行う。


 毎日通っては、モンスターを倒しているのだ。二層で出るモンスターはゾンビがより凶暴になったグールに、弓を使うアーチャースケルトンや剣で襲い掛かってくるソルジャースケルトンが追加されている。それを難なく倒しながら、ユーウたちは、他の冒険者PTをやり過ごして前進した。


 五層までは、順にアンデットモンスターが登場するような風である。

 ユーウは、息の上がるロシナとフィナルのコンビに合わせた進行具合に頭を悩ませた。


「アル様」

「なんだ。どうしたユーウ」

「この二人は、どうにかできないのですか」

「どうにか、か。言わんとする所はわかっているのだ。が、駄目な者ほど教育が必要だ。このままいけば、只の残念な嫌味を言う貴族の子弟が出来るので、連れて来ているのだ。そこを理解しろ」

「はあ」

「とはいえ、この進行具合では今日中に三層ボスを倒せるのか怪しい所ではあるな」


 理屈はユウタにも理解出来るが、今少し使える人材の方がいいのでは? と言いかけて口をつぐんだ。アルには、アルの考えがあって連れて来ているのであるし。ユウタとしては、あれこれと口出しする気もないのだが、足手まといになりかねない現状に危惧している。


 とはいえ、ユーウたちはその日の内に二層のボスと対面した。ボスがいると目される大扉を開け、中に入って行く。そうして待ち構えていたのは、マルデゥークゴーレムであった。


「よし。手筈通り、四隅にある台座に火をつけ奴の弱体化を図れ。盾役はセリア。攻撃が始まったら、前へ出るのだ」


 アルが命令を下すと、PTメンバーが四隅にある炎を燃やす点火台に火を灯す。今回の盾役は、セリアであった。注意を引くというよりは、全力で攻撃を繰り出す獣人の幼女にゾンビ化した石の像が反応する。槍や剣といった攻撃が通用しない相手である為、全員が魔術による攻撃か回復に回っている。


 マルデゥークゴーレムの魔術は脅威であった。全員に降りかかるであろうそれをアルの影術が受け止め、セリアの拳が石の身体を砕く。アルの使う影の膜で、ほどばしる雷の全体攻撃を防ぎながらの攻防であったが、やがて決着をみることになった。


「これで止めだ。稲妻無双突きっ」


 セリアの幾度目かになる攻撃が剥き出しになった核石を破壊すると、ゴーレムは動きを止める。時間にして五分程度であったが、その間にセリアは振り回される敵の腕を躱しながら内剄を叩きこんでいた。 


 問題はその後であった。ボスを倒した頃合いを見計らったかのように扉を開け、中に乗り込んでくる男たち。彼らは一様に黒い外套を纏った冒険者風の居出立ちをしている。ユウタたちが警戒の色を強めると、前へ出た髭面と眼帯が特徴的な一人の男が胴間声を室内に響かせ、


「おう、餓鬼ども。ご苦労さん。ちょーっとおじさんたちと遊んでくれねえか?」


 その言葉が終わるや否や、ユウタは空間魔術を発動する。無詠唱で放たれるそれは、不可視であり風船状で相手へと迫った。ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる男たちに向かってアルが口を開く。


「ふん。それで、どう遊ぶというのだ。どうせ、身ぐるみを剥いでどこぞに売り飛ばそうというのであろう?」

「おおよ。ま、そんなとこだな。見たとこ金になりそうな鎧を着てるじゃねーか。置いてけや、なんてことは言わねえ。野郎共、さっさと・・・・・・・ぎゃあああああ」


 そこまでにやついた顔をしていた眼帯の男は、突然消えた自らの足とそこからくる激痛に悶えて倒れる。倒れた男が目にしたのは、同様に倒れ伏す男の仲間であったに違いない。ユウタは、面白くもなさげに吐き捨てる。


「汚物は、消去するに限ります。主に、肥料となって自然の輪に帰るのがいいかもしれません。あ、そうそう僕は悪党には特に、厳しいんです。楽に死ねると思わない事ですよ?」


 ユーウの言葉に、ロシナもアドルも顔面を蒼白にしている。普段は温厚そうな風体と言動をするユーウなのだが、盗賊やら追剥やらといった弱い相手ばかりを狙う人間には容赦がない。投げた素振りすらみせないやり方に相手は、あっさりと嵌ってしまった。地べたに這いつくばる男たちが血だまりを作り、ユウタが指をぽきりぽきりと鳴らす。


