1章 1話 いきなり激しいよ! ●(ユウタ、アーティ、ロイ、村長、ゴメス)一人称
俺の名前は、真田ユウタ。勇太、悠太。ユウタ?
ユウタだったろうか。社畜で、爺だ。死んだ?
老衰で死ぬはずだった。そのはずだ。違う。
嫌、いや、イヤ。そうじゃない。
社畜として、生きて、童貞のまま死ぬのが嫌なんだ。
本当に? 社畜の記憶すら怪しい。何もかもが、おかしい。
ここで思考しているのも。うっすらと、瞼が開く。
果たして、俺は一体何者なのだろう。曖昧な記憶。
そんな俺を急かすかのように揺れを感じた。どんどん大きくなる。
世界が、もの凄い勢いで揺さぶられている。
重い沼から浮上するようなそんな感覚だ。
重い帳が開くようにして、目が覚めた。おお。
これが、死後の世界からってやつだろうか。
真っ白な光だ。眩しい。
気怠い感覚と酩酊感に耐える。
どこだ。知らない天井だ。いや、知っている。
何故だ。重い瞼を開け、周囲を見る。
目の前の子は、誰だろうか。可愛い女の子が目に入る。
顔はとっても好みなのだが、ソバカスが残念だ。
服装の方は、布の服だ。貫頭衣とズボンを履いている。
赤毛でショートカットをした女の子は、元気な口調でいう。
「あたしは、アーティ。ユウタ、目が覚めた? よかった。目が覚めたみたいだね。大変だよ。ゴブリンが村を襲いにくるよ。早く避難しないと!」
誰だこいつは。何故、俺の名前を知っている?
この少女は、何をいってるんだ? 訳がわからん。
ゴブリンだと? 馬鹿か。
ははっ、想像上のモンスターだろ。爺に戦える訳がない。
ん? 手が動く。年老いて動かないはずの体に力が入る。
!? おかしい。なんだこれは・・・・・・。
そもそも、体が違う? 皮に張りがある。
若返ったようだ。ありえないが、上半身が動く。
体を起こして、地面を踏みしめて膝を立てて起き上がる。
周りを見ると。ここは納屋か?
草がある小屋のようだ。一緒に、牛がいる。
ふむ。俺は家畜扱いか。しかし、背中の柔らかい物はなんだったのか。
足元には、麦藁が敷いてあった。
腕を上下させる。握りしめた拳。動く足。
回る腰といい、生前とはまるで違う身体だ。まさかな。
ここは死後の世界か。死んで生き返ったのか、ゾンビだろうか。
それとも、これは全部夢なんだろうか。ワケガワカラナイヨ。
夢オチは嫌だ。
そんな俺の気持ちなんて斟酌せずに、赤毛の少女はいう。
「ほら早く立って。やつらがくるよ。ユウタ、君は戦える? 村の人と一緒にゴブリンたちこれで追い払って欲しいんだけど」
少女に促されるまま、納屋のような場所から出る。
そして、茶色い皮の手袋をした女の子から棍棒みたいなものを手に握らされた。 堅い木だ。これで戦えって? マジかよ。これは現実なのか。
外にでると、見えるのはおんぼろな小屋だ。
そして、日の上がる方向から声がする。そこには、村人が集まっている。
村の入り口のようだ。歩いていくと、その先には緑っぽい人型の何かが居た。
大量の魔物か。なんだろうか。緑っぽい小人が押し寄せてくる。
あれは、一体なんだ。そんな馬鹿な・・・・・・。
まるで緑色をした小鬼。
ファンタジーMMOでいうところのゴブリンじゃねーか。VRMMOだと?
ゲームでなら、おなじみの雑魚だ。
そうかこれは夢か。でも、やけにリアルだ。
はっはっは。ファンタジー過ぎるだろ。あはは。
本当にゴブリンっていたんだ。いやそれ以前に。ここはどこだよ。
意味わかんないし、何なんだよ戦ってって!
