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忘らるる神の欠片~眠り男の英雄譚~  作者: rit.
あくと4 続・回収作戦
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とおと、いつつめ。

 ジィン。

 同族のにおいは無条件に安心感をもたらす、そんな気がする。

 けれど、そう思ったのは一瞬だった。


「その通りだ、キアラ。森へ帰るといい」

「おうじ、」

「よすんだ、キアラ」

「離して、ジィン!」


 おうじさまと。背後にいるジィンが。

 なぜか結託して、自分をおうじさまから引き離そうとする。

 伸ばされた手を、なぜか避けてしまったけれど。別に、それは何か意図したわけではなく。


「離して! 会いにきたのに!!」


 助けに行くはずだったジィンが、なぜ唐突にここにいるのか。

 先に行ったはずの、カッツェはどこにいったのか。

 ううん、そんなことはどうでもいい。

 それよりも、どうして邪魔をするの?


 おうじさまから、森へ帰れと拒絶された孤独感は、ジィンのぬくもりにほんの一瞬。癒されなかったとは言わない。

 でも、それに安心してはいけないのだ。

 背後に甘えたいわけじゃない。

 今は、おうじさまに。きちんと気持ちを伝えなければ。

 そんなにも、悲しい顔をしているおうじさまに。笑ってもらいたいのだと。

 そんな顔をさせるためにきたのではないのだと。

 きちんと、最後まで伝えたいのに。


 ジィンの腕を振りほどこうとして力をこめるのに、力強いその腕は、まるでびくともしない。

 叩いても、ひっかいても。ジィンはただ抱きしめ続けるだけ。


「おうじさま、私、会いにきたのよ? 成人する日を指折り数えて待ってた!」


 あの日。ふらりと森にやってきた彼を、好ましいと思った。

 それはたぶん。恋愛感情とか、そういうものとは少し違って。ただ、なんとなく好きだった。

 一緒にいた時間。

 一緒に笑ったこと。

 話したこと。

 やさしい雰囲気。

 心地いい時間が、静かに流れて。それがもっと続けばいいと思っていた。


「そんなに時間がたってたとか、思わなかった。どうして、どうして三十年も経ってるの?!」


 だから。

 困っているのなら、助けようと思った。

 味方になろうと思った。

 すべてが円く収まったら。おうじさまはきっと、もっと屈託なく笑って。

 もっとやさしい時間が流れると、無邪気に信じていた。


「どう、して……」


 熱い何かが頬を伝って落ちていった。

 視界がゆがむのは、なぜ。

 おうじさまが、まるで自分が苦しいような顔をして、こちらをみつめ続けていた。


「異種族間の婚姻は、防がれるべきだと思ったのだろう」


 背後から抱きしめるジィンが、低くそう言葉を継いだ。

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