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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
125/709

121話 夕飯 (主人公+ゴブ)

閲覧ありがとうございます。

 ラーメン屋で喧嘩していた。だが、すぐに折れたのはユウタの方だ。

 鼻息の荒いちびに逆らっても何の得もない。と、ユウタは奢ってもらう事になった。

 何時の間にかDDが首元に出てきて舌で頬を舐めてくるので、気分が落ち着いたのだ。

 

 ―――王女様。いう事聞いてください。

 等という事をユウタは、口が裂けても言えない。

 強情で、傲慢で、強引で、凶悪な女だ。しかし、ユウタには優しさを見せるので無碍に扱えない。


 店を出ると夕暮れの光で辺りは、一面オレンジ色に染まっている。

 

「では、またな」

「はい」

「ああ、そうだ。ユウタ・・・・・・お前がどれだけ浮気しても最後には私の元に帰ってきてくれればそれでいい。がんがんやれよ」

「・・・・・・」


 ユウタの心臓は、早鐘を鳴らす様に波打った。

 絶句するユウタに向かってそう言ったアルーシュは、自らが作った影に姿を消す。本来ならば、後始末で忙しい筈だったのだ。アルーシュの強引な誘いに応じて食事をとったが、手持無沙汰になった。


 名残惜しそうに、ユウタを見つめる視線で胸が痛む。幻覚なようでそれは心臓に大剣を突き刺されたかのような激痛であった。

 迫る影を振り払いユウタは、久しぶりにのんびりとした時間を過ごそうと邸宅に跳ぶ。


 光の門を抜けたユウタは門扉を押して入ると、芝生が綺麗に刈り取られた庭が目に飛び込んできた。一体何時の間に、という思考を他所に足を前に出して進む。庭の中心部には噴水が出来ており、各所に小川を作って流れて行っている。一日いなかった訳だが、何者かの手が入った事は間違いない。ユウタは、思案顔を作り、噴水の端に腰かけた。


 邸内には、人の気配がない。という事は、日中に行った土木工事だという事が推定できる。誰かにこのような工事を頼んだ覚えがない事からして、アルの関係者か本人だとユウタは推測する。

 

 噴水の縁側から腰を上げて、ユウタは家の扉に進んでいく。道はしっかりと舗装されていた。永続する光コンティニュアルライトという魔術光で一定時間光を放つ外灯と燐光を帯びる石をはめ込んだそれは金がかかっている。


 大き目な厚い樫の木を使った重厚な扉に代わっている。扉の鍵はそのままであった。鍵を回し、中にはいる。扉には魔術の効能を感知したが、ユウタにとって害がないので放置する選択を選んだ。玄関は、人の気配を感知してか灯りが点る。


 通路を抜けていくと、食堂が様変わりしていた。くつろげるようにどっしりとした黒皮のソファーが広がり、リビングが作られていて食事をするテーブルは六人でも使えるようになっている。立ち食いしなければならない朝までとは大違いであった。ユウタは、慎重に邸内の気配を探っていてくが全く感知できない。

 これが夢ならば納得しようものだ。ソファーに座ってみたユウタは余りの座り心地に腰が埋まりそうになった。懐から黄色い蜥蜴が這い出て、餌を要求する。今の今まで全く大人しかったのだが、ゴロゴロと横に回転するそれを眺めて苦笑した。首を背もたれに預けてリラックスし、ユウタは立ち上がった。


「全く、こいつときたら気楽なもんだ」

『ふんふんふーん』


 のんびり寛いでいる場合ではなかった。自分の置かれている状況を把握するに、他人から見ればどう考えてもただのクズ野郎である。刺されて死ぬか、はたまた首だけになってどんぶらこになるか。色々な思考がユウタの頭を駆け巡った。思い返してみれば、鎧化を使っていれば抵抗できたのでは? 等という今更ながらの後悔が襲ってくる。


 DDの為に餌を用意すると、食事もついでにする事にした。うどんをこねくり回して、湯を沸かすと蜥蜴を突いて遊ぶ。以前と比べても全く大きくならず、且つ人化もしない蜥蜴にユウタは残念な視線を投げた。


『ちょっと。失礼な事考えてないかい?』

「いや? どうしてそう思うんだ?」

『失礼だよね。ユウタってば、顔に書いてあるよ』

「そうか。それは失敬」


 ユウタはうどんのほかに何か用意出来る物があるか思案顔になる。そして、取り出したのはパンを並べて置く事だった。温める事が出来れば、と歯噛みしつつユウタは野菜を取り出したが引っ込めた。この世界には、サランラップのような優秀な保存アイテムがない。個々人に収納箱を持たせてやらねばいけない。


 とはいえ、今日はラーメンを食べた。そして、胡椒やら塩やらを確保できそうな経路に手がかりを得た。ならば、するべき事は販路を探す事である。ついでに生産方法を入手出来れば好都合であった。ユウタは他の奴隷たちの食事を用意すると、DDを拾い上げた。


『ユウタ。あのさ、このままここに居ていいのかい?』

「そうだった」


 (彼女たち)が来る。夜は危ない。ユウタは、一旦ハイデルベルに帰還する事にする。風呂の掃除から便所の手入れまでやってからだが。風呂は良く洗っておかねば、カビやら雑菌やらで汚くなる。ついでにユウタは、水の補充もやった。水を貯めて置く為に設置されたタンクにも、何か変化が起きている。圧力方式に変えられており、機械が設置されてある。