赤毛の少女は、ストライクだ。好みに合う。
ふむ。上手くすれば、ぐふふできるのではないか。
そんな下卑た感性が湧いてくる。どうやら、俺はろくでもない男らしい。
少女から、スケベの言質をとっておきたいものだ。
「なあアンタ。村人と一緒になって、戦えばいいのか?」
20才はいってないよな、この子。
この子から、この手に握らされた棍棒。これで戦えってか。
はあああ、防具は! 盾は! 剣は! 死亡フラグがビンビン立ってるよ!
予習も準備もなく、戦闘で死ぬ。あるあるすぎるだろ。
「そうよユウタ。あたしはアーティ。さっきも言ったけど。えっと、行き倒れてるアンタを拾ったのあたしなんだから感謝してよね。アンタさ。無一文でしょ。お礼するから戦ってよ」
俺の名前をなんで知ってんのよ。まあいい、アーティーね。
後ろ、後ろ! ほああっ! あぶねえええ。
棒立ちになっているアーティの後ろから、ゴブリンが襲いかかってくる!
すかさず、アーティを突き飛ばす。そして、俺は棍棒をフルスイングした。
ボゴッ。
堅い木でできた棍棒が、頭部にヒットして嫌な音を立てる。
頭が砕けたゴブリンは、倒れた。
ユウタは戦士を獲得した! ユウタは村人を獲得した!
おお? なにこの神の声! 幻聴だろうか。
どうやら、戦士と村人を獲得したようだ。ゲームっぽいな。
しかし、反対側からだぞ。
こっそりとゴブリンが、村に入り込んで来てるのか。どうなってんだ。
この村の防衛は。こんなんじゃ駄目だろ。
動悸が治まらない俺は、倒れたゴブリンが持っていた短剣を拾う。
「ありがと。すごいんだねゴブリン一撃だなんて。戦力として当てにしちゃいなかったのに。すごいよ」
ふっ。女子に褒められると、悪い気がしないな。が、一息いれたい。
屈伸運動をする。予想外の性能だ。動きは、悪くない。
動く関節と筋肉は、絶好調だ。股間も元気だぜ。
「ふう」
ゴブリンて最弱系モンスターだろ? やられるわけにはいかんよね。
この状況、わけわからんし。ただ状況はともかく、そもそもここどこよ!
誰か教えてくれよ! もちろん俺の思考を読む人間はいない。
まあ、なんだ。誰も教えてくれる人間はいなかった。
ゴブリンの人に似た手応えに、潰れる頭部の音とかリアル過ぎるだろ!
嘔吐感がこみ上げては・・・・・・来ない。おかしい。
むしろ、どんどんぶち殺してやるとか。殺意が湧き上がってきた。
ふむ、アーティか。側にいる赤毛の少女。
よく見るとソバカスさえなければ、結構かわいいんじゃないだろうか。
男は、女で動くもの。
可愛い女の子のお礼とか考えると漲ってきた。俺って現金な奴だったんだなぁ。 色々考える暇もなく、前からゴブリンが2匹来る。うざいなあ。
短剣を持っているとか無我夢中でわからなかったけど。
さっき拾ったのを手に持っている。勝てるか? いや、勝つ。
よく動きを見ろ。俺ならやれる。
さっきのゴブリンでも死んでておかしくなかったんじゃないか。
ゴブリン達は突進してきた! まずい同時に来る?
突っ込んでくるゴブリン。
またしてもフルスイングすると、2匹まとめて吹っ飛んだ。
すげえ。木でできた棍棒は、意外な威力だ。
やれるぞ。
だが、まだだ。瀕死になりながらもゴブリン達は、生きてるようだ。
慎重に近づく。そして、ゴブリンを短剣で一突き。
2匹の小鬼の心臓付近に、止めをいれていく。
ユウタは剣士を獲得した!
