ここのつめ。
大剣を前に構えて、とりあえず深呼吸をする。
扉を壊すのは、そう難しくはない。
ただ。大きな音はするだろう。
もし、ジィンたちに何らかの意図があって閉じ込められているのなら、そんなに大きな音がするのは歓迎できない。脱出しようとしているのがバレバレだ。
というよりも。なんで自分は閉じ込められているのだろう?
自分を閉じ込めたところで、何のメリットも見出せないと思うのだけれども。
だとすれば、何か理由があるのだろうか?
ここにいてくれという、ジィンたちの意思表示なのか?
剣を構えたまま、キアラは悩んだ。
けれど、とキアラは思う。
閉じ込めたのが、ジィンだとしても。ジィンだって、大地の民なのだ。
自由と力を愛する大地の民を、閉じ込めることの意味をわかっていないとは思えない。
軽く息を吸って、大剣を振り上げる。
仮に大きな音がしたとしても、人が集まってくる前に逃げ出せばいいだけの話だ。
そのまま振り下ろそうとして、キアラはふと動きを止めた。
マーリは、どうやって探せばいいのだろう?
探さなければとは思っていたけれど、いまさらそのことに思い至った。
ぐるぐると思考がムダに回る。
まわりすぎて、空回りしている気がしないでもない。
マーリがどこに行ったかということは、ジィンとカッツェなら見当がつくかもしれないけれど、王都に着たばかりの自分が推測しようというのはいささか無理があるような気がしてきたのだ。
この部屋には、二人のにおいしか残っていないし、それならばやはりここで待っていたほうがいいのだろうか?
「う~……」
自分の迷走する思考を扱いかねて、キアラは剣を下ろして低く唸った。
最善策がまるで浮かばないのは何故だろう?
ソファに剣を立てかけて、キアラはそっと窓際の方へと進む。
おうじさまがいるであろう、お城でもみつめれば、少しは心が落ち着くかと思ったのだが。
「え?」
ふと、窓の外を見下ろして、キアラは目をしばたかせた。
今更ながら気づいたが、ここはどうやら一階ではなかったらしい。
眼下を、ひょろんとした体型の男が長い手足をもてあますようにして走っているのが見える。のっぺりとした顔立ちの、細い目の男――カッツェだ。
「なに、してるんだろう……?」
わずかに目を細めて通りを窺っては見るものの、近くにジィンの姿はないようだ。
カッツェの後ろを小走りに駆けてくる、傭兵らしき男が、ひとり、ふたり、さんにん。
そうはやく走っている様子ではないが、もうすぐカッツェに追いつきそうな速さではある。
「逃げてる、のかな……?」
時折後ろを窺う様子のカッツェを見ていれば、その表現がしっくりと来るようだった。
あまり運動は得意ではないのか、カッツェの駆け方は本当に不恰好だった。
「えっと……」
とりあえず、助けるべきなのだろうか?
自分を閉じ込めた疑惑のある男ではあるが、マーリへと続く道筋の鍵を握っている男でもある。
ちょっと考えてはみたものの、もとよりキアラはあれこれと考えるのが得意な方ではない。ソファに立てかけてあった大剣をつかむなり、嵌めこみの窓を剣でなぎ払うようにして突き破った。
がしゃん!とひどく派手な音がする。
こちらに向かって走ってきていたカッツェはもとより、後を追ってきていた傭兵たちも驚いたようにこちらに視線をよこしてきた。
そんな彼らを一瞥して、キアラは窓から飛び降りた。
いくら太陽が真上に近い――つまりは昼時だとはいっても。
裏通りらしいこのあたりに、他に人影はほとんど、ない。
「おや、お嬢さん。起きたんだね」
森を駆け回っていたキアラにとっては、ニンゲンが作った建物の2階3階くらいの高さは、たいした問題ではない。大剣を負ったまま地面にとんでも、バランスを崩したりと無様なことにはならなかった。
ほんのわずかに息を切らせて、カッツェがそう声をかけてくる。
「おはようございます、カッツェさん」
「おはよう」
細い目をさらに細くして挨拶を返したカッツェは、そそくさとキアラの後ろに回りこんできた。
「いやぁ、助かったよ。ちょっと神殿にもぐりこんでいたら、見つかっちゃってねぇ」
どうやら、キアラに撃退してくれと言いたいらしい。
まったく困っていない様子で、助かったといわれても、むしろこちらが困るばかりなのだが。
更新あいてしまってすみません><