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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
126/709

122話 過去1聖歴1100年(半年は動けない。3歳までぼちぼち4歳で、そろそろ)

閲覧ありがとうございます

 ユウタが瞼を開ける。周囲を見るユウタの目に飛び込んできたのは、一面白色で塗りつぶされた空間であった。重い身体を起こしたそこには、一人の爺と少年が椅子に座っていた。

 爺は、元のユウタの顔をしている。寝たきり状態になる前の社務服のような物を着て髭を撫でていた。


 少年の方は目つきが悪い。だが、かなりの美形である。日本とは違い、ミッドガルドには美しい男女が多い。ユウタが目にした中でも、そこら辺に転がっているような人間とは一線を画す物があった。

 その少年が目をしたたかせ、


「あ、気が付いたみたいだね。僕はユーウっていうんだ。君はユウタだよね」

「ん。何で俺の名前を? それに俺の身体が二つある?」

「馬鹿もんっ。ワシはお前じゃ。こやつもお前でもある。察しが悪い奴じゃのう」


 爺がユウタに近寄ると拳骨でユウタの脳天を叩いた。星が頭上を回りそうなダメージを受けつつ、ユウタはえづいた。


「ぶほっ。爺ぃてめえ」

「汚いなあ。僕は、こんな人に身体をわたしちゃっているのか。大変だよ」

「うむ。じゃが、こやつはお主とワシが融合した結果でもあるのじゃぞ」

「そうだね。でも、もう少し頭を使ってくれないとユウタは殺されるよ」


 ゲロをまき散らしたユウタが立ち上がる。二人を睨みつけ、腕を組む。


「言いたい事いってくれるが、俺だって色々気を使っているんだぜ? ユーウくんよお。君のおかげで俺の予定は、散々な目にあっているんだけどな」

「そうかもね。でも、君がやってきた事だって随分とヘタレていると思うけどね。だって、奴隷なんだしずばっとやっちゃえばいいじゃないの。奴隷を縛る魔術を強化する方法を考えるとか探すとかそういう方向にいかないし。方々で女の子にちょっかいかけるし、金がないのも村に寄付し過ぎだよね。というよりも脳味噌が少し足りない? 残念だよね」

 

 端正なマスクをし、言っている内容も悪くないものである。では、あるのだが。お前が言うか。という内心がユウタの胸の裡から湧き上がってくるのであった。

 

 ユーウがユウタの方に、指を指して向けてくる。その仕草に、ユウタは苛立ちを覚えた。この餓鬼が全ての元凶にも見え、ついでに図星をつかれたのである。それでむかつかない訳がない。


「五月蠅い奴だなあ。俺だってそんな事は百も承知だ。やりたいからやっているだけだ。ちょっと下世話な気持ちはあるけどな」

「まだお主は引きずっとるのか。いい加減諦めんと、わしのようになるぞ」

「そうそう。この爺さん、僕であり君でもあるけど。最悪だよね。方々で女の子を助けては放置するし。一人身のまま死んじゃう女性を量産したりしてさ。ユウタも愛を貫くって恰好いいとか思ってるんでしょ」


 言われたユウタは、一瞬であるが言葉に詰まった。爺のようになるのは、御免被りたい。だが、それでも。それでもやはりそれは一つ。天に太陽が一つで、月が一つであるように。


「駄目なのか? 人の好きにさせてくれ」

「そうはいかないんだよ。アルーシュの事だけど、彼女の事どう思っているの?」

「どうって、生意気な餓鬼だろ。あと、強引すぎて雰囲気の欠片もない」


 ユウタの想像するアルーシュといえば、黒スライムのような女である。変身を強要したのも彼女であった。その強引さは、今まで出会った誰よりも強固だと断言できる。加えて、関係を強要してくるのもいただけない。優しさも見せてくる。だが、それでも。