ほほう。今度は、剣士か。またなんか、声が聞こえてくる。
まさかな。これはなんかのゲームなのか?
あ、ドッキリならやめて欲しいです。
「すごいすごい! ゴブリンたちこんな簡単に倒すなんて。正直さ、もう死ぬって覚悟してたのにね」
アーティって子は、手を叩いて褒めてくれている。よせよ、照れるだろ。
しかし、このゴブリン達どこから来るのか。
侵入してくるゴブリンを狩るほうがいいのか。
それとも村人達の加勢にいくべきか。
遠目に見る村人たちとゴブリンは、村の正面入口でやりあっている。
盾をかまえている村人が、数で勝るゴブリンを相手どっていた。
勢いでは、互角に渡り合っているみたいだ。
状況が五分となると、侵入してくるゴブリンを追い払うべきだろうか。
とりあえず俺は、村人と一緒にゴブリンと戦うことにした。
お礼が気になるからだ。それほどに、現金なものである。
「アーティーは避難してほしい。俺も戦うことにするよ」
右も左もわからないのに、ゴブリンと戦うとかやばすぎるだろ。
言ってみて後悔してるけど、どうせ死んだんだし。
これもまあ言ってみれば、オマケみたいなもんだよね。
おまけの人生を楽しみましょう!
「んと、もっかいキューブを見せてよ。知識の神よそのものの根源を表し給え《キューブ》!」
アーティーが俺の右手を取って呪文? 言霊?
言葉を唱えると、手から光る箱がでてくる。なにそれえええ。
「名前、ユウタ・サナダ。やっぱ市民だよねえ・・・・・・。ひょっとして、高レベルなのかなあ。じゃお言葉に甘えて村長さんの屋敷まで連れてってよ」
レベルは見えないのか?
うお、なんだあ。この箱に触る。と、何々。
[市民Lv3]村人2戦士2剣士1て。横にでてるのがレベルかな。
頭に浮かんでくる情報。なんとなくわかるそんな感じだ。屋敷があるのか。
避難場所なんだろうな。スキルとかないんだろうか。
まさか、ジョブだけなの!? よくわからん。
ゲームなのかそうでないのかはっきりしてほしい。
とにかく、さっぱりわからないんだ。とりあえず村長の屋敷に連れていこう。
「了解だよ」
そもそも、なんで言葉が通じるのとか。
さっきの呪文が光る箱を出すキーだとか。
ここどことかは、後回しにするかな。ゴブリンだけでも頭が爆発しそうなのだ。
ここで足止めして時間を掛ける訳にもいけないよな。
ゴブリンを警戒しつつ、道を教えてもらって進む。アーティは不安そうだ。
俺は、木でできた棍棒を握りしめた。
村長の屋敷に行く途中、ゴブリンがパラパラに襲ってきた。
けど、1体だけならやれるようだ。
単体で現れたゴブリンの攻撃を回避しつつあっさり撲殺した。
意外だぜ棍棒。普通に強いじゃないか。
モンスターって、棍棒で殴ってあっさりやれるもんなんだな。
2体だと死ぬかも。でも、そんな覚悟をしつつ2体で現れたゴブリン。
棍棒で、フルスイングすると。意外にもあっさりと2体を仕留めた。
しかし、調子に乗ってはいけない。
ゴブリンが3体でてきたら、アーティを連れて全力で逃げた。あぶねえ。
村の奥に進んでいくと、ほどなくして大きめの屋敷についた。
屋敷には、簡単によじ登れない立派な塀がついてるな。
なるほど、これなら入口さえ固めてしまえば、屋敷への侵入は簡単じゃない。
ここにアーティを連れていけば、安心だ。門番も立っている。
結構若いな。イケメンである。
金髪刈り上げのイケメンな青年がこちらに寄ってきた。
服装は、アーティーと似たような物だ。
Tシャツというよりは、布だ。それにごわごわしたズボン。
鎧なんて着てない。手に持っているのは、草をどうにかする熊手のような物だ。
剣ですらなかった。
「無事だったか。アーティ。よかったよ。ゴブリンが村に侵入してるみたいなんで心配してたんだ。他の戦えない村人たちも集まってるよ」
「そうなの? よかったロイ。ところでこの人も戦力になるんで戦いに加えて欲しいんだけど」
ロイか。知り合いなんだろう。やけに親密そうだ。何やら、2人で話し込む。
面白くないなあ。アーティをここまで護衛してつれてきた事とか。
ゴブリンを既に何体も、屠っている事をも伝えているようだ。
親密すぎて、俺の顔はきっと鬼の形相をしているに違いない。
アーティは朗らかにいう。
「オッケーだってさ。正面にむかっていって、村人と一緒にゴブリン達を追い払ってよ」
簡単にいってくれるよ。この子。
だが、村の正面入口が破られると、村人もこの村もここで全滅しかねないな。
まあ、考えるまでもない。人の役に立つのは良いことだ。
そして、何よりお礼がある! 多分……お礼がある。
畜生、現金なもので全身に力が漲ってきやがった。
股間もだ!
