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ヘタレの異世界無双   作者: garaha
一章 行き倒れた男
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98話 本陣を守れ!

「次から次に忍者は厄介な相手ですね」


「これが終わったらまた可愛がってやるから頼むわ。リュンとステラは前衛で俺とぺリキュは援護な」


「わかりました。ステラ、行くわよ!」


「うん、ステラ頑張る」


「二人共頑張りなさいな。ワタクシはちょっと休憩・・・・・・しないわよっ」


 サボり癖のある元お嬢様だ。リュンやステラと違いキツイ対応をしなければいけないのだ。


「わかってると思うが、さぼったりしたらケツ真っ赤になるからな! パーンするからな? パン刑だからな!」


「なんですって? それなんて酷い事っ」


 健一郎のお仕置きで、ペリキュは元お嬢様なのに変態になりつつあった。


 重装備の戦士リュンと軽装の剣士ステラが忍者達に向かって駈け出していく。見た目は栗色で長髪なおっとり系美女と蜂蜜系金髪でセミロングの天然系美少女。二人ともに胸や身体はまだまだ成長中である。どちらも極貧奴隷のガリガリ状態から健一郎が手塩にかけて育てた。お嬢様な雰囲気を持つペリキュは僧侶。しかし、何かにつけさぼりがちなペリキュ・ストラテスも奴隷である。

 立派過ぎる胸のリュンと少々残念なステラの二人は、奴隷市で見かけたのを健一郎が目ざとく獲得した。リュンの胸が大きいのは、夜に頑張ってマッサージした成果である。

 

 ツインテールが似合うペリキュは、元お嬢様で奴隷に転落する所を奴隷として身請けした。

 PTメンバーは全員奴隷上がりである。

 他にも二人ほどいるのだが、育成の為に待機させていた。待機する戦闘員は居るだけ都合がいい。

 女ばかりの奴隷というのは単に趣味である。戦闘力よりも夜の方が健一郎にとって重要なのだ。 


 男の知り合いは多い。

 しかし、残念な事に健一郎が男を友達と呼べるのは智くらいであった。ユウタには内緒であるが、異世界人の知り合いはユウタを除けば三人くらいしか知らない。智はその内の一人。学校でも一緒に授業を受けたり、ギルドの依頼を一緒にこなしたりする仲である。


 異世界人の知り合いは三人。その内一人は男に囲まれて、健一郎には近寄り難い女であったのだ。

 ユウタを加えて三人だけの同盟になる予定である。異世界からやってきて生き抜くにはナロウ世界はかなり厳しい。まずモンスターと出会ってやり過ごす事が出来ないといけない。次に、盗賊等の危険から身を守らないといけない。そして、なんといってもゴルがいる。その為に何をすべきか迷う者は多い。

 

 ラグナロウ大陸は広く、かつ多数の国で溢れている。

 

 健一郎は異世界からのトリップ者である。正確には、VRMMOの世界から迷い込んだ。

 お気に入りのゲーム『グランド・ファンタジア』をプレイ中に画面が暗転する。気が付くとこのナロウ世界に来ていたのだ。

 プレイしていたゲームによく似た設定を持つ世界。システムやアシスト設定などを生かせば思いのままの人生を送れるとこの少年は思い込む。

 まず最初に確認したのはステータスであった。当時十四才だった健一郎がステータスを出すため色々念じていると出てきたのは金色に光る箱。つまりキューブである。

 やり込み派の健一郎はゲームにおいてカンストであるLV999だったが、LV1からのスタートであった。スキルポイントとステータスポイントの割り振りが可能であったのは幸いだった。

 健一郎のステータス値はALL1からのスタートであったが、初期ボーナスが10ついていたのである。それをVIT(体力値+生命力)に関すると想像した物に6。DEX(器用値)と推測する物に4を振り健一郎の異世界冒険が始まった。


