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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
121/709

117話 独白(敵+日常)

「人生は、何時だってままならない。

 

 そういう事を経験した人間が多いのではないだろうか。

 そして、多くの人間は流されるままだ。

 古代でも現代でも、自ら世界を切り開ける若者は少ない。

 本人が意図しても、その実操られている等という事も。

 明日を夢見て今日を生きる。

 それは、あちらでもこちらでも変わらない。


 私達は、一体何になれるだろう」

 

 そこまで読んだ少年は、開いた手帳を閉じる。

 カズキと共に冒険してきた先輩の残した手帳だが、寝言が多い。

 とは言え、マッピングの済んだ迷宮の見取り図は、今も大事に使っている。

 台所のついた宿を借りて宿泊していた。

 

 カズキが物思いにふけると、


「カズキ~ご飯できたにゃーよ」


 愛らしい獣人の声が聞こえてきた。

 威勢よく返事を返す。


「おう。今行くわ」


 少年の名はカズキ。昨日の戦いでは遅れを取ったが、新進気鋭の冒険者だ。

 今日は、趣向を変えて迷宮へと潜る。

 雪城の事は、パーティーにとって痛い。

 メインタンクという奴は、攻撃力守備力共に高い程重宝するのだ。


 しかし、彼女は死の危険を冒してまで取り返す間柄ではない。

 所詮は、奴隷である。今少し可愛げのあるタイプであったなら、別だろう。

 カズキにしてみれば、どこにでもいる美人の一人に過ぎない。

 セックスさせて貰えないのも切り捨てる要因であった。


 剣だけは、何としても取り戻す覚悟だが。

 黄金の刀身を持つかの剣は、二つとない宝だ。

 切れ味が落ちないのが、素晴らしくいい。

 普通、剣はある程度使えば刃こぼれして使い物にならないのだが、かの剣にはそれがないのだ。

 

 剣を失っては、今後の冒険に多大な影響を与える。

 カズキの予定では、目立たないように行動してハーレムを築く。

 そういう腹積もりだ。

 必ずやり返すと心に誓うカズキは、これからの予定を立てていく。

 

 まずは、ギルドに抗議しつつ情報を集め、探索に移る。

 そして、人伝手に都市ハルジーヤの悲惨な様相を知り、カズキ達は最寄りの町ツブルグへと移動する。

 この町ツブルグは、風妖精の森から西にある。ハルジーヤは南東だ。

 ナルナの方は、ハルジーヤの南方にある為、選択肢はない。


 小国とはいえ、町の数はそれなりにある。人口二百万程度。

 人口の十パーセントが、戦争に参加する異常事態だ。

 正確な数が測れないのは、ドワーフやエルフのせいであった。

 移動する街道は、碌に整備されておらず、放置されている。


 この国の冒険者は、ユウタ達のように空間転移術を持たない。

 全て移動は、馬か鳥馬、陸蜥蜴が主流だ。

 飼育する点で、馬一強である。奴隷商人達も豪華な馬車を使っていた。


 奴隷商人達の使っていた馬車を使えれば良かったのだが、ユウタ達の放った火がそれを妨げた。

 逃げた馬に乗り、逃げる事半日。

 三人は、朝方ようやくツブルグに辿り着いた。


 ミレーヌが飛行魔術を使えばまた違うが、それで夜盗と化した元護衛達に襲われては意味がない。

 飛行を維持するのに消費する魔力も大きい為だ。

 朝は睡眠で過ごし、昼になっていた。


 町の入口は、検問所となっていたのがカズキには引っかかっていた。

 性交できなかったのも、疲れと長引く検問のせいである。

 ポチタマの作った昼食を頬張りながら、苛立つ。


 石、とまでは行かないが、出された黒パンは硬い。

 この世界の食事は、まともではなかった。

 薄いスープとトウモロコシには、胃が膨れない。

 迷宮で得られる財貨とて、限りがある。


 ハイデルベルの迷宮は、どちらかと言えば鉱山に近い。

 掘った鉱石が収入であり、湧いて出てくるモンスターで技能を磨く。

 掘り進めた先には、鉱石モンスター等もいてカズキの収入になっていた。

 

 極寒の迷宮は、名前を氷獄石奇宮いう。

 そこに通うカズキが拠点とするアゾレス。

 件のガストン伯爵が治める北の領地が広がる辺境の町だ。

 ツブルグよりも更に北にある迷宮には、それなりにランクを上げた冒険者が挑む。

 ツルハシとスコップの値段が生死を別つ。

 