「了解だ」
自分で言っていてなんだが。俺、本気か?
棍棒と短剣だけでやりあうのか。報酬金とかあるのかなあ。
貧乏な村っぽいからなあ。無理なんじゃないだろうか。お金。
とりあえず、村の入口に向かうことにする。行く途中でゴブリンが現れた。
んー、1匹か? ラッキーだ。ソロか。ならいいんだよね。
おーけー。バラならいいんだ。さくっと
棍棒で殴り倒す。
ユウタは、勇者を獲得した!
またジョブかあ。勇者って何。よくわからんな。
ゲームだと、大抵強力なジョブではあるけれど。
とりあえず、さっきアーティーが唱えていた呪文を思い出す。
箱みたいなのが右手から出てくる。思い浮かべるだけで使えるのは便利だ。
これがキューブか。あ、呪文となえなくてもいいのか?
呪文無しが特性なのかな。ゲームによくあるようなあれ。
これって、チェックするって触るんだよな
[市民LV6]村人4戦士4剣士3勇者1
おお。レベルがあがってやがる。頭の中に浮かんでくる感じだ。
うーん。ジョブばっかスキルがないという。なんという縛りプレイ。
スキルが使えないMMOゲームか! クソゲー。バグだらけである。
あるいは、使い方がわからないだけなのか。
村の入口に向かいつつ、ゴブリンが出てこないか。
周辺を探して進むことにする。
しかし、出会わないまま正面まできてしまった。
村人VSゴブリンの戦闘は、激しい攻撃の応酬を繰り返している。
なんだか、村人側が押されているような。不味いな。
横たわって動かない人もいる。
加勢するべきだ。
傷を負っているのかな。劣勢なのは、いただけない。
押し切られたら大変な事になるだろう。
休んでいる村人に声をかけてみることにした。
いきなり、不審そうな顔をされた。
そんな顔されたら、テンションが下がるわ。
「なんだお前は、誰だ。見ない顔だな」
「あの、状況を教えてください」
「ん……。戦況が知りたいのか? まあ、押されているな。相手側に小鬼魔術士がいるみたいなんだ。そいつらが魔術を使ってきやがる。炎系の魔術をもらうと、火傷で動けなくなるんだ」
村の人に、アーティを村長の屋敷まで送った事や応援を頼まれた事について説明する。
「アーティがねえ」
「いいですか」
「いいも悪いもないわな。手伝ってくれるってんなら、加勢してくれ」
間近で見て思った。これは、やばいって。ゴブリンと村人で数がなあ。
はっきりと違うんだ。戦いは、やっぱ数だよな。
個々で見ると、ダメージを与えるのは村人だ。なのに押される。
火の玉が飛んでくるんだ。魔術かよ。
なるほど、質で優っていても押しきれないって訳か。
時折くる魔法? 魔術? それでやられると苦戦だよな。
ゴブリン達に弓で攻撃している村人もいるが。
残念な事に数が足りていないようだ。遠距離つええだよね。
で、魔術がつええ。飛んでくる火の玉とかどうしろっていうんだよ。
無理だよ。ぶっちゃけ。
そう。俺がこのまま村人達の肉壁の中に混じってもさ。
その中の+1にしかなりそうにないし。遠距離ね。
なら、遠距離で同じように対抗するしかないか。
傷を負って休んでいる村人に、弓を借りる交渉をしてみる。
罠があるわけでもなしここ破られると村全滅なんじゃないか?
