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十二支英雄見聞録・第二章・玄武討伐編第五節

どうもお久しぶりです、仮面3です。

モチベーションが上がらずまた大変時間がかかってしまいもうしわけありません。また、ちょっとづつ、日を置いて制作したため文章がおかしくなっていると思います。お手数ですがそういったところをご指摘いただけると幸いです。

「え……え、あっはい、はい……そうでスか……」

 将斗の携帯電話を耳にあて、会話が進むごとに声のトーンが下がっていく戌月。会話の内容より、犬耳を出しているのに人間の耳ある所に携帯電話を当てている戌月の方が気になる将斗と霊慧丸も居た。それもそのはず、今三人がいるのは将斗の部屋だ。将斗が一人で部屋に篭れば、三十分もすれば女子達も暇なり部屋に集まってくるのが日常になりつつある。もう二人が無駄についてきたり、戌月の犬的スキンシップに慣れてきた。今はベッドに三人が乗っているので狭い。将斗と仰向けに横になっている霊慧丸は漫画を読みながら隅っこで電話をしている戌月を横目で見ている。

「分かりました……失礼しまス」

 通話は五分程度で終わった。相手は姉の寅果。わかりやすく落胆しながら戌月は携帯電話を将斗に返すとき、チラリと自分の主人を見る。将斗は気づくがあえて無視した。すると戌月はそっぽを向いて二三度深い溜息をついてから、露骨にチラチラ二人を見てきた。勿論二人はその意味を理解していたが、示し合わせていたように無視を貫いた。めんどくささが垂れ流しのものに首を突っ込むほど馬鹿ではない。

 最終的におれたのは、『待て』が上手くない戌月だ。

「あの、電話の内容気にならないんスか」

「べつに」

「それよりワシはお前のそのあざとい喋り方のほうが気になる」

「うえぇ……なんででスか! こんなにがっくりきてるのにドライすぎでしょう。聞いたらきっとびっくりーな内容ですよきっと! だから聞いてくださよ! あとたまちゃんの自分の呼び方のほうがあざといとおもいます」

「最後普通の喋り方できてんじゃん。え、キャラつくってんの? キャラつくってたの? てかあざとくねーし。年齢的に合法な一人称だし。つかお前らにも適用されるしこの一人称」

 二人共痛いところをつかれたのか、青筋を立てながらギャグ漫画のように睨み合った。といっても二人の実力差ははっきりしているので、戌月が暴力行為に走ればすぐにかたがつく。睨み合いの後に罵り合いが始まったが頭では霊慧丸のほうが上なのでみるみるうちに圧倒していった。何も言い返せなくって俯く戌月だったが、追い詰められた馬鹿は簡単に手を出す。

 右手を突き出し手のひらで霊慧丸の目を隠すようにして掴んだ。指には頭を潰さない程度の力をこめている。掴まれてる霊慧丸は短い悲鳴を上げたが、すぐにそれすらできなくなったのか戌月の手から逃れようとじたばたしている。最終的には頭を掴まれたままで持ち上げれ、ぶらーんという効果音がつきそうな状態で浮いていた。霊慧丸の顔が青ざめていたが、戌月はそれを無視して意識を将斗に向けた。

「そうそう、電話の内容なんでスが」

「結局勝手に話すんかい。まあそれはいいけどさ、たまちゃん降ろしなよ」

 こんな状況は一週間に一回くらいの頻度で起こるので慣れてしまうのだ。なんやかんやで戌月も手加減はできるので霊慧丸も怪我はしないだろう。毎回青い顔をしているのは心配だが。今回も真っ青な顔で床にへたりこんでいる。

 将斗が一応霊慧丸の状態を確認してから戌月は語りだした。

「なんでも寅果姉さま曰く、玄武の居場所を特定したらしいっス。それで早めに討伐するため明日にはそこに向かうらしいでス。現に今も被害が出てるみたいでスし。それで陽組だけで討伐するらしいんスけど、空午兄様とヴァンちゃんは攻撃の効果は薄いのとヴァンちゃんが負傷のため参加させないとのことっス……あと私たちも。今回は子、寅、辰の三組だけで討伐するとさっき伝えれらました」