 そんな迷宮である。安いスコップでは、あっさりと砕けてしまう。

 ツルハシもまた同じだ。カズキはそれなりに収入を得て、家の購入まで済ませている。

 痩せた大地が故に、ガストンが反乱軍に賭けるのも理解できる。

 鉱山の収入は、基本的に国が管理する為だ。


 国の東に広がる雪の大森林は、年中雪で覆われ開拓もままならない。

 そこから出て、世話になったのはアゾレスの町の住人だった。

 冒険者として活躍し、それなりの待遇を得てきた。

 

 カズキは、集団転移でこの異世界に放り出され、右も左も分からないまま駆け抜ける。

 それは数か月前の事だ。採取系の依頼から始まり、討伐系もこなしてここまできた。

 竜ならぬ巨大な蜥蜴を討伐した事もある。


 名誉欲が無い訳でもない。けれども、安全が第一である。


 ナオやライ、マサキに誘われたが、反乱軍に参加するなど真っ平御免だ。

 国の争いは血なまぐさい。

 ナオが内乱を起こし、王都の国軍を殺しまくったのも勘に触る所であった。


 カズキは正義漢ではないし、ナオらのように欲に塗れてもいない。

 地面をひっそりと這うように目立たずに、生きていく。

 カズキとしては、平穏無事に過ごすのが目標である。

 見知らぬ野郎にSEKYOUされた所で、揺らがない。


 他人の為にどうして命を掛けなければならないのか。

 カズキにとっては、意味不明だ。この国が日本ならいざ知らず。

 そもそも事の起こりがはっきりと見えないのもある。


 情報が制限されているのだ。

 国の西側は、反乱を計画した貴族達の領地が広がる。

 彼らは、内乱が起きても豊な領地に引きこもっていた。

 日和見というよりも、無視である。

 王都の苦境を他所に、内乱を口実に反乱を起こすやり方だった。

 傍から見ていてもそれ位の事は読み取れる。


 食事を済ませたカズキにミレーヌは優しげに、キスを交わす。

 

「カズキ、傷は大丈夫なの」

「ああ、この程度なら問題ない。ギルドに文句言いにいくぞ」

「それなのだけれど、止した方がいいわ」

「どういう事だ」

 

 疑問に満ちた声を上げるカズキ。

 ミレーヌは、通りを見下ろしている。

 宿では、食事を作れる仕様なのが有難い。中級宿でも上の方に位置する。

 中堅クラスの宿は、大通りに面しており、そこには軍隊が流れ込んでいた。


 カズキが隣に立つと、横顔を眺めながら、


「シュピッツア大公の軍勢よ。あの旗がそう」

「それと、冒険者の俺とどういう関係があるんだよ」


 通りを騎兵と歩兵が行進していた。

 戦闘力は、申し分ない。煌びやかな正装に金属鎧が光を反射していた。

 騎兵の槍は長く、歩兵もまたそれを構える。

 正面から当たれば突破不能の方陣。

 騎兵の機動力は、類を見ない。急遽派遣されたミッドガルドには、騎兵がいない予定だ。

 通常の戦闘であれば、ミッドガルド軍とハイデルベル国王軍の残滓を粉砕すると目されている。

 

 反乱軍の士気は、かなり低下している。

 けれども、ゴルド―将軍は歴戦の大将軍。補給を重視する為、一旦進軍は停止するであろう。

 実力と実績は、十分。長く辺境を平定してきただけに麾下の兵は精強で知られる。

 ただ、この国の将軍達を暗殺したという噂が付きまとう。


 時間的に見れば、このまま真っ直ぐ進軍するべきなのだが。

 空中から襲ってくるという竜を相手にしては、全滅必至である。

 そこで、弾除け代わりに冒険者を使う。


 ミレーヌは巻き毛を整えながら、


「カズキは良く知らないだろうけど、大公は異世界人を重用しているわ。当然、冒険者ギルドにもリストを作らせて提供させるぐらいの事はしている筈。となれば、今ギルドに行くのは不味いわ。いいように使われるわよ」