 

 ユウタは、腰に手を当てると訝しんだ。機械はない筈。不意にユウタは眩暈を覚えた。

 ―――何故僕たちは貧しい。

 そんな誰の物ともしれない思考が脳髄の奥から湧き上がる。

 機械はユウタの知る限り送水環水を可能とする圧力方式の物に見えた。それなりの知識がなければ、この機械を作る事などできない。

 脳から溢れ出てくる記憶に戸惑い、そして困惑すると足が止まる。ユウタにとって見覚えのあるようなないような人物が出てくるのだ。それに、微かな痛みを覚えて移動する。


 転移門を抜けた先はハイデルベルの公館前であった。警備の兵に挨拶を交わし、ユウタは中に入っていく。夜勤という事もあり、騎士の姿は少ない。

 

 レィルやドレッド、イープルとといった顔見知りの騎士をユウタは見つけられなかった。現状を兵士たちから聞いて回ると状況がわかってくる。ユウタの居ない間に、アルルとシグルスは出撃してハルジーヤの南でナルナの反乱軍と戦闘中という事だ。置いてきぼりにされた寂しさが、ユウタの胸に木枯らしとなって吹いた。

 

 あと一日あれば、そちらの方も片付く予定でいたのにだ。ユウタの見た所、反乱軍とシグルス麾下の兵士たちにさほど差はない。あるとすれば、シグルスと側近くらいのものだ。同数でぶつかりあえば、その勝敗の行方はユウタにもわからない。

 

 中には寝る場所が、一応あった。案内してもらったユウタがベッドに身を横たえると、直ぐに夢の世界へと旅立った。


 


 最初に目にしたのは海の底であった。正確には、母親となる人間の体内だ。不思議と思考が冴えるユウタは、動こうとして諦める。手も足も動かないのだから。次に目にしたのは、女に抱きかかえるために差し伸ばした手である。ユウタは、この記憶がユーウと呼ばれた少年の物だと推測した。


 夢は、唐突にそこで終わる。胸に激痛を感じた為か否か。起き上がったユウタの胸を確認すると、真っ赤な切り口の痣が浮かび上がっている。治癒の魔術で修復したとみられるそれは、縦に長く星型のような裂傷だ。酷い汗で頭を振り、立ち上がる。


『ユウタ寝れないのかい』

「ああ、なんだかね」

『外に出るのもいいかもね』


 DDの声に返事を返すユウタは、誰かが呼ぶ不思議な声が聞こえる。第六感とでもいうのだろうか。馬鹿馬鹿しいとかぶりふるユウタだったが、さりとて寝るには苦しい。寝台は、寝汗でべっとりとしていた。アルーシュがこの場に突然現れて、また行為を迫ってきたとしてもユウタにはそれを払いのける力がある。鎧化を使えば、そうそうやられたりはしない。


 大事な人の事を忘れている。

 とても大切なそれはユウタにとって生きがいといっても良い筈のそれを厚い膜がかかったように記憶から呼び起こす。アルーシュと同年代のその子は、ユウタが目にした母親が抱いていた。その柔らかな手を触った時から、兄と妹になったその子の名前をユウタは思い出せなかった。また、夢を見ればいいのだ。だが、その子が泣いているような声を感じ取り、ユウタは誘われるまま外に出る事を決めた。


 肌寒いハイデルベルの空気は、ユウタの息をも凍てつかせる。見回りの騎士等に挨拶しながら、受付で書き物を済ませた。外は、外灯の明かりも少ない。王都といいながら、騒乱の爪痕が深く民衆の間に傷を残している。ユウタは、忍び足を発動すると走り出した。現代人とはかけ離れた速度で、民家の上を走り抜けていく。そうしてたどり着いた先には、ユウタの想像していた物とは違うモノがあった。


 幌付きの馬車が三台並び、男たちがその中に子供を押し込んでいる。抵抗する子供は殴られて、引きずっていかれた。武装する男たちは総じて屈強であり、その圧倒的な暴力の前にはなす術がない。


 ―――成程、ここから聞こえているのか。

 ユウタはそうして、敵の戦力を計算する。御者が一名ずついる。そして、その周りには剣や盾を装備した男たちが立っていた。腰には、剣を手にはクロスボウか棍棒。杖を持った人間が見当たらない事からユウタは総勢二十程度と目算した。見間違いが無ければ、それは人攫いの集団でありユウタにとっては無視できない相手だ。奴隷を得るのに、子供を攫って補充するというやり方に嫌悪感が募る。


 ユウタが最初に目を付けたのは、御者だ。隠形状態を維持しながら、弓を構える。射た矢は正確に、御者をする男の頭に突き刺さった。次いで二射して、御者を全滅させた所で護衛役の男たちが騒ぎ出す。飛んでくる矢の方角からユウタの居場所を察知しようというのだが、そこにユウタはいない。撃ったら移動するのは当然の行動である。


「おい、ハンス?」

「敵だ。矢を射てきやがる。どっから撃ってんだ?」

「わからねえが、隠れろ。このままじゃやられるぞ」

「敵って、周りにゃ誰もいねえぞ」

「くっディテクト・エネミー《感知・敵》上だ。廃屋の上にいるぞ」

「どこだよ、見えねえぞ」


 静かにユウタは、殲滅を開始した。手慣れた手つきで弓を引き絞る。複数の人間が廃屋と化した民家に居る事を察知していたユウタは、剣や刀といった白兵戦を挑むには早いと判断する。矢で狙われるというのは、ぞっとする体験なのだ。背後から必殺の念を込めた矢を受ければ、避けれず死ぬ可能性がある。矢にも毒や痺れ、呪いといった代物を乗せてないとも限らない。