 そんなユウタに説教をするユーウ。何時まにか纏ったマントをばさっと翻し、背中越しに語る。


「あちゃあ。もう少し、彼女の乙女な部分を褒めたりしないと駄目だよ。あと、あまり構って上げないと僕がやられたようにいきなり殺されるからね」

「は? ユーウ、君弱いの?」


 ユウタには、疑問であった。ユーウは比類なき力を持っていたようである。その少年が、敗れるのはどうにも納得がいかない。たとえヘタレがこじれていたとしてもだ。


「ええ? 結構強いと思うよ。でも、彼女の無限剣【我が剣は何処までも貫く】は避けられない」

無限剣インフィニット・ブレイド?」


 無限? と聞いてユウタは思わず聞き返していた。ユーウの言葉に嘘は感じ取れない。言葉が強壮なだけにユウタは不安に囚われた。


「うむ。彼女の黒い剣は、何処までも伸びる。如意棒みたいなもんじゃと思えばよい。が、それだけでないのが厄介な所でな。各種チート満載なやつじゃよ。他にも黒薔薇の剣ともセイヴァ―・ジ・エンドと呼ばれとるやつがあるのだがの。ああいうのが、チートキャラじゃと言えるじゃろなあ。ちなみに―――VRMMOユグドラシルオンラインを準拠したワシの能力が解放されれば楽勝じゃが」


 自信満々といった表情を作る爺にユウタはキタネエという言葉が出そうになった。

 他にもゴッズ・オブ・ウォー等と口をもごもごさせた爺は照れる。

 ここはVRMMOなのか? という言葉は一旦置く。

 ユウタは思いの丈を爺にぶつけ、


「じゃあ。早く解放してくれ。あの生意気な小娘をひーひーいわせて、セリアもぼっこぼこにしてやる」

「無理でしょ。君、殴られても反撃できないでしょうが」

「じゃあ、お前らなら勝てるのかよ」


 ジト目を向けるユウタに、爺と少年はそっぽを向く。


「爺ならどうかな」

「わしゃ逃げるぞい。泣く子と女には勝てん。と言う訳でじゃが、抜け穴もあるのう。例えば、人に害を成す糞アマとか糞ビッチとかならば成敗するのもできるんじゃないのかの。裏切りを働くとかのお、まあそうそうないんじゃがね。罠なんぞ食い破ればよいわけじゃし」

「結局セリアに勝つ方策が示されてねーぞ。おい」


 水を向けられた爺であったが、勝てる勝てないにはぼかしを入れている。要は勝つ見込みがないのであった。ユウタは間髪を入れずに指で突っ込みを入れた。

 そして、ユーウがユウタに弁解をしていく。


「戦闘じゃ勝てないって事だよ。魔術あんまり得意じゃないでしょ。なんちゃって空手、ええとなんだっけ我流地球空手だっけああいうの使えるようになるまでお預けかな」

「ふーん。で、なんでお前等が突然俺の前に出てくるの」


 鼻くそをほじりだしそうな雰囲気を出すユウタ。はっきりと信じられねえという言葉が目に見えてきそうな様子であった。その様子に呆れるユーウがどもりながら、舌を動かす。


「それはね・・・・・・君の力が失われ、封印が解かれたんだよ。ま、そういうやり方もあるんだなあってのが、僕の感想だけど。わからないかな、魔力が回復が遅いの」

「ああ、言われてみればそうだ。どういう事だ」


 ユーウに言われるまでユウタは全くわかっていなかった。単に、そういう事もあるか。という具合でしかない。緊張感が足りないユウタに、爺が言葉を紡ぐ。


「少しは、頭をひねれと言われとるじゃろうに。聞かぬは一生の恥であるぞい」

「要は、童貞を失って魔法使いじゃなくなったって事。最強の魔法使いも、今は只の人だよ。でもって、ああ。健一郎くんだっけ。彼と同じようにVRMMOからの力を引き継いでたりするんだよね。神様転生も強いんだけど、引き継ぎになったのは爺の影響だよ。僕は幼少の頃から能力を磨いて、それで開花し始めたんだ。おかげで色んな事を何とか乗り切れたよ」


 納得のいかない話であった。ユウタとしては、0歳から魔力を上げるなどしてみたかったのである。今も、便利な魔術は手放せない物ではあるが。ユーウの表情を見るにつけ、何かを察する事が出来た。


「へえ。じゃあ、もしかしてそのそういう事か? 記憶を呼び戻すとかそういう感じのあれか」

「そういう事。だから、僕の記憶をしっかり見て忘れないでほしいんだ」


 ユーウは何処からか取り出した杖を構えると、ユウタに向けて魔術の詠唱に入る。初級と下級しかしらないユウタであるが、それが何なのかを理解する事が出来た。脳のあれをコンバートか移すような魔術であったと記憶している。

