101話 傭兵と今後
とある都市の一室に集まった体格のいい男達。
いずれも一癖二癖ありそうな容貌をしている。
男達は寛いでいる雰囲気ではない。
むしろ一度ぶつかりあえば、殺し合いも厭わない様相であった。
「屈強なる傭兵団の諸君。良く集まってくれた」
「挨拶はいい。それで、俺らになにしろっていうんだ?」
室内に座る男達は、皆屈強な体格である。
その中でも一際濃い髭面の男が仮面をつけた進行役の男に尋ねた。
男達の手元に進行役の部下が羊皮紙で書かれた物を配っていく。
「貴方方にやってもらう事は簡単だ。資料にある村を破壊してほしい。村人の処理と手口は任せる」
「依頼料はどのくらいでるのだ?」
「手付に一人頭五万ゴル。成功報酬も弾む予定でいる」
通常の十倍近い額に室内ではどよめきの声があがる。
ここに集う傭兵団は皆後ろ暗い依頼を受ける事を生業にしていた。
貴族が私兵を雇う隙間を巡って入り込むような業態である。
辺鄙な村から略奪を行う等、山賊上がりであったりした。
護衛の依頼等は冒険者に取られる為、自然と汚れ仕事ばかりが回って来る。
この国では冒険者、騎士は兼業職であったりする。
傭兵は貴族間で争いに使われていた為、死亡率が高く人気がない。
少なくともルーンミッドガルドでは傭兵といえば盗賊もどきであった為、数も少なかった。
傭兵団が通った跡には食い物が残らないというのもある。
人気がない上に、嫌われる要素ばかりが詰め込まれているのが傭兵だった。
「ひゅー、そいつは豪華だな。依頼主はその村が邪魔だって事か?」
「余計な詮索は自分の首が締まる事になるな」
「そいつは怖い」
口笛を吹いた髭面の男は進行役の脅しにおどけた様子で首を竦めた。
地図を見れば、村の周辺は耕作地が広がり、競合するような村がない。
総面積はちょっとした貴族の領地並である。幾つかの村に×印が打たれていた。
×印は壊滅した村の跡を示している。
見るべき者が渡された地図を見れば、村に何かを仕掛けていたと邪推する事もできる。
「村の戦力は殆ど無いに等しい。ここに集められた傭兵方ならば、楽に達成できる筈だ」
「確かにこの面子なら楽な仕事かもしれねえ。けどよ、なんか腑に落ちねえ点があるんだが?」
情報として記載された村の戦力は見るべき物が何一つない。
冒険者が十人いるかいないかであった。
村人でモンスターを排除していたとも見れる。
男は楽な仕事ではないという表情を髭面の上に浮かべた。
髭面の男はアゴヒゲを触りながら、羊皮紙を指でトントンと叩く。
「それは何か?」
「そりゃ決まっている。集められた傭兵が多すぎるだろう。只の村を襲うには数が多すぎる数だ。一つの傭兵団で数も三十いりゃ十分じゃねえのか」
「数は多いに越したことはない。目撃者を一人も生かしておくな、という事だ」
喉を鳴らす傭兵達がちらほらと見受けられた。
何しろ皆殺しというのはそうないからだ。
副業である盗賊稼業。モンスターの手に見せかけて、人攫いや略奪をするのとは訳が違う。
「つまり依頼料が高いのは、そういうのを込みでつけているという事か」
「その通りだ。あまり欲をかかれると仕事に差し支えるだろう。こちらが村の見取り図になる。防衛戦力は冒険者が二十から三十といった所だな。それと村には転送器が設置されている。先行して潜入が必要になると考えられるな」
「成程成程。それで、この数という事か」
質問する男は髭面だけであった。他の男達は話に聞き入っていた。
顔に深い縦傷を負った男や横傷を負う男は腕を組んだままである。
「それもあるが、念には念を入れての過剰戦力というのはある。仕事は早ければ早いほどいい。つまり、今夜中というのが望ましいがどうか」
「そりゃまたえらく急な話だな。こっちにも準備ってのがあるんだが? それともなにかあるのか」
資料に渡された羊皮紙にはすでに依頼内容と作戦についての詳細が書かれていた。
集まった者達も即日の依頼に疑問を持つ者は少なくない様子だ。
