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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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104話 サンドバック

「凄いですね」


「ああ。だが、あれで、まだ必滅の武器を使っているわけじゃねえんだよな」


 眼前で広げられた光景に、忍者達の言葉は少なげだ。

 忍者がサポートに回りながら、騎士が単騎で蹂躙する様子を眺めている。

 騎士の動きは機械のように的確で、命を刈り取る死神そのものだ。


「なんだかあの方、銃撃が効いてないようです。あれはどういう事なんですか」


「そりゃおめえ、あれよ。獣気? 闘気って言われる奴で全身を強化しているんだろ。下手なオリハルコンとかの金属よか硬てえって話だぜ。帝国のセプテンダーズでも出てこなきゃ止まらねえよ。最もそれだってどこまで相手出来るかわかんねえけどな。なんせ奴だ。奴隷化の魔術を自己解呪しようなんていう化け物だぜ。マジでありえねぇ」


 銃撃を気にした様子もない。それに女忍者は疑問の声を出す。

 答える忍者はヘラヘラとした調子だ。

 騎士の振るう拳が一切を破壊していった。装甲車が吹き飛び、浴びせられる爆風の中。疾走する銀の騎士は縦横無塵に敵軍を崩壊させている。

 

 撤退する軍とはいえ、武器を携帯する立派な軍隊である。

 それが、悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 銃を手に一斉射撃をしていた者も効かないとわかると、剣を手に迎撃する。

 だが、銀色の鎧を身にまとう騎士には効かない。

 振るわれる拳を受けた相手は、首を曲がりえない方向に向けて倒れる。

 

 味方が拳と蹴りを浴びて吹き飛ぶ様を見た兵士達は戦意を喪失していた。

 そのまま味方の身体が彼らを襲う凶器となっているのに恐怖していたのだ。


 ハイデルベルとハイランドの国境戦は、ここに一方的な殺戮の現場と化した。

 忍者達の役目は逃げる相手を足止め、あるいは討ち漏らした敵の処理だ。


「こいつら、どうして攻め込んできたのでしょうか」


「大方、楽に勝てるつもりだったんだろ。しかし、こっちには化け物が揃ってるんだわ。帝国の連中にもいるみたいだが、こっちは精神操作系も火薬無効化使わずに勝っちまっているんだよな。火薬に頼る戦い方ばかりしてきた相手は、それを封じられると脆いもんだろ」


「そういえばそうですね。確かに使われていないのは使うまでもないのか。それとも奥の手は隠し札としておくという所なのでしょうね」

 

 疑問を投げかける部下に囁くような声を投げ返す。

 二つの影は素早い動きで、死にかけの兵隊に止めを刺していく。


「これ。異世界転移門から現れた異世界軍の武器ですよねえ」


 女忍者が死体の握る銃を手に取ると、二つに折る。

 忍者ならば苦無か巨大手裏剣が遠距離武装だ。

 もちろん、遁術の類は得意とする者は少なくない。


「確かに厄介な武器だ。が、これで帝国の連中も王国の力を思い知るだろうよ。火薬武器をこちらに持ち込む異世界にお返しのゾンビ弾かゾンビ菌をばら撒いてやりゃ一発なんだがなあ。超強力な奴をどっかの魔術師が持っていた気がするな。モルドレッセ家だがが買い取って保管しているんだが、あそこは使いそうにもない」


