110話 転職してそれから(主人公)
やはり転職が気になった。ステータスが上がらないなら、せめてLVだけでも上げておこう。
時間的にギリギリの所だろうけど。転職の神殿は結構な人で賑わっていた。
いきなり、全部転職するのは不味いかな。
取りあえず、冒険者を上位の職である冒険家にしてみるか。
職性能で勝負していくしかない。派生もあるようだけど。
探検家とか何処がどう違うのか不明だし。
現状ではスキルの引き継ぎとステータスのリセットがあると聞いている。
俺のステータスは、LV上がっているのに見れないとか酷い仕様だし関係ないな。
どうせ俺は、ALL1だもんな!
試しに冒険者から転職してみる事に。
LV1になりますが宜しいですかと聞かれた。
迷ったが、その上もあるようなので立ち止まる訳にはいかない。
「宜しいですか」
「はい」
転職場は水晶のような光る魔術の陣が描かれた場所で、如何にもなシスターが執り行ってくれた。
時間にすると五分程度で、かかった費用が一万ゴル。
神殿は、さぞや儲かっている事だろう。
「これで、完了です。またおいで下さいね」
「ありがとうございます」
背中まである長い金髪のシスターで、肉感的な肉体の持ち主に、艶めかしい笑顔を向けられる。
また来てみるのも悪くない。
しかし、意味ありげな視線だ。もしかして、沢山の職がカンストしているのがバレてる?
バレている気がするな。転職してほしいのかな。
だとしても、払うゴルがない。
何とかしたい所だ。ま、気長に上げていくしかないだろうな。
必要経験値のテーブルなんてのもあるくらいだ。
何だかゲームをやっているようなそんな気分になる。
全部転職しておきたい所なのだが、そうそう上手く事は進まないか。
この国の冒険者達は、二、三の職を持っている。
居ても俺のように大量に持っている奴は、いないようだ。
根堀り歯堀りして、美人のシスターに話を聞き出していたのだ。
ちょっとしつこかっただろうか。
最後は、顔が引きつっていたしなあ。次は自重しよう。
「おっ。大人しく待っていたか。流石は奴隷ちゃんだ。よしよし」
「------」
すっかり大人しくなってしまった赤い髪の子をなんて呼べばいいのだろうか。
ドゴスギガースだっけ。ドス子か。
赤い子かドス子か。どっちがいいのか誰かに相談したい所である。
話は通じるのに、相手の言葉が理解出来ないのは問題だ。
ヒヨコなDDならわかるのだろうか。
しかし、肝心の通訳候補は寝ている。
懐をまさぐっても反応がない。また、涎をたらしているのか水っぽく湿っていた。
後で、文句言っておかないとな。
「ドス子行くぞ」
凄く目つきが反抗的だ。美人に睨まれるのは、ゾクゾクしてくる。
というような趣味はない。だが、この子を一体どう取り扱ったものか。
アルトリウス様の事がなければ、間違いなく宿でしっぽりなのだ。
俺だって男だし。去勢された犬のようになりたくはない。
健康な男子なのですよ。溜りに溜まった性欲をどうしてくれるんだ。
この子にはセリアに感じるような威圧感を感じないからだが。
◆
悶々とした気分で王立ラグナロウ学園に、転移で移動する。
学園前は、凄い人だ。前に来た時はこれ程の人通りはなかった。
まるで、お祭りのような賑わいだ。
人で溢れかえった学園前には、騎士達が警備に立っている。
色とりどりの鎧をつけた騎士達は、一定間隔で立っていた。
皆重武装のフルプレートにヘルムなので、暑くはないのだろうか。
ひょっとしたら、体温調節の魔術でも鎧にかかっているのかもしれないな。
道には案内の看板が立っているので、迷う心配もなくついてしまった。
学園内の闘技場はデカかった。
ひょっとすると、アーバインの町にあったそれよりも大きいのではないだろうか。
東京ドーム並の大きさで、入るのにはタダのようだ。
受付はなく、また切符売場のような場所もない。
入場に騎士と学生が簡単なチェックを行う位である。
もしかしたら、何か仕掛けがあるのかもしれない。