 ステータスを決めた後で辺りを見渡すと、一面の草原。遠目には町らしき物も見える。

 世界転移した場所も初心者がゲームを始める場所なのも幸運だった。初めて会ったモンスターは小さなウサギ。ノンアクティブで誰にでも狩れる奴であった。


 持ち物を見てみると長い物干し竿のような物を手にしていた。健一郎愛用の武器である銃である。何を隠そう健一郎はルーンミッドガルドにおいて希少な職となっている銃剣士(ガンサー)であった。この時の健一郎は気が付いていなかったのだが。遠距離から攻撃する事を好んだ健一郎らしいジョブであった。


 まず、銃を手にした健一郎が最初に取った行動はウサギ狩りである。ゲームではラビと呼ばれた存在を思うさまに銃で狩る事一時間。目についたラビを倒すのに飽きたらず、狸に似た甲殻を持つキャタピーを倒しまくる。銃は大きな音を立てる事のない消音機能付だったのは幸いだった。おかげで距離があるとはいえ町の住人に気が付かれればどうなっていた事か。

 

 何発か撃った処で銃弾が少ない事に気が付く。

 便利な事に健一郎が手にした銃には先端に剣がついていた。

 便利な銃剣に感心しつつ狩りを続行する。


 ともあれ健一郎は経験値を順調に獲得して、LVアップと共にスキルやステータス、モンスターの素材を獲得していく。健一郎が背中に背負っているリュックにモンスターの死体を回収していく。この収納鞄はインベントリ機能付きであった為、素材となる死体はいくらでもモンスターの死体が入っていくだのだ。


 ピロリンという音がするとLVがあがった知らせを健一郎に伝えてくる。根っからのゲーマーである健一郎はLV上げに夢中になり、いつの間にか草原から森付近にまで近寄っていた。

 健一郎がはたと気が付いた時にはLV十まで上昇してたのだが。森スタートのファンタジー小説等ではここで盗賊に襲われる馬車と遭遇する。

 

 当然森の入口に近寄ってみると、森から女が助けを求める声が聞こえてくる。

 そこで、ペリキュとの最初の出会い。そして、奴隷市場でリュンやステラを見つける事が出来たのは出来過ぎと言う他になかった。

 その事を思い出しながら健一郎は騎士甲冑(ナイトアーマー)モード・ブリガンテスを発動させた己の手を視界に収める。


 その腕は樽のように太く、持ち上げる武器はそれ相応に巨大で対象となった敵を圧殺し狙い撃つ。

 その巨躯は帝国の鉄騎兵に並ぶ程の大きさとなる。しかし、個人によってその性能はまちまちであった。下級騎士ですら、鉄騎兵同等かそれ以上の力を発揮する事が出来る。

 この『ブリガンテス』は状況に応じて発動を許される王国の切り札であった。

 

「相変わらず凄い腕よね」


「ん? 戻ったか。ティーナどうだった。エリアス様は無事か? 周囲の状況を教えてくれ」


 白いフードを被るティーナは赤毛が美しい少女である。奴隷ではないため、何とかしてそういう関係になるか不明であった。よって立場もあるが、貴重な魔術師である為言葉も選ばねばならない。


「んー。はっきり言って、不味いわ。陣の中央部にはベルティン様が変身して包囲する忍者共と交戦中だけど、皆苦戦しているようね。それにこの土と岩の人形はかなりの出来よ。数の水増しが激しくて何処から敵がくるのかも予想出来ないのは最悪ね。私に言える事は、このままだと私達は全滅をまぬがれないって事よ。さあ、どうするの?」


 巨大な突撃銃を構える小山のような赤い鎧。鎧が首を傾けると、ティーナの方を向いて人のように音声を発した。


「既に撤退命令は出ているんだが、なんだか悪い予感がするだよな。つーことで最後まで付き合う事にするから頼む」


「それ本気で言ってるのよね。何時ものような冗談ではないのよね?」


「今日は・・・・・・真剣だぞ。【直感】が訴えてるし、俺の騎士道が疼く。ここからならベルティン様を狙撃で援護するのに絶好のポイントだし、押えておきたいな」

 

