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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
124/709

120話 雪国で将軍

閲覧ありがとうございます。

 男達が一様に許しを請う姿勢を取る。

 辺り一面にはぶちまけられたペンキのように血が川を作っていた。


「助けてくれえぇ。まだ死にたくない」


 敵を淡々とすり潰すユウタの前で、武器を捨てる兵士は命乞いを始めたのだ。

 一人が始めれば、それにつられた兵士が次から次へ武器を捨てて地面に額を擦り付けた。

 ―――どうするべきだろう。

 金属の鎧(リビングアーマー)と化したユウタは、自身の頭部に手を当てて擦る。

 動力源が精神力とはいえ、現実的に一人で五万以上の兵士を処理するのは酷な作業だ。

  

 可能ではあるが、意外な強敵が居ないとも限らない。

 動く鎧であるユウタは、兵士たちを手駒にする事にした。

 殊更に尊大で、空を割るかの如き圧迫感を持つ声が兵士たちに降り注ぐ。


「助かりたいのか?」

「はい」

「そうか。ならば、するべき事がある。それは何だ?」

「反乱軍を倒す事ですか」

「ほう。物わかりがいいようだな。首謀者の大公とやらを捕えるのだ。行くがいい兵士たちよ。大公と戦って生き延びるかこの場で死ぬか好きな方を選ぶがいい」


 前に進む動く鎧。無言で兵士たちは武器を握り、町の中心部へと向かい歩きだした。

 直ぐに、大公軍と戦闘になる。だが、ユウタの拳が飛んで隊列は粉砕される。

 倒したドルカスや兵士はそのままユウタの罠穴へと入れられて消えていく。

 

 ―――死体も有効活用しないとな。


 大公軍に襲いかかった冒険者たちは、周囲の建造物内で戦闘中であった。

 後背を気にする余裕すら、鎧にはある。

 騎士甲冑(ナイトアーマー)モードにはほとんど弱点がなく、人間とは比較にならない機動力だ。

 その怪力と速度は、大抵の相手を屠るに容易い。


 雪城の様子を赤い光を放つ目玉で見るユウタは、敵を殴り倒し蹴り飛ばす。

 早々に敵兵が降伏するのも得心がいくというものだろう。

 動く鎧にはまず魔術による攻撃が効かない。飛び交っているのが初級だけではある。

 

 投げ槍や弓矢、火球、稲妻といった物理及び魔術の攻撃を食らっても無傷である。

 体長が五mはあり、体格に優れる鎧が取る戦術といえば結局の所ただ走るであった。


 金属の鎧は、ユウタの魔力を極限まで要求する。

 一旦使ってしまった物は、ダンジョンの管理者によって再補充されるのだが。

 敵を潰走さしむるには、ユウタの圧倒的な戦闘力が物をいった。


 空中も駆ける事の出来る鎧である。背中からバーナーによる火などでないが。

 壁歩きや高跳びのスキルを併用すれば、三次元的機動が可能になる。

 寝返った兵が、ユウタの蹂躙した跡を進むという訳だ。

 

 ―――都市を制圧するには、まだまだ足りない。

 

 都市の大通りを制圧する頃に、敵の指揮官がユウタの前に立ちふさがる。

 先程倒したドルカスとは違い、男は腰に二つの剣を下げていた。

 

「俺の名はマ・・・・・・」


 ―――阿保だ。

 ユウタは無言で相手を弾き飛ばした。

 勇気ある相手であったが、ドルカス同様にネタが割れている。姿恰好もだ。  

 ドルカスが魔術やスキルに対して特効性の物を持っていたのだが、防御であり物理攻撃には弱い。

 チート攻撃を持つマサキを相手にする気はなかった。

 

 剣鬼マサキは倒れる。彼の顔は、驚きと激痛で歪みきっていた。

 ユウタが生身でまともに剣で勝負していたならば、太刀打ち出来たかどうか怪しい相手である。

 得意とするのは二刀を使った連続攻撃。


 独特の言い回しと自己主張の強い精神からくるネーミングセンスの必殺技を持つ。

 相対した者の心を抉るその攻撃は、秀逸としか言えない。

 斬れぬ者なし(スラッシュレス)

 という記述が忍者メモにはあった。精神的には中学生くらいであろうとユウタは目星をつける。

 受ければ死ぬであろう攻撃を前に、ユウタは相手が見せた一瞬の間に賭けた。

 結果として相手は、壁に叩きつけられて死んだ。が、抜き打ちを得意とするマサキの剣術が十全にはっきされていれば、やられていたのはユウタの方だっただろう。

 

 転移してきた日本人ならばそれ相応の恰好をしている。

 マサキの黒い皮鎧に、黒いマント、全身黒で統一した服は目立つ。

 装飾のついた皮鎧はかなりの業物である事が確認できた。しかし、それは無傷で倒して確保出来るのかといえば出来ないという事になる。手練れの剣士なのだ。売れば高いであろう剣にもユウタは目をくれなかった。


 ―――やるかやられるかだった。

 

 そして、目下ユウタの手にするべきはロードローラーなのだが、生憎とその様な物はない。

 通りには敵の兵がまだまだ充満しており、剣や槍を手にこちらへと向かってくる。

 兵士は目前で何が起きているのかさっぱり理解の外なのだ。

 目の前までユウタが動く鎧が接近して初めて絶望の表情を浮かべる。


 その巨躯は、大きな死神となって彼らを粉砕し通りは血の池となる。

 ただ走り抜けるだけでよかった。巨体がそのまま敵を圧殺する。

 元々、騎士甲冑は巨大な竜族や巨人族、魔界獄界の怪物たちとわたり合う為に人に渡された物だ。


 それを人に向けて使えば、どうなるかは子供でもわかる結末である。

 中央にある領主の館までユウタが辿り着く。そうして、また降伏した兵の場所まで往復していく。

 武器を探してみるが、碌な物がない。丸太も小さすぎるサイズである。

 かといって先程のように手を投げては、掴めなくなる。

 

 ユウタの攻撃は、体当たりか人を掴んでの投擲であった。

 魔術を使う相手を目にしては、それに向けて投げつけてやるのだ。

 火炎や雷撃といった魔術で攻撃してくるためわかり易い。

 が、敵もやられているばかりではなかった。


 軍に反旗を翻した兵諸共ユウタを始末しようと魔術を使ってきたのだ。

 空を見上げたユウタが目にしたのは、巨大な岩石だった。

 

(おいおい。まさか、あれはメテオ?)


