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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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103話 村奇襲

 ペダ村からそう遠くにない森。

 アーバインの町とは逆側、とある森の中に傭兵団は野営地を築いていた。

 幸いにして森は小さかった為、モンスターが住み着いているという事もなかったのだ。

 最も夜が更けるまでかかったのは、移動に手間取った為である。

 先行した傭兵達が土地勘を持たない為に、陣を張るのにも時間がかかったのもあった。

 

 丁度開けた位置に作られた傭兵団のテントで合同会議が開かれていた。


「では、作戦会議を終了する為に決を取るが皆さんご意見は?」


「ああ、問題ないように見えるな」


 全体を取りまとめているのは比較的知恵の回ると評判の傭兵団長トーマスである。

 このトーマスはこれといって目立つ点がなく顔も平凡な造りをしており迫力に欠ける、が。

 追随するのは、青年騎士風の装備をした友好的な傭兵団長レインハルトだ。

 先に提示されていた幾つかの作戦案を吟味しつつ、採決を取ろうというのだった。


「しかしだな。やっぱ、最初から全力で奇襲するのがいいんじゃないのかねえ。まだるっこしくていけねえや。男ならガツンと当たって、バチッと弾けんのがいいだろうが」


 髭面の男サムソンは四方か包囲しつつ攻めるべきだという案だ。

 サムソンが座る椅子の隣には黒いくまを作った独特な髪形をした男が頷いている。


「俺も反対だぁ。最初から包囲して火矢でいくべきだろうが。小細工は無用だ」


「そうは言うが、念には念を入れるというやり方が正しい」


 サムソンに同調する傭兵はバランという。頭頂部に毛を生やした奇っ怪な髪形である。

 現代日本で表現するならば、モヒカンと呼ばれるヘアスタイルであった。

 この男は粗暴なやり方で、根城にしているとある地域で凶悪無比と恐れられていた。

 

 反対する意見に、尚も説得を求めるレインハルトであったが、このサムソンとバランは根っからの盗賊根性であった。

 すなわち。


「傭兵らしくだなあ。がーっと行って何もかも灰にしちまえばいいんだよ」


 という具合である。

 灰にしてしまっては何も得る物がないのであるが、そこを考えないのがこの男の特徴でもある。

 そんな角刈り髭面の男に対して、端正な貴公子然とした青年は苦言を呈する。


「そんな楽にいけば苦労はない」


「んな事いったってよう。勢いだろ。速さだよっ。何でもだろぉ。結局よお、村の守りが硬いままじゃーよ。意味ねーじゃねーのー?」


「だからこその調略だ。下手をすると、村人の方が戦力が上という事もありえなくもない。情報収集を兼ねた偵察と浸透だろうに今少し待て。それに、貴公達が攻撃するにしてもまだ用意に時間がかかるのではないのか」


 楽観視するサムソンだったが、彼にも彼なりの言い分があるようだ。

 レインハルトは慎重な用兵をする事で成り上がっていった実戦派である。

 とある事情により、形振り構わない金策が彼とその一団をこの場に立たせていた。

 とトーマスは聞き及んでいた。

 