 そう断言するが、カズキは納得のいかない表情を浮かべる。


「冒険者ギルドは、中立だろ。なんでそんな事になるんだよ。糞っ」

「とにかく、私とポチタマで情報を集めるわ。カズキは待機していて頂戴」

「ああ。でも、気をつけろよ」

 

 ポチタマと抱擁し、接吻する。

 この時、カズキは不安が頭に蛇の如く絡みついていた。

 獣人の舌は、柔らかくカズキを慰撫していく。

 

 部屋を出る二人にもしも、というような予感めいた物がある。

 そして、二人とは切っても切れぬ仲だ。

 カズキは、部屋に鍵をかけて宿を出ようとする二人に追いつく。


 振り返るミレーヌの横顔に、カズキはドキリとした。

 金髪が、口にかかって色気を隠せない。


「どうしたの。カズキ、待機しておいてっていったじゃない」

「ポチタマに任せるにゃ」

「いや、悪い予感がする。俺も行くわ」

「そうなの。あたしは反対したからね」


 カズキ達は、冒険者ギルドへと向かう。

 どの道、この町からは冒険者は出られない。

 大公が盾替わりに使う為、冒険者達を徴発する事になっている。

 気が付くべきだった。入口で検問がある事が何を意味していたか。


 平穏な日本から異世界へと来てそれなりに体験してきたカズキ。

 まだ彼は知らないのだ。非情な現実がある事を。

 覚悟していたとしても、現実に対面した人の事を想像するには若すぎた。





 




 いち早く目を覚ましたのはユウタであった。

 彼の朝は、早い。

 非常にショックを受けた表情で、惨劇の場所から離れた。

 女達は、すやすやと寝息を立てている。

 部屋の隅で、奇怪な縛りをされた少女と目が合った。

 困った表情を作り鼻の頭を掻くユウタは、部屋を出ていく。


 少年は、立ち直りも早かった。


 ドアが閉まると、少女二人が同時に身体を起こす。

 アルトリウスとアルーシュだ。


「やはり、あいつを忘れていない気がする」


「また、その話か。だとしても、殺すのは無しだぞ。いきなりヤッて殺したなんてやり過ぎだ。お前、あの森で告白して振られたんじゃないのか」


「・・・・・・」


 無言を貫こうをする少女の顎に手をかけて、アルトリウスと視線を合わせる。

 手を震わせる少女に、


「大体証拠は、揃っているんだぞ。いい加減に吐け」


「・・・・・・流石にばれるか。ああ、そうだ。あの日、あの時、ユーウは私の告白を断った。そして、あの女だけでいいといいやがった。許せる筈がない。バラバラにして、生き帰らせては粉砕してやった。バラバラにして・・・・・・・」


 生き返すではなく生き帰す。それにアルトリウスは、顔を引き攣らせる。

 二人共に腰かけるアルーシュとアルトリウスは顔形が同じとしか言いようがない。

 ホクロが無いので瞳の色で判別するしかなかった。

 親指の爪を噛むアルーシュは、専用の無限収納インフィニットストレージを開く。

 中から取り出したのは、赤い文様と梵字にも似た神代文字が刻まれた剣。

 

 取り出した剣は、少女の神力を受けて輝きを強める。


「アルーシュ、落ち着け。兎も角、より多くの妾を作らせる事だ。そうすれば、奴は捨てられない男だ。いずれ、奴も気が付く。俺かお前くらいしかいない事にな」


 アルトリウスの方に視線を向けながら、


「・・・・・・本当に、そう思うか? 私には、またあいつだけを見て生きていくなどと寝言を言いそうな気がする。私の事など、どうでもいいんだよ・・・・・・」


「そうなら本気で抵抗した筈だ。ここは、チャンスだ。既成事実を作っていけばいい。間違っても、また幻想回帰と瞬間成仏を使って弄ぶのはやめろ。大方ユウタを弄んで爺に取り上げられたのだろう。でなければ、お前が落ち込んで引きこもる筈がない」