「あと、上が許さないですよね。他にも視力破壊弾とか、いろいろありますよね。でも、使用は許可されない」


「そうなんだわ。無辜の民を巻き込む事は断じてならんとかなんとか。やられたら倍返しがあの人らのモットーだろうにな。下手な手加減なんていらねぇってのによお」


 みすぼらしい頭巾の女は倍返しとあの人らという言葉に反応する。

 頭巾の下に整った顔をした女忍者は隣にいる忍者にぼそぼそとした声を出す。


「頭は大丈夫なんですか。上のお気に入りをしばいたとか聞きましたよ」


「あー。思い出させるなよ。今の俺リーチ状態なんだからよぉ。つってもまあ、逃げる訳にもいかねえ役所仕事はつらいぜ」


「ですよねえ。里も仲間も家族もいて、どこにも逃げようがないってのはつらいです」


「泣き言を言ってもはじまらねえ。さっ仕事だ仕事。二度と攻め込んでこねえように、始末しとかねえとな。こっちは大分やられてるみてえだから、上はおかんむりだ」


 女忍者に頭と呼ばれた男は、銃を手にした兵士に気配を殺し、無言で近づき首を刈る。

 潰走する残党狩りも一段落つく頃合いであった。

 話をしている間にも、敵兵はみるみる内に数を減らしていた。

 騎士の攻撃で戦車は大破し、砲塔は爆発したような様相を呈している。

 拳と蹴りで吹き飛ぶそれが、さらなる戦車を破壊していた。


 忍者は部下を指示を下すと、命の刈り取りを再開する。


 





「おい。なんか話が違うんじゃねえかっ」


「でやすね」


 苛立つサムソンの怒声に、部下の一人は首を竦めた。

 髭面の男は声が大きいのだ。間近くで怒鳴られると気絶する者もいないではない。


「お前ら、ちっと待機だ。煙は上がってやがるが、門は開いちゃいねえ。このまま進んで門で立ち往生とか勘弁してほしいぜ」」


 サムソンの隊はなだらかな丘陵を抜けると麦畑が一面を埋め尽くす地帯を抜ける所だった。

 デブことギニアスの父が治める領地を抜けてやや北側に布陣していた。

 そこから東西に分かれ門を攻撃する作戦となっている。北側の壁がかなり高い為こうなっているのだ。


 ペダ村では既に戦闘が始まって煙が上がっているが、このまま進むには危険だと停止している。

 しかし。

 反対側から回り込んだバランの隊は攻撃を開始している。村の西側には麦畑が殆どない為だ。

 まばらに生えている木々がバランたちの姿を消すことに役だったようだが、物見用の櫓からは平坦な地形の為すぐにばれる。

 襲撃は内と外の同時攻撃が要点であった。内側の攻撃が鎮圧されてから攻撃を仕掛けるようでは遅い。

 各傭兵団から二割程度の人員を割いているのだ。素早い侵攻が求められていたが。


 前方に広がる一面の麦畑を見るや、サムソンは呟く。


「こりゃ一筋縄じゃいかねえ」


「へえ」


 サムソンが間抜けならば、このまま突っ込んだに違いない。


「迂闊に火攻めなんぞしようもんなら、こっちが焼け死ぬぞ。バラン隊に連絡しろ」


「へい!」


 サムソン達が回り込んだ東側。

 村の東には麦畑が広がっており、下手に火を扱えば自分たちが焼け死ぬ事になるのだ。


 そのバラン隊では、火攻めの用意をしていた。

 バラン隊が火をつけた矢を村に打ち込むが、煙が上がる様子はない。村の上空からみたならば、一体何が起きているのか悟る事が出来たであろう。通常であれば、火がつき慌てふためいた所で強襲し蹂躙するのがバランの流儀だ。彼は馬とは違うダチョウ種ダッコを駆ると部下に叱咤を飛ばす。


「テメエらぁ。気合いがぬけてんじゃねえのかぁ?」


「そ、そのような事はありやせんぜ。おい、前衛以外全員撃ちまくれ」


「けっ。ホブスよぉ。さっさとやらねえと、お前の首が飛ぶぜ?」


「は、はぃい」

 

 隣にいるホブスを胡乱な眼で見るバラン。彼がこのような事を言い出す時は、大抵血の雨が降ると相場が決まっている。ホブスが怯えたような表情を見せるのも訳があった。

 以前にも、村を襲った経験がある。その際に抵抗する村人がどうなったのか。

 口に出すのも憚られるような残虐な光景が生産されたのだ。生きたまま皮を剥がされる等生易しい物ではなかった。抵抗した村人も無抵抗な女子供も等しく、バランの暴虐が降り注いだのである。


 バランと同じようにダッコに乗るホブスの手には、自然と汗が滲んでいた。

 戦闘用の魔道具である遠眼鏡を取り出すと、村の様子を眺める。

 バラン隊と村からは距離がある。道の左右に広がる麦畑は傭兵達の物になるのだ。

 当然焼く訳にもいかず、魔術士に風系のモノを使わせて隊列を敷けるだけ場所を取っている。


「ん? こ、これは・・・・・・」


「ホブス、どうした」


「見てください。これは大変ですぜ」

 