 しかし、普通の感覚を併せ持つトーマスの目には、青年の貴公子然とした所作が随所に見え隠れする。

 そんな男に警戒の目を飛ばしていた。もちろん、気付かれない程度の警戒するといった程度である。

 何時だろうと、傭兵稼業に裏切りはあり得るのだから。

 そして、警戒しすぎても連携が取れなくなるのだが。


「うっ、そりゃよう。今部下共に命令を下して、準備させている所だ」


「ならば、双方の意見を取り入れて。今少し待つという事でどうだろう。そう、煙が上がり次第攻撃開始だ」


 苦し紛れのサムソンは暑苦しい面に汗を浮かべた。

 そこに聞き役となっていたトーマスが取りまとめるように述べる。


「チッ、まあしゃあねえな。傭兵団が四つじゃ意見が纏まらねえよ。何事も中途半端が不味いっていくけどな?」


「確かにな。だから、トーマス殿も速さこそ全てという貴公等の意見を取り入れたのではないのか。もっとも、多少の手間を惜しむ奴が長生き出来た試しはないと思うがな」


 舌打ちをするサムソンだったが、どう見ても苦し紛れの発言である。

 最もトーマスとしては、まとめ役として折衷案にしただけであった。

 四つの団がバラバラに動いたのでは勝てなくなるとみたのだ。


「いうじゃねーか。んじゃ、俺らが一番槍でいいんだな。お前等の取り分が残っていると思うなよ」


「わかっている。我々は後方からの支援に徹しよう。しかし、サムソン殿バラン殿も村人と相手を侮られているのではないのか」


「けぇっ、所詮は村人よぉ。どこまでいこうとも連中の家畜根性はかわんねえ」


 策が決まったと、村人をこき下ろしたバランは天幕をさっさと出ていく。

 それに続いたのは髭面の男だった。

 速攻派の二人であったが、戦力的に見れば四つの内でも大きい方の二つだ。

 つまり、調略派であるトーマスやレインハルトとしては上手く操縦するしかない。

  

「いいのか」


「しょうがないさ。実際彼らの言う事が正しい一面もある。敵に準備を整えさせる時間を与えずに奇襲するというのは正論だ」


 問いただすレオンハルトにトーマスは意味ありげな視線を向ける。

 作戦を練る上で必要なのは情報だが、村の事前調査は依頼主がやっていた。

 万全を期す為に、情報収集と内部攪乱は必要にも見えるが。

 特にこれといって特徴のないトーマスが傭兵として渡ってこれたのは危機対する感覚の鋭さである。


 多少の学と勘がトーマスを団長たらしめていた。

 東方より伝わる話には兵は神速を貴ぶという。

 奇襲は速さこそが最も重要だという点についてサムソン、バランと同意見である。


 レインハルトは傍から見れば、慎重過ぎると見えるほど石橋を叩いて渡るタイプであった。

 実力は不明だが、最近になって名前を聞くようになった傭兵団である。

 トーマスとしては、レインハルトの率いる団が古い傭兵団ではないので、あまり信用が置けない。


 どちらかと言えば、粗暴だが実力のはっきりしているサムソン、バランの二人組の方が信用出来る位だ。髭のサムソンは吸収能力の一端である吸血剣の使い手である。

 鳥頭のバランもまた凶暴な様相に合う能力を持っている。強化能力の一つ、増力筋であった。

 

 よくある概存の魔術や能力と一線を画すモノである。

 この戦闘スキルのおかげで盗賊団もどきだった傭兵団は永らえてきた。

 派遣されてくる冒険者や騎士を返り討ちにしてきたのだ。

 そんな彼らだったが、いつまでも悪行を野放しにしておく程にこの国は甘くない。


 上手く使うつもりが、誰かに使われている等という事はよくある話であった。








 村に向かう前にアーバインの騎士団詰所に行ってみたが、レオくんの姿は無かった。

 残念だが、夜は寝ているようだ。

 つい二十四時間勤務のつもりでやってきてしまった。日本にいる感覚だと、十時、十一時でもやっている店なんてのは珍しくない。交番のつもりで行くと、門番の兵士も眠たそうだった。

 今時分だと営業しているのは、宿屋と冒険者ギルドくらいのものである。

 

 アーバインの冒険者ギルドによって情報を集めてみるも、受付の御嬢さん達には何も耳に入っていないようである。アル様の言う事だし、信じない訳にもいかないネタだが。

 関係ない依頼とかであれば、疲れで寝落ちしかねない状態である。

 

 不穏な気配等は全くしないが、回復薬他を買う事にした。

 モニカが作ってきてくれたのは体力や外傷を治すポーション類なのだ。

 魔力を回復させたり、状態異常を引き起こすタイプの物はいくら蓄えておいても言い筈だ。

 

 魔力が少なくなっていたり、状況次第では魔術を封じられてやられるなんてことはあり得る。

 モニカに持ってもらう事にしたのだが、どうもイベントリの容量がないらしい。

 持てる量があまり多くないらしく、かつ種類もそんなに多くないみたいだ。なので、


「モニカ、もう入らないのか?」


「ご主人様入りません。そんなに大きいのは無理です」


「どうしても入らない?」


「無理やり入れようとして、壊れちゃったらどうするんですかあ」


 という具合だ。青少年なら変な会話ではないとわかるが、はたから見てどう見えたか。

 エッチな事ではないのである。残念な事にモニカがその気なのだが、アル様から止められているのだ。

 モニカの自慢の乳は残念な事にフルプレートの鎧で隠されている。胸の部分がかなり強調された造りに変わっているのは、中を考慮した為なのだろう。ハーフドワーフなのに胸がすごぶる大きいのは獣人の血が濃いせいだろう。尻尾も牛っぽいのが生えているのである。