 まだ質問を抱えたままのユウタは焦った調子で、


「おい待った。俺の質問がまだあるんだってっ」

「それは、体験しながらにしときなよ。それじゃあ、いくよ」


 ユウタの言葉は途切れた。








 ユウタは、ユーウの生を追体験する事になった。少年ユーウは、王都ヴァルハラに生まれて、そこで育った。そして、かつてのそこは物凄く不衛生であった。黒髪を結んだ少々ふくよかな母親の顔が、ユウタの目の前にある。当初から自意識を持っていたユウタ。当然ながら、すぐに異世界だという事に気が付いた訳ではない。小柄で、くりくりと動く目が特徴的な母親はユウタを見つめながら、


「あらあら、ユーウ起きたの。今お乳を用意するからね」


 ユウタは、断ろうとした。だが、身体は全く動かない。そうこうしている間に、授乳を強制されたユウタの目に飛び込んできたのはがりがりに痩せた金髪の男だ。会話を聞いているユウタは、この男が父親である事を理解する。

 ユウタは、毎日毎日動けない日々を過ごした。


 ようやく身体が動けるようになったのは、生後半年が過ぎた頃であった。そして、異世界だと確信を持ったのもその間の出来事によってだ。半年の間に、目にした魔術や食事の少なさからこの両親が貧乏である事を理解する。食事は、一日に二回でユウタは常に飢餓に悩まされた。這って動くどころか、直ぐに歩けるようになったユウタの事を両親は手放しで褒める。キューブの出し入れは、直ぐに教えられた。自身の生命活動にとって必要不可欠な事だと父親は、言う。確認したユウタの目に飛び込んできたのは魔術士LV一であった。


 ちなみに、ユーウの父グスタフは聖騎士(パラディン)でLVは二十だという。

 母アンナは侍祭(アコライト)らしい。


 四足で這いまわる。そんな日々を過ごすユウタは、


「(なあ、おい)」

『ん。どうかしたの』

「(とてもつまらんのだが)」

『そりゃあ、赤子だしね。でも、この時点で魔術やらの存在には気が付いたし。家には、剣とか魔術の本とか古いのがかなりあったのに気が付いた?」

「(そういえば、そうだな。わりと広いな)」


 身体の操作はできない。やはり、ユウタはユーウの行動になんら干渉する事が出来なかった。つまり、見る事感じる事は出来てもユーウの過去なのである。

部屋を歩き回り、魔術関係の本を見つける。それに没頭するユウタは、疲労感に襲われた。食事が少ないので、常に飢餓状態から抜け出せない。両親は、ユウタに構う事はあるが基本的に付き纏う。ユウタは居心地の悪さを逆に感じていた。常に両親は、ユウタの事を褒める事しかしないのである。


「(なあ)」

『何かな』

「なんで俺にはユーウの記憶がないんだ?」

『それはよくわからないけど。多分、僕がアルーシュを怖がっているせいだろうね』

「なんで怖がるのかわからん」

『彼女と付き合いが長くなればわかるけど、変態だよ。人のパンツ被ってみたり匂いを嗅いでたりするねあと、ストーカーしてくるし。人前で愛の歌を歌ったりする困った子だよ』

「そうか。でも、俺の前ではそんな事ないがな。いや、気が付いてないだけなのか?」


 立って走れるようになったユウタは、ひたすら魔術陣の構築をしていた。常時魔力を使いきっては回復を待つ。そんな定番のやり方にユーウは、切り口を変えている。亜空間を作り出し、そこに魔力を貯め込んでいく方法であった。0歳時から二歳過ぎまでは、常に魔力を貯蓄してから錬成と収束を経て放出を行う。この時点で、国にいる魔術師の大半を越える魔力を得るに至っていた。


「(大したもんだな)」

『そうだね。僕も必死だったからね。ちょっと見ていてわかったと思うけど。僕の家アルブレストはとっても貧乏さ。子供に出来るのって、それこそ石運びとか身体を売るとかしかないからね。水売りも考えたけど身体が出来てないし、きついって考えたんだ』

「(なるほど)」


 ユウタが二歳を超える頃、一つの変化が訪れた。赤子が家にやってきて、そして母親が家から姿を消したのである。不思議そうにユウタは、家の中で母親の姿を探し求めた。けれども、何日もの時間が過ぎた所で彼女は帰ってこない。父親は、痩せた頬に悲しげな瞳を乗せていた。


「お母さんはどこ?」

「ユークリウッド。お母さんはな。遠いところに旅立ったんだよ。すまないが、この子をシャルロッテの面倒を頼めるか」

「うん。任せてよ」

「よし。いい子だ」

 

