みっつめ。
からかうような口調のジィンに、キアラは思わず不満げな顔になった。
子供だ子供だとジィンはいうが。
キアラだって。一応は成人したおとななのだ。
「まぁ、いい」
不満を口に乗せようとしたその時、じっとこちらをみつめていたおうじさまが、ゆっくりと低い声音で言葉を紡いだ。
「おうじ、さま?」
ジィンの腕から逃れて、おうじさまに一歩近づく。
けれど、逆におうじさまは一歩うしろに後ずさった。
「大地の民よ。その娘に不幸をもたらしたくなければ、二度とわたしに近づけるようなマネはしないことだな」
さっき。
おうじさまの手を、避けてしまったから?
だから、そんな悲しいことをいうの?
「異論はないな」
「できれば、マーリにも関わらせないことだ。あれの周りも、不穏だぞ?」
ふ、と笑ったおうじさまは。さらにゆっくりと後ろに下がり。
すべらかな白い壁に背を預けた。
「そうしたいところだが、生憎マーリとは約束が残っているからな。せいぜい近寄らせないようにはするさ」
「そうか」
ジィンとおうじさまはわかったような顔で会話をする。
自分だけが、壁の外にぽつんと取り残されたようだ。
壁に取り付けられた燭台がゆらゆらと不安げな光を放つ。
「おうじさま……?」
「森へお帰り、キアラ。約束どおり、わたしに会いにきてくれて嬉しかったよ」
静かに静かにほほえんで。
おうじさまはそう言った。
約束どおり。
あいにきてくれて。
――うれしかった?
それは、開放のことば。
同時にそれは。自分への、拒絶。
約束は、果たされたと。だからもう、気にしなくていいのだと。
森へ帰れと、いっているのか。
あの、かなしいかなしい目をしてわらった、あの少年は。
もう、約束に縛られる必要はないと。
この王都に、とどまる理由を取り上げて。
こんなにも、かなしそうな顔をして。
助けが欲しいのに、助けは要らないと意地を張っているように見える。
「ロータス王」
突き放されて。どうしようもなくて。立ち尽くすキアラの肩に、ジィンの手がまた触れた。
支えるような温み。
けれど、おうじさまの表情はどこまでもせつなくて。
「心遣い、痛み入る。30年前の件は申し訳なかった。何の説明もせずに、拒絶したことについて。一族を代表して謝罪をしよう」
背後から響くジィンの声が遠い。
今更、彼にわびたところでなんになると言うのか。