 女子一日あわざれば、かくも変わるものか。というような感想が胸の内に上がって来た。


 動きからもっさりとした感が抜けて、機敏にメイスを振る様が想像できる。

 歩きからそれが見て取れるから、セリアに特訓でもつけてもらったのか。

 モニカは学校に行き一皮むけたようだ。

 ちょっと羨ましくなったのだが、学校に通う気はまだ起きない。


 何故って、女の子との出会いはあるかもしれないのだが・・・・・・。

 それ以上に、厄介事が待っていそうなそんな予感がするのだ。

 夜も更けてきたというのにペダ村に移動した俺達は、村の中央広場でぼんやりしている。

 さっさと動くといっても、どこから敵が来るのか来ないのかわからない。

 

 取りあえず、ゴメスさんとロクドさんにドスさん達と相談しなきゃいけない。

 懐でDDが寝返りを打ったようだ。置いて行こうとしたら、泣いて煩いので連れてきた。

 離れようにも黄色い弾丸と化したコイツから逃げるのは至難の業なのだ。

 雀がステップ移動するあれを更に早くした感じである。歯がないのが幸いだった。

 ゴムまりのような触感なのだが、物凄く熱い。火傷しそうなレベルである。


 熱いDDを抱えたまま、連絡を取るべくゴメスさん宅に向かった。

 村でまともな家と言えるのは道具屋と村長宅くらいだ。

 中世のレンガ造りでできた建物に作りを変えられており、中々の防御力と言えそうだな。

 道具屋の裏手に家があるのだが、幸いにしてまだ灯りがついていた。


「もしもーし、ゴメスさんおられますかー」 

 

「はいー」

 

 女の人の声がする。どうやら家族がいるようだ。そんな馬鹿な。

 いや待て、勝手にゴメスさんを一人身だと勘違いしていたのか?


「サラ待つんだ。どなたかな」


「俺ですユウタですよ。夜分遅くにすいません。ちょっとお話があるので聞いてもらえないでしょうか」


「おお。ユウタくんか」


 どうやら、警戒されたようだ。無警戒だったら逆に心配になった所である。

 俺の声を覚えていたのだろう。緊張した声が一転して安堵の声が聞こえてくる。

 扉から離れると、暫くして閂が開く音がした。

 開いた空間に立っていたのは妙齢の夫人だった。ゴメスさんには不釣り合いな顔の整った人である。

 黒髪が綺麗な東洋風の顔立ちをしていた。


「こんばんわ。初めまして、貴方がユウタくんね。私はサラ、こっちが娘のエレンよ」


「こんばんわ。初めまして、サラさん。ユウタと言います。よろしくお願いします」


「ママー、眠いのー」


「まあ、ごめんなさいね。ユウタくんこちらに上がってくださいな」


 この子ったらと、言いながらサラさんはエプロン姿で奥に引っ込んでいく。

 代わりに寝間着姿のゴメスさんが現れた。どうも寝る間際だったようである。

 ちょっと酒臭いのだが、この際だ。目をつむるしかない。


「うちの家内だが、美人だろう。ユウタくんのとこに負けない自信はあるんだ。ふー、それで何のようなのかな。こんな夜更けに来るなんて大事なんだろう?」


「ええ、実は・・・・・・」


 いきなり、酔ったゴメスさんが脱線した話をし始めそうだったのには驚いた。

 酔ってはいたが、話を聞いていく内に顔が青くなりだしたのには心配だ。

 アル様の名前が、駄目押しになったようだ。


「大変だ、大変だぞ。これは!」


 寝間着から普段着に慌てて着替えると、ロクドさんの所に飛び出していく。

 腹が熱くなってきたので外で待つ事にすると、星が綺麗だった。

 