 生きた鎧と化した健一郎は拝むようにティーナにお願いをする。

 ティーナから見た健一郎はただの動く鎧である。その声に人間らしさはなく、無機質な物であった。ナイトアーマーと化した健一郎が銃撃を得意とする事は良く知っていた。だが、何時もの健一郎であれば早々に退却した筈。

 そんな健一郎にティーナが不審な表情を浮かべる。


「何か良くない事でも起きるの? そこよ! 決まれ【サンダー・ストーム】!」


 杖を掲げたティーナは無詠唱で雷系中級魔術を放つ。白いフードとローブをまとった少女の杖から無数の電光が土壁を舐める。床に隠れ潜んでいた忍者達があぶり出されたのだった。焦げ臭い匂いと共に伏せる忍者達。いずれも土系の術を良くする忍者であった。


「ああ。つまり俺がこの戦闘に呼ばれたのはひっくり返す為だろうな」


「何をひっくり返すのよ。まさか、健一郎の祝福で?」


「それしかないだろうな。しっかし、こいつらゴキブリみたいに湧いてくるな。マジで。壁から地面からとにかく奇襲しかしてこないな。キリがないとはこの事だぜ。さっさと片付けて他のパーティーの援護に回らないとな」


 健一郎が守る北門の周りでも、変身した騎士と補助する兵士達の姿が見受けられた。ユウタが勘違いしているインベントリから健一郎は短銃を取り出す。人であれば持つことも出来ない重量であるが、変身した今ならば問題ない。取り換えた銃を構える健一郎がペリキュに合図を送る。

 前衛で働くリュンとステラの周りに群がる忍者が数を増してきている。


「リュンとステラを下がらせろ」


「わかったわよ。時と場所を逆さまに、力の流れを変え彼の者を呼び戻さん【コール・サモン】!」


 ペリキュの持つ槌が輝くと、同時に地面に魔術的文様が浮かび上がる。前線に飛び込んでいった二人を強制的に転移させたのであった。

 ペリキュの造り出した輝く陣が人型を産み出す。リュンとステラの姿を確認した健一郎は銃撃を開始する。弾け飛ぶ忍者達と土と岩の人形。避けられるような広さはないのだ。咄嗟に壁の中に逃げ込もうとすると、ティーナの電撃が走りそれを阻む。


「わ、呼び戻した? 一声かけて欲しいね」


「・・・・・・ありがと」


「タイミング合わせるの難しいからよ。走れ電撃。ほど走る青い光。それは波の如く【サンダー・ウェーブ】!」


 驚きの表情を浮かべるリュンと対称的にステラは淡々と武器の手入れを始める。

 ティーナの放つ電撃は地を這い中に溶け込もうとした土と岩の忍者達を倒す。健一郎のパーティーは敵を倒す事に成功したが、他のパーティーは苦戦している。同じ異世界人である智の方はそうではないようだった。

 今日の智パーティーは男二人と女三人である。健一郎は相変わらず男をパーティーに加えている智に苦笑を禁じ得ない。

 

「まだ、男を入れてるな。どうせ、上手くいきっこないんだから早めに追いだしゃいいのにな。智の奴大丈夫かな」


「トモのパーティーメンバーの事?」


「そうさ。いくら厚遇したって、男じゃあな。いつか、いつか裏切るからな」


 リュンとステラは周りを警戒する。ペリキュは全員に防御魔術をかけなおしている。健一郎のパーティーにも男が居たのだが、やはり健一郎のハーレムと化した場所に居ずらくなり去った。去る過程でも色々あり、過去を思い出す健一郎は鎧でなければ苦虫を噛みしめた表情を浮かべた筈である。