 しかし、それを見たセリアが背中に背負った槍を手に持つと、相手に止めを入れていく。ユーウは、少女に強い不満の視線を投げつける。


「おやおやセリア。僕の邪魔をして、只で済むと思っているのですか?」


 冷たいユウタの声を抵抗するように、セリアは顔を左右に振り、


「駄目だ。如何に悪党と言えど、騎士として見過ごす事はできない。彼らにも慈悲の心で死なせてやるべきだ」

「ほほう。しかし、この男たちの毒牙にかかって倒れた人々はどうなるんですか。やられ損じゃあありませんか」

「それは・・・・・・死を以って清算とするべきだ。違うか?」


 周囲にいる仲間の顔を伺う。ロシナ、アドルは同意する様子で頷いていた。エリアスも泡を吹いて気絶してしまった金髪デブ娘の介抱をしながら頭を縦に振る。次いでアルの方向を見るユーウの視線に映ったのは腕を組んで瞑想する幼い少年の姿だ。


「天空で燃える太陽よりも尚熱く燃え盛る怒りか。誠に美味しい・・・・・・ん」


 ユーウの視線に気が付いたアルは眼を開く。そこに声をかけるユウタ。


「アル様はどうお考えですか。セリアと同意見ですか」

「いや、私としては・・・・・・たっぷりとお仕置きしてから死刑にしてやるのはおおいに結構。胃の腑がせり上がるが如きゴミクズどもだしな。徹底的にやって見せしめに晒してやるのが良かったのだが、それはそれでやり過ぎという声が上がる事も懸念されるか。そうだな、ユーウよ。後で、セリアを好きに訓練で揉んでやれ。それでいいだろう?」


「わかりました。ここは、迷宮ですしね。訓練を楽しみにしていてくださいね」


 残っていた敵の男たちを始末しおえたセリアは、その声にぶるりと身を震わせた。ユーウたちはボスドロップを回収し、男たちの身ぐるみを剥ぎ取って移動する。

 良く有るような・・・・・・初見で幸運にもレアドロップなどそうそうありはしない。


 


 三階の入口は、やはり赤茶けたレンガで出来た壁で覆われていて、壁には一定感覚で光を放つ光ゴケが光彩を放っている。一層ずつが広大な面積を誇る迷宮であり、その特色として月毎に内部の構造が変化する仕組みになっているのがこの牛神王の迷宮と言われる地下迷宮の売りでもある。ユウタたちは、ユウタの駆使する空間魔術のおかげで階を飛ばして転移する事ができるのである。


 一般的な冒険者たちは、何日もこもりきりになる事が少なくない。それを楽に進めるユーウが習得した魔術は、既に数千を超える。基本的な魔術も結局の所、自身が極めんとする空間魔術の一部であった。メガファイアやギガファイアといった上級火属性魔術も水属性魔術も結局の所、空間魔術を強化する為の修練だ。魔術の打ち合いにおいて、ユウタはエリアスを徹底的に打ちのめしていた。


 よくある俺TUEEである。最も、力を隠そうとしないのでアルに利用されるのであったが、本人は特に気にしていない様子だ。詠唱を破棄し、詠唱する工程を無視した魔術の技もこの時から始まったと言える。神世の時代が終わりを迎えていないこの時代にあって、ユーウの技術はエリアスの一門を魔術世界において圧倒的な優位へと導くのであった。


 元々は、魔術師としての力量というのは、唱える呪文の構成力と魔力の量によって決まると言われていたのだが。そこに、ユーウの開発したなんちゃって魔術が浸透する事になる。それは呪文を圧縮し、魔術の円陣を簡略化して展開する技術の進歩であった。それが、キューブに書き加えられるようになり、商人や魔術師のイベントリになっていくのは大きな進化といえる。


 そういう事でユーウがちょっとした魔術を使えば、


「ねえ、ユーウ。それ何なの?」

「うん? ああ、これは・・・・・・」

 

 と言う風にユーウは何でもペラペラと喋っている。仲間という事で、戦力を増強する為でもあると割り切る幼子は丁寧に魔術の骨子を教えていく。蜂蜜色の金髪と同様に瞳を輝かせる幼女の額には汗が光っていた。それも当然の事であった。ユウタが何気なしに使って見せる魔術の一つ一つが、エリアスの見知るそれとは違う。