「ある。日時を置けば置くほど、村を破壊しずらくなる。また、この情報が漏れる心配も増える。それと今、王国の目がハイデルベル国とハイランド国に向いているという点だ。戦力をこちらに回すほど気が利いた者がいるとは想定していない」
「ふーん。成程、話は大体わかった。一つ、村の破壊。二つ、今日中。三つ、転送器の確保ってところか。急ぎ仕事で金払いがいいのも納得できる話か」
「依頼主は惨たらしく殺せ等と言っている。が、そこは無視して構わないだろう。諸君らにとっては転送器の確保と日時が重要になる筈だ。他に質問がなければ仕事に取り掛かってほしいが?」
「わかった」
「降りる団はおられるかな」
進行役の男は周囲を見回す。誰も席を立つ者はいない。
「そりゃいねえだろうよ」
「違いない」
高額の報酬に傭兵達は容易い依頼だと口を開く。
殺伐とした雰囲気を払しょくするかのように濁声を震わせた。
契約の書類を交わすと、すぐさま団員を移動させるように取り掛かる勢いであった。
何せ久しぶりの仕事なのだ。国内での争いというのはそうあるものではない。
進行役は室内を退出すると隣の部屋に入る。
われ先に契約する傭兵団の様子を隠し窓から伺う樽のような男の姿があった。
ユウタにデブと呼ばれるギニアスである。
身体の動きは鈍重であるが、頭の回転はそれほど鈍くない。
「お気に召しましたかな。急遽集められたにしては、そこそこの傭兵団共です」
「いいだろう。金に糸目はつけんといったが、転送器の確保は重要だぞ。後、見目の良い女は捕えるようにしろ」
ギニアスの脳裏に浮かんでいるのはすでにアーティを組み伏せた己の姿であろう。
恍惚の表情からそれが進行役は見て取れるくらいには仕えていた。
ギニアスの中では、既に奴隷にでもしたつもりでいるのだ。
「はっ。お言葉ながら、転送器はともかく女は足が付きますぞ」
「どうとでもなるだろ。いつも通りにだ。それと、ユウタとかいう代官は確実に殺すようにな」
「それはもう了解しております」
「そうか。では任せたぞ」
護衛の騎士を伴い退出するギニアスを見送る。
進行役は汚物を見る視線をギニアスの後頭部に投げていた。
室内に残ったのは話を進めていたギニアスの部下である進行役とその同僚である数人だ。
仕事を部下に任せたギニアスが、奴隷達と退廃の宴に興じる事を知っている。
進行役と同じように部下ではある。
だが、真実ギニアスに忠誠を誓っているか。疑問を抱かせる視線を扉に向けていた。
人が家畜を見るかのようなそれであった。
「一体いつまでギニアスを乗せておくつもりだ? そろそろ切り時ではないのか」
「そう言うが、おだてればいくらでも走るからな。奴は。むしろ反乱を誘発させる処まで行かせれば最上だが・・・・・・流石に難しい。せいぜい走らせてどこまでいくか見てみるのも悪くないと思われるが?」
「そうか。では、こちらからも支援はする。が、背後関係を洗われないようにしろよ。今後の任務に差し支える」
「わかった。それにしても破壊工作も駄目。薬物汚染も駄目とはな」
進行役だった書類に目を通す男は中肉中背の同僚に視線を上げる。
「ああ。盗賊を使った内部攪乱くらいしか難しいのが、現状だ。破壊に使われる爆弾の製造が難しいからだ。殺人も薬も、どれも忍者がすぐに嗅ぎつけてくる。実行犯はすぐ逮捕され収容所に入れられるか、もしくはその場で殺されるかだしな。実行犯が収容された場所は獄とか呼ばれるらしい。だが、解放する為の潜入は困難だろう」
「うむ。難しいモノだ。・・・・・・時に、お前の方はどうなのだ。モンスターに知恵をつけさせてやっているやつだ」
中肉中背の男は声を小さくして話すが。
小心なのか左右に人が居ないかどうか目を動かす進行役。
「しっ。声が大きいぞ。こちらは順調と言えるかまだ微妙な所にある。あれらの戦力は日増しに増えているが、人食い共の氏族同士で団結するにはまだ時間がかかる。取り込んだ氏族の攻撃も不発に終わっているからな。こちらの人食い共と我等のとでもまた違いがあるようだ。言える事は、慎重に動かねばならないという事だな」