「男が二人以上いれば、争うしかない・・・・・・か」


「男でも女でもそこはあまり変わりないんじゃないわよ。上手くいくも行かないも、結局は人次第よ」


「かもな。でも、俺はもうコリゴリだ。部下には男を揃えているけどな」


 呟く言葉にティーナが傍で応える。魔術で攻撃する準備をしながらだ。

 健一郎は若輩ながらアルより男爵の位を授かり、豪華な屋敷を立てて暮らしている。その際に多くの執事やメイドに私兵を雇い入れていた。内情としては死ぬほど忙しく、戦場にでてくる暇もない程だ。

 一つ目は領地の経営。

 領地の税収は悪くないが、大都市なので分割統治の合議制というのが複雑怪奇である。

 二つ目はペリキュの父が経営を傾けた商会の立て直しと色々多忙を極める。

 三つ目はハーレムの序列調整。これも健一郎の下半身次第であった。


「ちょっと、健一郎? そっちを警戒するのもいいけど、あれ見なさいよ」


「何だ? あれは一体・・・・・・」


 健一郎は西側の壁上で忍者と何かが戦っている様子を見ていた。

 視線を動かすと、ちょうど東側の門を飛び越えてくるアルの機体を目撃する。

 それはまさに黒い球体であった。


「どこかの大怪球かな? いやどちらかといえば、どこかの邪神かな」


 危険な存在なように健一郎の目には映る。盗賊側の方向を見ると、派手に炎が舞っていた。しかし、そこにいる女パーティーの負ける姿は想像できない。楚々とした少女の姿からは想像も出来ないアタクシ少女なのだ。健一郎のチートなど遥か超えるぶっ飛びチート聖女『黒い悪魔』それが彼女のあだ名だ。

 

 彼女が歩いた後に、悪党はその肉片すら残らないという。


「ねえ、健一郎。どうするのよ。あんなの相手に勝てるのかしら」


「確かにヤバいな。でも、なんだろうな何かが引っかかるな。撤退しろと言われるが、それは中の兵士だけだしな。北側の王国軍は残ったままだ。つまり、うっとおしいゴキブリを纏めてやる腹積もりなんじゃないかな」

 

 残弾の心許ない短銃をイベントリに仕舞うと、長大なクロスボウを取り出す。

 健一郎は門付近で戦闘している兵士達の援護を弓でし始める。銃は騎士にとって忌み嫌われる物だが、有用には違いない。弾丸さえ確保できていればの話だが。決闘での使用も禁止されているのも痛い。

  

 銃があまりにもお手軽過ぎるのだ。引き金を引けば敵に当たるという事もある。

 使われない理由に、大型や特殊モンスター相手にはほとんど効かないという事もあった。


「じゃあ撤退は隠し玉を用意してるって事かしら。あっそういう事ね」


「どういう事だ」

 

「いやね、纏めてやるってことよ。しぶといのが身上の王国軍があっさり撤退するっておかしいじゃない。前衛の将はベルティン様の副官ラキシア様だったわよね。聖女様と盗賊達がやりあっている間に、この砦を逆包囲する算段でいてもおかしくないわよ」


「だろうな。ついでに撤退した兵を再編して東と南に転移させりゃ襲う方が襲われる方にな――――――」


 ティーナと相談する健一郎の声を遮るようにアルの美声が響き渡る。


「聞け王国の兵士達よ。陣内部に残る者は撤退せよ。繰り返すぞ、内部に居る者は撤退せよ。ああっもう何故ついてくるのだぁあああ」


 一国の王子に見えないとり乱しようである。

 黒い玉から響いてくる声にティーナが反応する。


「アル王子がついてくるなっていっても、引けないのがこの国の騎士達の悪い処だわ。さっさと引けばいいのに」


「そんな事いったってなあ。騎士達がついて行きたくなるのもわかるな。劣勢の中、拠点に現れた救世主ともなれば俺だって突撃したくなる」


 長大なクロスボウに装填した弓矢に魔力を流し込む。狙うのは中心部で窮地に立っているベルティンとエリアスの二人を囲む忍者達である。健一郎が中心部の状況をよく観察すると、かなり不味い様子だった。二人を守る兵士や魔術士が地に伏せているのもおかしな状況であった。