人が沢山集まる場所にしては、警備が甘いし。
「はい。通ってよし。次ー」
騎士の目線は、連れているドス子のほうに行っている。
俺がオマケで、ドス子が本体のような視線だ。
中の通路を通って観客席につくと、試合はすでに始まっていた。
空いている席がなかったので、立ち見になってしまう。
モニカとセリアは中々出てこないな。
試合は同時に何ヶ所かでやるタイプのようだ。
円形の闘技場は何分割かに区切られて試合が行われている。
立って観戦していると、ポップコーンが欲しくなった。
あと、冷えたビールもだ。ツマミに柿の種なあれとかもいいな。
程なくして、モニカとセリアが出てきた。
二人共身体に、他の選手達がつけているのと同様な近未来的な防護服をつけていた。
対戦相手は六人か。かなり不利じゃないか。
人数を揃えられなかったのかな。いや、セリアの事だから一人で十分とかいいそうだ。
モニカも俺も足手まといのように思っているのかもしれないしなあ。
開始からすぐに勝負が終わってしまった。
もう少し手加減を覚えるべきだろう。赤くなった防護服を着て相手の五人は寝ている。
こんな物か。セリアがさっさと片付けてしまった。
拳打の一突きで相手を倒していくのは、どうなのよ。
観客はドン引きするかと思っていた。
幸いにして、黄色い歓声の方が多いようだ。
セリアは、女子に大人気のようである。男子の雰囲気は微妙なようだ。
戦いが終わったのか辺りを見回すと、こちらに手を振って来た。まさかな。
小さく手を振り返してやる。
モニカは、最後に残った相手と戦っている。
某ロボットなあの鉄球を振り回していた。トゲトゲはついていないけどさ。
相手は、伸びるメイスと鉄球のコンビネーションの前に近寄れない。
相手も、ガードしているもののじり貧となっていく。
俺ならどうするだろうか。モニカの相手となっているのは剣士のようだ。
魔術で反撃をする。バスケットボール大の炎がモニカを襲う。
モニカはしっかりと盾でガードすると、反撃の鉄球を飛ばすという感じだ。
剣士は、剣一本なので刃が受ける度にボロボロになっていった。
最後は、鉄球の鋼線でからめとられてノックアウトだ。
勝負は六対二だったのに、セリア達の勝利のようだな。
「こんにちは、ユウタ君。よくきたね」
「!? こんにちはロシナさん」
あれ? ロシナさんはてっきりペダ村の後始末をしている物だと考えていた。
しかし、現実に金髪の優男は目の前だ。
観戦に夢中だった。
なので、赤い鎧を脱いだ騎士にまるで気が付かなかった。
ブレザーの学生服をきた如何にも出来る男が立っている。
後ろには、お供の女学生がいて警護しているようだ。
「うん。観戦しに着た所で悪いのだけれど、こちらに移動しないかな。良い場所があるんだ」
「わかりました」
何か。何か話でもあるのだろう。
ここで話すのは不味い物かもしれない。
セリア達の勝ち名乗りが終わり、二人がリングから出る。
俺はドス子を連れて、ロシナさんの後について行った。
やがて、警備がやけに厳重な区域を移動していく。一定間隔で騎士が警備をしている。
移動して着いた場所は、何といっていいのか。
よくある来賓席のようなプレミアム席と言えそうな部屋だ。
特別な人間だけが、観戦を許されるといった場所である。
値段はわからないが、日本であれば数十万からしそうな調度品に軽い眩暈を覚えた。
何ともみすぼらしい恰好をした男と女が二人立っている。
ロシナさんとその連れは、パリッとした着こなしで似合っているのだ。
アイロンやら見かけないのに、皺のない服。
実は、どこかにクリーニング屋でもあるのだろうか。
「かけたまえ」
「はあ。しかし・・・・・・」
「いいんだ。立っていられては此方が落ち着かない」
「わかりました」
ふかふかのソファーである。何処で作られたものなのだろう。
とても触り心地がいい。
眼下では、今も対戦が行われている。
どの対戦でも魔術師がPTに入っていて、とにかく派手だ。