 恰幅のいいホブス。気の弱い部分はあるが、バランに次いて隊の実力者である。

 単眼の眼鏡を覗くと、村に矢が届いていない事に気が付いたのだ。

 村を覆う外壁を飛び越える筈の矢は、何かに当たったかのように急落していた。

 それを見た鳥頭の頭目は。 


「どういう事だ?」


「恐らくは、風の魔術か空間遮断ではないですかい。まあ、詳しい事はマックスにでも聞いてみねえとわからねえですがねえ。つーか、なんだか罠の匂いしやしませんかね。只の鄙びた村に空間転送器ですぜ?

ちょっと信じられねえんです」


「ふうん。で、テメエには良い手は考えついているんだろうな?」


 ホブスの言葉に納得する様子を見せつつ、バランは切り返しをする。

 ホブスが合図を送るの同時に、矢による攻撃が止まり隊長は肉付きのいい男に乗騎を近寄らせた。


「もちろんですぜ。まずは、敵の外壁に穴を開ける。傾斜のついた坂で壁を飛び越える。他には・・・・・・」


「もういい。で、一番見込のありそうなのは何だぁ?」


「は、はあ。やはり、バラン様ご自身が行かれるのが早いかと。門を破壊し、侵攻ルートを最短で切り開けるのはバラン様しかおられません」


 禿げ上がった頭をこすりながら、鳥頭のバランに猫なで声を出す。

 ふんっと鼻を鳴らすとバランは村の門を見る。


「確かになあぁ。矢を村人共が打ち返してくるだと? 調子に乗りやがって」


 鳥頭だが、体格はがっしりとしており鋭い眼光を外壁から矢を放ってくる村人らしき存在に向ける。

 必死の抵抗を見せる村だ。しかし、内と外の同時攻撃で陥落は近くと見積もっていた。

 この戦術で落とせない村はそうそうない為である。


「でますか?」


「おうよ」


 身に纏うのは鋼鉄の装備一式である。

 鎧が飛び道具を通さないのに加えて、バランの特殊能力がモノをいう。

 増力筋は単純な強化だけではないのである。力だけでなく、技を修めるが故に単純な暴力も数倍の力として周りの目には映る。それだけの所業をしてきた訳だが、男には悪びれる所はない。


 今日も容易く蹂躙しつくすと、軽快にダッコを駆り飛び出していくバラン。

 鳥兜を被る男に弓矢が集中するが、物ともせず扉までたどり着く。

 鋼鉄の鎧だけが、彼の防具ではない。一人で突撃するのもそれなりに理由があっての事だ。


「ふははぁ。効かんなあ?」


 通さないとばかりに矢が飛来する。しかし、刺さるが男は倒れない。

 金属の鎧に次々と弓から放たれた矢が突き立つ。

 扉に辛うじて触ったダッコだったが、矢を雨のように浴びて地に伏せる。

 地面に横たわった鳥類を横目に扉に気合い込めて体当たりをすると、木製の開閉扉は崩壊した。


「こんなもんか。ぬうっ」


 扉を粉砕し、中に足を進めたバランだった。しかし、彼の背後に土壁が隆起している。

 それは、扉を破壊した首謀者を逃がさないとばかりに、退路を断った。

 バランの目の前に立つのは、武装した村人と少年兵が一人立っている。

 地面が氷で覆われていくのに気が付いた男は、氷の地面を砕きながら突進した。

 