「なんでぇ、いい連絡じゃないか。ようは俺ら行かなくていいんだろ。よかったわ、怖いし」

 将斗が直接狐狗貍にあったのは二回だけ。さらに周りには必ず戌月などの戦闘経験者がいた。だがしかし心の余裕がある状態でも恐怖はあった。本物の怪物がいるというでけでだけで、自分がその怪物に関わなければいけないというだけで、人間的には平均以下の将斗には十分な恐怖だった。必ず強くなれる漫画の主人公のような勇気も勇敢さもまったくない将斗は、戦力外通告で落ち込んでいる戌月とは対照的に本当に嬉しそうだった。

「何を言ってるんでスか! 私たちの使命は狐狗貍をすべて滅殺こと。なのに戦力外通告なんて恥の極みっスよ~! それに今回の敵はとってもとっても強いんで三組じゃ不安っス!」

「それ、お前だけな。昔の俺がどうたらって言われても、記憶がないからなんもかんじないし。それに藍火だって使命とか関係ないって感じだったよ。お前ラブなだけで戦ってたみたいじゃん。それにその三組強いんだろ。大丈夫じゃね」

「というか不満いっとるが、寅果ないし子乃の判断は正しいと思うぞ」

 将斗にやる気のない発言に何か言い返そうとした戌月だったが、回復した霊慧丸のほうが早かった。

「ヴァンの攻撃がまともに通らない相手にお前の刀が効くと思うか? カッタイ皮膚を削ることもできんだろ。例え戦闘中にアホの藍火が覚醒しても、得物が刃こぼれしただけだったらしいじゃないか。いるだけ邪魔だろうよ。ただえさえお前は十二支で実質、一番よわむがっ」

「おっとたまちゃんそれ以上いけない」

 喋っている途中の霊慧丸の口を戌月が塞いだ。それだけでは済まさず背後に回り、首に腕を回し動脈を押さえた。このまま気絶させて最後まで言わせない魂胆か。そうはさせないと将斗は面倒くさそうに戌月の頭を小突いた。

「お前はすぐに手を出す癖をなおせや。父さんにチクるぞ」

「えぇ、それは困るっス……」

 戌月は宗光のことを苦手としていた。明らかに敵意を向けられているのだから当然だが、いつかお義父さんになるのだから仲良くしようと努力していた。ちなみにそんな邪な野望があるから宗光に警戒されているということには戌月は気づいていない。苦手な理由は他にもあり、将斗に怒られたりするのは構ってもらえているのと同じなので嬉しいのだが、宗光に叱られるのはかなり凹むのだ。それは霊慧丸と同じで実際はかなり年下の宗光に正論で怒られるのはなんだか辛くなるのだ。あと、戌月が宗光に怒られる頻度は霊慧丸の三倍以上多い。

 解放された霊慧丸は将斗の近くに避難した。これなら将斗を盾にして戌月の暴力から少しは逃げられると判断したからだ。将斗に他の女が近づいただけでイラっとする戌月が黙っていなかったが、宗光に言いつけると言われ黙らされた。

「んで、さっき何言おうとしてたかはだいたい分ってけどなによ」

「うむ。将斗は知らんと思うが、十二支で戌月は上から数えて十一番目の強さだ。一番弱いのは特殊な能力のせいで戦闘力がほとんどない丑だが、非戦闘員と考えれば戌月が一番弱いのさ。契約者は時代によって強さはまちまちだがな。藍火はまあまあ強かった。弟の猪より酷い猪突猛進だからな戌月は」

「へぇ~、お前毎度毎度あんな大口叩いていたくせに弱いんだ~。へぇ~下から数えたほうが早いんだーへぇ~」

「例え弱いのが事実でも、そこにいる女狐を毛皮と皮膚と肉と内蔵と骨にバラすことは造作もありませんよ……?」

「なにこいつ怖い。主に目が怖い」

 将斗は戌月の強さは把握していなかったので、馬鹿にしながらも少し意外に思っていた。戦闘を語る戌月はいつも自身に満ちていた。聞いてもいないのに武勇伝を語ることもしばしば。組織の中で中のくらいの実力なんだろうと。しかし考えてみれば藍火の手記には彼女を愛でる内容やその日起こったことや疑問に思っていることしか書いてなく、戦闘を実際に見たことはなったので実力を測るには戌月自身の発言しかなった。