 そうとしか考えられない代物が宙空を割って出現しようとしている。

 暴れ回るユウタを一撃で仕留める為に、魔女が撃ってきたと当たりをつけた。

 空を舞っている筈のドス子の姿が目に入らない。


 小さな山と称してもよい彼女の姿がなく、蠅のように飛び回る空中騎兵の姿が見えた。

 この世界では、飛竜だけが騎乗用に飼育されていない。

 対竜用には、グリフォンなどのモンスターも飼育されている。

 ドス子に撤退させるなどユウタの脳裏にはなかった。


 魔術を併用して空へ飛び上がり、落ちてくる隕石を頭上にて捕えると、ユウタは振りかぶって投げた。

 身体の大きさは自由に大きく出来る上に、大して大きくはなかっのだ。

 都市を丸ごと消滅させる程の隕石であれば諦めもしただろう。

 だが、屋敷程度の大きさにユウタは手応えを得た。


 投げた岩は都市の郊外まで飛んで行き、そこで爆散した。

 綺麗な放物線は紅い筋となって人々の目に移り、そして衝撃と爆風が都市を襲う。

 ガタガタと建物が振動し、兵士たちが地面に伏せる。

 地面に着地したユウタは領主の館へと侵入するため、門を破壊する。


 吹き飛ぶ扉と鉄格子を押しのけてユウタは、前へと進む。

 城門の上には、窓がついており攻撃が降って来る筈の設備であったが何も飛来しなかった。

 ユウタはサイズをやや小ぶりへと小さくすると、中の様子を伺う。

 

 迎撃する為の兵士の姿は、なく進む鎧を阻む者はいない。

 地面を軋ませながら進むユウタは、飛び立っていく飛行兵たちの姿を目撃した。

 鎧の隙間から単眼の赤い光が漏れ、それを見つめる。


 遠視モードは狙撃用なのであるが、ユウタには長遠距離攻撃がない。

 スナイパー用のライフルでも用意できれば別ではあるが、長距離魔術を持たないのだ。

 

 ―――勉強しておくべきだった。

 今日アルトリウスに叱られたばかりであった。


 低空ならば高速で移動できる。先程のメテオもどきのように中途半端な位置で出現した岩ならば捕えられる。だが、高度を取る竜騎兵や天馬兵といった相手を捕えるには飛行魔術では辛い。

 敵の数も問題であった。ユウタは、直観的に鎧化の弱点を見抜いている。


 それは、自重だった。重い鎧で、一見すると破壊不能に見える。

 だが、イカロスのように天より落とされればどうなるか。

 なまじ硬いが故に、割れる。そう感じ取れねば生き残れない。

 

 鎧化も問題だった。一旦魔力が空になる上に、回復する魔力を上回る量で消費した場合どうなるか。

 空中から生身で地上に激突するなどユウタとしても体験したいものではない。

 なので、蛇の如き執念深さを持つが同時に切り替えも早い。


 ユウタは城内を探索する事にした。深追いして死にましたでは、目も当てられない。

 城の窓から見える位置では、冒険者と降伏した兵が大公軍を追っている。

 たった千くらいの数に依然として数万の兵力がある軍が敗走していた。


 戦いには流れがあるものだとユウタは一人で納得する。

 町の通路が狭いのも大公軍には不利な条件であった。大通りといっても数万の軍勢が一気に並べるわけではない。その上、住民たちは歓迎している風ではなく一様に門扉が閉じられていた。

 建物が大公軍にとって有利には働かなかった訳だ。

 

 ―――そもそも大公軍にしてみれば、ここでの戦いは全くの予想外。とユウタは考えを馳せる。

 

 城内には残っている兵が多いのだが、皆室内で震えていた。

 ユウタとしては、正々堂々と戦ってほしいのだがそんな思いは皆持ち得る物でもない。

 鎧の死神となって城内を練り歩いても、斬りかかって来る兵士は殆どいなかった。


 ―――しょうもない。

 ユウタは、嘆息を漏らそうとして出ない事に気が付く。

 今の身体は、金属のそれでありトイレ等も気にする必要はない。

 

 敵は退却したとユウタは思い込んでいた訳だが、改めて冒険者たちの方角を見ると。

 そこでは、空中から襲われる姿があった。

 ドス子を退却させた空中騎兵たちの攻撃を受けている。


 門を通り、迎撃に向かう。

 城内の兵も掌握した訳ではないが、戦意を喪失している敵を討つのも気が引けた。

 彼らは当分の間剣を手に戦いに出る事など出来ない。

 そう決めつけユウタは空中騎兵を迎撃する。


 しかし、この空中騎兵が強敵であった。

 数が多い事もさることながら、地上で戦闘する事を主眼に置いて造られた鎧である。

 当然攻撃手段のないユウタは、手詰まりとなる。

 精々高度を下げてきた敵を討つだけだ。距離を取って魔術で攻撃すればその内ユウタを倒せる。

 そう彼らが信じるのも無理はない。


 だが、鎧は魔力を貯め込む性質がある。

 基本的に、その動力は分子機械ナノマシンであり光子結晶体が肉の代わりに存在する。

 見た目的には、黒いスライムが中にあるといった格好であり、核の代わりにはキューブが存在するのだ。熱にも冷気にも強く、倒す術など存在しないかに見える騎士甲冑はアルーシュの切り札でもある。