「一つ、二つ。入れ食いだな」


「相手は避けないの?」


「意識の外から撃っている上に、火と水の忍者達は変わり身が上手くないようだ。下忍ならこんな物だろう。まあ、俺の攻撃は避けれないんだけどな」


 火の忍者達が放った火焔は本陣一面を火の海と化さしめている。その反動で水の忍者達は碌な術すら使えないと健一郎は推測する。隠れている忍者から先に狙いをつけた。銃士の上位ジョブである銃剣士の特徴として、気力や魔力で隠れる敵のその流れを捕捉する能力が備わっているのだ。

 

 故に、呼ばれた理由の一つだと健一郎は推測していた。


「健一郎のそれ、反則よねえ。相手の方がかわいそうな位」


「土系の忍者達は手ごわかったけど、歯ごたえがないな。というかやっぱ、こっちを見縊っていた感があるな。でなきゃ火と水を組み合わせる訳ない。違うか? 風系がいてもおかしくないないんだけどな」


「それを言ったらこっちだって、魔術師を多めに配置して兵士も二万くらいは欲しかったわよ」


「国境の敵兵が雪崩れ込んでくるかどうか不明だろ。げっ・・・・・・」


 一秒毎に敵忍者を仕留めていた健一郎だが、ベルティンが敵の大型手裏剣を受け地に伏せたのに思わず声が漏れた。エリアスを庇うように立っていのだが、ついに限界を迎えたのだ。


「おおおっ・・・・・・おおおおおおおおおお」


「どうしたのよ。えっ、ベルティン様が」


「おおおおおおおおおっ」

 

 ベルティンとは浅からぬ仲であった健一郎は「お」しか話さなくなる。騎士になれたのもベルティンの手助けがあっての事。平民が騎士になるには余程の実力と運の両方がなければなれないのだ。実力がないまま下手に騎士になれば、その先に決闘が待っているのであった。ユウタが騎士見習いに据え置かれているのもその為である。

 

 健一郎のスキルにより、バラバラになったベルティンと無惨な姿になるエリアスがその脳裏に映る。


 健一郎は祝福スキルを発動させる。スキルを発動させながら、手裏剣を投げた相手に攻撃をしかけた。

 赤い鎧は奇声を上げながら一心に弓矢を飛ばす。しかし、敵に当たらない。

 手練れの騎士から逃げた風術を良くする忍者烈風である。


 そこに銀色の装備で身を固めた騎士が割り込んできた。土を身に着けた忍者が騎士の攻撃を受け止めている。やらせないとばかりに執拗に食い下がるのは岩石であった。

 

 ここにきて銀色の騎士に目を取られるのは流水ほか火焔、土流といった手練れである。

 仲間である岩石、烈風の配下がことごとく討ち取られた事を重く見たのだ。二百も里の者を討ち取られるとなると王国側に潜入できる戦力が限られてくる。

 他の里もたかが騎士一人と、無視できない損害であった。

 

「糞糞ぉっ。おおっ」


 全力で弓を放つ健一郎だが、倒れたベルティンと気絶したエリアスを守ろうと立ちはだかる騎士達は次々と討ち取られていく。的に向かって攻撃をすれば当たる状況なのだ。その周りには事切れた魔術士達の死体が多数存在する。

 地面からは、敵の刃が生える。四方からは手裏剣に火の玉が飛んでいく。そして、空から水の槍が落ちていった。 

 水の槍は燃え上がると、騎士や兵士達の身体を焼いていく。


「燃える水よっ! 気を付けて!」


「おおおおっ」


 怒りなのかティーナには分からないが、健一郎はかつてない勢いで弓を弾いている。

 忍者達を指揮していた者達が銀色の騎士を追いかけて去った。

 