俺が腰を下ろすと、ロシナさんは話を切り出した。
「まずは、ペダ村を襲っていた連中の事だけれどね。一網打尽で片付いたよ。関係者まで、色々と捕縛できたけど、金を出した連中については聞き出せていない。残念な事だけど、黒幕までは行きつかないという見通しさ。水際で捕えた傭兵に関しては、国外追放という事で決定したしね」
「そうですか。しかし、村を襲った黒幕は大人しくするでしょうか」
「そうだねえ。確かに、君の言わんとする事はわかる。戦いという物は一旦始まってしまうと、決着をみるまで続いてしまう物だしね。目星はついているから、相手が尻尾を出して来るならケリがつくのだけれどね。安心してくれたまえ。君がアルトリウス様に忠節を尽くす限り、私達も君を見捨てたりはしない。そうそう何度も村を襲撃させたりはしないさ」
「ありがとうございます」
黒髪の女学生が珈琲をカップに入れて出してくれた。ユイさんだったかな。
【クリーン】の魔術が印象に残っている。
丁寧な物腰で、実にいい。前髪もさっぱりしていて、清潔感がある。
肩まである黒髪と所作から連想するのは、大和撫子でぴったりだ。
対して、俺の所にいるのは非常に残念な赤い髪の子だ。美人なのだけれどさ。
言葉も喋れない上に、主人を威嚇している。
今は大人しくしているのだが。
視線をロシナさんに戻すと、しばらく目を閉じていた優男の目が開く。
「ユウタくんには、やって貰いたい事があるんだ」
「出来る事なら、善処します」
「善処では困るんだ。是非とも完遂してもらいたい。ただ、一筋縄ではいかないのも事実なのだけれどね」
「どんな内容なのですか」
「何、アルル様を攻略して三人の王女を娶って欲しいという事さ」
―――――――ぶっ。思わず吹き出してしまう処ですよ!
咄嗟に口を押えて、珈琲の茶色い液体がまき散らされるのを防いだ。
ロシナさんの目は、真剣そのものである。
さて、どうしたものか。
「何が、どうしたら・・・・・・そういう話になるのでしょうか」
「そうだね。それは、この国の成り立ちから話をしなければならないのだけれどね。まあ、ゆったりとかけながら話を聞いてくれたまえ。少しばかり長くなる。そして、話が終わったら真剣に考えてほしいんだ」
「わかりました」
素直に座ってよかった。
余りにも、長すぎた。セリア達の二戦目が始まっても、なお話は終わらない。
要約すれば、国が分裂するのは宜しくない。
なので、三人とも娶って欲しいという事らしい。
この国が、連合王国でブリガンティアと聖アルカディア王国を合わせて出来ているのだとか。
それぞれ、自治領らしく色々あるみたいだ。
聞いていると、独立を目論む輩もいるのだとか。
王配が独立思考なら、内戦になる。というのが感想だ。
「君は、内戦という物見た事がないだろう」
「はい」
「私は、南の自由都市群で酷い目にあったんだ。同じ人間同士で主義主張をぶつけ合い、殺し合う。弱い者から死んでいく。そんな光景をね。我が国の南部と新生ロゥマ共和国の間には荒野が広がっているんだ。そこには、今も無数の死体が野ざらしになっている。その死体がどうしてできたかのかというとね。都市国家同士で戦う内戦が起きて、難民が荒野で虐殺される事件が頻発したんだよ」
「それは酷いですね」
「世紀末もかくやという光景だった。決して、我が国で内戦は起こって欲しくない。ま、我が主アルトリウス様ならば何とかしてくれると信じているけどね。だから、君にはアルトリウス様を一番に選んでほしいというのが本音さ。しまった、つい口が滑ってしまったな。ともあれ、上手くやってほしい」
「は、上手くやれるとは思いません。しかし、全力を尽くします」
俺の返事に気を良くしたようだ。
しかし、俺にはこれっぽっちも自信がない。
一人でも手に余るだろう。三人ともどれも似たように鬼上司だし。
人使い荒すぎて、俺が過労死するわ。
眼下で、セリアとモニカの二戦目が始まったようだ。