 圧倒的な竜族の支配から逃れる為に人へともたらされた禁断の術は、誰もが単独で使える訳ではない。

 

 ここでユウタの持つジョブが使用を可能にしている。

 

 魔力を回復させつつユウタは飛行魔術で対抗する事にした。

 弓が使えればいいのだが、ユウタを援護する冒険者たちに任せる。

 下から攻撃される心配なく攻撃に専念した。


(空中戦をどうにかしないと、不味いな。加えてあれかあ。これ、魔術の使用が難しい。魔力があっても使いづらいし。羽があるのは狡い。早すぎて追いつけないじゃないか)


 飛行するという体験は、ユウタにとってもあまり馴染みがない。

 空中戦で何度も敵の攻撃を受ける羽目になった。

 しかし、鎧に傷がついたとしてもすぐに修復が始まる。

 敵の絶望した雰囲気をユウタは素早く掴み取った。


 ―――この、この。


 ユウタが魔術を使おうと何度も腕を振れば、次第に稲妻が形を成していく。

 習熟度が上がり、ユウタは空中で攻撃魔術の精度を上げていった。

 童帝の力を失った結果、封印が解かれ技が磨かれていくのだ。

 

 ただ、使うのはサンダーだけで十分なだけで、広域掃射のような範囲魔術を使う事はない。

 というよりも、学習していない為ユウタには使えなかった。

 もしもユウタが、上級魔術を学習していたのなら間違いなく掃射したであろう。

 

 敵を焼き鳥へと変えながらユウタは敵が撤退しない事に訝しんだ。

 空中の敵は少なく見積もっても、千以上の数がいる。

 損害ばかりで倒せないようであれば、普通は逃げる。

 前後策を練るというのが人間という物で。


(駄目だ。空中では、相手に分がありすぎる。もっと早く動けない事には戦いにならねえ。マジでいい的だ。となると、地上の冒険者たちを誘導するか)


 ユウタは、そこで高度が出ている事に気が付き追う事を止める。

 巧みに敵は上空へと誘っていたのだ。

 敵も馬鹿ばかりではない。と認識を修正したユウタは冒険者たちと合流する事にした。


 彼らにさせるべきは、領主の館を占拠する事である。

 そこさえ押さえておけば、二重の意味で楽になる。

 攻撃する為に敵兵が降下してくれば矢の的になるという目論見もあった。


 しかし、敵の指揮官は下りずに高度を維持して魔術で攻撃を加えてくる。

 降伏した兵と冒険者たちが館に入るのを妨害せんとするのだが。

 結局の所決定打となる魔術は、隕石落としもどき一回であった。


 最重要拠点を攻略されてしまう事は、大公軍にとって致命的な一撃となる事は自明の理だ。

 それを空中騎兵団もわかっているからこその粘りである。

 外に逃げ出した兵士を再編し、都市の奪還に来るまでの時間を稼がねばならない。

 

 ユウタが町の外壁方向を眺めれば、地平の切れ目まで敵兵の姿が続く。

 鎧は地上へと移動すると、兵士たちに呼びかける。


「全員に告げる。領主の館を奪取せよ」


 大公軍を追いかける事よりも拠点を確保させねばならない。

 地上を這う敵兵を駆逐するのは、ユウタの仕事だ。

 

(戦闘機になれればいいのだけどなあ。都合よく変身出来ないか)


 ユウタには、危機感があった。

 敵兵を追撃を早々に決めて、勝敗を決しなければならない。

 アルルの軍勢は、遥かに少ないのだ。正面からの激突となれば、かなりの損害が予測される。

 であるなら、


 ―――勝利を決める。


 ユウタは、決意を固めた。

 徹底的な追撃を敵兵に加え、アルルの勝利を不動の物にしておく事を。

 変身には大量の魔力が必要なのだが、一旦鎧になってしまえば後はよくある変身物のような制限はない。ある事にはあるが、彼にはいくらでも補給する事が可能であった。

 つまり、ダンジョンから吸収する事である。


 そもそもこの鎧化には、消費が大きな技が揃っている。

 だが、それを使わなければそれなりに持つ。

 ポチタマやカズキ達の姿を見送りながらユウタは、地上を疾走した。




 それを見送る魔女は、溜息をついた。

 

 ―――化け物が。

 岩弾の魔女と呼ばれる女は、樫の木で出来た杖に跨りながら目を光らせる。

 地上を走る鎧は砂埃を上げて移動していた。

 それがなんなのか。魔女は直ぐに理解する。


(でか物のくせに、レビテーションやとお。わっちらをさそっとるんかいな。せやけど降りると、あいつ接近してきよるさかい。こらあかんわな)

 

 この魔女グリモアといい、魔女たちの中でも抜きんでた実力で君臨する女だった。

 魔女連の名声も地に落ちた物となり、グリモアは絶対に引けない。

 始めは、ティーナの行方不明だった。次に、ティアンナが裏切り、同格のエメラルダとユミカが敵の手に落ちた。後がないのである。


 岩弾を好んで使うグリモアは、再度ロックインパクトの準備をしつつ鎧の追撃に入った。

 