 統制を失い、弓矢に気圧された相手は逃げに入る。

 そこに、銀色の騎士と入れ替わるように黒い玉となったアルが到着した。

 焼かれていなければ、まだ望みはあるのだ。食われると同様に、焼かれるのも蘇生に関しては不味い。

 焦る健一郎を見かねたティーナが魔術で水を造り出すと、鎧の頭部に浴びせかける。


「答えなさいよ。まったく、怒りに囚われると何時もこうなるのは病気よね」


「おあっ。ん?」


 忍者達の攻撃を防ぐようにして、全滅しかかった騎士達を黒い玉が飲み込む。ベルティンとエリアスを飲み込んだ黒い玉はさらに膨れ上がっていった。陣の地面も一面黒い何かで覆われていく。触って確かめるには危険な色をしていた。


「これ、どうなるのよ」

  

「うっ・・・・・・わからない。敵も祝福の力持った奴だったとは思う。短時間であれだけの騎士や魔術士を仕留めるなんてありえないからな。つまり俺の祝福と相手の祝福がガチでぶつかった結果相殺しあったと見てるけど、時間遡行か停止、あるいは可逆で先に行くとかそんな感じかもな。でなきゃいきなり全滅しかかっているとか意味不明だろ。力を使う前はエリアス様もベルティン様もバラバラにされていたビジョンが見えたから。むしろ、この結果は良かったのかもな」

 

 水をかけられた健一郎が、大きなプレートヘルムといった頭部を左右に振る。


「うーん。私にはおかしな処は見えなかったわよ。健一郎みたいな祝福持ちがごろごろいたら怖いわね。上を見なさい。太陽が真っ黒に染まって、何かが落ちてくるわ。逃げるわよ」


「待て。まだアル様達が中に残っているんだぞ。まだ見届けてからだ。というよりこれはアル様の神術なんじゃないのか。うわっ、地面からも黒いのが染み出てきやがった。・・・・・・やっぱ逃げるか。皆飛行魔術をかけてから飛び降りろ!」


 健一郎の言葉に応じて、ティーナがパーティーメンバーに飛行魔術をかけると、全員外壁から飛ぶ。

 乗ってきたワイバーンは待機要員と共に前衛の部隊に退避させている。図体が大きいため集中砲火を浴びればすぐ死んでしまうと計算した為だ。

 分厚い雲が割られた影響で、空からは日が差していたはずであった。何時の間にか太陽が黒く染まり、何かが溢れ落ちてくる。外壁である土の地面からは黒い何かが染み出て、巨大なドームを作り始める。


「危なかったわね。けど、これ一体どういうことなの」


「わからないな。ただ、最悪は脱したけどやばそうな状況である事には違いがないな。取りあえず降りるか。見ろ、門から何か吐き出されている」


 真っ黒な何かで覆われた門から次々と王国軍の兵士達が吐き出されていく。生きている者も死んだ者も同様であった。しかし、帝国の忍者達は出てこない。

 健一郎達には最早中を伺うしかなかった。


「半端じゃないな。これは、アル様が持つ異名は本当だったんだな」


「黒の魔王だっけ」


「・・・・・・そんな感じ。何個もあるけど」


「どんなのでもいいけど、皆さん怪我はしてらっしゃらないのかしら」


「大丈夫みたいよ。敵の忍者が来ないとも限らないわ。皆周囲には十分注意してね」


 リュンにステラ、ペリキュにティーナが門の前に集まっている。

 盗賊達の砦方向では炎が収まっていた。ミユキが反逆者を撃退したか討ち取ったか不明である。

 ティーナは油断なく、周囲の木陰に警戒した視線を走らせていた。

 健一郎のパーティーは、全員で次々と吐き出される味方の回収に追われる事となった。




チート帝国さんがやばすぎて、一騎当千物にしかなりませんでした。

アル大勝利の気配が・・・・・・ないか

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