「《金剛拳壊震脚》!」


 突進と同時に放たれた震脚。そして少年を襲う衝撃波は回避不能であった。

 盾で受ける少年の動きが止まる所でバランと少年の間合いは、一気に詰まる。


 金属製の兜、その下に獰猛な笑みを浮かべたまま少年の放つ稲妻を捌きながら肉薄する。

 一打受ければ絶死の打撃となるだろう。しかし、少年は盾で持って拳を弾いてくる。

 貧相な身体とは裏腹に力があった。

 並の者ならば、一瞬で肉片に変えるバランの拳打を避ける。


 『拳術流派 金剛拳』

 それは肉体を極限まで追い詰める事で、自らの不壊と他者の破壊を追及する流派である。

 バランの修めた拳打に曇りはなく、自らの残虐性を咎に破門をされた後も磨き続けてきた。


「てめぇ、やるじゃねぇか」


 少年は黙して語らない。鳥頭の男は長い腕から次々に技を繰り出していく。

 少年の着ている鎧は皮製であり、拳と蹴りを捌き損ねる度に身体にめり込ませていった。

 周囲に控えるのは村人達三十人程だ。ひ弱な部下達であればこの状況は絶体絶命の危地である。


 見守る村人に力を得ているのか、少年何度拳を貰っても立ち上がって来る。


「おらおら、いい加減死ねぇ! 《針脚》!」


「ぐっ」


 鈍い音と共に腹に突き刺さった蹴りは少年の呻き声となった。

 それでも回復呪文を使い折れた肋骨は元通りになる。

 身体を襲う激痛は並の物ではない。

 太く長い足先が少年の腹を連打し、よろめいた。

 好機とばかりに鞭のようにしなる蹴りを少年に見舞う。


「止めだ。壊れちまえぇ《破壊掌》!」


「うぐっ」


 両の手を少年の持つ盾に押し付けると、内頸を高めた一撃で全身の破壊を目論む。

 防ぐしか出来ないバランの相手はしぶとい。だが、内部から破壊する掌打を受けてボロ雑巾のように吹き飛んだ。目に見えぬ圧力が、名も知らぬ少年の身体を破壊する。


 しかし。

 それでも、立ち上がってくる。

 倒れたままであれば、バランの下段踵蹴りが待っていたのだが。


「いい根性してるぜぇ。俺の玩具にしたい位だ。けどよぉ、おめえといつまでも遊んでるわけにはいかねえんだな。これがぁ」


「うるせえよ、おっさん」


「強がるなよガキ。もうおめえは死に体だぁ。そう、いつ死んだっておかしくねえ。致死レベルダメージを受けている筈だ。なんで立ち上がれるんだぁ?」


 少年の足は、産まれたての子鹿のように震えている。

 村人達の声援だけが少年を立たせているのかは不明であった。

 圧倒的な暴力に晒された人は容易く心が折れるものだ。

 そういうものだと、バランも信じていた。今日までは。


「お兄ちゃんー」


「ひひっ。良い娘がいるじゃねえか。お前を動けないようにしたら、たっぷりと目の前で可愛いがってやるからな」


 村人達の間に小さな少女を目ざとく見つけたバランは野卑な笑みを浮かべる。

 対する少年は沈黙と共に、目に炎を灯していた。


「・・・・・・」


 バランは慎重に相手を観察すると、余裕を持って練り込んだ気力を足に送り込む。

 滑るようにして、間合いをつめんとしたバランに丸太が襲い掛かった。

 少年がスキル:イベントリから取り出したのだ。

 

「んなもんが効くかっ」


 バランは唐突に現れた丸太に余裕の表情を浮かべる。

 ゴブリンを屠るのには十分なサイズの丸太であった。

 しかし、金剛拳を修めたバランには全身に刀剣の類は効かない。

 刀剣同様に、丸太は容易く粉砕される。


「くたばりぞこないがぁ! 死ぃねえ」


 丸太を無効化すると、止めを刺す一撃を少年にくれてやるため、バランは再度接近した。











 強敵だった。

 正直、舐めていました。だって、外見が奇妙すぎる鎧と兜を着た無手の相手だったのだもの。

 舐めていた俺の慢心が、初手から攻撃を見誤らせたに違いない。

 外見とは裏腹の戦闘力を見せつけられ、【ヒール】で回復しつつ間合いをとる。

 そういう事を考えていたが、相手は張り付いて離れなかった。


 鎧化(ブリガンテス)が出来れば問題なく倒せると思った。というのもあるのだ。

 しかし、治療にMPを大分取られてしまっていた。故に、土壇場で変身できなかった。

 硬いし、速いし、【サンダー】を物ともしない身体能力にはおどろかされたな。

 ゴブリン程度なら一撃で倒す稲妻なのに。効かないってどういうことだってばよと叫びそうだった。


 では、どうやって相手を倒したのか。

 いつも通りのトラップホールである。散々相手の攻撃を貰っていたので、相手も過信したのだろう。


 地面は何時だってあると。

 