 ―――味方を上手く使わんからやられる。

 他の魔女たちは力があり過ぎた。が、故に配下を軽んじる傾向にあった。

 そうした結果が、あれだった。

 竜の背にへばり付き、かつての同僚を捕えようとする。

 

 竜の動きは、巧みに包囲を避ける。

 戦える筈の状態で逃げ出すのは、明らかにグリモアを釣っていた。

 天馬に乗る魔女の数は百弱。残りは竜騎兵や弓や手槍を装備した天馬兵と飛行型のモンスターに騎乗する空中騎兵たちだ。これらを柔然に使っていれば、エメラルダやユミカが敗北する事はなかった。

 

 指揮官としては、あまりにも脳が脆弱である。

 その分だけ、魔力と魔術の才は隔絶した物があったのだが。

 

(まあ、あの子らは優しすぎたんやろな。敵の手に落ちたんやから、もう処女じゃないやろし。ご愁傷様やでほんま)


 飛行用の杖を叩きつつ、一人になった魔女は杖を握る。

 多重詠唱で、使うのはロック。単純な投擲魔術だ。嫌がらせにしかならないとしても、鎧の進行速度を鈍らせる必要があった。部下の魔女にテレパスを送り、攻撃を開始させる。

 領主の館へと進行する寝返った兵士と冒険者などよりも、鎧の方が強敵だ。

 

 城塞に立て籠ろうが、グリモアの岩石落としは凶悪無比である。

 隕石落としも準備をすれば、出来ない訳ではない。だが、戦場では速攻性が求められる。

 着弾までに、数秒というのがいい。それを動く鎧は投げてみせた。


 ―――なんなんや。

 グリモアの素直な感想である。それは、誰もやった事のない事例で、魔術が出現する瞬間をとらえるなど想像の範疇にない。マサキやシュウであっても無理であろう。わかったとしても、避けられないのがあの魔術の効能であり、売り文句だ。


 一緒にいたギースは、けったいな死に方をしている。

 彼は、鎧の能力を模倣(コピー)しようとしたのであるが、空中で鎧に変身した為落下して死亡した。

 黒い鎧と同じように空中を飛ぶ事が出来ない上に、支えようとした部下まで巻き添えになった。

 地面には割れた鎧が元に戻り、真っ二つになった少年の姿が放置されている。


 ―――こらあかんわ。

 あの鎧の能力は、未だに未知数である。底が見えない鎧に、部下の魔女たちは恐怖を抱きつつある。なにしろ黒い鎧には、魔術がほどんど効かない。電撃系は吸収するらしく受ける度に関節から光が漏れる。グリモアの見立てが正しいならば、全員でかかってどうにか出来るような戦闘力だった。


 鎧は狡猾にも、魔術を選んで食らってみせるのがグリモアの癪に障る。

 速度の出ないファイア系やウォーター系はそもそも当たらず、ライト系やサンダー系といった回避困難な物だけを食らう。


 ―――こいつは、出来るで。

 地上を疾走する鎧の前には、大公軍が退却している。多くの兵は、結局の所流されるだけであり、潮が引いたようにツブルグから出て一路本拠地へと向かっていく。ただ、それを鎧が黙って見過ごす筈もない。最後尾に食らいつき、好き放題に食い散らかしていく。

 グリモアたち、空中騎兵師団が援護するが蚊ほども効いた様子がない。

 兵士たちは、とうとう武器を捨てて地に這いつくばる。グリモアは歯噛みした。


 兵士たちからしてみれば、既に敗色濃厚な戦である。内実としては農民兵が八割を占める大公軍にとって、それを追う黒い鎧は致命的な物だった。こうなると空中騎兵師団を率いるグリモアも手出しをしかねた。下手な事をすれば、そのまま相手が農民兵にすり替わるのだ。


 黒い鎧が進めば、白い雪が残る平原は額を地に付ける兵士たちの姿で埋まった。

 それを眺めながら、鎧が赤い目玉を光らせる。

 誰も抵抗する事無く、その鎧は総大将とも言えるゴルドーの元へと進む。


 配下の騎士たちに守られていたゴルド―だったが、やがて渋い声を放つ。 

 

「貴様。何者だ」

「名乗る程の者ではない。が、あえて名乗るなら鉄人形とでも言っておこう」

「ふむ。まさかとは思うが、これだけの数を相手に勝つ気でいるのか?」

「もちろんだ」


 単騎で特攻するのは、掛け値なしの馬鹿がする事だ。

 

 だが、鎧の力を見てそう言える者はいないだろう。それだけの能力が黒い鎧にはある。地上で戦う限り、鎧が敗北する様をグリモアは想像できない。傲慢に振る舞う鎧は体長すら操作できるようで、グリモアが戦った時は三m弱。今は、二m程度である。つまり、鎧には身体を操作する力があると見てよい。グリモアは、ゴルド―の死を予感した。


 貴族出の将軍ならば、ゴルドーのように堂々と尋ねる事すら不可能だろう。鎧が運ぶ錆びついた鉄の匂いは、上空を飛ぶグリモアの元にすら届きそうな位であり、目に見えない圧迫感を周囲に発していた。

 

 ゴルド―が短く息を吸い込む。


「貴公は、騎士なのであろう。ならば、新生ハイデルベルの将軍としてではなく、一介の騎士としてお主に正々堂々の勝負を挑みたい。私が勝ったならば見逃して頂く。敗れたならば、隙にするが宜しい」


 鎧には表情がない。兜の隙間から覗く赤い光にはただ無機質な物であった。


(ゴルド―のオヤジィ。気が狂ったんかい? 相手が乗って来る訳ないやろが。不意を突かれてまうで)