 ユウタは父親であるグスタフに頭を撫でられると有頂天になる。

 が、それも一時の事であった。悲しみに暮れる男の姿にユウタもまた絶望に襲われていた。全身が、虚無感に襲われて何もする事ができない状態である。ただ、赤ん坊の世話だけは兄であるユウタの義務なのであった為続けていた。

 この世界は、粉ミルクのような物が存在する。味は、絶望的に不味いのであるが赤ん坊にはそんな事はわからないのだ。ユウタも通った道であった。


「(おい。名前ちがうくないか。んで、これ何とかならなかったのか。酷いってレベルじゃねーぞ)」

『それについては、父さんも口を閉ざしているからね。よくわからないんだよ。都合よく回復魔術で助けられるっていうのが、あるけど。そうそうタイミングよく呼んでくれないと、無理だし』

「(そこはお前。神通力とか予知とか、勘みたいな物はなかったのかよ)」

『あればよかったんだけど、予知とかそういうのは僕にも習得できなかったんだよ。この時点ではね。直感ともまた違うしね。これは、自らの事柄に関してのみを対象にとるスキルらしくてね』

「(あと、爺はどうして反応しないんだ)」

『僕に任せるってさ。めんどくさがりなのは、君と一緒じゃないかな』


 ユウタは絶句した。自らが、めんどくさがりであり村の発展や振興を村人任せにしている事を痛烈に皮肉っていたのだ。ユーウに言われるまでもない事であるが、自らは別のやり口で道を切り開かねばならない。そうユウタは確信を抱いている。

 

 ともあれ、ユウタはその日からシャルロッテと名付けられた赤子を背負って活動する事になる。その目線は、遠くを見据えていた。三歳になる頃、ユウタは転職の神殿へと足を運ぶ。赤子を背負ったままの状態では、相当な疲労があった。だが、ユウタは初級の魔術をほぼ全て習得し終え魔術士としてのレベルが九十九まで上昇し、LVが上がらなくなっている。


「(これってもしかして、魔術の空撃ちでもEXPが入ってくるのか)」

『ちょっと違う。亜空間に魔力を貯蓄する際に、肉体の成長を促してたりするからね。どちらかというとスキルの使用にあると思う。あと、魔力の貯蓄が大きくてポーション作り若干ってとこかな』

 

 同時期に得た市民、戦士、弓手、治癒士、神官等といった職はLVが殆ど上がっていない。昼は、魔術を使用して魔力を亜空間に貯蓄する。夜は、夜で回復系のポーション作りに精を出していた。赤い液体を瓶に入れては、インベントリに入れていく。収納袋を開発したのも、自身にはそれを背負う体力がないためであった。


 錬金術士としての腕は、かなりの物であるが魔術士として飛行やその他の魔術を練習する事にかまけていた為転職が可能なほど上昇していない。また、モンスターとの戦闘経験も王都の周辺などであったが、背中にいるシャルロッテの事を考慮すれば正面からモンスターと戦う訳にはいかない。遠距離から無傷で対象を仕留める等の安全な狩ならば考慮にいれるのである。


 一年で、王都近辺の雑魚モンスターはユウタが狩りつくしてしまった。ウルフやらスライムといった雑魚モンスターたちは、ユウタの手で処理されている。雑魚モンスターを相手にするよりも、王都の外に出る事のほうかユウタの足にとって負担であった。なんせ背中には赤子を背負っているのである。いくら年頃の少年へと魔術で変装していたとしてもだ。


 一旦外へと出てしまえば、後は空間転移の魔術を使って移動していた。


 ユウタが転職の神殿に到着すると、直ぐにゲートの雛形となる魔術を用意する。ユウタの行動範囲は、基本的に家の周りと王都の外だけであった為神殿に歩いて移動するのは冒険であった。遠見の魔術でいかに経路を確認していたとしても、実際に移動する際には心臓の音がばくばくと打ち鳴らされていた。


 幻影(リィ・シャドウ)の魔術を使い、年頃の少年に化けシャルロッテを背負う。そうして辿り着いた場所であったのだが、ユウタは子供が神殿に居る事の違和感にそうそうに気が付く。