 止めとばかりに接近してきた所で罠に嵌った。

 目の前で消えるように落下した相手だったが、穴の縁に手をかけたのには驚いた。

 最も、お返しとばかりに丸太でぐりぐりしてやると落ちていったが。

 這い上がってこれないようにすぐに穴を閉じると、気遣いの声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん。大丈夫ー?」


「心配ない。アクアも避難するんだ。こんな場所にいてはいけない」


 水色の髪をした少女だ。心配そうな面持ちでこちらを見ている。

 だが、俺の方が心配だ。まだ年端のいかない少女なのである。

 アクアが頭の上には黄色いヒヨコを乗せていた。DDも退避したのは良かったようだ。

 懐に入ったままだったら、お肉が出来ていた。


 ロクドさんがアクアに近づいて声をかける。


「アクアちゃん、心配なのはわかるがここにいてはいけないよ。さあ、おじさんと一緒に避難しよう」


「でも・・・・・・」


 アクアは再度、視線をこちらに向けてくる。

 声をかけたロクドさんに目で合図を送ると、アクアの手を握った。


「大丈夫だよ。ほらこのとおり」


 痛む身体を無理やり動かす。【ヒール】で回復させているが、痛みはまだ残っていた。

 やせ我慢を見て観念したのか、少女はロクドさんに手を引かれて大人しくついていく。

 手に弓矢を持っていたのが心配だった。幼い頃から闘争に明け暮れたらどうなるんだろう。

 情操教育にはよくないな。 


 門前に待機する村人達は緊張が解けたのか休息を取っている。

 ロクドさんとアクアが村長宅に向かっていくのを眺めていた。


 ふと、自分の装備が気になる。ぐちゃぐちゃになった皮鎧は損壊が激しい。

 とても着られた物ではないので、壁際で着替える事にする。

 相手の傭兵が放ってきた拳は非常に重たかった。

 一撃で身体がバラバラになりそうな物もあった。

 

 それでも、村人が見守る中で倒れる訳にはいかないかった。

 根性だけが、取り柄だ。大して頭が良い訳でも話が上手い訳でもない。

 顔が良く、所作に品があり、カリスマ性を感じさせる等といった素養はないのだ。


 意識を刈り取る一撃を持っていたらやばかったな。

 相手はこちらをいたぶる事しか眼中になかったようだ。

 冷静な判断力を持っているにしても、単騎で突撃するのは無謀としか言いようがない。

 いくら無双の力を誇ったとして、万が一というのはあるのだから。


 敵の弓矢による攻撃は風の魔術で防がれている。範囲を任意で決められる仕様なのは幸いだった。

 おかげで、外壁にいるシルバーナの部下達は攻撃に専念できた。弓矢で応戦してくれていたのには助かる。ボウガンを装備した盗賊達には感謝するしかないが、複雑な気持ちだ。


「あんたー」


「ん?」


 通りを見れば、外壁の上で指揮を執っている筈のシルバーナが猛然と駆けてくる。

 こちらに向けて全力ダッシュをしていた。

 

 転送器のある小屋に向かった俺だったが、中からシルバーナとその手下が出てきたのには驚いた。

 敵であって、義理も糞も無い関係のはずだ。

 悪い予感は杞憂だった。としても、盗賊が堂々と四、五十も乗り込んでくるのは受け入れがたい。

 と、言える程村の状況は良くない。怪我人だけで二、三十。

 訓練された傭兵を相手に死傷者が続出だった。死んだ村人を回収しているが、頭が痛い。

 後でリザレクション出来るといってもだ。

 

 外壁に上っているのは盗賊のほかに魔術師ギルドから派遣されてきた術者が数人いる。

 村を覆うようにかけられた彼らの術。風の結界は強固で、矢を通さないのは有難い。

 【ウィンドカーテン】と呼ばれる物らしい。こちらからは攻撃できる便利な代物だ。

 