 

 狙われる男たちは、盾を構えて応戦するがユウタの攻撃が的確に相手を沈めていく。物陰に隠れた男たちの緊張した顔や面当てに矢が刺さる。隠形を見破られてもまだなおユウタには、気配を殺す手段があった。天と地に自己を同一化し、相手の気配察知から逃れる天地合一である。VRMMOでも上位に位置する技能(スキル)の一つであり、魔術と違ってこちらはユウタの得意とする技だ。


 生身で使うのは慣れないのであるが、敵である人攫いたちにはそれを見破れない。一人、また一人と倒れていく。武装した男たちが、怒号を上げる。彼らにとれた手段は、子供を人質に取る事であった。


「糞がっこいつを殺すぞ。姿を見せやが・・・・・・」


 ユウタは問答無用で、少年を抱きかかえた男の額を射抜く。ユウタが始末した人間は、ほぼ半数にあたる。既に抵抗する気力を持たない人攫いたちに、ユウタは苛立たしさを覚えた。残りの男たちをなで斬りにすると、子供たちを馬車から降ろそうとする。

 

 ユウタの胸から、弓矢が生えた。次に飛来する矢を弾きつつ、ユウタは回復呪文を自らにかけていく。


「嘘・・・・・・だろ。化け物かよ」


  

 射ち手は、やはりというかユウタと同じように隠形を使う相手だった。しかし、彼の放った必殺の一射はユウタを殺すに至らなかった。結果、廃屋に上がってきたユウタと対峙する事になる。互いに、把握する相手の能力を鑑みる。上がってきた相手は、厄介な事に回復まで使える相手だ。


 鈍色に輝く剣を手にした騎士風の男が、部屋の入口にたっている。接近戦はマルコの得意とする所ではない。手にした弓を背にしまい後ずさる。


 狩人(ハンター)であるマルコは、撤退する事にした。煙幕を炊くと、脱兎の如く室内を飛び出す。人攫い集団【雪掻き】に金で手を貸したが、命までくれてやるような中ではない。王都で活動する奴隷商人の下部組織と言ってもいいそれは、手広く顔が効く。その縁あって、マルコは仕事をしたまでであったが、子供を攫うやり方に辟易していた。


 先ほどの相手を前に、死闘するなどマルコの手帳に予定はない。だいたい、貧しい孤児を掻き集めるやり方は、いつか報いを受ける物だ。あれが、その尖兵だとすれば奴隷商人たちの身も先はないと言える。そして、飛来する矢にマルコはまるで気が付かなかった。

 二階から飛び降りたマルコ。背に矢を受けてつんのめり、倒れる。背後から接近してきた相手の気配を感じとりながら、死を予期した言葉が漏れる。


「はは、嘘だろ。俺にはの・・・・・・」

「お前は、・・・・・・売られる子供の・・・・・・」


 化け物に矢を受けた背を掴まれ、殴り倒された。マルコは、死を覚悟する。




 ユウタは、鍋を取り出すと水を魔術で作り出し、飯を炊き出す。周りには、薄汚れた格好の子供が遠巻きに見つめていた。人攫いたちの死体を罠穴にしまって、辺り一面を綺麗にしつつ反乱軍の食料庫から分捕った麦で麦粥を作ろうというのだ。

 そこに縄で縛られた男が地面に転がっていた。ユウタは、冷たい声をかける。


「で、なんでお前は隠形が使えるの」

「そりゃ旦那。隠形は弓手なら誰だって使えるスキルですぜ。スキルのLVは習熟度によりますがね。ですからいってるじゃないですか。旦那の方がおかしいって。隠形は連射出来ないはずでしょうに。っていうかなんで俺を殺さないんですかい」

「あ~ん? この子供たちを守る盾が必要だよな」

「それで俺ですかい。でも旦那には、ほがたたねえ。いてて」


 ユウタは、厳つい男の耳を引っ張りついで頬を引っ張る。


「やるのかそれともここで死ぬのか。ま、逃げても探し出せるけどな」

「はあ。こりゃまいった。選択肢はないって事ですかい」


 男は溜息をつきながら、うなだれる。

 男の身体を引き起こし、後ろでの縄を解きながら、


「当然だろ。だけどタダでとは言わない。金でどうだ」

「そりゃ願ったりですがね。奴隷商人どもが五月蠅い事になりそうですねえ」


 ユウタは会話を止める。腕は、鍋の中を掻き回す。火を起こして程なく湯が沸き出した。水に麦を混ぜてスープを作っていく。見守る子供たちから、腹の音が聞こえてきた。それに出来上がったスープを注いで渡していく。みすぼらしい御椀は、櫛が欠けたが如きヒビが入っていた。ユウタは、ひたすら出される木製のコップや汚れた御椀にスープを注ぐ。

 

 

 