 どうやら実際は実力が伴っていない者の大口だったらしい。真実を明かされてしまった戌月は下唇を噛んで暗い顔をしている。その表情は馬鹿にされて悔しいというよりは、羞恥に耐えているようにも見えた。いざそんな顔されると先程馬鹿にしてしまったのが少し悪く思えてくる。

「よ、弱くても将斗様をお守りすることはできまスよ!」

「弱いって自分で言っちゃってるやつに守られる俺の身になってくれよ」

「雑魚なら駆逐できるっス」

「そして喰われて覚醒するんですねわかります」

「食べられたくないっス!」

 できれば某巨人漫画のネタに付き合ってほしかった将斗だが、漫画ネタをふるべき相手は霊慧丸であり戌月には難しかった。霊慧丸は将斗に感化されて、なんというか、オタクっぽくなってしまったが戌月は違った。真似して漫画を読んだりアニメを見たりしたが、子犬のように飽きっぽかった。単純な玩具や好きな主人には執着するが、たくさんのキャラクターが小難しい話をしたり、急な展開や伏線を散りばめられたりするとつまんないと思ってしまうのだ。顔がアンパンでできているキャラクターが活躍するような、簡単な幼児アニメなら見続けることができるのだが。

「しかし、お前が一番弱いとなると……まだ強い奴が四匹いるんだろ? 大ボスだっているし。こうなってくるともうお前戦闘に呼ばれないんじゃね?」

「……! なん……でスと……!」

「他の十二支ってこいつより強いんでしょ。よほど追い込まれないと呼ばれないべ」

「あー確かに。昔なら雑魚が湧いてたし、そっちにいかせれば良かったし。考えてみればワシら観測組が戌月達のとこにあんまいったことないような……」

「ひ、皮膚が柔くて遅い敵なら滅殺できまスし」

「玄武レベルなら無理じゃろ。玄武はよくいる速さを捨てて防御を特化したタイプ。なら何かを捨てて素早さに特化したのもいるんじゃないか。というか五芒魔星は一定の硬さはあるだろうなぁ」

「それでも素早さと嗅覚や聴覚が特技で……」

「確かに速いっちゃ速いけど、瞬発力なら寅果もあるし、持続的な速さなら空午。お前がシルバーチャ〇オッツみたいに残像出せるレベルで速く動けたら話は別だけど無理だろう。後半の特技は現代じゃあんま使いもんにならないし、あと寅果もワシもそこそこ鼻も耳も効くしな。現代じゃ特技は生かせない、最近の敵は強くなっている、寅果からも戦力外通告きたし……あと戌月、お前に何が残っている。すごい百歩譲って………………マスコットじゃん。萌えに媚びた犬耳のマスコットじゃん」

 全否定ある。さっき仕返しと言わんばかりに、調子にのって戌月のことを全否定した。そんなことをしたら先ほどの二の前になろだろう。止めたほうがいいなと、そう思ったが今度は違った。

 戌月の顔が、血の気が引いたように真っ青になっていた。人は本当のことを言われるのがかなり辛い。さらにそれを自分で認めてしまうのはもっと辛い。どうやらそのどちらか、はたまた両方が当てはまったようでショックを受けてしまったのだ。今までの悪態も本当のことだが強弱がある。今回はなかなか効いたようであった。霊慧丸も長い年月生きているくせに、変なところで子供っぽい。悪い意味で童心が残っているのか、偏屈な年寄りくさいだけなのか。

 傷心し泣きそうになっていた戌月はふらふらと部屋を出た。去り際に

「くたばれDQNネーム」

 という捨て台詞を吐いて。部屋をでた戌月はどたどたと足音を立てながら廊下を歩いた。まるで自分のいる場所に教えているように歩くものだから、戌月が家を出ることもわかった。ドアは力を入れすぎたら壊してしまうので手加減したらしくあまり音は聞こえなかった。これは追ってきて慰めてくれることを期待しているのだろうか。