「そうか。帝国内にいる食人種共も厄介だが、こちらのは更に危険なモノもいるからな。さて、どうしたものやら・・・・・・」
「やはり、当面はこいつらを上手く踊らせる事にしよう」
隠し窓から覗き見る男は鷲鼻をした中背な男に背を向けたまま話をする。
悪党の面構えをした傭兵達は多い。
しかし、如何にも普通以上の容貌を持つ人間がいない訳ではなかった。
「あれは、ミハイル・ブートマン。鮮血水剣のミハイルがこんな所に? それだけじゃない。マルコ・ダズにライル・スティックまでいる。お前が『黒い翼』に呼びかけたのか?」
「そうだ。より確実を期すためだな。何しろ裏の仕事を受ける冒険者は数が少ない。お前がやったように鉄仮面で無理やり言う事を聞かせるのも限界があるからな。多少の粗暴も目をつむって貰えるとありがたい」
男が鷲鼻から視線を窓に戻す。他の同僚達は鼻すら見えない仮面をつけており顔は見えない。
室内にいる男達の資料に目を通している様子だ。
三人の男はどれも腕利きとの評判であった。
ミハイルと呼ばれた傭兵はそれなりの働きをするが、反面粗暴と残虐性が+の評価を打ち消している。
そのミハイルは短く刈られた金髪を撫でながら室内に掛けられている絵を凝視した。
大柄で体格に優れた傭兵は仲間に不満げな声をかける。
「なあ、マルコ。お前の言う通り来てやったが、大して面白味のない依頼のようだな。どこが面白そうな依頼なんだ」
「いや、説明が抜けている。恐らく意図的な物かどうか不明だけどさ。僕が掴んだ情報じゃあ、銀の騎士とか王族が拠点にしている村らしいよ。面白そうな匂いがしないかい」
黒髪をきちんと選り分けた男はミハイルに対して説明をする。
ミハイルが座る後ろの椅子に腰かけた男は杖を握りながら書物に目を通していた。
興奮したミハイルはマルコと杖を握って座る男にまくしたてる。
「確かにそりゃ、って何だと? 銀の騎士が!? そりゃこうしちゃいられねえぜ。最強の一角と戦うなんて俺の血が滾る。ほら行くぞ、ライル」
「そうするのか。俺の占いだと、高確率で死亡すると出ている。悪いが、この依頼は降りた方がいいな」
プレートアーマーを着けたミハイルが、席を立つ。
金髪男は、金属鎧を鳴らしながら室内から出ていく。
後を追いかけていくライルは書物をしまうと杖を手にして歩き出した。
くすんだ茶色のローブを纏う男の横から皮鎧を着けた女がミハイルに問いかける。
「ねえねえ。ライルはこう言っているけど、どうするの?」
「取りあえず行ってみようぜ。旗色次第だろ。俺達だけで様子を見るのも悪くない筈だぜ」
大剣を背負うミハイルの横には槍を手にしたマルコと女が並んで歩いている。
大柄な二人と違い背中に丸盾を背負う女は小柄であった。
適当なミハイルの物言いに女は、腰につけたメイスに手を当てて溜息をつく。
「といって村に突っ込んで行くのが貴方よね。王族を見たら、すぐ逃げるというのだけは、約束してもらうわよ」
「はあ? なんでだよ」
「はあ、これだから無知な脳筋は困るわ。マルコ、説明してあげて」
女は疲れたように息を吐くと、槍を片手にしたマルコを見る。
「えー。リオナが説明してあげればいいじゃないか。・・・・・・えっとね。この国の王族は特別なんだよ。他の国と違って、ただの人間とは違うんだ。代々王はアース神族かヴァン神族の血を色濃く引いた半神と言われているからね。まあ彼、彼女達を一目見ればわかるよ。戦いを挑むなんて考えすら無くなるから」
「なんだそりゃ。不死身って事か?」
マルコが口を尖らせると、リオナに不満を漏らす。
首を縦に振る優男はミハイルに対して同意する。
「それもあるかもしれないね。なんせ半神だし。脇を固める騎士達の実力も高いから、襲う奴もいないよ。何より襲って失敗した後が怖い」
「何が怖いんだ?」