「うっ。確かに、その通りだ。今回はしくじる訳にいかないな。私は朝から仕事だ。アルトリウスはどうするのだ」


 黒のワンピースに着替えるアルーシュの動きは、素早い。

 時間が押しているのは、彼女の方だ。

 焦りと不安から解放された少女の顔は、端正さと怜悧さを取り戻す。


 それを満足気に、


「俺か。俺は、ユウタといちゃつく予定だ。その後、ペダ村の世話がある。あと、諸々の工作が結果待ちだな」


 二人は、忙しい。とにかく仕事の量が多かった。

 部下に割り振る事も多いが、それでも自身で判断せねばならない事がある。


「アルルの奴はどうしている?」


「ハイデルベルから帰ってこれまい。それとユウタからレーヴァテインのコピーを預かった」


「スルトにやった炎の剣か。狒々爺にも困ったものだ。ま、これはロシナに与えるとしよう」


「ユウタは、何か欲しがったのか?」


 アルーシュが、水鏡の術を使う。

 それは、見通しの術でもあり。アルトリウスもよくする神術だ。

 水が広がったような膜に映し出される。

 そこには、一階でうどんをこねくり回すユウタの姿が見えた。


「いや、あいつは何も欲しがらない。俺としては、何かやりたい所だ。今のあいつが欲しがりそうなものといえば、ゴルだが。簡単にくれてやっては、どこかにいきかねない。領地を与えて縛るやり方は、以前に失敗しているしな。ユーウの資産は、今や国の税収を遥かに超えている」


「他の褒美は、考えてあるのか」


「俺が考えている候補としては、武器か防具だ。祈り(オラシオン)がある。ユウタと二人で集めた武器の一振りだ。他には、アルルの奴がユウタの好きそうな女を持っていたではないか」


 アルトリウスが見せるリスト。

 そこには、多彩な武器が揃っていた。

 名剣グラム。炎斧グラムス。竜殺剣バルムンク。風神シリーズ、風槍ゼピュロス、風剣ノトス、風杖エウロス、風斧ボレアス。魔剣カラドボルグ。光槍ブリューナク。呪剣オルナ・バッス。輝剣クラウ・ソラス。魅惑の鞭チャームウィップ。風精弓ディード。月聖弓クレセントリア。海槍ライデン。暗黒剣オーガブレイド。

 流石に、自身が使う勝利の剣エクスカリバーは、除いてあった。

 陽光を浴びし時、不敗の太陽剣ガラティーンと水あれば、全治の精霊剣アロンダイト。

 ここもまたない。

 普段携帯しているのは、王の剣カリバーン。

 武器を見つめる少女は、その文字一つ一つを愛おしげに指でなぞる。

 幼い頃、アルトリウスとユウタで潜った迷宮の日々が脳裏をよぎっているのだ。

 アルトリウスの視線は、虚空を眺めた。

 

 アルーシュが成り済まして、交互に潜っていた迷宮でもある。

 それに気が付いたアルトリウスが挑んだアルーシュとの死闘は、今も鮮明だった。

 ユーウに止められたが、あの時であれば決着をつけられたであろう。

 今では、エクスカリバーとテュールのルーンを刻んだ聖剣ズィルバーンで互角だ。


 武器、能力に優劣がつかない。そして、共に神力、技能が五分。

 それらを得、培ったのは王族専用の迷宮。 


 王宮の地下に広がる最深部踏破不能なとある地下迷宮。

 それは神級ダンジョン、戦乙女の記憶ヴァルキリー・メモリーズ

 Sランクの冒険者であっても、十層も探索できない。

 そこで、本来なら会わない筈の少年と少女は出会った。


 長い話になる。一人と二人は、そこからが始まり。

 最深部には、あれがある。


「ユウタはああいうのに弱いからな。彼女の傍にユウタがいれば、アルルの奴が目覚めるのは問題だ」


「デュランダルが傍にあれば、という事か。ユウタから取り上げるのはどうだ」


 天使と人のハーフという事になっている。が、あれの実態は違う。

 封印された神の僕だ。

 それも最上級の天使。一二枚の羽根を持つ奴である。


 有翼種の頂点に立つ彼女の目覚めは、三つ巴の戦いになり。

 一日戦ったとしても勝負のつかないアルーシュとアルリウスの争いに、混沌を呼び込むであろう。

 二人は無視したいが、敬愛する姉のお願いは無碍に出来ない。


 何といっても、二人を良くしてくれる人物なのだ。


「無理やりか? 私は、気が進まない。やるなら自分でやれ。嫌われてもしらんからな」


 無理やりやっておいて、この言い草であった。

 しかし、二人にとって全てはここからである。

 戦えないのでは、勝負にすらならない。


 全力で寵を競う。それで敗れるならば、納得もいく。

 もっとも、彼女達は敗北しても決してそれを認めないであろう。

 その道がたどり着く先は、ユウタの死である。

 

