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忘らるる神の欠片~眠り男の英雄譚~  作者: rit.
あくと5 閉ざされた森とかけらの話
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みっつめ。

 からかうような口調のジィンに、キアラは思わず不満げな顔になった。

 子供だ子供だとジィンはいうが。

 キアラだって。一応は成人したおとななのだ。


「まぁ、いい」


 不満を口に乗せようとしたその時、じっとこちらをみつめていたおうじさまが、ゆっくりと低い声音で言葉を紡いだ。


「おうじ、さま?」


 ジィンの腕から逃れて、おうじさまに一歩近づく。

 けれど、逆におうじさまは一歩うしろに後ずさった。


「大地の民よ。その娘に不幸をもたらしたくなければ、二度とわたしに近づけるようなマネはしないことだな」


 さっき。

 おうじさまの手を、避けてしまったから?

 だから、そんな悲しいことをいうの?


「異論はないな」

「できれば、マーリにも関わらせないことだ。あれの周りも、不穏だぞ?」


 ふ、と笑ったおうじさまは。さらにゆっくりと後ろに下がり。

 すべらかな白い壁に背を預けた。


「そうしたいところだが、生憎マーリとは約束が残っているからな。せいぜい近寄らせないようにはするさ」

「そうか」


 ジィンとおうじさまはわかったような顔で会話をする。

 自分だけが、壁の外にぽつんと取り残されたようだ。

 壁に取り付けられた燭台がゆらゆらと不安げな光を放つ。


「おうじさま……?」

「森へお帰り、キアラ。約束どおり、わたしに会いにきてくれて嬉しかったよ」


 静かに静かにほほえんで。

 おうじさまはそう言った。


 約束どおり。

 あいにきてくれて。

 ――うれしかった?


 それは、開放のことば。

 

 同時にそれは。自分への、拒絶。


 約束は、果たされたと。だからもう、気にしなくていいのだと。

 森へ帰れと、いっているのか。

 あの、かなしいかなしい目をしてわらった、あの少年は。


 もう、約束に縛られる必要はないと。

 この王都に、とどまる理由を取り上げて。


 こんなにも、かなしそうな顔をして。

 助けが欲しいのに、助けは要らないと意地を張っているように見える。


「ロータス王」


 突き放されて。どうしようもなくて。立ち尽くすキアラの肩に、ジィンの手がまた触れた。

 支えるような温み。

 けれど、おうじさまの表情はどこまでもせつなくて。


「心遣い、痛み入る。30年前の件は申し訳なかった。何の説明もせずに、拒絶したことについて。一族を代表して謝罪をしよう」


 背後から響くジィンの声が遠い。

 今更、彼にわびたところでなんになると言うのか。

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