ミハイルは全くなにがいけないのかわからないといった表情を浮かべる。
全く危機感を覚えないミハイルにマルコも呆れた顔をした。
「獄っていう場所に放り込まれるからね。普通の監獄とは訳が違う所らしいよ。一度見にいけばわかるよ。そこから聞こえる悲鳴を聞けばまず襲うなんて考えられなくなるんだ」
「この国で反逆者がいないのもそこらへんにあるのか」
「そうなるね。でも、最近はその辺を忘れている貴族もいるみたいだね」
顔を左右に振る青年は、何かに寒気を感じたかのよう身をすくめる。
マルコはこの依頼が貴族絡みだという言であった。
【ヒール】【キュアネス】【リザレクション】は拷問に使われれば、大変な事になる。
ミハイル以外は事の重大さを理解している様子であったが。
「んんー。わかったよ、今回はそこに注意していこうぜ! まあ、その前に腹ごしらえだぜ」
「ミハイル、ちっともわかってないじゃないの! ほら、ライルも何か言ってあげてよ」
腹を押さえて話す青年は、にこやかな表情を浮かべる。
おかっぱの髪の毛をしたリオナ。
ミハイルの言葉に青筋を立てて、呪文書に目を通すライルをけしかけた。
「あー、うん。依頼内容について瑕疵があったりはしないのか。という事で行ってみるだけならば可だが。そうもいくまい。中途半端な覚悟で依頼を受けるのは良くないぞ」
「わかってるってばよ」
「本当にわかってるのかしらね」
とある都市の午後。道を歩く一味は食堂に入る前に依頼の結論を出す。
並んで歩く四人は結局、村の襲撃する依頼に参加する事にした。
◆
ハイデルベルの首都に帰りつく。しかし、肝心のシルバーナは居なかった。
本国からの出先になっている屋敷で勤務している騎士に話を聞いて回る。
どうやら、どこかに出かけたらしい。
汚い恰好だったので、着替えを用意して貰えたのは有難い。
白いシャツに綿製の丈夫なズボンであった。
盗賊娘を置いて帰る訳にもいかないので、食事をとる事にした。
外は寒いし、一体何処にいったのやらだ。
食堂の窓から外の景色が見える。夜だが、銀世界が灯りに照らされて広がっていた。
盗賊娘が帰ってくるまで、ロシナさんから貰った本でも読んでみるか。
リュックから取り出すと、テーブルに座って食事が運ばれてくるまでページをめくっていく。
『異世界の過ごし方全般』には実に為になる事が書かれていた。
魔力の操作に魔術の行使が、特に興味深かった。
大気中の魔力を身体にある魔力芯に吸収、魔力の製錬を経る。
術式の構築、魔力を効果として放出する。
そうして、効果の顕現という具合に段階を踏んで使われるのだとか。
身体に魔陣、魔紋、魔回路と呼ばれる術式を施術する。ここが肝にも見える。
しかし、そういった訓練を俺は一切していない。何故魔術が使えるのか不明だ。
目が覚めた時、既に十六歳だった。ということはそれまでに経過した時間があった筈だが。
この身体の前の持ち主とかがいて、そいつが凄腕の魔術師だったとか。いや、まさかな。
他にも術式をキューブがそれらを担うともあるが、やり方は様々らしい。
最大魔力量の底上げについても明記されている。
それによると、生まれた時から魔術の行使をやっている人間程上昇率は高いとある。
生まれた時からかあ。
手遅れだな。肉体年齢が十六歳を超えると上昇率は止まるようである。
既に十六を迎えている。泣いて喚いた所で若返るなんて事はない。
まいっちゃうなあ。自分自身の魔力量がどの程度の物なのかわからないし。
どこかで調べるべきなんだろう。
最大で魔術をどの程度撃てるのか把握しておくのは重要だ。
本を読んでいる内に、何時の間にか傍に食事を運ぶメイドさんがやってきていた。
台車の上にはほかほかと湯気を立てたロールキャベツとスープである。
スープを入れた皿の上にはまだ新鮮な音をさせている肉があった。
「ごゆっくり」と言ってくれるメイドさんに礼をいって、食事にする事にした。