 始原の存在は、それを気にしていた。

 ユウタの力を封じるのには訳があるのだ。

 彼女達を相手にしないユウタが同等以上の力を持ち、抵抗したならばどうなるか。

 二人は、この世界でも稀有な程の力を持つ神族である。


 天変地異。それとて容易い物だ。

 二人共に女の身で通りを歩けば、十人中十人までが振り返る容色である。

 片や、明るく淡い暖かさを感じさせる陽光。

 片や、冷たく切れそうそうな氷塊。


 アルトリウスとアルーシュは、余人に自身をさらけ出すつもりは全くない。

 

「エクスカリバー、レーヴァテインに匹敵する聖剣を持つのは王族だけ。だというのも苦しいか」


「藪蛇という言葉もあるしな」


 二人が考え込む。二人は、服を着ながら、室内の様子を眺める。

 幼い頃から勝負をしてきたが、全くケリがつく様子がない。

 三歳の頃から、ユウタを巡って殴り合いをしてきた。

 一番最初の喧嘩は、ユーウのくれたぬいぐるみである。

 熊のそれは、とても愛らしく、二人の心を鷲掴みにした。


 その熊は、原型をとどめていないが。

 また作って貰った熊は、大のお気に入りでもある。

 

 今では、大地が変形する為。星空が戦場だ。

 ポンと手を打つ少女は、電球がついたように閃きを得る。


「デュランダルを使わないようイベントリにいれさせておけばいい。中から出さないようにしておけば、影響も少ない」


「アルルの奴はそれでいいとして、ユウタに接近しすぎると問題だぞ」


「わかっている。しかし、恋とかいいだしたら、俺も止めようがない。所で、少しはお前も頭を働かせろ」


「私は、肉体労働専門なのだ。朝食、先に行っているぞ」


 アルーシュは、闇に姿を消した。

 溶け込んでいくその姿は、暗がりで輝く光だ。

 一階に移動したそれで一息ついた。

 危険な彼女が去って、少女はべっとりとついた汁の跡を布で拭く。


「全く、昔はああではなかったのに。人の身で変われば変わるものだ」


 改めて室内を見れば、酷い匂いがする。

 くんくん。

 アルーシュは、良い匂いだ等と言っていたが。

 少なくともアルトリウスは、そこまで変態ではない。


 皆、気絶したような深い眠りについていた。規則正しい寝息を立てている為、死んではいない。

 昨日の夜。セリアは、特に攻められていた。

 一旦始まってしまえば、ノリノリである。

 どれだけ溜まっていたのか。と言える状態であった。


 クリーンの魔術を使えば、簡単に身ぎれいになる。

 ユウタの作った魔術であるが、どのようにして綺麗になるのか。

 まるで不明であった。正確には、汚れを除去する振動波を流すのだと少年は言っていた。


 アルトリウスは、白いシャツに青いスカートを履く。

 オーソドックスではあるが、昔のユウタが褒める組み合わせだ。

 短く露出させる服には、目のやり場を困らせる。

 