 目の前に着たシルバーナの双眸には、不安の色が見て取れる。


「ユウタ、大丈夫なのかい」


「うん。結構いいの貰ったけど、大丈夫。それより、敵さんは?」


「大丈夫そうには、見えないけどね。外の敵は様子見しているけどねえ。こっちも暗いんで、無駄に撃てないから膠着状態さ。でも、あいつらにとっちゃ時間は少ないんだけどさ。敵さんが時間をかけている内に、こちらに増援がくれば終わりだよ」


 包囲するように取り囲む敵集団だったが、こちらには援軍の予定がある。

 時間との勝負は敵のほうなのだ。従って、村に立て籠もるこちらは打って出る必要はない。

 問題は、先ほどのような敵が複数いた場合だが。


 西門は土壁で封じられている。敵の魔術師は大した事がないようだ。

 壁に穴位開けてくるかと思われたが。

 西門は守り切れそうだが、東門に向かったモニカが心配になる。

 地面にはヒヨコがくるくると旋回していた。


「こっちは大丈夫そうだな」


「そうだけど、あんたの方が大丈夫じゃないだろ。ほらふいたげるからそれ貸しな」


 俺の手から手ぬぐいを奪うと、シルバーナは身体を拭き始めた。

 背中とかが非常に痛むのと、血で汚れているようだ。

 念入りに拭いてくれるのは有難い。しかし、目付きが怪しい。


「あまり、じろじろ見るな。こら、変なとこ触るんじゃない」


「減るもんじゃなし、いいじゃないのさ。筋肉質でコリコリしてるんだねえ。今度じっくり、揉んであげようか?」


「それは有難いけど・・・・・・まあ、機会があればな」


 アル様に釘を刺されている。こういう事すら浮気と言われかねない。

 アル様と俺の関係がどうだったのか、よくわからないのだが。

 記憶がない事に不安を覚えるが、それよりも外の敵をどうにかしないとな。


 別の皮鎧と服をイベントリから取り出すと着替えようとするのだが。


「シルバーナ」


「ん。どうしたんだい」


「あっちにいってくれ。着替えられない」


「別にいいじゃないのさ。見せたっていいんだよ。なんならあたしも着替えようか?」


 いきなり服を脱ぎだそうとする盗賊娘。

 顔を手で覆いつつ、俺は逃げ出した。


「わー、待て。移動するからな。ついてくるなよ」


「ちぇ。んじゃ持ち場に戻るとしますか」


「そうしてくれ」


 心底つまらないといった表情をするシルバーナ。

 男の身体見て、何が楽しいのだろう。女の子を見るのは股間が元気になるけど。

 シルバーナの目線がねっとりとしていて、変態さんにしかみえねえ。

 もう少し慎みを覚えてほしいものだ。


 ヒヨコはつぶらな瞳でこちらを見ている。

 コイツはこういう時、知能なそさうに装っているような気がするな。


「(もしもし、モニカ。聞こえるか?)」


「(はい。聞こえてます)」


「(そっちはどうなんだ。何か敵に変わった動きとかないのか)」


「(今の所は門に接近する敵はいません。弓矢の応戦くらいしか起きてませんね)」


「(そうか、ならまた動きがあれば知らせてくれ)」


 東門に動きはないようだ。

 内部の敵も殲滅しているし、敵の打てる手と言えば門を打ち破って侵入するしかない。

 しかし、外壁には盗賊達がボウガンを装備して防衛に加わっている。


 盗賊達の事は複雑な気分だが、シルバーナの事は認めるしかない。

 でも、完全に味方と認めるには何かが引っかかって先に進めないのだ。

 心のなにか、記憶を失った。それと関係した物なのだろう。


 夜も更けているというのに、寝る事の出来ないのはつらい。

 村人の一部を寝かせつつ、盗賊達で相手するべきだろう。

 ゴメスさんとロクドさんドスさんと協議する事にした。


終わりが見えない長さに・・・・・・。

休みに書いているので、書きあがらないとまた来週になってしまうのはご了承ください。

閲覧ありがとうございます。

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