 心中吐き捨てる。それが、騎士甲冑と呼ばれるミッドガルドの王族とその僕が使うスキルである事は、見る者が見れば一目瞭然である。鋼鉄ではない、魔法銀や神鉄と呼ばれる代物でできた物とも違う。それは、一切の物理攻撃を無視する程の防御力を誇る。

 鎧に攻撃を当てて倒そうとしても、硬度があまりにも高く剣や槍は無意味。高空から落として倒すのが昔からの倒し方だ。


 だが、それをするには空中戦を余儀なくするしかない。そして、そのスキルを模倣したギースは地面に叩きつけられて死亡した。飛べない鎧は地にて砕け散るのが定めだ。これが動く鎧の倒し方の一例である。それをする事の難度が問題だが。


 新生ハイデルベル軍を自称する大公配下であるゴルドーが取れる選択肢は少ない。

 ゴルド―をむざむざとやられる訳にはいかなかった。

 ゴルド―が取った手段は一騎打ちだが、受ける訳が鎧にはない。固唾をのんで周囲の騎士たちが見守る中、鎧は返事を返す。


「その一騎打ち。御受けする」

「名を名乗れぬのか」

「・・・・・・俺の名前はユウタ。アル王子にお仕えする騎士だ」

「そうか。我が名はゴルド―。栄えある雪狼騎士団を率いた将軍であり、今は只の騎士。主君の栄誉にかけて勝利を誓うっ」


 グリモアを含んだ空中騎兵団は色めき立った。

 ―――馬鹿だ。

 ここは、鎧化を解いた敵を不意打ちして討ち取るべき所だ。

 敵はなぜこの決闘を受けたのか全くの謎だが。

 ここで魔術を使って討ち取ってしまうべきなのだ。だが、グリモアを含む魔女や弓を持った騎兵の誰もが動かない。そのような事をすれば、死が降りかかる。そんな予感めいた物を感じていた。


 ゴルド―は真面目に円陣を作らせると、一人となり斧槍を構えた。 

 対する鎧は、人の姿へと変化している。

 鎧が人へと変化する様は、気持ち悪い代物だ。金属から人が産まれると言ってよい。そうして出てきた中身の無さそうな男は、黒い穴から武器を取り出した。黄金の刀身を持つそれは、切り結んでも刃こぼれ一つ起こさないと評判の聖剣である。それを持つ者は、無限の魔力を得ると言われ、持ち主はカズキであった。

 しかし、どのような因果か今は眼下にいる男が握っている。


 今が好機だった。完全に無防備と化した少年の後背はがら空きであり、グリモアの合図さえあれば空中より死の雨が降り注ぐ。鋼鉄の鎧を身に纏うゴルド―ならいざしらず、少年の装備は皮鎧と貧弱であった。

 低空まで降りたグリモアたちまでも見守る中、二人の男は斬り合いを演じていた。ひたすら突いて突いて突きまくるゴルド―に対して、ユウタは下がる一方である。

 

 そうして数合、数十合と打ち合う間にどちらが優勢なのか誰の目にもはっきりしてきた。

 息を荒げるのは、ゴルド―の方だった。互いの戦技にそれほど差があるようには見えない。肉弾戦には疎いグリモアの目にですらわかるほど、フルプレートを装備したゴルド―の動きが鈍っていく。


 勝利しようと焦るゴルド―と余裕の構えをみせるユウタでは、差が歴然としていった。縦横に斧槍を走らせ、槍スキルを発動させるゴルド―はそれが効果を発揮しない事にうろたえる。武器を風車のように回して放つ雪縛(縫い止める雪)も最初こそ当たったものの、二度目三度目がない。


 全力でユウタを倒しにいくゴルドーの疲労は明らかになっていった。

 

 息切れの激しいゴルド―。幾度目かのゴルドーの必殺の構えから繰り出された雪山降し(トリプルスタブ)に併せて、ユウタの背に不意打ちの弓矢が放たれる。それは、放った者の目論見を外し且つ最悪の結果を招く。

 一瞬ではあるが、世界が暗黒へと包まれた。


「ぐっ。すまぬ。かつてない好敵手であった。これもまた運命か」

「アンタなぜ、自ら受けた?」

「それが、自らの騎士道だからだ。来るとわかっていて避けようともしない。お主の方こそおかしい」


 矢を受けたのはゴルド―の方であり、その喉元にはユウタの剣が添えられてある。

 敗北を感じたのはグリモアだけではない。が、それで納得するかと言えば別であった。何故ならば、国法に照らし合わせても国家反逆罪は漏れなく死刑だ。そして、外患とも手をつないだ大公軍の兵士が赦される可能性は限りなく低い。


 グリモアが手を上げようとした瞬間、


「あほあほあほあほあほあほーーーー。ユウタよ、一体何をやっているのだ」


 声と同時に、少年ユウタの後ろから黒い塊が生まれ、人型をとっていく。それに向かってユウタは話かけた。それが放つ威圧感は、まるで大気で押し潰すかの如きもので大公軍の兵士を締め上げる。闇の洞を形にしたような影が人へと変わり、黄金の鎧を身にまとった少年へと成る。


「何をとは、アル様このような場所へ来られるのは危ないですよ」

「ばかものー。危ないのは世界だ。お前のピンチに、蜥蜴が身体を張れば星が無くなるわ。てゆーか。なんで鎧を脱いで一騎打ちに応じてるんだ。この阿保ー、あれはなー最新の有機光子機械の塊であり、最高のアーマーでロボティクスなんだぞ。その力っていったら、一撃でこの軍団を皆殺しに出来るほどだ。つーか世界崩壊を防ぐ為の【使徒】で鎧化なのに、なんで解けた? あああーっ」