 まずは、食事の前にスキンシップと風呂だと決めてドアノブに手をつけた。

 外の空気は、新鮮であった。

 部屋の中は、男女の匂いが充満している。


 壁は、クリーム色に塗られた壁紙が印象的だ。

 通路から下に降りる階段に足を掛ける。外には、忍者や騎士が配置されてあった。

 卒がないアドルの指揮だ。ペダ村に出向しているロシナの代わりに護衛を務める。


 ユーウの幼馴染であり、そしてライバルでもあった。

 かつても今も出来る男だ。

 外には、音が漏れないよう絶対の防壁(コーンウォール)を掛けている。

 接近してきた影が頭上から、


「アルトリウス様。お知らせしたい儀がございます」

「ふむ。よかろう」


 通路を歩くとすぐにアルーシュがユウタとじゃれついていた。

 ぶっ。

 空を薙ぐ音は、忍者を黙らせた。


「は、は。これは怖いでござります」

「すまんな。で一体なんだ」

「は。ハイデルベルの件でございます」

「うん。聞こうか」


 眼前では、ユウタが台所で料理をしている。

 それを邪魔するのはアルーシュだ。昔から困った性癖の持ち主で。

 背中から飛びつくと、ペロペロしていた。


 影の話は、長い。要約すれば、ユウタがハイデルベルの反乱軍を叩いた。

 そういう話だ。 

 にわかには信じがたい話ではある。

 けれども、ソファーで寝ている赤い髪の女を見て納得した。


「おい。何でこんな所にいる?」


 赤い髪の美女は、艶めかしい胸元をおしげもなく開いていた。

 そして、流暢な竜言語で、


「おや。ペンドラゴンの系譜がいるとは珍しい。竜を裏切りし、赤い竜帝様。こんな所にいるのも、ここの主のせいですよ」

「ほう。そこに転がる女も奴隷か?」

「さようで。DD様の言われる通りになるでしょう」


 会話をしている間に、ユウタの料理が完成をみた。

 出来上がった品は、焼きうどんである。

 香ばしい匂いが食欲を刺激した。


 ユウタは、箸を差出す。


「喧嘩は止めてくださいよ」

「わかっている。ところで」

「はい?」

「俺が許す。余人が居ない場所では、敬語を使うのをやめろ。むず痒くてかなわん」  

「はあ、しかし・・・・・・」

「しかしも案山子もなしだ。さあ言ってみろ」

「わかりかねます。いったいそれでなんの意味があるんですか」

「うむ。空気だな。何かしっくりとこない。あと、旦那なのだかららしくしろ」

「はあ。ですが、そうそう人という奴は変わりませんよ」

「むぅ。おいおい慣れてもらうしかないか」

「ありがとうございます」

「へぇ。あの竜帝様も落ちぶれたもんだね」


 ユウタとて馬鹿ではない。簡単な挑発だったが、ユウタは乗ってしまう。

 ユウタが、無言で背後から赤い髪のドス子に詰め寄り、こめかみには彼の中指が突き立てられた。


「そんな口を利くのは、だめだろう? 人を貶める奴はこうだっ」

「主―っ、ちょっとまつのだ。我は、な-」


 ドス子は痛みで涙目だ。黄色いヒヨコがドス子の頭を撫でている。

 竜種同士なので、会話をしているのだ。

 

 新大陸アトランティアでは、多数の竜族が今もいる。

 かつてのラグナロウ大陸には、古ログレス王国があり竜族は繁栄を極めた。

 その面影を残したブリタニア王国もまた滅び。

 新大陸から伸びたヨルムンガンドの手も、またあっさりとユウタの手で断たれた。

 今なお森に残るトカゲは、いない。

 もっともそのせいで森からは、豚鬼(オーク)子鬼(ゴブリン)がでるのだが。


 ヒヨコは、空を飛ぶ。ドス子の頬を撫でれば、赤い髪の竜は表情を良くする。 

 それを他所にアルトリウスは、小さい口に麺を入れていく。

 アルーシュ等は、鍋の物まで喰う気満々であった。


「今日は、朝から学校へ向かう。ユウタも一緒に来てほしいのだが、頼めるか」

「はあ。ですが、俺に出来る事が何かあるのですか」

「ふっ。ユウタはわかっていない。アルトリウス様は、一緒に登校したいといっているのだ。そういう処を察して返事した方がいい」

 

 食堂に現れたのは、セリアだ。

 白いシャツから覗く谷間が艶めかしい。ユウタの視線は、そこに釘付けになる。


「・・・・・・」

「わかりました。皆も起きてきたのでそれからでいいですか」

「うむっ」

 

 ユウタ達の食事は、長い。

 皆、眠たそうにする目をこすりながらであった。

 雰囲気が桃色だ。


 玄関まで見送りにきたドス子に、ユウタは竜言語を放つ。


「それじゃあ、留守番を頼んだ」

「主―、何故我を残していくのだ」

「すぐ帰って来る。ティアンナと一緒に大人しくしていてくれ」


 ユウタとしては、もうこれ以上重荷を増やすのは面倒である。

 従って、捕まえた女三人をどうするか。

 彼が選んだのは、やはり服従魔術だった。

 

 DDの魔術で、従順な魔術師と格闘家の三人確保した訳だ。

 竜言語版奴隷魔術である。対象に、セリアと同レベルの強制を仕掛けた。

 