 せわしなく動くユウタにマルコは、腕や足の感覚を確かめながら歩み寄る。


「旦那。あんたも物好きだな。こんな小汚い餓鬼共を助けて何になるってんだい」

「やりたいからやっている。幸い食い物は腐る程あるからな。マルコ、お前も見てないで手伝え」

「へいへい」


 縄で後ろ手に縛り上げられていた痺れはない。マルコが、子供たちにスープを注いでいる間にユウタは何かを取り出していた。麦の詰まった袋と、水を湛えたタンクを用意する。袋はともかくとして、タンクに子供たちも度肝を抜かれる。ユウタが魔術で造り出した土の壁で出来た貯水用のそれは、中を高熱でガラス状に細工したと言う。中に貯めた水は、これまた魔術で作ったものである。マルコは、ユウタが弓手か何かだと想像していた。


 土属性の魔術といえば、ハイデルベルの国内では石の礫を飛ばす魔術くらいしかマルコは見た事がない。また、飲料水として魔術を使うような者を見た事もなかった。魔術とは、攻撃に使う事が主体とされており生成系に属する水の魔術は特に貴重とされている。ダンジョンに潜るのでさえも、水の魔術を使える者がいるかどうかで成功率が格段に違う。


 マルコが選んだ選択肢は―――

「俺に任せてくださいっ」


 地に両の手と額を着けて見せる。


「は? おお。やる気に満ちているのはいいな」


 今までうらぶれた境遇であったのだ。それを鑑みるに、これは千載一遇のチャンスとマルコは確信する。ユウタにくっついていれば、まず間違いなく美味しい汁を吸えるに違いない。ついさきほどまで、必殺の念を込めた一撃をユウタに見舞った事はどこかに放り投げる。


 そして、マルコは今後について思考を巡らせる。子供の相手をするのに手渡された金は、マルコの週の稼ぎに匹敵する。ゴブリンを倒しにいっても、空前の不景気になったハイデルベルでは稼ぎがでない。


 そうした事情もあって、奴隷商人の下請けと見られる組織で用心棒をしていた訳だ。が、こうなればそういった仕事はこちらのほうから断れる。目の前にいる少年ユウタが渡してきた額は三百ゴルほど。金額換算のレートで国内の金額に直すと、気前のいい額だった。マルコは、ユウタが馬車をどこかにしまうのを目撃しながら戦う事への興味を失っている。ユウタに色々ゲロってしまったマルコは、進むしかない。


 歳も三十を超えた所で、組むパーティもなく一匹オオカミを気取っていた。だが、それも動かなくなってきた身体を前に割りのいい仕事を探すのもいい。そう考えたマルコが口を開く。王城の方向見つめそこから登る赤い光を訝しみ、


「あれは何ですかねえ」

「王城の方向か? 何だと思う?」

「どう見ても火の手が上がってますねえ。どうしやすかい」

「後は、任せられるか?」

「うっす」


 ―――底なしのお人よしだ。マルコが口からでかかった言葉を飲み込む。少年ユウタは、面当てを付けて走り出した。皮鎧の上に弓矢を貰っている筈なのだが、まるでダメージがない様子にマルコは呆れた。魔術剣士って奴なのかねえ、というのがマルコの感慨だ。後ろ姿を他所に群がる子供たちの相手をする。


(ああいうのは普通早死にするタイプなんだよな。死に急いでるようで、危なっかしいぜ)


 走り出したユウタの後ろ姿は、闇に紛れて見えない。マルコは必死になってスープをついでいく。幸いにして麦と水は大量にある。たまには、こうして慈善活動もいいものだとマルコは腕を動かしていった。



 王城についたユウタは、目を疑った。城が燃えているのである。


『ユウタ。城が燃えているね。どうするかい』

「どうするもこうするも、中で何が起きているのか確認しないとな」


 城門に駆け寄っていくと、そこには門番の死体があった。城を遠巻きに見守る住民たちを他所に、ユウタは中へと入っていく。巻き上げ式の上げ橋まで走り寄り、ユウタは足を止める。騎士の死体が城門前に折り重なっていた。この時点でも隠形を使っているが、攻撃を受ける可能性がある。


『忍者による攻撃だね。弓とか風車手裏剣の攻撃に注意したほうがいいね』

「ああ。了解だ」


 門番の死体にも騎士の死体にも矢と手裏剣が刺さっていた。魔術によるシールドを重ね、ユウタは走り出した。先程のマルコによって貫通させられたシールドだが、ないよりマシである。左右から突き出た塔からの攻撃はないまま、入城する。中には人の気配があった。気配感知を使い、周辺の探索を行う。

 

 ユウタはすぐに隠れ潜む忍者たちを発見した。ユウタの姿に気が付いた風ではなく、緊張した面持ちから一転して悲鳴を上げながら絶命する事になる。背後からユウタが突き入れた刀が、二人の忍者から命を奪う。


 柱の裏で倒れる二人の男が、共に地面へと吸い込まれていく。それを見届けたユウタは、周囲の状況を把握する。そこかしこに騎士たちの死体がある。激しく争ったのであろうそれには、矢が無数に刺さっていた。弓矢による遠距離攻撃を受けた事は明白で、刀傷も少なくない。最終的には、首筋に受けた傷が致命傷とユウタは診断した。


 通路を静かに移動していく。途中で出会ったのは、悉く始末していった。忍者の死体は通路にはない。爆発した跡が残っている為、死ぬ際には自爆したのかとユウタは冷や汗をかく。炎の熱気と煙が通路に流れこんで上へと昇っている。状況を判断したユウタはまっすぐに城の奥へと足を進める。