またも、六対二。相手は全員女の子だ。
どこかで見た事のあるような縦ロールさんである。
そうだ。いきなり泣き出した子だったような。
試合は、あっさりと片付いてしまう。
やはりセリアはチートだ。
あれがゴロゴロしているようなら、この世からモンスターが居なくなるにちがいない。
「流石セリア殿だ。ルナ様の配下にしておくのは、勿体ないとは思いわないかな。これも言っておかなければならない事なのだが、セリア殿を解放するのは絶対に止めて頂きたい」
「はあ。しかし、ルナ様や本人が望んだら・・・・・・」
「だとしても止めてほしい。ルナ様は、博愛主義者な側面が強過ぎるんだ。ご自身が、何者であるかを忘れてしまう処があるのでね。貴族は貴族。平民は平民。あまり可愛そうだと、肩入れをしてもらっては困るんだよ。ただ、消そうにも厄介な事に血筋の問題があって出来ない理由があってね。ルナ様の母上はギリシャ系神族の血を引いているらしいんだ。それもあって、セリア殿との相性は抜群だからまた厄介なんだよ」
「わかりました」
うーん。また、何か問題があるようです。
厳格な身分制度を敷いているようだ。
本心を言えば、セリアが何処かに行こうなんて死んでも許さないんですけどね。
自分で言うのもなんだけど、かなり強い独占欲を持っているので。
一旦手に入った物を手放すなんて考えたくもない。
幾らでも手に入る物であれば別だけどさ。俺にだって、惜しくない物と惜しい物がある。
ルナ様には気を付けて置かないといけないかも。
それにしても、ロシナさんはすっかりこの世界の住人と化している。
それだけ思い入れがあるんだろうな。羨ましい限りだ。
眼下の試合は、既に縦ロールの子とセリアだけになっている。
早々に終わるかと思ったが、意外にも勝負は伸びていた。
でもまあ、負ける事はないでしょう。刺突剣を持つ相手の攻撃は早い。
それでもセリアは上手く捌いているし。
モニカは、倒れた選手を運んでいるし。余裕っぷりが伺える。
「それでは、隣のアルル様の所に案内しよう」
「はい」
どうやら、アル様も来ていたようだ。
それにしても、隣の部屋って事は。まさか、この話を聞いてたりしないだろうか。
そんな俺の心配を他所に、ロシナさんが部屋を出る。
一旦出ると、隣の部屋に移るようだ。
突然、ドス子が背中を掴む。何事かと思って顔を見ると、ぷるぷると何かに耐えているようだ。
これは、一体? 全身を見ると、ドス子は内股になっている。
成程。これは大変だ。俺も馬鹿じゃないので察知する事ができた。
何か言葉を言っているのだが、そっちの方はわからない。
「すいません。ユイさん。ドス子をトイレに連れて行ってあげてくれませんか」
「あっ。それは大変ですね。ドス子さんの顔色が悪い様子ですし、急ぎますね」
「お願いします」
慌てて赤い髪の少女は連れていかれる。
我慢の余りか、頭から火の粉が出ていた。
普通の人間じゃないからかな。湯気ならぬ火の粉とは、また大変だ。
部屋を出た所でロシナさんが待っていた。
唇に手を当てて、静かにするようにというジェスチャーを送って来る。
「ロシナです。アル様。ユウタ君を連れてまいりました」
「入れ」
返事があってから、ドアを開けると中に入る。
ドアノブが金メッキだ。こだわりでもあるのだろうか。
「よくきたなユウタ。ロシナ、ご苦労だった。下がってよい」
「はっ。失礼致します」
ロシナさんが返事を返すと、退出していく。
アル様とシグルス様が観戦していた。
ん。今日は王女様はいないのか。ちょっと残念だ。
目の前のアル様が変だ。何がどう変かというと、その背中に翼みたいな物が見えるんだ。
シグルス様は、いつも通りの黒髪の美丈夫ぶりだ。
アル様の頭には、アホ毛まで見える。俺は目がおかしくなってしまったのだろうか。
「ユウタ。今日は非常に重要な質問があるのだ。大人しく私の質問に答えろ」
「はあ」
アル様は、どうやら俺とアルトリウス様の関係が気になるようだ。