「あいつDQOネームとかどこで覚えたんだ。少し使い方を間違えてるんじゃ」

「大方、辰雷あたりじゃないか。戌月が覚える悪態はだいたいあいつが教える。そして地味にダメージがはいるんだよ……名前変えたくてもだれも認めてくれないし」

「父さんくらいには偽名使えれば良かったんだけど」

「あの時は興奮してそのアイディアが浮かばなかったんだよ……将斗もテンパってそれ思いつかなかったんだろが。ま、偽名にしても後々戌月も居候した運命だろうし、あいつがいあたらいろいろおかしくなったどろうけど」

 あの戌月が秘密を守り続けられる可能性はかなり低い。偽名を使っていたほうが面倒なことになっていたかもしれないので、本名を使ったことは正しいことだったのかもしれない。

「しっかしま、あの犬も性格が悪いとこ結構あるよな。陽組だっけ? あのなかでも性格悪いんじゃね」

「いや、昔は素直で今のいいとこだけの可愛げのあるやつだったぞ。人間だって、長く生きてればどこかは歪むさ。その人間の影響をモロに受けて、その上人間と同じようにものを考えられるんだ。そして長く長く生きてる。歪みに歪むさ。基本はいいやつ? として割り切るしかないな。というか、たぶん一番歪んでるのは寅果だぞ」

「マジ? 女子の中じゃまともっぽいけど」

「ずっと疲れた目をしてるだけならまだしも、片腕ないからその代わりに獣のときの耳尻尾出してるような奴がまともか? 最近は詩織になんか言われたのか出してないっぽいが。話してみるとわかるが鬱っぽいとこもあるし。絶対頭のネジ何本か逝っているぜ。一番まともなのは辰雷だと思う」

「うへぇ……あの人がまともって…………まあそうなるのか? あ、そうだ。ちょっと出かけてくる」

 霊慧丸の返事は聞かず財布をポケットに突っ込むと足早に部屋を出ようとする。

「なんだなんだ、戌月のこと捜しにいくのか? ついにデレたかまっつぁん」

「いや、今日ジョ〇ョの新刊の発売日だったから買ってくる」

「あー……さいですか」

 冷たい視線を送る霊慧丸に留守番を頼んで家を出る。

 森重家の近くに本屋はない。コンビニなら数件あるが、ああいうところで単行本は買いたくないので我慢して片道三十分を歩く。

 平日の昼間だからあまり人はいない。通り過ぎる人といえば主婦だったり、営業周りのサラリーマンだったり、将斗と同類だったり。サラリーマンなどのせかせか働いている人を見ると、胸の奥がチクチクする。店員なんかはなぜか大丈夫だが、その他は罪悪感を感じてしまってダメだ。

 実際現在は自分のわがままに近いもののせいでこうなってしまっている。再就職を探そうにも思春期のトゲがまだひっかかって、足取りを重くし、明日明日と先延ばしてきた。こんな状況、何が辛いかと聞かれれば答えたくはないが、何が原因がわかっているから辛い。恥ずかしい自己嫌悪に近い感情を認めたくないのだ。他人のために頑張っても報われない、そんな悩みはとってもちっぽけでくだらない。そんなことは当たり前で日常茶飯事なのに聞き分けのないガキみたいに受け止めようとしない。

 だけど、そんな自分も大切なのだ。他人が知ったかぶって自分のほうが大変なのだからと高らかに宣言し、お前は無駄口叩かず頑張れ頑張れもっと頑張れと喚いてきたところで知ったことではない。大切なのはうまく伝えられない己の意思だ。口ごもって結局言えない言葉だ。時間など関係なく頬を濡らした感情の塊だ。他人も大変だが自分も大変だ、とにかく理解して欲しいし共感して欲しい。ガキみたいな自分と折り合いをつけれる日はいつか。

 人生はどこまでいっても矛盾だ。それを受け入れるか、諦めるかはその人の自由。将斗は親に罪悪感を感じて働きたくても、自分自身で錘をつけてしまって尻込みしている。それをどうするかは無意識に考えないようにしていた。だってどうすることもできないから。悩んで考えても行動をしなければ、根暗な自分の明日から本気出す姿勢は変わらない。無駄にテンションを下げて、自分の中で不幸自慢をするだけだ。