 大声を上げる少年。

 同時に、上空を飛ぶグリモアの横から黒い靄に包まれたライの姿が掻き消える。奪い盗る(スティール)なのだが、こっそりライは使用していたのだ。当然ながら、ライは大公軍の中でも有数の実力者。それをあっさりと掌中に収めた少年騎士アルは、手の中に入ったライを握りつぶした。


「こいつのせいかよ。死すら生ぬるい罪人め。ふう。全く、ちょっと目を離すとこれだ。間違っても、星割とかなんとか蹴球とかなんとか使うなよ。記憶は、戻ってないだろうな?」

「何を言っているのかさっぱりなのですが。アル様は一体何しにここに来られたのですか」

「いや、何ってお前が破壊した世界の巻きも・・・・・・というのは冗談だ。こいつらはどうするのだ」

「うーん。降伏してくれませんかねえ。形だけとはいえ、俺が勝ったという事ですし」


 黄金の鎧を着たアルは鎧の上司に当たると見受けられた。グリモアに視線を飛ばすユウタは媚びるような色を声音に乗せている。勝ったので堂々としているべきであるが、下出にでるユウタは傲慢とは程遠い。これならば、降伏しても強姦の恐れは少ないと判断した。


 何よりも―――こいつは馬鹿だ。

 

「ええでー。せやけど。あんた、ゴルド―将軍の手当てさせてーな。将軍が死んでまう。ここにいる兵士ちゅうか騎士もやけど、皆ゴルド―はんを慕ってついてきとるようなもんやし。はよしてやー」

「わかった」


 鎧の少年ユウタが杖すら使わずに、治癒魔術を使用しようとしたが、発動しない。

 首を傾げるユウタに、長髪を後ろにまとめた少年は告げる。


「無理だな。暫くの間、盗られたスキルは元に戻らん。異世界人のようだが、とんだ盗人もいたものだ。狒々爺の奴、トンでもスキルをくれやがって」

「スキルを盗めるんですか」


 問いかけるユウタに返事を返す黄金の鎧を着た少年がゴルド―の腕から矢を引き抜き、治癒の光を放つ。

 黒い靄がゴルドーの傷を治していく。厳めしい面をした男の顔色が良くなっていった。 


「いや、普通の人間には無理だ。だが、異世界人には狒々爺から試練とも戒めとも取れるスキルを与えられる事がある。その内の一つが盗み系だ」

「自分で使うのもあれですね。なんというか強そうですけど、盗まれた方は堪ったもんじゃないですよねえ。ええ、そんなの断じて生かして置けないですわ」


 少年の言葉に息を荒くするユウタは拳を握りしめる。


「任せておけ。それよりだ。こうして俺が治してやるのだから、ちょっと食べにいくぞ。お前腹減っているだろ? いい店がある」

「あの、この人たち放っていくんですか?」

「ああ。後はヴァルトラウテに監視させておく」


 ユウタがアルに手を引かれて影へと姿を消す。

 後に残された者たちは、あっけにとられた。まるで蜃気楼の如く掻き消えてしまう少年二人を見送る。

 



 夕暮れの中、アルーシュがユウタの手を引いていく。

 王都ヴァルハラにある商店が立ち並ぶ通りにその店はあった。

 

「ここだ。予約を入れてあるからな。飯は結構美味い」

「そうなんですか」

「私としては、もっと雰囲気のでる店がよかったのだがな」


 アルーシュが本日は都合により時間をずらして開店と書いてある扉を開けた。

 ユウタの目には、一望してここが日本かと見間違う程の場所だ。熱い湯気を立てて店主である男が、麺を上げていた。良い匂いにつられてユウタは、ふらふらと席につく。

 隣に腰を下ろしたアルーシュがメニューを見ながら、


「オヤジ。醤油豚骨らーめんを二つだ。餃子を大盛り、チャーハンも頼む。デザートは、すまんがアレを出してくれ」

「へい殿下。とっまさか旦那をつれてくるとはねえ。風の噂じゃ死んだって聞いてましたが」

「お前にもわかるか」

「へへ。そりゃあ、同じですからねえ。旦那とあっしは古い付き合いですし。成程、今日は腕によりをかけて仕込んだ甲斐があるってもんでさあ」


 二人は親しげに会話する。

 ユウタは、目を白黒させていたが自分の事だと気が付いた。

 ―――どうやら、二人と自分には何か因縁がある。

 そうして、赤い胡椒をかけたラーメンを想像して腹が鳴る。


「お前は、よく私をここに連れてきたものだ。らーめん屋ぐっさん。ここの店主も楠本という名前だ。異世界人で冒険者を引退して店を開いた変わり種だよ」

「へえ。美味しいですよこれ」

「そりゃそうだろう。これはユーウ、つまりお前がレシピを作っていた奴でな。材料からなにまで仕入はユーウの奴頼みだ。豚骨をとろっとろになるまで湯につけて出汁をとるやり方で、旨みの増したスープが持ち味だ。味が濃いので評判のラーメン屋だ」