口に入れた肉は柔らかく仕上がっていて、旨みが広がると喉を潤すワインが欲しくなる。
ついでに、枝豆とビールも欲しい処だ。
肉を半分にして皿に乗せて床に置くと、もぞもぞと動きだしたトカゲが飛び出す。
肉には旨みを引き出す調理がなされているのか。中々の味わいであった。
香辛料が使われている事は間違いない。幸いにして狼系の肉は腐る程、手に入っている。
何とか料理の腕を上げて、セリアとモニカの胃袋を掴まねば。
床の肉を食べているDDは腹一杯になったのか。またも腹を見せて石畳の床に転がった。
ゲームのようにさくっと上がってくれるならなんの問題もないのだけど。
腕前はそうそう上がるモノじゃあない。
セリアとモニカが心配だ。大丈夫だろうか。
もっと、心配なのは帰ってこないシルバーナの奴だ。
村の事もあって、段々とイライラが募ってきた。
運動神経もそうだが、魔力量も鍛えていないと上昇していかないようなのだ。
追い打ちをかけるかのようにやってくる事実に打ちのめされる。
ステータス値が見えないのは何故だ。単純に、勝てる勝てないが判断できない。
ゴブリン、オーク、オーガ辺りまでなら倒せる。
しかし、この先もっと上のモンスターが出てくればどうか。
トロール、ジャイアント、ギガンティック。まだまだ、これら巨大な食人種がいるようなのだ。
森の奥からこのような化け物が現れたら手に負えない可能性は十分にある。
ロシナさんの本を読むのに没頭していると、食堂の入口から気配が移動してくる。
その方向を見るが、人の姿は見えない。
この気配は良く知っている。
「シルバーナか」
「おや、なんだい。やっぱり気が付いたね。それでこそあたしの見込んだ男だ。で、どこで何をしてこんなに時間がかかったんだい。洗いざらい語って貰わないと納得できないね。呼ぶって言っといて放置するなんて酷すぎやしないかい」
正面でいきなり姿を見せたシルバーナは、音も立てずに椅子に腰かけた。
目が座っている所を見れば、内心ではお怒りのようだ。
かくかく云々と説明をしていく。
要点を簡潔にしてからの説明はめんどくさかったが、協力が得られなくなるのは避けたい。
「ふーん。で、あんたはどうするんだい」
「そうだな。一旦、邸宅に戻ったら冒険者ギルドとアーバインの騎士詰所に寄ってから村に向かうとするよ。シルバーナは何をしていたんだ」
「あたしかい。あたしは調査かな。ここの周辺のモンスターとか物価の価格帯とかだね。転売むきな商品があるからねえ」
どうやら、待ちくたびれて商売に手を出した様子だ。
転売用に宝石を購入したらしい。安く買い付けたり、情報収集等にいそしんでいたみたいだ。
「女一人でうろついて大丈夫なのか」
「心配してくれてるのはありがたいけどね。あたしだってそれなりにやれるさ。もちろんセリア様みたいな相手が出てくれば逃げるしかないけどさ。それはそうとこの国結構大変な事になっているねえ」
「というと、また盗賊とか反乱か?」
テーブルの上で頬杖をついたシルバーナは、面白い玩具を見つけたように目を輝かせている。
DDを見ると、鼻提灯を造り出した状態で寝だした。風船が膨らんだり縮んだりしていた。
「兵士が足りないのもあるけど、王都中で食料も足りてない。国庫の予算も足りてないんじゃないのかね。主産業で売り物にするはずの鉱山は、反乱軍の襲撃で掘る人間が軒並み殺されてる。王都の周辺にある村や町も物流が滞って、干上がっているみたいだよ。つまり・・・・・・」
「今度は国民の反乱が起きかねない?」
「そうゆう事。だからアル様が介入する事になったんだろうねえ。友好国といってもここまで荒廃しちゃ、属国扱いで政治介入までしないと立て直しは厳しいんじゃないかねえ。まっここまで真っ暗な話が続くけど、あんたがやれそうな事があるよねえ」
何かをさせたいのだろう。ちょっと頭の中を整理してみる。
この国の特色といえば、風光明媚な観光。あとは、鉱山関係か。
どれもこれも治安が悪化していてはままならない。
