むっつめ。
カッツェに連れられて、幾本かの裏道を抜け、大通りをあるき、屋台で買った軽い朝食兼昼食を取りながらやってきたのはお城のような建物だった。
白い外壁に、いくつかの塔。
「……おしろ?」
食べかけの揚げたパンをかじりながら、キアラは思わず呟いた。
王都にやってきた時に、大地の民によくにたおっちゃんに、お城だと教えてもらった建物と同じくらいに大きくて。白くてキレイな建物だった。
ただ、お城よりも開放感は高いかもしれない。
入り口は、細かな彫刻がほどこされた一抱えほどもある柱が、たくさん並んでいた。
「いやぁ、違うよ?」
のんびりとした口調で答えるカッツェは、建物の影からちらりと入り口の方を窺った。
入り口には、ぴかぴかした鎧をきた兵士が数人、いかめつらしい顔つきで前をにらんでいる。
手には、鋭い槍。
「ここは、神子の神殿だ」
「……ふぅん?」
お城ではないということか。
首を傾げて瞬くキアラに、カッツェはもう少し言葉をたしてくれた。
「死すべき宿命の神子ケイオスを祀る神殿だよ」
「マーリのお姉さんが筆頭巫女をやってるところで、ジィンがつかまってるかもしれないところ?」
「そうだね」
カッツェがうなずくから。
キアラは少し空気のにおいを嗅いでみた。
もしかしたら、ジィンのにおいがするかもしれないと思ったのだが、生憎と埃と砂と、嗅ぎなれないニンゲンたちと、カッツェの匂いしかわからなかった。
屋台のおいしそうな匂いもしたけれど、食べだすときりがないので、そこはあえて気づかないふりをしておく。
「見張り……いるけど、忍び込めそうだね」
じっと見ていると、見張りは案外ひまそうだ。
自分のほかにも見張りがいるという安心感からか、前を見てはいるものの、どうも集中力に欠けるというか。頑張ってはいなさそうな印象がある。
「わたしはやめておこうと、昨日もいったんだけどね?」
「じゃぁ、ここで待ってます?」
渋い顔をするカッツェにそう問えば、その細い目がさらに細くなった。
「大地の民って言うのは、誰もがそんなに無謀なのかい?」
どうやら、昨日もジィンと同じような会話をしたらしい。
見張りに視線を戻しながら、キアラは少しばかり首を傾けた。
「無謀も何も。隙だらけだから、行けそうなんですもん」