 城の二階では激しい戦闘の応酬が行われていた。騎士たちは魔術も使って応戦しているのだが、同様に遁術を良くする忍者を相手にしては不利であった。バリケード敷き詰めた通路での応戦に、ハイデルベルの兵は最後の時を覚悟している様子である。ユウタが通った間に倒れていた兵士が余りにも多かった。劣勢な事を予想しつつ、ハイデルベルの公館で会話した事を思い返す。


 千を超える兵士が詰めている城に、少数の忍者が攻撃を仕掛けてこれを撃退できない。相当な手練れの忍者が来ているという判断を下す。忍者の死体といえば、ユウタが仕留めたくらいのモノで、ほぼ皆無であった。ユウタの視線の先には、土遁の術を応用した土人形たちが立っている。


 変身すれば話は簡単である。だが、そうもいかない事情があった。魔力の戻りが遅いのである。普段ならば、MPPOTを飲んでおけば直ぐに回復した魔力が戻らない。ユウタは、罠穴を使って敵を仕留める事にした。

 

 寄って来る土人形を穴に沈め、忍者は弓で仕留めると言う戦術だ。後背をつかれても、突如飛来する弓矢を受けて死亡していく。立て籠もる騎士たちを攻撃する忍者たちの間に動揺が走る。前後を挟まれた格好になった彼らは、ユウタの方向に走らせた土人形が沈んで消えるのを目撃する。


 それと同時に、ユウタが待ち構える方向へ三人が走り出した。前に出た忍者から仕留めていく予定であるが、飛来する弓矢を斬り払う相手にユウタは後退する。相手は、素早い身のこなしと動体視力を持った敵であった。正確にユウタがいた場所に斬撃を放ち、そして罠穴に落ちていく。


『楽勝だね』

「だといいんだがな。相手の数とかわかるか?」

『うーんわかんないよ。隠れている相手はいないみたいだけど、僕は火計をお勧めするよ。油と火薬でどーんでよくない?』

「それでいこう」


 火をつけられる燃料にも転用できる物。

 ユウタはイベントリから油のつまった壺を取り出す。反乱軍の食料庫から強奪した物だ。それを構えると、アイスウォールを張りながら相手の密集する場所に投げ込む。


 相手は、それを破壊する愚行をした所にユウタのファイアが放たれる。結果、忍者たちは火の海に巻き込まれた。前は、ハイデルベルの兵が立て籠もるバリケード。後ろは姿を隠すユウタが待ち構える死のクロスポイント。


 ユウタは、自らの方に来る事を願っていたが忍者たちは撤退を選択する。次々に窓から上へと移動していく。壁歩きを併用して、屋上へと移動していくのだ。黙ってユウタがそれを見過ごす筈もないのだが、土人形がユウタの攻撃を妨害するのである。襲撃してきた人数が、五十程度という事にユウタはショックを受ける。


 騎士が何人この城に存在していたのか。それをユウタが推し量る術はないが、それでも騎士と言えば、屈強な戦士であると確信を抱いていたユウタの信仰ともいえるそれがぐらつく。


「貴公は味方か? 姿を現してほしい」


 ユウタが、忍者の死体を罠穴に投げ込んでいる間に兵士が傍に接近している。白いマントを身に纏った女騎士であった。

 ―――やべえ。でけえっ。

 ハスキーなボイスと豊かに盛り上がった胸にユウタは、手が止まる。姿を出すのは躊躇われたが、現状も把握せねばならない。ユウタは忍者を追う事を先伸ばしにし、女騎士に返事の声をかけた。


「如何にも。俺は、ミッドガルドの騎士でユウタといいます。貴方は?」

「私か。私は、レミリア。ハイデルベルの騎士で近衛副長である。貴公の援軍は、大変ありがたい。帝国の忍者たちに奇襲をかけられて苦戦していた。防備に手を貸して貰えないだろうか」

「わかりました。しかし、俺は単独行動で宜しいですか。忍者を追撃しないといけませんので」

「・・・・・・了承した。こちらの兵を貸そうと考えていたのだが」

「結構です。それでは、失礼いたします」


 ユウタは、窓から屋上へと移動していく。外壁に気配がないのは、察知済みであった。先程の女騎士を見て、股間が熱くなっているのに恥じ入る。スキル:壁歩きを使いユウタが、城の壁を上へと移動していく。伏兵が居ない事を確認しながらであったのだが、上へたどり着いた時には人影がなかった。かろうじて、空中へと姿を消していく浮遊船の姿が目に映る。


「逃がすかよ」

『この距離じゃ無理じゃないかな』


 DDに反発するユウタは、自身の腕を叩いて見せた。


「見てろよ。鎧化を腕に部分限定して使う」

『へえ』


 片腕のみの変身をかけたユウタは、手をもぎ取る。空洞となっているそれを宙に向けて狙いをつける。敵の姿は、闇夜に紛れてわからない。だが、とりあえず警戒しそして攻撃してみるのは悪くないはずである。

 

 無駄撃ちとなるか、はたまたラッキーヒットとなるかは運命の女神だけが知る結果だ。使うのはトール・ハンマーの極小版とも言えるスラッシャー。荷電粒子砲の如きプラズマ光が夜を斬り裂く。