「(おい。これどうすんだ。周りは、明らかに不審がっているぞ)」

『大丈夫。幻影の魔術を使ってるし、催眠を受付にかけて直ぐに転職させてもらえるからね』

「(いいのか?)」


 ユウタは、手の平にべったりとしたものを感じていた。それは、汗でぬめっているのだが同時に緊張していた事を指し示している。手の先には、魔術を放つ為の円陣が描かれていた。一瞬の事で、周囲の人間は気が付いていない。だが、転職の巫女への案内を約束されて移動する。


 転職の神殿に努める巫女も驚いた表情を見せたが、淡々と転職の儀式に入る。九十九でなくとも錬金術士から上の職へは転職が可能であったが、ボーナスステータスが勿体ないと判断したのだろう。ユウタはそのまま帰る事になった。転職の神殿に努める受付嬢の催眠も解いておく。


「(すげーびびったんだが、大丈夫なのか)」

『そりゃね。緊張していたのは、一世一代の賭けみたいなものだったのは否定しないよ。巫女様が見破って騒いだらどうしようかと思ったけど、そんな事はなくて良かった。実際、彼女に催眠が効くかどうかは確率的に低かったしね』

「(巫女さんかなり出来る人っぽかったしな。幻影の魔術が良く出来てたって事か?)」

『それもあると思うよ。けど、見破っても黙っていてくれたのかもしれない』


 ユウタが、神殿を出る際に一人の少年とぶつかる。横にずれて避けようとしたのだが、白地に金の縁取りをした豪華な衣装を着た少年が駆けてくるスピードが速すぎた。突き飛ばされる恰好になったユウタの怒りは、ぐつぐつと煮えたぎる大鍋のようである。背後に背負ったシャルロッテの状態を確かめ安堵した。ユウタを突き飛ばした少年は、物でも見る視線をユウタに投げる。


「ふん。愚民が邪魔立てするとは何事だ。芋虫が我に触れようなど、無礼であるぞ」

「・・・・・・」

「貴様。な、何をする。うわぁぁあー」


 ユウタは手刀で気絶させて物陰に少年引きずりこむ。着ている物を剥ぎ取り、代わりにユウタの襤褸服を押し付けた。服といっても、何日も同じ服を着ている程貧乏なのだ。当然ながら、匂うそれをユウタは少年に着せてやる。


「(酷いやつだな。追剥かよ)」

『そうだねえ。僕としても、手加減はしたつもりだよ。匂いつきの服と交換するって事でさ。別に全身の骨という骨を砕いて放置してやるというわけじゃないし』

「(お前、男にどんだけ容赦ないんだ。お前、パンツ忘れてないか)」

『流石にそれはちょっと。この時は、まだシャルロッテもおむつしてなかったしね』


 妹であるシャルロッテの事になると、ユーウは見境を忘れる。

 そう感じたユウタは、ぶるりと身を震わせた。

 

 家に帰るのは、物陰で空間魔術を使用して一瞬であった。家に帰れば、日々の稼ぎを得なければならない。だが、家には使用人もおらずまた家の中の事はユウタがせねばならなかった。ユウタが開発したクリーンの魔術やクリアもこの頃の苦労があっての事だ。

 

 ユウタは母親がいなくなって、家の周囲で薬草摘みもやっている。父親は、仕事についているのだ。そして、家に金を多少おいていくだけであった。日々の食事は、切り詰めなければならない。粉ミルクを作るのもユウタの魔術を使って、適温まで調節した物である。ユウタは食わない事もあった。けれども、シャルロッテのミルクを切らす事はない。


 そうしている間に、薬草を摘むだけではやっていけない事をユウタは早々に感じていた。回復薬へと生成できるそれを、とある場所へと持って行けばゴルへと換金してくれる。場所の名前は、冒険者ギルド。よくあるゲームで、ユウタにとってはおなじみの場所だ。


 そこで素材として換金できるのだが、同じ場所で薬草を取りまくっていると採取できなくなる。なので、ユウタは何もない家の庭で栽培する事にした。モンスターのいなくなった平原は、耕作地が広がっている。


 レッドハーブやイエローハーブといった種類の物なのだが、上等な物であれば買い取りも高い。最初は、買い取りに出していた。しかし、直ぐに錬金術で回復ポーションとして売りに出した方が良い事に気が付く。