 大人になるっていったいなんなのだろう。成人を超えれば法律的には大人だがそんなんじゃない。責任を果たせれば大人だとか、そういった曖昧な大人の線引きだ。曖昧な境界の向こうに早く行ってみたいが、曖昧すぎてどこにあるかわからない。そもそもスタートラインにすら立っていない。ダメ人間。この言葉がぴったり合う人間になってしまった。

 周り働いている『立派』な大人達を横目に見ていたら、勝手にネガティブになった。なんだか泣きそうになってしまったので、鼻をすすりながら俯いて歩いた。

「あれ、アンタ将斗じゃないの」

 聞きなれない声に呼び止められた。強い香水の臭いが鼻をつく。

「さすが無職、昼間からプラプラしてんだ」

 振り向くと、けばけばしい派手な格好をした大海原愛奈がいた。会うのは二回目だが、やはり一度あの宗光と結婚した女性とは思えない。若気のいたりとは恐ろしい。

「……どもっす」

「そっけないわね。もう少し反応しなさいよ。そーゆーつまんないとこ、アイツにそっくり」

 なんでだろう。この女が喋るたび、胸の奥で何かがざわざわ暴れているようで息苦しい。自然と胸を掴んだ。

「なにどうしたの、体調でも悪いの? だったらそこの喫茶店にでも入る? 親子二人で話でもしましょ」

 正直のところ話など全くしたくないし、体調が悪いと分かっているならほっておいてほしい。しかし断る暇もなく、強引に喫茶店に連れて行かれてしまった。

 店員にコーヒーを注文する愛奈は将斗の顔を見てから少し考えると、勝手にコーラを頼んだ。コーラはそこまで好きではない。愛奈がいたずらっぽい笑みを浮かべているのを見ると、わざとあまり好きではないものを頼んだように思える。

「将斗、あんたコーラそんな好きじゃないでしょ」

「……………」

「無言は肯定、でいいかしら。ふーんそうなんだー。やっぱ親子ね。あいつとおんなじ」

 実は宗光もコーラは好きではない。そのせいか家の冷蔵庫にコーラがはいっていることは殆どなく、飲む機会がなかった将斗も同じであった。

「いえ、大丈夫っす」

 このまま認めてしまったたらなんとなく嫌なので我慢して口をつけた。コーラは他の飲み物より炭酸が強く感じる。実際強いのかもしれないが、しゅわしゅわが苦手でつい嫌な顔をしてしまった。ちらりと愛奈を見るとにやにやといやらしく笑っていた。将斗は顔が少し熱くなる感覚を覚えた。

「あんたが産まれて結構すぐ別れて最近まで連絡とったことなかったけど、あいつどうなのよ、宗光」

「どうって……」

「あいつ頭かたかったり、クソ真面目なとこあるからね。苦労してんじゃない、あんた。いや、苦労させられてんのはあいつか。大事に大事にしてきた息子がこのざまじゃね」

 わかりやすい皮肉に気分が悪くなる。

 この女性が母親と知っても感動などなかった。むしろ品のないこの女に嫌悪感を覚えた。この手のグイグイ言いたい放題の女は嫌いだ。無遠慮に自分の領域を犯してきて、我が物顔でめちゃくちゃに荒らす。害にしかならない印象しかない。無遠慮というなら戌月もそうだが、彼女は圧倒的な好意によって侵入してくる。うざったいときが殆どだが、愛奈に比べれば可愛らしいものだしまだ気分がいい。

 そんな理由もあってか、愛奈を見るだけでムカムカしてくる。なんというか、自分の内側の何かが全力で拒絶しているような感覚だ。近づくな、離れろという言葉が頭に浮かんでは消える。ここまで他人に否定的になるとは自分自身に驚いた。

 この場から逃げ出したいが愛奈の目が将斗を捉えて逃がさない。隙を与えない視線が将斗を捕まえていた。

「俺だって、努力、してます」

「努力は実らなきゃしたって無意味。むしろ時間の無駄。結果が全てで、結果でしか見てもらえないのが社会ってくらいさ、引きこもりにもわかるでしょ」

「でも」

「でも、とかで言い訳をはじめる奴に有能な奴はいないのよ。例え本当のこといっても、上司からしてみれば言い訳にしか聞こえないのよ。と、いうより言い訳するって決めつけなんだけどね。じゃあ聞いてあげるわ。あんた、職失ってからバイトなりなんなりなんでもいいから何社面接受けたのよ」