 三,四発撃って、空をプラズマ光で薙いでみたユウタはヒットしない事に残念な溜息を吐いた。低空を飛ぶか、はたまた空中で滞空しているかに賭けたのである。だが、敵は普通に逃げたとも考えられる。どれをとってもユウタにとって思わしくない結果に、無念の表情を作った。当たったならば、浮遊船とて火球のように火に包まれ墜落する事が間違いのない攻撃である。


『見えないけど、とりあえず撃ってみたって所かな。僕にも離れていってるって事はわかるよ。上下にランダム回避しているみたいだし、諦めた方がいいんじゃないかな』

「DD、見えているなら助言くらいよこせ」

『うーん。ちょい下ーとか上ーとか言ってみたところで、当たるもんじゃないよ。ユウタの攻撃結構いい線いってたしね。それで、敵を追い払ったけどどうするの』

「ここで寝泊まりさせてもらうかな。結構疲れたし、眠気が今頃襲ってきやがった」


 ユウタは女騎士レミリアがいた場所に移動し、控室で仮眠を取る事にした。






 アルーシュは欠伸をかみ殺した。眼前で繰り広げられているのは茶番だった。

 貴族の一人が声を上げる。貴族といってもこの絶対王政を敷くミッドガルドでは、王不在のまま内政が行われていた。貴族が政治に口を出せる事は少ない。従って、陳情などを除けばうっとおしさもひとしおであった。


「では、北海を荒らしていた異世界人の軍隊は壊滅したという事で宜しいのですかな」

「いかにも」

「一体どのようにして、かの軍隊を打ち破ったのかお聞きしたい」


 そんな物は、自分で情報を集めろという言葉をアルーシュは飲み干す。小物ほど、くだらない事に知恵が回る物なのだ。要らぬ言葉と行動をするようであれば、またぞろ粛清の血が降る。

 アルーシュの口が重々しく開かれた。


機甲師団(人形ども)を向かわせた。海上を移動する鋼鉄の船といっても所詮は船だ。水中を移動できる守護機械兵の敵ではない。船底に穴が開けば沈むのが道理であろう」

「異世界人の陸上歩兵共は如何されたのですかな。強力な重火器を装備していたと聞いておりますが」

「安心しろ。連中の持つ銃は強力だが、弾が無限にあるわけではない。従って、緩急をつけた間断のない攻めを行えば、自壊するのは自然の流れだ」


 既に攻撃は終えており、物の数時間で制圧してある。が、その辺はぼかしておかねば貴族たちに要らぬ不安を与える事になる。アルーシュとしては、恐怖で押さえつけてやるべきと主張しているのだが。他の二人には、強く諌められているので仕方がない。


「成程。捕虜などはいるのでしょうか。我が国に利益をもたらしそうな人間は?」

「情報を引き出した後、死刑だ。これは変わらぬ決定だ」

「なれど」

「質問は以上で終わりか? であるなら緊急会議はこれにて解散とする」

「「ははーっ」」


禿げにデブと色々な要素が組み合わさり、まともな容貌をした貴族がこの場に居ないのもアルーシュの頭痛の種だ。言っている事がまともであっても。ユーウが各種の生産力を高める政策のおかげで、肉が市場に出回るようになった結果でもある。加えてキューブによる犯罪抑止は、人口の爆発的な伸びしろを見せていた。


 同上にあるようなアルーシュの言葉を貴族たちが少しでも理解できれば良い。会議の冒頭は、むしろ内容よりもアルーシュの婚約者についての話が主題になっていた。自らの娘を暗に側室或いは妾にとすり寄って来る態度には、苦い物がある。

 

 アルーシュは女であって、男のふりをしている訳ではある。妃となる人間は、女としてよりも母親となれる女性のほうが好ましい。


 常に戦場で散る覚悟を持つアルーシュならではなのだが。妻という役割それよりも、ユウタの事を受け入れられるのかどうかが問題であった。妻の問題は、ルナを正妻に迎えるのも悪くない考えだと次第に傾倒している。それならば、セリアを確実に抑えられるのだ。ユウタが反対するだろうが、レオには犠牲になってもらう他にない。


 アルルは、ハイデルベルの姉妹姫をそれに考えている様子ではある。だが、それに引きずられて国内の問題を無視している節が見受けられた。問題が起きると、ユーウとシグルスに丸投げするのが奴の悪い部分である。何でも引き受けてくれる等と考えているなら甘いにも程があった。ヴァルトラウテに後始末を任せるのも何も出来ていないアルルの尻拭いであったし。


 気掛かりになっているのは、帝国がこのまま引き下がるかどうかである。北海の問題にユウタを使う訳にいかなかったのは、日本人同士で殺し合いをした場合にユウタが裏切るか或いはそれに近い行動を取ってしまう事を想定したためだ。同時に、帝国にいる日本人と対峙していけばユウタがどうでるか不明であり、それを縛る為にも色々な工作が必要である。


 帝国に鉄騎兵があるように、王国にも騎士甲冑とそして守護機械兵がある。騎士甲冑は、生身を変換する分子機械の結晶であるが。後者の守護機械兵は、ユウタたちの世界でいう所のロボット其の物であり、おいそれと使う訳にはいかなかった。


 それは、特定災害とも言える程の竜族、巨人族や上級以上の魔族やモンスターにこそ使うべきものである。騎士甲冑が人を選ぶならば、守護機械兵は戦士システムとリンクした物であり対象を選ばない。ただ、王国を守るという一心のみである。世界樹システムを根幹とした九つの世界は、それによって安定を得ているのだ。やがては、終焉を迎え新しい世界が花開くとしても。