 店主が出した一杯のラーメンを受け取るとユウタは、箸を手にした。

 ずるずると麺を胃の中へと流し込んでいく。


「あの、残してきた連中は大丈夫なのですか」

「ふん。それか。それならばヴァルトラウテに任せておけば大丈夫だ。彼女は、信頼のおける戦乙女でな。槍を取らせてはアースガルド一と謳われる戦士である」

「あ、ドス子とかPTのメンバーも回収しないといけないのですが」

「それもやらせておく。抜かりなく送り届けよう。それよりもお前、ユグドラシルの樹がどこにあるのか知りたいのか」

「もちろん」


 頷くユウタは口の中に餃子を放り込む。中の具は熱々でぱりぱりと割っていく。

 醤油とタレで香ばしさを鼻で吸い込むユウタは、久しぶりのまともと言える食事に満足する。

 そんなユウタにアルーシュは、箸を止めて唸り、


「うーむ。ユウタはジャックと豆の木の話を知っているか?」

「ええ、おとぎ話ですよね。それが関係しているんですか」

「昔なユーウいやユウタと攻略したそれは黒い森の中心部に生えているのだが、今はハイエルフたちが守護している。天空へと伸びるその中を通ってアースガルドに続く道があるのだ。その根はバラバラに崩壊する地殻を引き締める役割をになっているので、樹本体をおいそれと余人に見せるわけにはいかん」

「それは残念です」


 残念そうに視線を落とすユウタ。

 それを見たアルーシュは、ぽんぽんと肩を叩き、


「ま、アースガルドに行って何かをしようというのでなければ、意味がないがな。登った時は、なんだったかな。ああそうだ、生命の実を求めてアースガルドに登ろうというのだった。ガキの頃は、直で向こうには跳べなかったしな」


 ニッと笑顔を見せる。アルーシュは、湯気を立てる炒飯を頬張った。

 ユウタもつられて、箸が進んでいく。


「今もその登れるんですか」

「登れるかどうかと言えば、登れるがはっきり言って今のお前では難易度が高いだろう。まずは、森のゴブリンでも全滅させてみてはどうか。やる事は沢山あるだろうが、目的ははっきりしているのだろう? 当面は村の脅威を取り除くのが先だろ。セリアの故国も問題があるのだが、村も森もハイデルベルもと全部やろうとすると破綻するからな。順序を立てて解決していけ。オヤジ替え玉頼む」


 幼い顔立ちに凛々しい表情を作るアルーシュは、口一杯まで麺を頬張っては嚥下する。

 ユウタは微笑ましく、頬が緩む。

 食事が終わると、ユウタが金を支払う。そこで問題が起きた。

 アルーシュが割り勘だと言う。だが、ユウタは引き下がらない。女に金を払わせるのは、男の沽券にかかわる。そんなユウタを見てアルーシュも態度を硬化させた。自分が全部払うと言うのだ。


 そんな二人をぐっさんは呆れ顔になった。食事よりも長い喧嘩始まったのである。









◆注 下は胸糞わるいゴブリンが発生しております。読む事はお勧めできません。






 




◆ 外伝 外道ゴブリン王生まれる。

  




 はーい。皆さんこんにちわー。ゴブリンですよー。


 最初にいっとくけどよー。この話聞かない方がいいぜぇ。

 はっきり言って胸糞の悪くなるようなヘドロと糞みたいな外道ゴブリンの話なんでなぁ。

 ゴブリンといやあほれ、雑魚っていうのが定番だろ。でもって速攻で狩られる奴。そんなゴブリンがチートてんこ盛りで鬼畜外道の限りを尽くすのが俺のサクセスストーリーよ。


 けどよ、それってゴブリンとしちゃ至極もっともな行動な訳よ。種族の繁栄しかり生存競争しかりだ。弱肉強食を地でいくゴブリン道なわけ。


 でだ、俺が言いたいのは昨今のチートズーン、しておきながら人間そっくりになっていく進化とかよお。ふざけんなよってことよ。キメラだかなんだか訳のわからない未知の生物としかいいようのないゴブリンとかマジゴブリンディスってんのかよ。

 

 まあ、俺だってほらよ最初は人間と仲良くなろうと努力したんだぜ。大事な息子で可愛がってみたりとかよお。飯はアレにしてみたりとかなあ。椅子にしてみたりとかよお。ま、色々やってみたけど無理だったのよ。決定的なのはきっつい匂いだろうけどな。

 

 ちくしょうが。って俺の事か。ま、なんでもいいや。他のやつらのように俺はいけてる面になったりはしねえの。だからひがんでるわけじゃねえぞ。あ? お前、ひがんでるって顔に書いてんぞ。ぶっころしてやる。食ってやるからな。ぎひひ。ゴブリンなんてもんはだ。人間の男をみりゃ、襲って喰うもんよ。女ならヤッテやってやりまくんの。それがゴブリンってやつなの。

 

 オークもたいしてかわんねえのよ。コボルトはちっと特殊だけどな。あれ凶器だしよお。

 ここまで読んじまった奴はご愁傷様。まともな奴ならブラバもんだぜえ?

 ぎひひ。だけどよ、強いもんがなにしたっていいこの世界は俺にとって最高の世界だぜえ。

 いくらでもひゃっはーできんだかんよお。糞みたいなもんわねえの。


 俺は自由で、縛り付ける奴は速攻でぼこって食ってやる。

 前世じゃあ社畜だったけどなあ。こき使われるばかりで全く自由なんてねえの。

 そんなこんなでも自分を隠して生きていったけどよ。つまんねえ人生だったわ。

 娘にはくさい汚いとののしられ、恋愛結婚した妻には通帳代わりに使われる。

 腐った人生とはおさらばしてよお、好き勝手放題のゴブリンライフ。


 これこそが俺のゴブリン道よ!