 そう言われてみればいくつだったろうか。頭の中で指を曲げて数えてみる。指の動きは3本曲げたところで止まってしまった。

 そうだ。なんだかんだいっても、やっぱり自分は何もしてなかったんだ。他人に指摘されてやっとことの重大さを思い出した。いや知らないふりをしていたのかもしれない。じっとりとした汗が伝う。

 結局親や周りが追い詰めるように言ってこなかったから、真剣に考えなかったのだろう。考えるふりをしているだけだったのかもしれい。なんだか夏休み最終日に宿題をあったのを思い出した時の感覚ににている。確実にそれより大変なのだが。

「……その無言は多すぎて答えられないのかしら。それとも少なすぎてフリーズした? …………ふー、本人にも非はあるけど、あいつも悪いわね。甘すぎ」

 甘やかされている自覚はあったつもりだった。現状に対して深くつっこまれたことはあまりない。信用しているから尻を叩かないなんて甘やかしでしかない。その甘さにどっぷり浸かってしまっていた。

 自分がシロップの底なし沼にいたことに気づかせた苦味の塊のような愛奈。こうやってみれば、彼女は息子に現実を突きつけ、現実を見せている母親なのだが、その表情に慈愛はない。どこまでも楽しそうな悪意の顔だった。

「息子が大事で信用している、ちゃんといつか立ち直ってくれる。聞こえはいいわよねぇ、いい父親よねぇ。でもま、いい父親とはちょっと、いやかなり違うかもね。あいつはアレだもん。自分がガキのころ憧れた父親像を演じているだけ。演じているだけじゃ子供は精神的に育たないわよ。あんた、宗光から殴られたことある?」

 そういえばなかったような。口の説教等はあるが暴力は受けたことがなかった気がする。

「ただの暴力なら子供は反発するだけ。だけど時として暴力は必要。痛みは記憶に残りやすい。なぜダメだったかを思い出しやすくなるからね。どうせあいつ、あんたから嫌われるの怖がって手を出せないのよきっと。ダメな男。昔からそうよ、慎重になりすぎて手を出せない。そのせいで失敗作になる」

「!」

「だってそうでしょう。実際ご近所はどう思ってるかしら。簡単に予想できると思うけどな。あそこの家、親は立派なのに息子は引きこもりだって。無職で引きこもりなんて現代じゃダメ人間決定よ? どんな理由があろうと、世間は冷たいの。まだいいわよ、昔だったら家を追い出されるじゃすまないだろーし。あんた、子育ての失敗代表みたいなガキなのよ。言い訳ばかりで、自分の思い通りにならきゃ他人や世間のせいにしたがるダメ人間、底辺のクズ。ギャンブル漫画や金貸し漫画みたいなクズじゃない、正真正銘のクズ野郎ってね。ねぇ楽しい? 親困らせる毎日で。楽しいの? 親泣かせる現状で。楽しくなきゃやってられないか! 毎日なにしてんの。ゲームかネット、それともごろごろ気持ち悪いアニメでも見てんの? 親が毎日働いて貰ってる金使って。恥ずかしくないの? ねぇねぇ」

 だんだんとヒートアップしていく愛奈の皮肉に、将斗は項垂れるしかなかった。

 現実は分かりきっていながら見ないふりをしてきたことを突きつけられるから辛い。言われる言葉一つ一つが自分の生活を再確認させるものばかりだった。

「わ……か…………た……か……ら……も……」

 わかったからもうやめてくれ。

 こういいたいのだが言葉がつっかえてうまくしゃべれない。最近たまにこうなってしまう。緊張したり、強いストレスを受けると喋りがゆっくりになりとぎれとぎれになる。霊慧丸いわく、藍火が出てきた時に神威が覚醒した副作用じゃないかと。神威が使えないのに副作用だけ押し付けられてしまったのかもしれない。

「ちゃんと喋りなさいよ。あいつは人との喋り方も教えなかったの? 人と話すときは相手の目を見てはっきり言いなさい。ま、あいつは人にもの教えるの向いてないでしょうね。なまじ頭がいいせいでバカの気持ちとかわからないでしょうし」