 粉雪のような白い髪の少女は、酷い容貌の雪城。

 彼女は、非常に残念な容貌になっている。回復には、時間がかかると診られた。

 パンパンに膨れあがり、血液が引くには時間がかかる。

 それと、受ける側が気絶していてダメージを負ってから時間が経っていた。

 更には、少女が魔術抵抗が高く、回復の魔術を受け入れようとしない。

 

 くすぐるユウタの前にあっさりと陥落したが。

 悶絶地獄で、身体から噴き出た汁が酷い有様であった。 


 エメラルドな髪をした魔術師エメラルダと黒髪のユミカ。

 お嬢様と言っていい容貌の少女と怜悧な容貌と眼鏡をした少女。

 共に男どもが放って置かないであろう美少女だ。


 現在は、ティアンナが二人の世話をしている。

 ユーウが男ばかり配下にしていたのに反してユウタは女ばかりであった。

 ユーウ麾下の四天王とその下に六将軍。皆男である。

 というのも、右腕と左腕が女を排除していたからだ。


 ユーウの記憶喪失。

 この状況でなければ、アルトリウスとアルーシュが付け入る隙もなかった。


 ユウタは、アルトリウスとセリア、モニカを連れだって学園へと向かう。

 ゲートを使えば、一瞬で行き来出来る。

 アルトリウスが用意した馬車も無駄になる運びだ。


 転移門を抜ければ、そこは勝手知ったる学園である。

 アルトリウスは、告げる。


「さ、横に並んで一緒に入るぞ」

「いやいや。また御冗談を」

「んっ。アルトリウス様、変身なさらずとも宜しいのですか」

「うむ。ユウタとならばな」

「ですが、余り耳目を集めるのはユウタにとって不都合かと」

「そうか。それなら仕方がないか」


 アルトリウスとセリアが並んで歩けば、通行人は目を奪われる。

 モニカとユウタは付き人のような感じであった。

 校門を抜ければ、そこは涼しげな風が通る。


 堂々と歩く二人にユウタは、素知らぬ顔をする。


「おはようございます。セリア様」

「おはよう」

  

 登校する学生が、二人に目をやり、ついでユウタとモニカに視線をやる。

 モニカの胸に大半の人間は、吸い寄せられる。

 何せ、下からでは顔が隠れるのだ。


 ユウタは、空気であった。お供かもしくは運搬者にしか見られない。

 着ている物は、アルトリウスから手渡された学生服に着替えている。

 しかし、サイズがあっていなかった。

 背丈は、それなりだ。目立つ事は避けたい。

 そういう事で、猫背になっている。


 ぶかぶかになった服の袖で手が隠れてしまう。

 折しも季節は、初秋。

 夏服もしまわれるタイミングである。


 プリプリとした二人の尻が、ユウタの目を釘付けにした。

 すぐ後ろを歩いているのだ。

 当然そこに目がいき、


「なんなんのあの男子。セリア様の後ろで下品な顔をしているわ」


 等という声が囁かれる。


 男ならば誰でも視線を向けるであろう胸を凝視する男子達も、我に帰った。

 登校する学生の間を通り抜け、下駄箱で靴を履きかえる。

 そのまま四人は、職員室へと向かった。

 ユウタは誘導されるまま、開けられた扉の中に入っていく。

 