と、尋ねたりする。
すると、おっちゃんから渋々ながらも弓を貸してもらえることになった。
動けないんだし、いいじゃんね。
ユウタは弓士を獲得した!
おお。また、新しいジョブが手に入ったようだ。試しに弓を構えて射ってみる。 だめかな。やっていたようなVRMMO通りにはいかないだろうけどなあ。
1発目は、最低だった。
飛びはしたが、ゴブリンの肩に刺さっただけだった。
明後日の方向に飛ばさなかっただけ良かった。
ユウタは狩人を獲得した!
またか。また何か聞こえてきた。ほほう。ハンターゲットってことだろうか。
2発目から、狙った相手に刺さるようになった。
3発目から、狙った部位に刺さるようになった。
4発目からゴブリンを仕留めれるようになった。
5発目あたりから、弓矢が小鬼の頭部を貫通しだした。
ボグゥと奇怪な音を立てて、ゴブリンの頭部が弓矢に貫かれる。
おいおい。骨があるのに刺さったよ。
弓矢が出すにしては、音が変だ。ましてや、2匹まとめて貫くとか。
和弓とこの弓は、大分違うが根本は一緒だろう。
弓手の能力が影響しているのかな。
見よう見まねで放ってみたが、戦果が凄いことになっている。
杖を持つゴブリンにヒットした。ゴブリンメイジだろうか。
15発目あたりで、ゴブリン達に恐慌が走った。
20発目で、前線が崩れた。ゴブリン達は、我先にと逃げ始めたのだ。
1番後ろのでかいゴブリンは、押し止めようとするけれど、無理だろ。
遅いわ。既に、流れはこちらにある。
「なんだありゃ。普通は、弓矢ってあんな刺さんないぞ」
「好機だ!」
「おお! 今だ! いくぞおおおー!」
村人たちが叫ぶ。潰走するゴブリン達に、村人達の追撃が始まった。
俺はというと、手元に矢がなくなってしまった。
なので、代わりの矢を村人から戴くことにする。
矢を放つ俺を見ていたのであろうか。幸いにも、村人から快く渡してもらえた。
やるしかねえ。あいつら逃すと、また増殖してやってくるんだろうな。
ゲームでは、狩り残すと碌でもない事がある。
ここで、叩いておく必要あるよな。
俺は手に弓を携えると、全力で走り出す。
「すげえ、あの足と弓の腕どうなってんだ」
「はあはあ」
そう言われても、こっちも息は絶え絶えで走っているんだけどなあ。
逃げるボス格のゴブリン。あれは逃さねえ。ハリネズミにしてやる。
射てば当たるのは嬉しいが、見よう見まねである。
全力で走って、村人達の先頭になんとか追いついた。
俺は殲滅しようと、走っては構えて弓を射る。それでも当たるようになってた。 これがスキルなのかジョブ補正なのかわからない。
が、当たるだけなら当たるってやつなんだろうか。
ボスだ。ボスを狙う。ひときわでかいボス格のやつに矢を集中させる。
でかいだけで逃げ足は遅かったようだ。ボスゴブリンは何か叫んでいる。
が、味方のゴブリンは脇目もふらない。守ろうとする奴がいないのは好都合だ。 そのまま頭を狙う。でかいゴブリンは、矢が刺さったまま倒れた。
俺は、汗びっしょりだ。
「ふー。これゴブリンリーダーなんでしょうか」