 将斗の態度が気に食わなかったのか、ムッとした表情になった。

「なんなら仕事、紹介しようか。大丈夫、能がなくても慣れればなんとかなるかもよ。仕事って実は選ばなきゃあるもんよ。ろくなものに就かないかもしれないけど、あんたみたいなのはそれくらいが丁度いいんじゃない。なんにも考えれない仕事してみな。そうすれば親の脛かじらなくなるわよたぶん」

 頭がグラグラしてきた。愛奈から与えられる強いストレスのせいか、気分も悪い。自分のメンタルはここまで弱かったのかと嫌になってきた。

 そう思えば思うほど頭痛がしてきた。べらべらと飽きずに垂れ流しにされる皮肉にネガティブになればなるほど、頭痛が酷くなっていく。痛みで頭がぼぅっとしてくる。頭の中が真っ白になっていく。このまま気絶してしまいたい。

 突然、後頭部を誰かに叩かれたような痛みを感じた。

「本当にいい加減にしろ」

 今耳元で誰かが囁いた。確認する暇もなく将斗は後ろに引っ張られる感覚に襲われ、視界が暗転した。これで将斗は一時間ほど記憶が抜け落ちることになった。

「ちょっとあんた、どうしたの……?」

 将斗が聞いた声は、勿論他人に聞こえていない。愛奈から見たら急に将斗がまったく反応をしめさなくなったように見えていた。目もどこを見ているかわからない。なんだか瞳孔も開いている気がする。明らかにおかしい。 

 愛奈が触って反応をたしかめようと手を伸ばすと、それをはじかれてしまった。

「おっとすいませんね。触られるのはあまり好きじゃなくて。あ、ある奴は別っすけどね」

 謝罪をするが、その態度はまったく謝罪に適していなかった。目を閉じて腕を組み、足も組んでいる。さっきまでと雰囲気が違っているのは明らかだった。

「あんた、いったい……」

「いやぁすいませんすいません。長くて内容のない話は苦手なんすよ俺。眠くなっちゃって。ま、ちょっと寝起きみたいなテンションになっちゃったんで、すいませんねぇ」

 急に雰囲気が変わった将斗に戸惑う愛菜は、先程と打って変わって訝しげな顔をしていた。というより警戒しているのかもしれない

「で、なんの話でしたっけ。俺が親の脛かじっているだけのニートな失敗作息子? あらあらド直球。否定はできないっすわ。こんな感じでいっても信用ないかもっすけど、これでも悩んでるんですよ。親に申し訳ないとおもってます。どっかの母親が役に立たなかったんで、父さんが一人でそだててくれたんすよー、そりゃ罪悪感しかない毎日なんすよー。…………で? 愛奈さんはどうなんです?」

「ど、どう……って」

「あんた、この前なにしに家にきたんでしたっけ」

 将斗の口角が釣り上がり、ニヤリと笑った。目を開いていたらさぞ楽しそうな表情を作っていただろう。今でも十分、ぞくっとするような笑みだった。

「たしか、金借りに来たよな。父さんにさ。しかもどこからも借りられないっていってましたよねぇ。それってさ、結構切羽詰ってたんじゃない。ブラックリスト入りの女が昔の男にたかりに来る。借金取りさんが頑張ってるおかげかな。今は大丈夫そうに趣味のわっりぃ格好してくっせぇ香水つけてきったねぇ化粧してるってことは、ちょっとは状況よくなったのかな。それとも、なんか危ないことに片足突っ込んでるとか。それで一時的に大丈夫だけど、なにかしないといけないんじゃない? 。例えば若い奴に危ない仕事させるため誰か紹介しろって言われてたり、まあテンプレですよね」

「…………」

「おや、そういえばさっき自信満々に仕事紹介してやるとかいってましたよね。あらあら~これは当たちゃったかな。ですがね、別に外れててもいいんですよ。むしろこんな妄想話全然関係なくて、俺が今すごい恥ずかしいやつと思われてもいい。なんですが」