 あまりに熱いので中に手を突っ込んで出すと、ヒヨコが糞してやがった。

 匂いが付く前に着替える事にする。眠いのにクソッタレな事だ。

 モニカは武器を手に素振りをしている。訓練に目覚めたのか。


 服を着替えつつ、ヒヨコを洗ってやってると熱も治まったようだ。

 高熱なのは脱皮でもしているのだろうか。爬虫類と鳥類のあいの子みたいだ。

 羽の下に小さな腕がある。四本腕というかそんな感じで翼が生えかかっていた。


 外で涼んでいると、息を切らせたゴメスさんとロクドさんが現れた。

 どうやら、二人とも運動不足のようである。

 二人に説明すると、今からする事を相談する。


「ふーむ。にわかには信じられない事だが、他ならぬユウタくんが言う事だからなあ。とはいっても、まずこの村にいる昔からの住人でない人間を一か所に集めるというのは、手間がかかりそうだね」


「ええ。ですが、この際です。誰が裏切り者か、それが判別出来ないのは致し方ないかと。加えて、転送器の付近は警備を厚くしましょう。今日襲ってこないようなら、更なる増援が見込めますから。一日頑張っていただきたいのです」


「わかった。今すぐ村の人間を叩き起こしていく。他にはないかね」


「女子供は村長宅に避難させましょう。後、武器の配布と家の屋根に水を撒いといてください。焼石に水かもしれませんが、火をつけられるとまた更地になってしまいますので」


「わかった」


 ロクドさんとゴメスさんが走りだした。すぐに方々の家に灯りがついていく。

 合言葉だけはきっちり伝えておかないと、不味い。村人同士なら問題なさそうではあるが。

 村の周りの麦畑はところどころ刈り取られている。しかし、半分以上手つかずだ。

 畑を燃やされると、村は致命的なダメージを負うが手の打ちようがない。

 魔術を使おうが、収穫だけは人の手でやらないといけないのだ。


 色々考えられるが、まずは壁を少し上げるか。

 周囲に立てられている申し訳程度の壁を魔術で盛り上げる。


「これは魔術ですか?」


「ああ。土木魔術らしい。モニカは知らないのか?」


「いえ、私は見た事ありませんでした。一般的に土壁の魔術は維持は出来ないと思われていますから。ご主人様のアースウォールはそうでしたよね」


「そうだね。一定時間後には元に戻っていた」


 モニカは元に戻らない土壁に驚きの表情を浮かべている。

 村の防御力を上げる為に考えていた事が、エリアスの土木魔術であっさり叶ってしまうのは嬉しい。

 反面土木工事で内需拡大しようというNAISEI面に不安を覚える。

 なんせ、何でも魔術で出来たら? と考えるとあっさり出来るのも問題はあるだろう。


 すぐ出来たものはすぐ壊れやすい。そして、改修する技術がないとか。

 加えてこの壁の下に上下水道を通してあるのだが、どうなっているやらだ。

 四方を増築する前にDDが不自然な動きを見せる。

 懐から飛び出すと、こちらについて来いとばかりに羽を振る。


「んー」


「ご主人様?」


「モニカ、DDについていこう」


「わかりました」


 ピョンピョンと飛び跳ねるヒヨコの動きは素早い。あっという間に距離を離される。

 モニカも懸命に走っている。全身を金属の鎧で覆っている為速度が出ないのにほっとしていた。

 村は騒然とした雰囲気につつまれているのだが、そんな中ヒヨコに案内されると。


「やめてください」


「へへ、こんな所に誰も来やしねえよ」


 という、ありがちな声が聞こえてくる。忙しいのにこれだ。

 村の隅にあるアーティの家に行く途中の路地裏で、それは起きていた。

 一人の少女に、二人の冒険者風の男が組み付いている。

 

「お前が悪いだぜぇ。俺達の誘いを断りやがるからこうなるんだ」


「そんな! 私にはロイがいます。こんな事やめてください」


「ばぁぁか。やめてといってやめるようならこんな事しねえってぇ」


「そうそ・・・・・・」


 最後まで言い切らないうちに男の頭に黒い塊が当たっていた。

 とげとげが生えたそれは、重い音を立てて地面に落ちる。

 

「ひっ? な、なんだお前等ぁ」


 鉄球が落ちるよりも早く濃い緑色に染め上げられた鎧が間合いを詰めた。

 モニカが無言で走り寄った。少女は男の持つナイフ毎手を握り絞める。

 

「潰れてください」


「ひぃ? ああああああ。やめ、やめてくれええ」


「セリアさんが言ってました。強姦魔は殺していいって。死んでください」


 ま、殺されてもしょうがないよな。日本じゃ甘いけど。

 血が噴き出すと、腕があらぬ方向へと向いている。どうやら、手は押し潰されたようだ。

 