倒れたゴブリンを見ると装備が結構よさげだ。装備ほしい。
金ほしい。無一文脱出しなければいけない。そんな事ばかり考えている。
俺がでかいのを仕留めると、村人はパラパラ逃げたゴブリンを追う。
それをやめて残った村人に尋ねることにしたが。
残っていた村人もゴブリンを追いかけていく。休憩だったようだ。
追いかけるべきか? しかし、深追いは危険だ。
辛抱強く待つ。やがて、村長らしいひとがきて検分になった。
「冒険者の方でしょうか。ありがとうございます。村もゴブリン達から救われました」
あれだけの数だ。しかも絶え間なく攻められちゃ、そうだろうな。
村人達の気力も限界に近かったのだろう。
追いかけていったのが不安だが、逃げる敵というのは倒しやすい。
ゴブリン側に伏兵がいるとなると別だけど。そうなったら、村は終わりだ。
そこまで頭が回るだろうか。
ゴブリンに孔明がいないと思いたい。
「つきましては、装備等回収はわたくしたちにお任せ下さい。宿のほうもこちらにて用意します。お食事もとられてはいかがでございましょう」
正直ありがたかった。汗だくだし。右も左もわからないのである。
黙って厄介になるしかないのだと思った。
促されるまま、村長の屋敷に世話になることにした。
村では、歓声をあげる村人で湧いていた。
死体があった場所に、装備だけがある。おかしい。
ゴブリン達の死体が見当たらないんだが、どういうことだろう。
死臭が臭わないように埋められたか?
それとも、肥溜めにでも捨てられたのだろうか。
何時の間に消えたんだ。ゲームなのだろうか。
屋敷で御馳走になりそのままベットで寝ることにした。
目が覚めた時は納屋だったことを考えると、超進歩である。
寝る前に、キューブを出して確認した。
【市民LV15村人12戦士12剣士11弓士11勇者10狩人15】
うーん。使った武器でLV上昇が違うんだろうか。
弓ばかり使ったからかな。相変わらずスキル等が使えないままである。
正直に言おう。誰か、使い方を教えて欲しい。
誰も教えてくれんのだけど。
わかる人間がいたとしても、村では聞けないかもしれない。
危ないしね。ほら。
◆
2日目か早朝ではある。すっと、目が覚めた。股間はテントを張っていた。
若いっていいな。これが全部夢で、起きたら病室でジジイの体になっている。
なんて、思ったのだけれどな。夢オチは最悪だ。
夢でなくてよかった。
俺が部屋で考えごとをしていると、村長さんがやってきた。
「お目覚めでございましょうか。ユウタ様。お食事の用意が出来ております」
「わかりました」
食事させてもらえる。ありがたいことだ。
俺は返事をしてから、食堂へ行き食事を済ませる。
そして、武器防具等や精算などを受け取ることにした。
この世界についてとか色々情報を仕入れたかったのだ。
が、下手に聞き込むと色々ボロが出そうだしやめた。
一通りの物は、受け取れたと思う。
銅の短剣、銅の剣、リュック、皮の鎧、布の服ズボン、皮のブーツ。
皮の篭手、弓、矢、ワンド等。
村からの礼金として、5000ゴルをいただいた。
ユウタは魔術士を獲得した!