 気圧されている愛奈の胸ぐらを掴み、引き寄せて鼻が当たりそうな距離まで引き寄せた。さのさいテーブルに体がぶつかり飲み物が少々零れた。周りの客や店員の視線を感じるが、だれも何も言わない。普通なら店員が止めたりするだろうが、何もしようとしなかった。いやできないのか。それほど今の将斗はヤバイ奴だった。

 少しためてから、口を開く。

「血が繋がっている程度の他人ごときが、俺みたいなバカ息子を心配してくれる父さんのこと馬鹿にしてんじゃねぞ」

 それは将斗が言いたいことだった。彼女が代弁してくれた言葉は、まるで本人のように強い怒気が含まれていた。

「あと、俺にたいしてのことは正論だがよ、まともな金稼げない奴がいっても目くそ鼻くそ笑うだぜ」

 将斗が言ってやりたかったことを言い終え愛奈を開放してやった。

 少しの間お互い沈黙していると、愛奈がまたもむっとした顔をしながらその場から立ち去った。捨て台詞は何も言わなかった。

 そのさまを見て、なにか納得をしない様子の将斗はやっと瞼を開いた。その目は琥珀色になっていて、藍火に切り替わっていた。

「言ってやったぞ」

 自分の中で眠っている将斗に言い聞かせているつもりなのか、小さく呟いた。

「正直私はお前は好きではないがね。うじうじしていてうざったくて、戌月をちゃんと構ってやんなくて。印象悪いよ」

 テーブルがぶつかった時にあまり被害がなかったコーラに口をつけた。藍火もあまり好きな味ではなかったのか眉間に皺を寄せる。

「だけど嫌いじゃない。人格がちがっても私自信だからな。戌月のようにとはいわないが、守ってやろう。私は一応味方だ。ま、主導権が完全に変わったら飲み込んでやるがね」

 さて、と鼻をひくつかせ辺りを伺った。二三度目を往復させると目当てのモノを見つけたらしい。近くにいた店員を呼び代金を払うと立ち上がった。あの女の分も払うとはかなり癪だが仕方がない。藍火は目標目掛け歩を進めた。

 その先前方約三百メートルの建物の影に戌月が隠れていた。実は戌月は将斗が家を出た時から跡をつけていたのだ。自分がいじけて家を出たから追いかけてきてくれたのかと思っていたが、それは違っていてがっかりしていたところだ。それでももしかしたら心変わりして自分のことを探してくれるかもと跡をつけ続けていた。自分の主人の匂いならどこまでも追跡できる自信と、それなりの心得がある戌月なら将斗程度に気づかれず追跡するぐらい朝飯前。なんなら遊んでてもできる。するとどうだろう、追跡していると将斗がいけ好かないあの女とお茶をし始めたではないか。会話は主人を責める内容。聞いててむかっ腹が立ってきたがなんだか将斗の様子がおかしい。すぐに出て行きたがった、本能的な何かが戌月の動きを止めた。悶々としていたら将斗の匂いが切り替わった。あの気持ちが悪い藍火もどきに。切り替わった瞬間戌月は弾かれたように逃げようとした。藍火もどきは生理的に受け付けないので当然なのだが、なぜか頭が一瞬だけ冷静になった。

 はたしてこのまま逃げていいのだろうか。

 逃げたらたぶん追ってくるだろう。藍火に切り替わった将斗の身体能力は上がっているだろうが、なんとか逃げ切れるはずだ。だが全力で逃げ回って全力で追いかけてきたら、将斗への負担は半端なものではないだろうか。

 結局、戌月は将斗はほどほどの距離を空けて逃げるようにした。できるだけ将斗に負担がかからないようにジリジリと、決して背中を見せないように。街中で鼻息の荒い青年と髪の白い少女が一定の距離を保ち、ゆっくりとした追いかけっこするさまは中々シュールだった。

はたして将斗は連載中に就職できるのか……。

まあそんなことは置いといて、次回で玄武討伐編は終了する予定です。早いかと思われてしまうかもしれませんが、だいたいこんな感じです。私の実力では戦闘描写に限界があるので、戦闘自体はさっぱり終わらせます。というか終わらせてください。

次回はできれば早く更新できたらいいなと思います。思うだけで終わらなければいいのですが。

では、次回もよろしくお願いします。

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