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忘らるる神の欠片~眠り男の英雄譚~  作者: rit.
あくと4 続・回収作戦
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とおと、ひとつめ。

 カッツェと合流して、神殿の中を歩く。

 空気がぴんと張り詰めて、居心地はこの上なく悪い。

 嵐の前の静けさとか。なんだかそういう不穏な言葉がぴったりとくるような雰囲気だ。

 誰にもあわず、まっすぐ廊下を歩く。

 カッツェの足取りに迷いはなく。いくつか廊下が交わるところもあったけれど、立ち止まることさえしないで、ただひたすらにまっすぐに進んだ。


 進めば進むほど。

 不穏な空気が色濃くなっていくような気がする。

 肌が、ぴりぴりとする。たとえば猫が、体中の毛を膨らませるように。産毛までがちりちりと総毛立つような気がするのだ。

 このまま進みたくないというのは、本能だろうか。

 明確な根拠はなく。

 ただ、気の進まなさが。

 歩みをおそめる。


 歩くのがそう早いとも思えない、カッツェとの距離がどんどん開いていく。

 空気が体にまとわりついて、動きを阻害するかのようだ。

 とろみのあるスープの中でもがけば、こんな気持ちを味わうことが出来るかもしれない。


「カッツェさ……」


 けれど、さすがにこれ以上間があくのは危険だ。

 そう判断したキアラが、声を上げようと口を開く。


 だが。

 カッツェを呼び止めることは出来なかった。

 濃度の高い空気が、声をも阻む。


 そして。

 骨ばった手が。

 なんの害意もなく、のびてきて。口をふさいだから。


「キアラ」


 その手を払いのけようとする、その動作さえも。緩慢になる。

 拒絶が遅れ、そのまま腰を引き寄せられる。

 懐かしいにおいが鼻先をかすめ、キアラは相手を押しのけようとしていた、その力を思わず緩めた。


「……キアラ。キアラなんだろう?」


 かすれた、声。

 今にも泣き出しそうな調子で、ささやくように、名が繰り返された。

 体を拘束してくるその手さえ、かすかに震えているような気がする。

 懐かしくて、せつなくて。抱きしめたくて。


 押しのける代わりに、キアラは。

 そっと相手の服をつかんだ。

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