まただ。またなんか聞こえてくる。魔術士か。魔術は、使いたい。
ゲームだと、大体強力だ。
一撃で9999とか叩きだすのは、DPSでも魔術とか魔法を使う職が多い。
けど、ま。そんな事より無一文から脱出した。とても嬉しい。
ゴルって、つまり貨幣単位なんだろう。
だが、価値がまったくわからないのである。
金額についてはそのまま頷くしかなかった。
歯がゆい。
流される日本人であった。
俺は返り血で汚れまくっている服をとりあえず脱ぐ。
そして、リュックにつっこみ、服や装備を変えることにする。
価値感が、わからないのだ。そこで、商人を紹介してもらうことにした。
村長につれていかれた先には、一軒の道具屋があった。
「こちらでございます。村におります唯一の道具商人のゴメスです。生活雑貨から防具武器まで商っております。では、ごゆっくり」
調査が必要だよね。ここどこなのかとかいくらあれば生活できるのってさ。
中にはいっていくと、声をかけられる。
「いらっしゃいませお客様、本日はどのようなものをお求めで?」
道具商人のゴメスさんだ。ごつい名前と体格。それとは裏腹に愛想がいい。
南米系っぽい。野菜?
人参に似たキャロってのが3ゴルで1本とか表示がある。
毒消し用の丸薬50ゴルとか色々と調査させてもらった。ふむふむ。
所持品は、棍棒、銅の短剣、銅の剣、リュック。
皮の鎧、皮のブーツ、皮の篭手、弓、矢、ワンドである。
持ち物を売ってみるかなとか考えるのだけど。どうしたものかね。
鑑定してもらうか?
だいたいゲームには装備品に特殊能力があったりするものだし。
わからないと使えない。それが定番だ。
「主人、この剣を見えもらえるか。特殊な能力などないだろうか」
わざと、鷹揚に言ってみる。なんもないならなんもないでいいし。
呪われた武器防具だったりしたらやばすぎる。
「かしこまりました。3ゴルになりますがよろしいですか?」
「うむ」
了承してゴルを支払うと、ゴメスさんは呪文を唱え出す。
「財宝の神よそのお力にて真実を知らしめ給え鑑定!」
「おお」
「えー、残念ながらお客様の武器にはなにも付いていない様子特殊能力はございません、ただの銅の剣でございます」
「そうですか」
【鑑定】だ。分析とかもあるんだろうか。特殊能力っぽい。
やっぱあるんだな。
それをつけるのにどうすればいいのかどこでゲットできるのか。わからないな。
歯がゆい。
価値もわかるけど、本とかないんだろうか。初心者にやさしくないぞ。これ。
歯がゆい。
持ち金が心許ないし、先に金策が重要だよね。
金が少ないってことで、そうそう使うわけにもいかない。
ここはいっそ恥はかき捨てをしようか。
どうやって儲ければいいか聞いてみるかな。
そんな事を考えている俺に、ゴメスさんは話を振ってくれた。
「お客様は、大変優秀な冒険者だとか。そして弓の腕も立派なものと聞いております。狩人ギルドにはいられるか冒険者ギルドに入られてはいかがでしょう。狩人ならばフィールド(森や山岳地帯)の秘境にいるモンスター狩猟か採取で。冒険者ならば迷宮で稼げましょう。こちら麻痺消しと毒消しでございます。いかがでしょうか」
情報料ってことなのか。どうやら田舎者と思われたみたいだ。
ゴメスさんには素人なのがバレてるわ。狩人がいいな。
けど、先の話っぽい。秘境とか、行く気がしないし。移動に時間がかかりそう。
2つ買って、150ゴルが飛んだ。50ゴルと100ゴルの金を支払うと、
ユウタは商人を獲得した! ユウタは薬剤士を獲得した!
御馴染みになりつつある声が、聞こえてきた。
ゴメスさんが「財宝の神よ御身の金蔵をつかわし給え《イベントリ》!」 と叫ぶ。インベントリじゃないのね。
すると払った金が消えた? どこへ消えたんだ。どういうことだろう。
キューブにそんな設定でもあるんだろうか。
それとも道具商人専用のスキルが?