 手を押さえてうずくまる男の鳩尾に向けてモニカの蹴りが放たれる。

 ゲロを吐きながら男は気絶した様子だ。止めを刺すべきか。

 迷っている内に、モニカのメイスが男の頭部を粉砕した。


 周囲の様子を伺っていると、複数の人間がこちらに集まってきている。

 どうやら、村にとりついた毒虫は結構な数いるようだ。よりによってアーティを狙うとは。

 モニカがどこからともなく出したトゲ付き鉄球を腰に回収している。

 イベントリからなんだろうが、鉄球から伸びた物は金属が仕込まれたロープのようだ。

 遠距離がないのでセリアにしこまれたのかな。鉄球を投げて回収するみたいである。


「・・・・・・ありがとう。ユウタありがとう」


「静かに」


 気が抜けて茫然とした様子を見せていたアーティだったが、気はしっかりしている。

 敵の狙いは何なのだろうか。こちらを混乱させるというのは見て取れるが。

 不審な男達が接近している。逆の方向からはロイが走って男達の方向へと向かっていた。

 

 モニカに手で合図をすると、少女は飛び出して鉄球を冒険者風の男達に投げつけた。

 狙いは杖を持つローブ姿のにやけた面の男だったが、盾を持つ中年のガントレットがそれを阻む。

 同時にアイスミラーを展開しつつ、敵と思しき相手にサンダーを放つ。

 

 手前にはトラップホールを展開。

 敵は【サンダー】がくる事を予測していたのか。

 地面を蹴って範囲から逃げると同時にこちらに身構えた。

 フードと剣士風の男二人と盾を構えた中年だったが、中年の方はモニカのトゲ付き鉄球に腕を取られて路地裏に連れ込まれた。多分、ミンチにされるだろう。モニカは大きなマグロを引き寄せる感じで絡まった綱を手繰り寄せると、中年男のヘルムごと粉砕する。

 

 【レビテーション】で浮遊し対魔術の盾を構えながら、【サンダー】を放っていく。

 敵も何か唱えたようだが、地面変化系なのだろうか。

 地面の氷が溶け、周囲の家から炎が吹き上がった。火壁でも直で出そうとしたのだろう。

 剣士は同時に放たれた俺の電撃を受ける。よろめき倒れる剣士は痙攣して動かなくなり、ローブの杖から放たれる炎も盾で防がれる。

 

 中年の盾を仕留めたモニカが加わると、ローブは逃げ出そうとした。

 

「ふっ!」


「あがっ」


 モニカの投げつけた鉄球がフードの胴を捉えると、背中を押さえて倒れる。

 フードは悲鳴上げて倒れた。それを他所にモニカが、男の杖を蹴り飛ばし押さえつけた。

 男の口から洩れるのは悲鳴だけだが、


「大人しくしないと、殺しますよ?」


「ひっ」


 モニカがそう言うと大人しくなる。フルフェイスの隙間から見える目は冷え切っていた。

 知らない相手にこんな視線を向けられたらちびるな。

 眼光に威圧された男の背中は酷いダメージを受けているようだ。

 ロイがこちらに走りよってくると、アーティの姿に気がついたみたいである。

 半裸姿の少女を見て、何が起きているのか。多少はわかっただろう。


 しかし、落ち着いてもいられない。村の各所では、火が付いたようで煙が上がっている。

 モニカの尋問によって、敵だという事はわかった。

 やはり、傭兵さんのようだ。縛り上げられたローブは大人しい。

 何故冒険者のような恰好をしているかというと、紛れ込みやすいからだという。


 しかし、合言葉を作る意味はあるのかないのか。

 敵だと感じれば無力化したほうがいい。しかし、無差別に攻撃する訳にもいかないが。

 幸いな事に小さな村である。村の住人かそうでないかはすぐに判別がつくだろう。

 

