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忘らるる神の欠片~眠り男の英雄譚~  作者: rit.
あくと4 続・回収作戦
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とお。~Side:マーリ

「つまり、だ」

 静かな部屋の中に、自分の声だけが妙にはっきりと響いた。

「ぼくは、さらわれたのか?」

 だれに?と言うのはわからない。

 ただ、あまり歓迎すべき状況でないことだけは確かだ。

 連れ去られた姉と、自分と、背後から来た何者かの位置関係から考えるに。

 姉を連れ去った連中と、自分を拉致した連中が、協力関係にあるというのは、少し考えにくい。


 まぁ。

 姉を連れ去った連中の仲間が、なんらかの事情で別行動をとっており、あとから追ってきたときに。こっそり後をつけている風だった自分に気づいて捕獲した、という可能性もなくはないのだが。


 なんとなく、違う気がする。

 明確な、理由など何もないのだけれど。


 ただ、なんの目的もなくさらったのだとも思えはしない。

 着ていたものこそ、そのままだが。

 あまりに、整えられた、豪奢すぎるこの部屋。


 それも、王族が使う部屋の調度にあまりに似た家具。

 室内。雰囲気。


 これはもう、どう考えても、自分が先王の息子マーリであることを知っているとしか考えられない。

 なんの理由があるかなんてことは、さっぱりわからないのだけれど。

 ひとつ、確信を持って思えることは。

 これを画策したのが、おそらく、今現在王の位にある、ロータス叔父ではないということくらいだ。

 今現在敵対している人物を誉めるのもあまり気が進まないが、叔父が噛んでいるならば、もう少しこの部屋は趣味がいいはずだと思うのである。


 明らかに、城に似せて作られた部屋。

 けれど、何かが違う、趣味の悪い部屋。


「……気持ちわる」


 思えば、ここは王の部屋に似ている気がする。

 父がまだ生きていたころ。遊びにいった、父の居室に。

 まぁ、格段にこちらのほうが趣味が悪いのだが。


 いったい、自分をさらった人間が、どういった意図を持っているかわからないことには。

 どうにも手のうちようがない。


 あのお人よしの大地の民は、どうしただろうかと。

 ふと、自分が強制的に巻き込んだお人よしの男を思ってみる。

 そろそろ、自分が残した暗号には気づいてくれただろうか。

 姉の救出に動いてくれているだろうか。

 できればそのついでに自分のことも助けて欲しいものだが――


 こうなっては、それもむずかしいかもしれない。


 ごろんと諦めて寝台に寝転んで、天蓋の内側をみつめる。

 そこには、空ろなる存在《もの》、創世(はじまり)の神、セリヌンティウスが己の存在に気づいて孤独に涙する、という内容の宗教画が描かれていた。


 その涙をみつめて思う。

 死すべき神子、伝説上のかのひとは。

 自分の存在を疎んだりはしなかったのだろうか。

 自分が死すべき宿命を負って生まれてきたから。

 世界もまた、いつか終焉を迎える宿命を負ってしまった。


 姉が予知した砂禍(さか)の飛来は、終焉の前兆だといわれる。

 くわしいことは自分もよく知らなかったが。

 砂禍は、滅びをもたらす神子の欠片だ。

 落ちた周辺を、命の芽生えぬ大地にかえてしまう、わざわいのかけら。


「叔父上……」


 砂禍など、飛来しなければよい。

 死すべき宿命の神子も。最初からいなければよかった。

 セリヌンティウスが己が孤独に気がつかなければ。

 世界は、生まれなかったかもしれないけれど。未来永劫、変わることなくいられたのに。


「……おじうえ」


 まなじりから、こぼれおちた何かが、こめかみの辺りに流れ落ちるのを自覚する。


 昔。

 父もまだ、存命だったころ。

 自分は、気さくな叔父が大好きだったのだ。

 いつもかなしげな表情をたたえているその顔が、自分にはやさしい笑みをたたえてくれるのが嬉しかった。忙しい父に代わって、よく遊んでもくれた。

 初めてのった馬も、叔父がくれたものだったし。

 一緒に遠乗りに行った事だってあった。


 本当は、叔父と王位を争いたくなんてない。

 叔父はよく出来る人だから、国をうまく治めてくれるに違いない。


 けれど、いつしか周りに流されて。

 気がついたら、叔父と敵対せざるを得ない状況におちいっていた。

 いつの間にか、叔父との間には深い溝が出来。

 王位を得なければ、自分が死んでしまうというような状況にまでおちいっていた。

 いくら後悔しても、時は巻き戻らない。


 自分は、死にたくなかったのだ。

 それならば、叔父を殺して、王位を奪うしかない。

 その思いは、今現在も変わらない。


 久しぶりに、深く自分の心を分析した気がする。

 けれど。

 もう戻れないところまできているのだ。


 ふかくふかく、息を吐き出してみる。

 少しくらいは、このやりきれない思いが吐き出されるといい。


 がちゃり、と鍵を開ける音が響いたのは。

 ちょうどそんなときだった。

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