気になるな。
ファンタジーらしく狩りに向く町とか迷宮探索に向く町について聞いてみたい! あと消えた金とかアイテムボックスでもあるんだろうか。
アーティに聞いてみるか。もしくは村長さんに聞いてみるかね。
ゴメスさんに礼を言ってから、道具屋を後にする。
使えないスキルに金策なんとかせねば。
このままだと、どこだかわからない場所で野垂れ死にまっしぐらである。
アーティの家に向かって歩いていくと。
アーティと仲良く話をしている門番ことロイがいた。それを見て、しょんぼり。 とりあえず、別れの挨拶だけはすることにした。
「こんにちわ、アーティさん色々とお世話になりました。倒れていたところ助けていただいたみたいでありがとうございます。そろそろ村出ようと思いましてご挨拶にきました」
隣にいる番のロイが、機嫌悪そうに返事を返そうとする。
しかし、アーティが肘で脇を突き黙らせた。
イベントリやキューブについて知っている事を色々と教えてくれる。
親切な女の子だ。いい子だ。
「無茶なお願いしてごめんね。そして、ありがとう。ロイは悪いやつじゃないんだけどさ。今日は、機嫌が悪いみたいなんだ。いつでも、また村に来てよね」
愛想よく言葉を交わしてくれるアーティに別れを告げた。
俺は、村長宅にある荷物を取りに帰る。残念だ。
ここでエンディングになってもおかしくない活躍だったのに。
いや、門番はロイっていうのかな。彼女の幼馴染なのかねえ。
幼馴染に寄ってくる変な虫が邪魔なのは、当然だろうな。
残念だけど、村から旅立たなくてはいけないな。居残る理由がねえ。
でも、
殺してでも奪い取りますか?
▽
はい いいえ
心の中で涙がぶわっとでてきた。俺には、無理。
くっ、切ねえ。一生懸命がんばったのにいいぃ。俺は、超頑張ったと思うんだ。 だからさ。
それなりに、嬉し恥ずかしのラブラブイベントがあってもおかしくないはずだ。 彼氏がいるんじゃあな。ま、諦めるしかねえよな。
ただまあ、アーティから色々と聞けたのが収穫だった。
キューブでスキルを設定するらしい。詳しい事は聞けなかった。
だが、イベントリ持ちのジョブならばスキルがある。なので収納できるらしい。 スキルか。いいね。ゲームっぽい。
そのキューブを出して見ると。
[市民LV]15村人12戦士12剣士11弓士11勇者10狩人15魔術士1商人1薬剤士1
色々な職が追加されていた。レベルが上がってる。
商人があるということは、イベントリが使えるんだろうか?
荷物のある個室に戻り、イベントリを早速試してみる。
財宝の神よ御身の金蔵をつかわし給え《イベントリ》!と念じる。
でた。なんかでたけど。黒い箱っぽい。キューブよりでかいな。
詠唱しなくても出せるのは便利だ。手をいれると99x3と頭に浮かんでくる。 99種x3つなのかなあ。中に結構はいるな。
とりあえずだ。弓矢とワンド、棍棒、三千ゴルをつっこむ。かさばるしな。
あ、リュックがあるの忘れてるよ。キューブも少しはいじってみるか。
キューブをいじってみると。ジョブの順番がいじれるのがわかった。
順番いれかえると、あれかな。取得経験値がかわるとかそういうもんかな。
先頭にくるジョブが表示ジョブになるのか。
キューブの謎は尽きないが、弄ることはやめた。市民が割と良さそうだな。
無難な感じがするからだ。
そう勇者なんてつけてたら、間違いなく災難にまきこまれそうだし。
さて。そろそろ村から出るかな。挨拶とかしておかないと。
村長に会いに行って、迷宮のある町にでも移動する事にしよう。
そうだ、そうしよう。
村から移動しますか?
▽
はい いいえ
移動しかねえって。
畜生。次の町ではきっといいことあるよな! きっとそうだあるはずだ。
ねえ。
キューブステータス サナダ・ユウタ 市民
装備 銅の剣 皮の鎧 皮のブーツ 皮の篭手
スキル なし
特殊能力 なし