よっつめ。
キアラにできることは実のところ、あまりない。
一応大地の民の一員として、武術系一般は幼いころから叩き込まれているが、そう強い方ではないのである。
傭兵、かなぁ……
それくらいなら、できるかなぁ……
とはいっても。
自分になにができるか、ということを考えた時に、一番にその職種が頭に上るくらいには戦うことになれていたし。そう強くないとはいっても、大地の民基準でのことなので、人間と比較すればまぁ上級の部類にかろうじて引っかかるくらいの実力を有していることも自覚していた。
でもさ、でもさー……
私なんか雇ってくれないよねぇ……
問題点は自分でもちゃんとわかっている。
一も二もなく外見なのだ。
頭の上にひょっこり生えた獣の耳。
猫の瞳をおもわせる瞳孔が細い黄金の双眸。
体の線は細くて薄い。子供っぽくて華奢で。
どう頑張ってみても。
得物の大剣に振り回されていそうなイメージが付きまとってしまう。
戦闘職種には見えない、この外見。
あ~もう。
なんでもっと、あねさまとかあにさまみたいに、ごつくかっこよく生まれてこなかったんだろう。
そうすれば、傭兵も戦士も、どんな職種も思いのままだ。
ふかぶかと溜息をついて、人波を眺める。
どうにかして、実力を見せる機会はないものか。
一度みてもらえさえすれば、雇ってもらえるかもしれない。
もうひとつ、息をついて。
キアラはどうにかその場を動いた。
いつまでもここにいてもしょうがない。
ここにいても、お金は稼げないし、失くしてしまった財布が出てくるわけでもない。
少しでも前向きになろうとは思ったが。
財布をなくした衝撃はそう簡単に消えてはくれなかった。
「ねーちゃん」
通りを外れて横道にそれたキアラは。そのあたりに乱雑に積み上げられた木の箱の上に座りこんだ。
ぼんやりとそこで通りを眺めていると、遠くで声がした。
「ねーちゃんってば」
別に無視をしていたわけではないのだが。
よもやこの知り合い皆無の王都で、自分に話しかけてくるものがいるとは思えなかった。
けれど、服まで引っ張られれば、自分に話しかけてきているのは疑いようもない。
空ろなままのまなざしを向けると、10歳ばかりの少年が、よく日に焼けた笑顔を向けていた。
「よう、ねーちゃん。元気ないね、どーしたのさ」
少年は、ごくごく普通の人間のようだった。
今日明日の衣食住に困っているふうでもなく。
そこらへんで遊び転げている、王都の少年、という感じだ。
「……なんでもない」
一通りの観察をしたあと、キアラはまたふいっと視線をそらした。
子供は別にきらいではないが。
今、子供と一緒に遊びたい気分ではなかった。
「おいらさー、おなかすいてるんだけどさ。小銭がこんだけしかないんだ」
そういって、少年は、キアラにしっかり握り締めていた手を開いてみせた。
その幼げな手に握られていたのは、小銀貨が三枚。
「あの、肉串がたべたいんだけどさ。お金がたりないんだよね?」
そう、と気のない様子でキアラは応じた。
「ねーちゃんも地方から出てきた感、満載だし。奢ってくれとはいわないからさ。半分お金出してくんない? 半分こしよーよ」
隣は何をする人ぞ、とばかり。
他人に興味はありません的な顔をして、せかせか動いている王都の人間にしてみては、なんだろう。田舎的提案だと思う。
森でなら、こんな提案は日常茶飯事だ。
同年代の子供らは、みんな兄弟姉妹のようなものだし。
上の世代はだれでもあにさまあねさまだ。
その上ともなれば、みな父であり母であり。爺さまであり婆さまなのだ。
「悪くない提案だと思うんだけどさ」
ぽつり、とキアラは力なく呟いた。
きらきらとした少年の笑顔がとてつもなくまぶしい。
「私の所持金、キミよりも少ないから。他をあたったほうがいいよ」
淡々と事実だけを告げて、ふたたび通りへと視線を転じる。
まぶしい笑顔のまま、少年がカチンと凍りついたのが目の端に映った。
「は? なに、もうやられちゃったあとなわけ?」
そして、数瞬。
ひびいた少年の声は。
先ほどの純真そのものな声音ではなく、はげしく侮蔑のこもった声音となっていた。
ヒーローがいつまでたっても出てきません……