 と言ってみたけどよお。ぎひひ。やるこたああれなんだ。わかってんだろあれよあれ。

 最初の話がはじまんだけどよお。聞かない方がいいぜぇ。 


 どこだここは。ってのが俺の最初に抱いた感想だったかね。

 俺が産まれたのは、どうやら人間の腹からだったあ。

 だというのに、その手は黒くて醜いってどうよ。

 

 とても視界に収めているだけで嫌な気分だしよお。

 俺が産まれた場所は、ゴブリンの子袋らしい。

 そうして、どこだかわからない場所から這い出ると似たようなゴブリンがいる。

 

 気分は最悪だ。

 けどまあ楽しい事もあるんだよな。

 女を使えば、パワーアップすんのよ。

 人間のスキルを能力をがんがん頂いて俺はもうぜっちょおおおおって感じだ。

 んだから、がんがんやったね。

 

 んで、まあ0才で生後一日? で大人ゴブリンと変わらないまでに成長した。

 次にやるのは独占だ。なんせばんばんやるほどパワーアップすんだかんな。

 もう腰が抜けるほどやりまくった。


 で、同族も殺りまくったけどこっちは大して能力が得られなかった。

 パラメーターとかもばんばん上がって俺の前には二日目で敵がいなくなった訳よ。

 だから次は、外に出ていったね。

 

 最初の敵は角兎(ホーンラビ)だかいう相手だった。当然楽勝だった。

 ここら辺の知識は、同族を殺しまくって得ている。

 ま、数はどんどん増える訳だしいくらでも増えてくる。

 こいつら倒しまくるとLVが上がる音がばんばんなる訳よ。最初の内は、楽しみにしてたんだけどなあ。途中で五月蠅くなって音が聞こえないように念じてみてもなくならねえし。超うぜえけどしかたがねえって割り切った。

 

 甲殻狸なんてのもいたねえ。硬いだけの奴。倒しまくって皮鎧の素材になったね。弱いというよりは、トゲ付きで厄介ってだけ。火の魔術で炙ってやればすぐ倒せる。


 強そうな相手は、何だろうな熊みたいなのが強敵だったな。

 ああそうそうその前に森蜘蛛とか装甲馬みたいなのもいたっけ。

 そいつらも一日でばんばん倒して喰いまくっていった。


 手下はどんどん勝手に増えるし、まあ気にならない。

 だけど、すぐにモンスターがいなくなってしまうのは難点だった。

 なんせばんばん魔術で狩つくしちまった。

 

 一週間もしない間にもうモンスターらしい姿は周囲に見えない。

 まいっちまったなあ。

 俺は何時の間にか頭になっていた。ステータスはレアゴブリンといったところだ。

 生後からここまであっという間だったが、ゴブリンの子供がばんばん生まれている。

 0才だが、ファンタジー世界なのだ。

 なんでもありだよな。


 魔術が何時の間に使えるようになったんだよって?

 ほらあれだよあれ。ゴブリンマジシャンを倒したら勝手に使えるようになったってやつよ。

 同族を殺すな? あほか。力が手に入るんだぜ? ばんばんやるに決まってんだろ。

 賢い奴にならわかんだろ。ってな感じで魔術はほいほいっとゲットしてえ、オリジナルの技を開発する事にいそしんだのよ。ほらあれよ、主人公には必殺技って奴が必要だろ?


 主役を張るんだからさあ。そういう訳で俺が作ったのは、闘気を昇華させて魔気を併せたスキルその名も黒き霧。防御にも攻撃にも使えて非常に便利なスキルよ。勝手にスキルを合成したり、作り出したりするのありなの? って俺も考えたけどさあ。できるもんは出来る。


 そゆことで納得してくれよなっ。

 んで力をつけた俺がする事っていやあ女を探す事よ。

 もっといやあ、森の中には入って来る冒険者ってのを探す事にしたんだ。

 これがまた上手くいった。なんつうの、最初の女ってのは記憶に残るって奴よ。

 

 一パーティーだったんだけどよ。気づかれないように、包囲して一気に襲いかかったね。

 手下の数は百を超えていたしさあ。もう冒険者たちには駆除の依頼が回っていたんだろうな。

 薬草を取りにくる村人を襲っていたのが功を奏したやつだぜ。

 

 で、こいつらをいろいろして捕える事に成功したってわけよ。

 手下のゴブリンどもは半分近くやられちまったけどよお。俺自身は無傷だった訳で?

 包囲網から抜けられずに一人また一人捕獲できたし。結果オーライって事で。

 後俺けっこー強いの。冒険者の男どもは盾になっていたけど、光るのを出してきたのには驚いたけどなんての。勘でわかっちまったんだよねえ。攻撃じゃねえって事が。逃げようとした連中もそこでジ・エンドだったわけよ。

 

 次になにしたかって? そりゃ当然男は食って、俺の栄養に。女は泣き叫ぶ様を肴にやりまくったさ。


「やめろーやめてくれー」


 だとかさあ。感じちまうだろうが。ぎひっ。

 願いをきくふりして殺し合わせるなんてのもおつなもんだぜぇ?

 信頼し合う人間が裏切りに満ちた殺し合いを演じるのは堪んねぇしよお。

 生き残った奴を丸焼きにして、喰うのもいいしな。


「話が違う。騙したな」


 だとか腹を抱えて笑っちまったぜ。ゴブリン相手に何語ってんのよ。


 やられる女を見て恋人らしい男が血の涙をだしていたけどよお。俺はますます興奮したね。

 思わず殺しちまいそうになるくらいだったぜえ?


 で、「外道め、地獄に落ちろ」なんて定番のセリフを聞いたあとで女の前でばりばりと食ってやったさ。あとは女をつないで終了。

 その日は最高のエンジョイあんどエキサイティングだったねえ。

 ぎひひ。

 ここまで聞いたんだもう兄弟だろ?

 んじゃ、こっちの契約書にサインをしてえ。

 俺と一緒に自由でっ! おのれのすべてをさらけ出すっ! 異世界ライフを満喫しねえかっ?

 いつまで自分を隠して生きていくんだあ?


 今こそ解き放つべきだろう。なあ兄弟。

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