みっつめ。
それで、だ。
溜息混じりにカッツェは言葉を継ぐと、コップにもう一杯レモン水を注いだ。
「戦闘中にいきなり寝たから、見捨ててくることにしたんだよ」
そして、そんなふうに説明をしてくれる。
「そんな」
キアラは思わず顔をしかめた。
「殺されちゃったりしたら、どうするんですか」
キアラだって、人間の詳しい話を知っているわけではない。
けれど、大地の民だって、森や神域に故意に許可なく進入するものがあれば、警告の上危害を加えることもあるし、場合によっては命を奪うことだってあるのだ。
ましてや、今回。二人が忍び込んだのは神子の神殿だというし、明らかに不法侵入者である。
殺されたって、文句は言えない。
キアラのそんな思いを知ってか知らずか、カッツェは軽い調子で手をパタパタとふってみせた。
「だーいじょうぶだよ。眠り男は死なないから」
「いったい、何の根拠があって!」
「ところ構わず眠らずにはいられない体にしちゃったんだから、神様だってそれくらいの融通はきかせてくれるよってことじゃないのかなぁ?」
マジメに受けとってもいいのか、それとも話半分にしておくべきか。
悩んでいるうちに、カッツェは話が終わったものと判断したらしい。
「とりあえず、ここを出ましょうかね。私だけだったら無理なお話だけれど、キアラさんがいるんだったら、ジィンの回収くらいはできるかもしれないし。ロータス殿下だって、まさか見張りもおかずに帰られてはいらっしゃらないだろうし」
「ジィンを、助けに行くの?」
「行かないの?」
くすりと笑って、カッツェはコップの水を飲み干した。
「マーリも、助けに行かないと……」
呟くように言い足せば、カッツェもそうだねぇと肯いた。
「でもとりあえずジィンを回収しないと、私たちは戦力不足だと思うのだよ。私は無粋な武器なんか手にして戦うのはゴメンだからねぇ」
「ジィンは神殿に?」
「たぶんね」
武器を持って戦うのが無粋とか。
肉体労働は苦手とか。
知り合いが命の危機にさらされそうなときに、気にするような問題ではないと思うのだが。
とりあえず、突っ込むのはやめておいた。
適材適所。
出来る人が、出来ることをやればいい。
ヘタに手を出されても、たぶん。いざという時は足手まといなのだ。
ほうりっぱなしだった荷物の中から、財布らしきものを取り出したカッツェに続いてキアラも部屋を出る。
太陽は中天から、少しばかり西に傾いていた。