 千も二千もいるような村ではないのだ。

 村の周りの地図をみれば、耕作に的した環境ではないのがわかる。

 はっきりいって開拓村に近い物がある。

 モンスターの手に見せかけて壊滅させようとするのは、デブくらいしかいないだろう。

 しかし、証拠がない。


 モニカがローブの首筋を打って動かなくさせると、村の中央広場に向かう。

 そこでも大混乱だ。敵の集団と思しき冒険者風の男達が、村人に襲い掛かっていた。

 が、村人も武装しており数で勝る村人はドスさんや他の冒険者達と連携して応戦している。

 問題は屋根の上を移動する射手だ。


 上からの攻撃で少なくない被害が出ている。最もすぐに片付いたが。

 モニカの鉄球を受けて速攻で死亡していた。射手の数は多くなかったのは幸いだった。

 俺はというと、村長宅の前で怪我人の治療だ。

 アーティやロイも中で休んでいる。中に入るには身体調査をしてからだ。


 爆弾とかテロ品を持ち込まれてはたまらない。この世界、変身なんてものがあるのだから。

 幻術がかけられていないとも限らないのだ。

 ウィルスによるテロだって、有っておかしくない。

 敵の攻撃は執拗かつ陰湿だと想定しておくべきである。


 亜人さんを含めた村人の収容が済まない。入り込んだ敵の排除は済んでいない。

 確かに強いみたいだが、いかんせんドスさん達の敵ではないようだった。

 傷を負った人は多かった。半ば反乱のような具合だ。

 これからは、冒険者の身元もはっきりした人間しか入れないようにするべきだ。

 

 誰でもかれでも入れていた結果が、これだ。

 ドスさんの紹介だけにするとか、そういうのが必要かもしれない。

 というか、転送器の扱いを厳しくするべきなのじゃなかろうか。

 そこら辺を調査するべきだな。身辺調査をまともにしないとこうなるという。

 誰でも転移してこれたら、簡単に反乱を起こされるじゃないか。

 どういう扱いになっているのか。誰か詳しそうな人は・・・・・・ダウンしているエリアス位だ。


 村の中が混乱している事をいい事に敵が攻めてくるとしたら、今だろう。

 治療は途中だが、敵が次にやるべき事は決まっている。

 こちらが混乱している間に門を押さえられたら不味い。

 村人の中からロクドさんを見つける。


「ロクドさんお話があるのですが」


「何かな」


「門の警備と転送器の警備はどうなっているのでしょうか」


「それは、冒険者の方に任せていた。あっそうか。今迎撃しているドスさんが居ないという事は手薄になった門が危ない。転送器も全くの薄い警備になっている。おーい、ジェフさん」


「何かね」


 とある縁が有って、武器屋を営んでいるドワーフさんだ。

 見かけによらず頑丈な体躯と頑固そうな面構えをしている。

 が、今日は独特な角ヘルムにトカゲの皮鎧を身に着けていた。

 小さな体に大きなハンマーを抱えて走り寄ってくる。


「ジェフ殿。西門の警備を確認しつつ対応をお願いしたい」


「ふむ、それはわかる。しかし、わしに部下なんぞおらんが?」


「村の男衆を二十ほど回そう。ジェフさんが指揮を執って欲しいが頼めるかな」


「ほう。人間至上主義の国でそうくるかね。よいのか?」


 ロクドさんの言葉になにかあるようだ。人間至上主義とか一体なんなんだよ。

 んー。こちらの方を見ているジェフさんの表情からはすっぱいものがあるようだ。

 

「いいと思いますよ。いう事聞けないというならロクドさんに言ってください。ロクドさんのいう事もきけないならそれ相応の対応するしかないでしょう」


「よかろう」


 ジェフさんが村人を集めているが、普通に従っている様子だ。

 ロクドさんもまた村人を連れて、反対側の東門に向かう。

 南門と北門は無い造りなので、俺は転送器の小屋に向かった。嫌な予感がするのだ。

 予感で済めばいいが。

 

 何時の間にか肩に止っているヒヨコは目を輝かせている。肩でぷるぷると身体を震わせた。

 ずっと寝まくっていたせいか、非常に元気だ。

 しかし、肩で糞された日には俺も正気でいられるかどうか。

 振り返れば、敵の傭兵を沈めまくったモニカが後からついてくる。

 

 澄み渡った夜空は星が瞬いているというのに、地上は炎が吹き上がっていた。



ユウタ:ヒヨコの糞が!

モニカ:アップ開始しました

セリア:虐殺中かもしれません

アル:観戦中

エリアス:魔力切れでダウン

シルバーナ:死なないといいのですが


閲覧ありがとうございます。

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