「(なあ、これって売りに出す事できるのか)」

『道具屋のおねーさんにお願いするしかないね』

「(それもあるけど、親父が放置しすぎじゃないか)」

『色々あるんだよ。父上は、この時汚職事件を追っていてね』

「まじかよ。とてもそれが出来る風には見えないけどな」


 朝から晩まで働いて、ユウタの稼ぎは悪くない物であった。そんな所へ、父であるグスタフが再婚をする。突如現れた女性に、ユウタは表情を曇らせた。

 女性は、しっとりとした笑みの似合う穏やかな女性である。明らかに父親とは不釣り合いな美人であり、その手には連れ子が二人いた。だが、話を聞いていると二人の弟は父親と血が繋がっているらしい。

 金髪を三つ編みにし、首の横に添える美女が、


「はじめましてユークリウッドちゃん。私はエリザというの。この子たち共々よろしくね」


 と、にこやかにほほ笑みかければ。

 ユウタは頷きたくなかったのである。が、その意に反して顎は縦に動いた。連れ子である二人の少年を見、ユウタは日々の作業へと立ち返る。それなりに広いアルブレスト家の庭は、家庭菜園と薬草の自家製栽培場となっていた。父であるグスタフは、庭の改造についても苦笑を浮かべながらも許す。ユウタの心には、寛大な父親に対する感謝の念が浮かんでいた。


 新しく現れた継母について、ユウタが思う所が無かった訳ではない。だが、家の窮状を前にしては些細な事であった。子供がユウタの目からいっても美形であったり、弟たちが近づいてくるとシャルロッテがむずがる事を除けば騎士として最下層貴族としての地位を取り戻す道も順調である筈。ユーウが転生したのは、およそ二十の時だったらしい。


 日本に住みながら、お前は日本人か? と銃を手に尋ねてくる人間を止めようとしたのであるが。無謀に過ぎた。マシンガンの乾いた音を聞きながら膝をつく。無手では、殺人鬼に勝てなかったようである。ここは、ユウタの持っている記憶とかなり食い違う。爺であったユウタが死んだのは、VRMMO中であったとユウタ自身は記憶していた。


 複数の記憶が入り混じり、意識が混濁する。夢の中での出来事のような追体験である為、ユーウの身体が睡眠に入ると場面が変わるのはご愛嬌というものであろう。ユウタは、魔術師としても錬金術士としてもLVを上げていく事になる。


 毎日掃除洗濯にポーション作りから魔術、剣術に忙しい。そんなある日、ユウタが外に買い出しに出かける。外に出た所で隣に住む女の子がユウタに向かって、話かけてきた。


「こんにちわ。いい天気ですね。今日もお散歩ですか」

「はい」


 ユウタの目の前には、三人の女子がいた。黒髪というよりは青海のような髪をした根暗な前髪を垂らす少女が前に進み出る。幽霊のような気配に、思わずユウタはたじろいだ。


「姉さん。そんな奴ほっといて、お稽古事は終わってないよ」

「そ、そうかな」


 つっけんどんな少女は銀髪を長く腰まで伸ばし、細い腰に手を当てながら姉に苦言を呈した。その後ろに隠れているのは、レモン色の髪をした眼帯をはめる少女である。小動物のように身体を震わせている様子に、獰猛な嗜虐心を得たユウタは戸惑う。全く興味のない女たちのはずなのだが、何かと絡んでくるのだ。ワンピースのような白い服をきた三人のうち二人と会釈して、立ち去る。


 三人が姿を消すと、銀髪の少女に気を取られたせいであろうか。シャルロッテが泣き出した。あやしながら、ユウタが朝市へと足を運ぶ。売場に並べるのは、子供であるユウタには出来ない。魔術を使えばできなくもないが、身体は一つしかないのだ。


 委託販売という形で、売ってもらいそのゴルで日々の食材を買っているのだった。未だに迷宮探索の冒険に出る事はないが、最近使用した魔術ワープでどこぞのダンジョンに迷い込んだ。


 その際にも、少年から身ぐるみを剥いだのは秘密の事である。


「(なあ。何で顔隠してないんだ? これじゃすぐに仕返しがくるぞ)」

『だよね。僕はこの時、何も考えてなかった事は認めるしかないね。金儲けの事しか脳味噌に浮かんでなかったし、他人からどう思われているとかの計算も出来ていなかったんだよ』

「(なんか悪い予感しかしねえんだが)」


 それは、ユウタが市場で委託を済ませた帰りの事だった。


「見つけたぞ。痴れ者がっ」


 冷たく宣言するような声が、ユウタの動きを止めた。



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