「フィナルを運んであげるなんてユーウは優しいよね」

「・・・・・・僕を褒めたって何も出ませんよ。後、そんな事いうならエリアス。君が運びなよ」

「やーよ。そんな重力を制御する魔術の使いっぱなしなんて勿体ないじゃない。そんな魔力があるのはユーウくらいのモノよ。あ、そうそう今度うちに来ない? シャルロッテちゃんにいいプレゼントを用意したの」

「へえ。じゃあ・・・・・・」


 そこまで、話した所でアルがエリアスを引っ張っていく。

 無言で引きずっていく恰好に、ユーウは目を見開いて見送った。

 そこにヘルムのバイザーを上げたアドルとロシナがユーウに絡む。


「ぷふっ。いやなに、もてる男は辛いね?」

「どうしてそうなるんだい。今のは、シャルロッテのプレゼントの話だろうに」

「はあ、まあ、これだからリア充という奴は爆発しろ。爆発ぅ」


 デブのロシナが怒りの強声を上げた。ユーウは無言で、ロシナの丸々と肥えた頬を左右に引っ張る。


「ああん? 僕には何を言っているのか聞こえません。豚の声が聞こえますけどねえ」

「痛いっ。ちょっ痛いって。やめっ」


 腹を抱えるアドルを他所に、ユーウとロシナはじゃれついていた。そんな男たちをセリアが強く戒める。説教されるのになれていないユーウは当然のように顔面を真っ赤にしていた。そこに、アルとエリアスが戻ってくるのだが、エリアスは顔面を青くしている。


 アルとエリアスはモンスターを引き攣れていたのである。慌てた皆が戦闘態勢をとる。大量に湧いて出たのは剣を引っ提げてカタカタと骨を鳴らすソルジャースケルトンであった。迎撃する為にユウタが魔術を飛ばすのが合図となり、一方的な殲滅戦が始まる。


 基本的に、経験値が分割されてキューブに入る事でLVが上昇する仕組みになっているのである。それを効率よく得ようとすれば、人数は必然的に六人が最適なのだ。しかし、ユウタたちのPTは七人。壁二人に遊撃二人、火力二人、回復一という風である。殲滅をするためにフィナルを叩き起こしつつ、構成を変化させる事で補うのであった。


 魔術を上手に使えないアドルを壁にし、魔術を使えるロシナとアルの二人にセリアを加えたメンバーが火力に回る恰好である。スケルトンが近づくたびに仲間の身体がばらばらになり、炎が骨まで炭化させていく。のであるが、動く骨である彼らには恐怖といった感情はないようであった。ユーウは、赤い火球であるファイア・ボールを投げつけるようになると戦いは終わりを迎える。


「ふう。で、どうしてこうなったんですか?」


 二人がモンスターを引き連れてきたのである。

 ユーウは、額の汗をぬぐう。背中ですやすやと眠るシャルロッテの身体を前に持ってきて、そのの寝顔を眺めた。満たされた表情でうっとりとするユーウには、疲れの色が全くない。

 それを見つめるアルは、羨望にも似た目の色と声音を見せ、


「えっと、それはだな。ううむ、私の魔力に反応してモンスターがより集まってきたのだ」

「そうです。アル様があんなところで私に神術をかけようなんてするせいですからねっ」

「アル様? 何でそういう事を仲間にしようとするんですかっ」


 エリアスの言葉に触発されたユーウはアルに詰め寄り、がしっと肩を掴む。

 ついで、空いた片手でアルのヘルムをぽこっと叩く。


「駄目ですよね? そういう事をしたら」

「いたっ。お前、私を何だと思っているのだ。あと、その・・・・・・顔が近いっ」

「ふむ。そうですか、人の話を良く聞かない子にはお仕置きが必要ですねえ」


 アルは顔を赤らめて、ユーウに抗議するのである。

 しかし、そんな少年にユーウは黒い感情を乗せた視線をじぃっともせずに投げ続ける。


「わかった。もうしない。しないから放せ」

「わかればいいんですよ。これで、良かったかなエリアス」

「ええ。でもアル様はユーウには弱いですね。これはますます・・・・・・」


 と言う風に三人が話をしている他所で、セリアが進路の罠を解除して戻ってくる。

 ロシナとアドルが、残ったアイテムなどを回収してはユーウの作ったアイテムを入れる収納鞄にいれていく。これ一つですら、一財産が築けると目される魔道具のアイテムだ。ユーウの作るそれは、神秘を行う魔術師たちにとっても規格外と言わざる得ない物を造り出していた。