 が、それらはアルーシュにとってどうでもいい事だ。全てはユウタに付属するオマケのような物である。王国のダニを清掃してみせるのも、ユウタのいる国というよりは家を手入れする事に近い。


(ああ、ユウタ。愛してるよ。だから、(わたくし)を見て欲しい。どれだけ離れていても心は、私の物であって欲しい。愛しているから愛しているから誘ってほしい。というか、おかしい。年頃の男なら猿のようになる筈、何で宿屋くらいに連れ込んでくれないの。ユウタのアホーーーっ。うん、そうだ媚薬を使って治まらないようにしてしまえばいいんだ。そうと決まれば・・・・・・いやいや、また無理やりやると嫌われてしまうし、うー)


 そんなアルーシュの思考を邪魔する相手はいない。

 寝室へと向かうアルーシュの涼しげな夜は、静かに更けていった。






◆ 下はゴブリンが湧いています。







◆ 外伝 外道ゴブリン王猛る。



 訳がわかんねえ。

 軌道に乗っていた俺の進撃を防ぐ奴が現れるなんてよお。

 ま、全くやった事の全部が上手くいくとは思っちゃいねえけどな。

 この世界のモンスターは、自然に生まれる奴とそうそう増えたりするもんじゃねえのがいる。前者は倒すのが難しいモンスターって奴で、後者はゴブリンとかオークとかみたいなのな。つまり、いうとほれゴブリンって繁殖力がはんぱねーべ? 三日でばんばん戦力が増えてくんだよ? それがほらよお俺みたいな現代人の知識を持ってたりするとどうなるか。誰が考えてもヤバい事になんべ。


 ぎひひ。俺は、とにかく増やしまくっていたんだけどよお。その内別のゴブリンとかち合う事になっちまった。がんがん手下が減っていくんでどうした事かと見に行ったら、赤いゴブリンが立っていたのよ。顔に傷のある奴で、中々の美形だ。ぶっちゃけねたましさで食いたくなったが、奴はかなり手強いと俺は判断したのよ。


 で、こっちが悪いって事で手打ちにして、誼を結んだのよ。だってほら、俺のやりたい事はまだまだ全然やれてねえんだし。死ぬ訳にゃあいかねーの。ここは下出に出るのがでえーきる男ってえやつなの。俺の方針は、拡大型なので線引きを決められると途端に苦しい事になった。

 取れる獲物は乱獲すると減少しすぎて詰んじまうって奴?


 俺は考えたね。まずは農耕だ。ゴブリンだって野菜を食う事ができる。そして、人間の男には首輪と逃げられないように足にはあれだ。鉄球ってのがあればよかったんだが、そんなものはねえの。で、石輪を取り付けた。まともにゃあるけねーよな。

 

 農地を作る事を考えた俺だけど、まあゴブリンに農耕は大変ってこったな。こいつを上手くやる事にはゴブリンの女を使ったね。戦闘力が格段に低いしな。あと、ゴブリンの女が人間の男をやってた。これまた人数が増える事になる。


 男だろうが女だろうが、いじられりゃ感じちまうのは性って奴だな。全く不能の奴なら喰うって事で。一週間かけて、農地やら森の探索を進める。同時に武器、防具を作る事も忘れない。なんせ敵はどこにでもいるってかんじだからな。赤いゴブリンと線引きを引いた所為で北には領域を進められなくなった。進む先は、西、南、東になった訳だ。


 この時点での俺の手下は六百ってとこか。結構死んだり生まれたりが激しい。みすぼらしい集落も今やそれなりになりつつある。外壁を作らせたり、櫓や堀といった代物を作りだしたりだ。まあ、こんな所に攻め込んでくる奴がいるとすれば人間しかいないけどな。


 緑色をしたゴブリンが地上を這いまわり、モンスターを狩っていくのも中々にグロいシーンだ。ウッドウルフといった犬型のモンスターはばんばん狩られている。ペットにされるものもあったが、大半はゴブリンの腹の中に消えた。

 冒険者の奴らもそれなりに増えているが、まだこちらの情報は伝わっていないようだ。何しろ確実に仕留めろって通達を出しているからな。女が殆どいないのがイラつく。女だらけの冒険者パーティとかある筈だろうに。異世界なのだから、そういうのがある筈だ。底辺職場だと、女っけのない工場で過ごした社畜時代を思い出させて木に穴をあけちまったぜ。


 イラついたので、すっきりする事にする。俺の匂いは強烈なせいで、捕獲している小屋でなければ女共は気絶してしまう。次は、女騎士だろうもんもんとしていたのだが、肝心のそいつはいない。女で騎士なんぞは百人に一人の割合だと思うぜ。

 森に入って来る冒険者を玩具にしながら俺の一か月は過ぎ去っていった。

 この間に、農耕やら風呂やらを進めてデューク級ゴブリンへと成長したいったんだな。


 リザードマンが強敵でちっと苦戦しちまったのは、いらついた話だ。

 同時期に東へと戦力を集中させ始めた俺の手下どもは、色々な物を発見する。

 天を貫くように伸びる木だとか、大型のウッドベア共。そして青いゴブリンとかな。

 青いのと同様に同盟を結ぶ事には成功したが、大半の領域はこれで決定してしまう。

 俺は南に進撃する事にした。


 なんで西に行かないのかって? 西には馬鹿でかい城塞があって無理だ。なんつうの、万里の長城ってやつ? あんな感じのがドドーンとあるわけよ。まず無理だと思ったね。だって、高さからしてあれだぜ。ゴブリンじゃ登れねーつうの。この頃の俺は、ゴブリンの教育にも熱心に力をいれたね。読み書きから幹部候補のゴブリンは大半がゴブリンマジシャンかゴブリンヒーラー。読み書きできねえやつは論外だろ?