「で、やったのか? それともこれからやる気なのか。どっちなんだ」
「は、はあ」
「はあ、ではない。誰彼かまわずというのは最低だぞ。下種の極みだ。それはそれとしても、なんでアルトリウスの奴に譲らねばならんのだ。全然納得できん。アルーシュの奴なら気にしないのかもしれん。どうせアルトリウスの物は俺の物だと言い出すのだ。ユウタが欲しくば、私を倒してからにしろといってやったからな」
どうも本気のようだ。そして、背が思い切り低くなったこの子は背丈が残念な事になっている。
年相応と言った感じだ。アルトリウス様は、とても実年齢に合っていない背丈だったのにな。
アホ毛が、ぴくぴくと動いているので面白い。
「アル様。話はそれでよろしいのですか」
シグルス様が割って入ってくれた。切れ長の瞳でウィンクをしてくる。
菩薩様、美人騎士様。とても、助かります。
今日も、白銀の鎧に白いマントがとても似合っている。
「ん。うむっ。そうだったな。今日は他でもない。ハイデルベルに行く。現地の将と力を合わせて、反乱軍を討ち取るぞ」
「はっ」
はいー。なんだってー。反乱軍とか、聞いていないんだけど。
一体全体、あの国に帝国の手はどんだけ伸びているんだ。
何時の間に、そんな反乱軍が出来ていたんだよ。
「疑問が顔に出ているな。ふむ。反乱軍が出現しているのに、どうして情報が伝わって来なかったのかとかであろう? 帝国についている忍者集団は優秀だ。故に、情報が遮断されていた。王都で何が起きているのかも情報操作に合っている可能性は高い。幸いにして、先の戦いで大きな打撃を敵の忍者共に与えている。よって、水際に何とかするチャンスができたという訳だ。お前も騎士の端くれならば、亡国寸前の国を見事救って見せる位の気概が欲しい」
「はっ。全力を尽くします」
「状況次第では、撤退も選択肢としてありえます。王国軍二万対反乱軍八万ですから、厳しい戦いになるでしょう」
シグルス様は厳しいと表現するけれど、普通に計算したら勝ち目ゼロですよ。それ。
正直に言って、それそのまま当たったら負けるんじゃないですか。
とは言えない。とりあえず現地に飛んでからだ。
「問題は、ハイデルベルだけではないのだ。北海に現れた謎の艦隊。南部に跋扈する盗賊集団。一つ国を挟んだ南東に広がる砂漠地帯に隠れる鉄の車。他にも我が国で栽培している砂糖が採取できる植物。これを大量に盗んだ犯人捜しと色々ある。問題は次から次に沸いてきて、とても一人では対処しきれないのだ。ユウタの力が必要だ」
「はい」
また、厄介な問題が沢山あるんだな。
王族も、問題だらけだと大変だろう。真面目にやっているだけ立派だ。
「それでは、移動しましょう。セリア殿の活躍を見ていたい気持ちはわかりますが、事は一刻を争います。急ぎましょう」
黄金の鎧を着たアル様が席を立つと、一枚の羽根が地面に落ちて消える。
これは? 夢でも見ているのだろうか。
アル様の背中にあるのは、まるで漫画とかでよくある天使のような翼だ。
「ユウタ? 呆けてないでさっさと来い」
「はっ。只今」
「あと、はっ。ばかりで頭の悪そうな返事ばかりするな。まあ、王族だからそうなるのだろうが。私とシグルスだけでいる時には、もっと砕けた物言いをしろ」
「はい。出来る限りやるようにします。それで宜しいでしょうか」
「うむ」
また無茶を言う。下手打ったら、打ち首ある世界なのにである。
アル様の翼の方が気になるのだが。
あまり深く、考えてもしょうがない。頭がおかしくなったのだろうか。
ただ、太腿を抓ってみても変わらない景色がある。
最後までセリア達の戦いを見る事が、出来ないのは残念だ。
ヒヨコなやつは、ずっと寝ている。ちょっと触ってみるが、返事もないので心配だな。
ともあれ、何とかトイレに間に合ったドス子を連れて、ハイデルベルへと移動する事になった。
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