 

 アイテムを拾い終えて一行は進み出す。赤茶けた迷宮を進む事半日程であろう。ユーウたちは、三層のボス部屋前に辿り着く。そこでトイレや食事になるのである。が、冒険者たちはそこらじゅうに糞をしたり飯を食っていたりする為異臭が漂っていた。糞もしょんべんも迷宮が吸収するのであるが、匂いだけはそこに残るのだ。


 ユーウは、クリア・エアの魔術を使って空気を浄化する。これは、空間魔術ではない。風属性の魔術であり、ユーウにとってさほどの労苦も要らないのである。しかし、それもエリアスにとっては驚きに値する魔術であった。迷宮と言えば、強い異臭を避けるためにきつい香水は不可欠なのだ。それが、不必要となれば魔術師の飯の種は更に増える。


 ユーウが開いたシートに皆座ると作戦会議と飯が始まった。

 

「三層のボスは、ブレードスケルトンよ。巨大な体躯と両手が大剣状になっている奴で、中々の強さと雑魚を召喚してくるのが曲者ね。部屋のスペースが限られているので、盾役が一人に火力で薙ぎ払うのがお勧めらしいわ。セリアもロシナも遠距離で攻撃して、さっさと終わらせましょう」


 エリアスの言葉に全員が頷く。幸いにして、ボス部屋の前で待機している人間はいない様子である。ユーウたちは、通過してくる際にかなりのPTと遭遇しているのであったが、二層で出会ったような冒険者とは出会わなかった。セリアが中に人の気配を感じない事を告げ、大扉をアドルが開けて中を確認する。そうして一行が中に入ると、ガチャリとした音が扉から聞こえた。

 一行が目にしたのは、黒い骨の巨大なスケルトンであった。

 それに態勢を整えたPTメンバーと頷き合うアドルが、


「行きますっ」


 と叫び、戦闘が始まる。

 フィナルが治癒魔術を連打しながら、その横では火力となったメンバーが持てる技を叩きこむ。

 ユウタは、補助魔術をかけながらアドルの動きを援護する。幾度目かの大剣がアドルに致命的な隙を襲うのであった。が、ユウタはそれを土の防護壁で防ぎ、火力に取り付こうとするアンデットの動きを土魔術のよるアース・バインド。《土よ、固き腕にてそのモノの動きを止めよ》それで制する。

 

 これは、倒しても倒しても現れるボス戦ならではだった。 


 セリアとアルが放つ炎の槍がブレードスケルトンの止めを刺す。図体がデカいだけに、攻撃力は確かなものがあったのである。けれども、それだけに頭部もまた当てやすい。乾いた音が鳴り、巨体が崩れ落ちれば召喚されたスケルトンたちも消えていく。


 周囲を伺う様子のセリアにユーウは声をかけた。


「また、二層のような連中は居ないの?」

「ん。ああ、ああいうのは稀にしかいないからな。冒険者をする同業者狩りというのは、もう少し旨みのある階層でする物だ。手強い相手は、深層にこそいるだろう。正直いって、このメンバーでいくのは不安があるが・・・・・・ユーウが居れば大丈夫か」


 二人が会話している横で、フィナルやエリアスといったメンバーは息切れが酷い。やはり、女性の冒険者というのはこの世界でも一割程度しかいないのが常識である。結局の所、強姦の問題が多分多くてさらには肉体的精神的にも弱者に位置するのだ。


 その横でロシナとアドルは、せっせとアイテムを回収し金に換える準備をしていた。休憩するのは、四層の入口の予定である。全員が疲れている訳ではないのだが、ボス部屋に他のPTが入ってこようと外で待っている可能性は多分にあった。ユーウにはそこで疑問が湧き上がって来る。


 一番元気そうなアドルにユーウは話を振る。


「ねえねえ、この迷宮ってそのボス部屋に先に入った人間がそのまま居ると、どうなるの?」

「えっと、それはね。先に入ったPTのせいでボスが湧かなくなるね。あと、扉は倒した後すぐに開く仕組みになっているみたいだよ。あ、これはこの迷宮だけの特殊な仕様であったりするから気をつけてね。というのは、迷宮の中には扉なんてない物もあったりするから」


 ユーウは、アドルの答えに頷きながら四層の入口にある休憩スポットに腰を下ろした。

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