みっつめ。
宿は比較的すぐにみつかった。
あまり安いところは無用心だとさんざん言い聞かせられていたので、そこそこの値段の宿に当たりをつける。表通りに近く、清潔そうな宿だった。
一泊で銀貨一枚と半銀貨が五枚。
結構な出費だとは思ったが、そう王都に長居をするつもりもなかったので、とりあえずはよしとした。4~5日なら滞在しても、おつりが来るほどの所持金は用意してある。
「お代は先にいただくことになってるんですよ」
一階のカウンターで宿のおかみさんらしきひとににこにことそう促され、キアラは頷いて懐から財布を取り出す。
いや、取り出そうとした。
「あれ……?」
あるはずの場所に、財布はなく。
指先はひたすら空振りするばかりだ。
「え?」
あわててもう一度懐を探るが、手になじんだ財布の感触はどこにもない。
さーっと血の気が音を立てて引いていくのがわかる。
串焼きの屋台の前で、買おうかどうかを悩んだ時は、確かにあったと思う。
そのあとは?
青くなりながら、懐の中を、さらに丁寧に探っていく。
手巾。傷薬。短刀。
財布。
私の、財布。
全財産。
ない、かも……??
完全に、硬直したと思う。
心臓がどきどきと全力疾走をはじめる。
目の前が真っ暗になったような気がした。
ない、ないの?
ほんとにないの?
いつなくした?!
いつ落とした?!
いつ?!いつ?!いつ?!
頭の中はめまぐるしく記憶をたどる。
けれど、決定的な瞬間は、なぜか思い出せない。
確かに、懐に入れておいたのに。
「……まさか、お代をもってないのに、泊まろうとしたとかじゃないですよね?」
ひんやりとした、おかみの声が耳を打つ。
「いえあの、ちゃんと持ってたんです!」
「でも今ない?」
「ちゃんと、ここに……っ」
どうしよう。
どうしよう、どうしよう。どうしよう。
「じゃあ、掏られたんだろう。あんた、みるからに田舎から出てきた小娘だからね」
客じゃないとわかった途端、おかみの声はさらに冷えた。
「言っとくけど、あんたの事情を斟酌する余裕も義理も、うちにはないからね」
どうしよう。
お金、なかったらどうしよう。
冷たいおかみの声も、耳には入らない。
「そこにいたら、ほかのお客さんの邪魔になるんだよ。とっとと行っておくれ」
乱暴な手つきで宿を放り出されても、キアラは自分で動けなかった。
思考は迷走しまくって、ただどうしようを連発している。
今までにぎやかでいい町だと思っていた王都が、突然冷たい顔つきになったような気さえした。
お金がなかったら、まず今日のご飯が食べられない。
まぁ、それくらいは我慢できる。
大地の民の体力は数日の絶食くらい軽く耐えられるはずだ。
でも。
お金がなかったら、王都に居続けることが出来ない。
おうじさまを探すことも出来ない。
いったん森に戻るにしても。
お金がなければ、戻ることも出来ない。
王都から森までは、結構な距離があるのだ。
そして、何よりの問題点は。
お金を稼ぐ手段を、どうしても思い浮かべることが出来ないことだった。