 力はあってもファイター系ってのは脳筋でいけねえ。

 先日も、その城塞に近寄ろうとしたゴブリンがやられて川というか堀に浮かんだ。掘の中には何かいるようで、ゴブリンの死体を回収する事はできなかった。その壁は北にも南にも広がっているようで侵入する事は、悔しいが断念するしかねえ。

 で、南に行ってみたらなんとオークやらコボルトを見つけた訳よ。

 この時点で、俺の手下は三千近くなっていてよ? オークもコボルトも手下になれっつったら断りやがったからぼこぼこにしてやった。まあ、その後で降伏してきたんでオークの女をやってみるかと思ったんだが、無理だったわ。俺の感性は人間のそれだからなあ。美醜ってのはやっぱ大事よ。俺の匂いやら面を差し置いてこんな事いってっけどな。


 手下の数がはんぱねえ事になってきたんで、俺も知恵を絞ったね。どうやってこいつらを食わせるかとねえ。一つは治癒魔術だ。だれでも考える事なんだろうけどな。大型モンスターの肉を切り取っては、回復の魔術を使うとあら不思議。切り取った肉が盛り上がって修復する。どんだけでも肉が取れる肉製造機が出来上がったね。


 ゴブリンの女が人間の男との間につくったゴブリンをゴブマンと呼ぶことにした。女も一緒だ。ちょっと女のそれを子をつけて呼ぶとエロいがキモくもあるのでやめた。人とゴブリンの相の子はかなりの戦力だ。何しろ頭が結構冴える。その内、ゴブリン群の中核を成す戦士になるな。人間の男は、大抵一発か二発なのでそう数が増える事はないと思っていたが杞憂だったようだぜ。


 ゴブマンもゴブリンも順調に強くなっていった。俺もまあなんだ。よくある吸収型、学習型、強奪型、色々あるけど学習+吸収型でいい感じだ。ま、魔術で空を飛べるようになったりするがそこはご愛嬌だ。他の生物に変身するって事は出来ない感じだぜ。他の二匹も全盛りタイプらしくかなりつええ。戦いぶりを見ていて思ったね。こっそり覗く遠見の魔術を使えば、それなりに覗けるんだけどよ。最近苦情がきて、ちょっと中止せざる負えなくなった。


 どうしてって? そりゃ俺もやられりゃうざいだろ? 一応同盟を結んでいる訳だし? なので、覗く時は連絡を入れてからって事が決められた。後、広範囲で覗けるんだが、魔力が反発し合う人間の領域は厳しいようだ。空間転移を阻害するようなもんがつかわれてっと、これまた移動やら覗きは無理だ。


 俺の手下共が次第に南へと浸透していく内に、西側へ出られそうな地点を発見した。川が途切れたその向こうにはなだらかな平原と町がある。反対側にも村があったんでぺろりと頂いた。んで、戦力を拡充していくんだけどな。そこで第一次攻略戦を始めたって訳よ。内情を探るとこから始めたかったんだけどなあ。残念な事に転移阻害が外壁に掛かっていて、覗き見が使えねえんだ。敵の戦力も大まかにしか把握できなかったし、こっちから出せる戦力の大半を持って攻めさせたね。


 ま、結果は散々だったけどな。その後ばんばん冒険者共が森に入って来るようになったし、結果オーライって事で。情報もそれなりにとれたしな。戦争って奴は難しいぜ。あの戦いじゃ、八割勝つ見込みだったんだけどなあ。けっ、過去を振り返ってもしょうがねえ。なので、俺は冒険者共を捕獲するべく活動を開始したんだが。


 上手く行かねえ。なんつうの、こっちが殲滅される事のが多い上に、蜥蜴? なんてのが現れてこっちを妨害してきやがる。相手してらんねえっつうか。話しかけても攻撃してくるし、厄介な蜥蜴が何匹かいるおかげで損害が馬鹿にならねえ。なんつうの弱り目に祟り目って奴? 俺は反撃のチャンスを狙っているんだがな。


 そうこうしている内にゴブリンキングになっちまった。まあ、能力はぐーんと上がったし、レベルも上がりにくくなってあれな状況だったんで都合が良かった。北にも行けず東はあれで、南西も手間取った。なので、俺は南東に進んでみるかと考えている。


 ちなみに激減した戦力も今じゃあ六千はある。なんだかんだで繁殖力だけは、世界一って奴だ。そのせいで中身がねえってのは、ご愛嬌だな。で、進もうとした矢先にあの化け物にであっちまった訳だがね。目下俺は、森に陣取る冒険者共の駆除に忙しい。そこに騎士団なんてものがあらわれたんだが、さてどうしてくれようかねえ。

 ぎひひ。楽しみだぜえ? なあ兄弟。

丁度一周年でして、400万PVまであと少し。ありがとうございまーす。暑い夏ですが、皆様も健康には気をつけてください('ω')。

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