 金髪を長く腰まで伸ばした教師の所で、セリアは足を止めた。


「ラフィーア先生。おはようございます」

「やあ、おはよう。よく来たな。セリア嬢にモニカ嬢。それから・・・・・・アルトリア嬢。オマケのユウタ君だったか」

「はい」

「君たちのクラスは、ユウタ君を除いてSクラスだ。おい、レオ。案内してやってくれ」

「・・・・・・」


 レオ。ルナ麾下の騎士であり、この学園に通う学生でもある。

 顔見知りが三人を連れていき、ユウタは押し黙った。

 目の前の女教師を殺害しかねない危険な目をしている。


 葉巻きを吸う教師は、足を組み替え脅す。


「どうした屑。お前は、最底辺だ。あの子らと一緒に居ては、害だ。そこの所をわきまえろ」

「・・・・・・」


 煙を含んだ息を吹きかけ、


「返事はどうした? おい」

「・・・・・・はい」


 腹の底からどうにかユウタは、声を絞り出した。

 戦場であれば、案山子のように斬る。

 少年は、憎々しげに喋る教師の声を聴いていた。

 袖の中で怒りの余りか、握り絞めたユウタの拳が震えている。


 葉巻きで一息いれてから、案内する教師に従って後ろを歩く。

 背後からは、隙の無い佇まいが見て取れる。

 長いコートのようなスーツからは、武器が長物と語っており。

 不躾な行動とは裏腹に、この教師は出来る前衛であった。


 ユウタが案内されたのは、あからさまに底辺と文字が見えそうな位な部屋であった。

 中の様子は、荒廃しきって世紀末。等ではなく、大人しく勉学に勤しむ。

 そういう姿が見える。

 しかし、


「ここが、お前の通うGクラスだ。能力が最底辺な連中ばかりの集まるクラスだな。ちなみに、授業は受けても受けんでも構わん。講義の内容を聞いていたとしても、迷宮を攻略できるとは限らんのだしな。私の言った事が悔しいと感じたならば、能力伸ばす事だ。ステータスALL一の奴がどうやってこの学園に入学出来たのか。見せてもらおうじゃないか」

「はい」

「返事はしっかりできるか。それと、クソガキ。学園内で、アルトリウス様の周りを貴様のような屑が纏わりつくのは断じて許さん。しかと覚えておけ」


 鼻に一文字の傷を負う教師は、ユウタに向けて吐き捨てた。

 眦を上げて詰め寄る教師に、ユウタは押されっぱなしになる。

 煙を吹きかけたり、ユウタを傷つけるような言動は全てアルトリウスの為だ。


 授業を受けさせる為の教科書の類をラフィーアは取り出す。

 そして、ユウタに手渡し、


「さっさと退学するといい。貴様にここは不釣り合いだ。問題行動を起こしたら直ぐにでも退学にしてやる。安心しろ、貴様のような奴がどう取り入ろうが排除してやるからな」

「こ・こ・・・・・・」

「こ? まともに言葉も出せないのか阿保め。さっさと教室の中に入れ」


 筋肉を震わせ抗議するユウタに、ラフィーアは冷たい視線を浴びせる。

 ガラッという音を立てて、教室の扉を横に開け、


「マナ先生。例の問題児を連れてきた。宜しく頼む」

「あらあら、先生。虐めるのはよくありませんよ。ユウタ君宜しくね」


 優しげな表情を浮かべる教師が、教壇にいた。

 柔和な表情と、胸だけが異常に発達した銀髪紅目の女教師だ。

 拳を今にも地面へと叩きつけんとしていたユウタ。

 彼は、スッと手を撫でる。


「はい」

「それじゃあ、後ろにあいている席で授業を受けてくださいね」

「では、マナ先生任せたぞ。しっかりと教育を頼む」


 しっかりとを強調するラフィーアにマナは困り顔だ。

 顔を膨らませながら腕を組む。


「も~。またそんな事を言って困りますよ。この子も優秀な冒険者に育てて見せます」


 手の平を振ってこたえると、ラフィーアは静かにドアを閉めた。

 見送るマナが、振り返りユウタに向かって両手を合わせる。


「ごめんなさいね~。あの人は、あの方の信奉者でね。と~っても熱烈なの。君にはつらく当たると思うけど、そんなに悪い人じゃないのよ。だから、時間をかけて理解を貰えばいい味方になると思うわ~。それじゃあ着席してね」

「・・・・・・はい」


 ユウタは収まらない怒りで、目から炎でも出しそうな雰囲気である。

 マナのフォローがなければ、惨事が起きていただろう。

 何しろ、最近のユウタは直ぐ着火しやすい。


 ともあれ、ユウタは一限だけは受ける事にした。

 が、途中で飽きた彼は抜け出す。教科書は、一通り読めば内容を理解できる。

 それが身体能力によるものかどうか自身には判断がつかない。

 マナの授業は、退屈であった。そこで、隠形を使い荷物を纏めて外へと移動する。


 そして、誰も居ない廊下にでる。廊下には、アルトリウスが待ち構えていた。

 困ったようなにやけたような微妙な笑顔を浮かべている。

 ユウタはその姿を見ると、ぶるりと背筋を震わせた。

 制服姿の少女は、水のように澄んだ声を小さく、

「ちょっとこっちへ来い」

「へ、え。あっそ・・・そこは」


 腕を掴まれ連行されたユウタが目撃したのは、便所という文字が書かれていた札のかかる場所だった。

閲覧ありがとうございます。

エロはやっぱり描写ない方向で。

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