モンスターが蔓延っているから耕作も厳しそうだ。
いきなり森からモンスターが飛び出してくるようじゃあな。
「食料の供給とか鉱山を掘るとかか。しかし、寒いし一人でやるには現実的じゃないんじゃないか」
「やるには厳しいね。危険だし。はっきりいって、火の中にある芋を手づかみするようなもんだよ。けど、これはチャンスさ。あんただって、このまま王子様の使い走りで終わるつもりじゃないだろ? ならやるべきさ」
「わかった。考えてみるけど、あまり期待されるのも困るな。上手くいくとは限らないんだし。それとシルバーナの方こそ、国から何か仕事を押し付けられたんじゃないのか?」
男勝りな性格だが、顔立ちは悪女をしている少女の眉が上がる。
一瞬の間が有ってシルバーナは俺のスープをスプーンで掬うと口に入れた。
「まあ、わかっちゃうか。そうだよ、あんたの言う通りさ。まず、盗賊共を取り締まる盗賊団をここに作る。そして、物資の輸送と管理を受け持つように仰せつかったんだよ。うちらのアジトも作らないといけないし、人手がいくらあっても足りない。で、信頼出来る商人が欲しいんだけど」
「ゴメスさんか?」
「当たりさ。そのおっさんの縁者がアーバインの町で手広く商売をやっているからね。周りの商人達にも顔が効く。麦を集めるのも上手くいくはずさ。そして、あの村とアーバイン周辺で収穫できた麦を使って、パンの配給をする。それで、ミッドガルド軍の人気は天井知らずさ。不幸を転じて人気となす。なんともアル様は逞しいねえ。為政者ってのは人気が全てだからね」
「ふうん。・・・・・・時間も有効に使わないとな。早速向かうとするか。おっと、その前に家に戻ってセリアとモニカを連れて行かないとな」
シルバーナは俺が使っていたスプーンを舐めている。
美形なのに、とんだ変態だ。
腰を上げた所で少女の足が俺の太ももに触れる。
「ちょっと、ちょっと。あんた、頑張ったあたしにご褒美とかないのかい」
「いや、人のを舐めるような変態さんは知りません」
太ももから危険な場所に伸びようとした足を払いつつ、いびきを立てて転がる黄色い物体を回収する。
ぺろぺろと舐めていたスプーンを皿に置くと、変態もついてきた。
悪女系美人なのに、とっても残念な子である。
「ねえ、そろそろ気心もしれてきたんだし。その、性交があってもいいんじゃないのかい」
「無いわ! お前なあ、昨日の今日でヤルやつが何処にいるんだよ」
「どこにでもいるじゃないのさ。ただでさえ出遅れてるんだから。初動で遅れたなら、先手を打って攻勢にでるのは兵家の常って親父も言っているよ。本妻は譲っても、子種すら貰えないんじゃ尽くし甲斐がないじゃないさ」
そう言うと、シルバーナは背中から俺に組み付いてくる。
が、引き倒そうにも力では俺に勝てないようだ。顔を近寄せてくるが、手前で動きを止めた。
なんとか、接吻を防ぎつつそのままの状態で転送器のある部屋まで移動していく。
通路ですれ違う騎士とか文官武官の方々は、一様にドン引きだ。
生暖かい目をしてこちらを見てくる。
方向を変えた少女がズボンを降そうとしてくる。
しょうがないので、少女の身体を脇に抱えて運んでいく。
局部をもろ出しのまま歩く訳にはいかない。
尚もやろうとしてくる少女を相手にしているが、素早さでは勝てない。
無力化するにはどうするべきか。くすぐってみるかな。
くすぐり攻撃をしてやると、途端に全身を痙攣させたように笑い始めた。
「あはははっ、や、やめっ・・・・・・」
「おらおら、抵抗は無駄だぞ!」
シルバーナが変な嬌声を上げるもので、余計に目立つ。
二、三分程笑った状態で大人しくなった。力が抜けたのかすごく軽くなった気がする。
制圧完了だ。ガッツポーズをとりたいくらいの完全勝利だ。
「も、もう、お嫁に行けない・・・・・・」
転送室について改めて少女を見る。鼻水やら色んな汁がだだ漏れで美人が台無しであった。
閲覧ありがとうございます。