いつつめ。~Side:マーリ
どうしよう、と思った。
厳選したはずの『会』のメンバーに裏切り者がいるなんて。
いざという時の逃げ道である、姉のいる神殿までも手を回されて、芝居でもなんでもなく、本当にどうしようと思ったんだ。
そんなときに、ふとひらめいたのが。
資料館にいつもいる、灰色髪の大地の民の男のことだった。
なにをしているのか、わからない男。
姉の友人で、かわりもの。
けれど、大地の民だ。
戦闘に長けた民。
ならば、あるいは。もしかして。助かるかもしれない。
本当かどうかは知らないが、神の欠片を宿しているとか自称しているその男は、とりあえずいいやつだった。
自分の外見に惑わされて、いるのかどうかはわからないけれど。いつもよく構ってくれるし、ごろつきから護ってもらったこともある。
唐突に眠ってしまうのが玉に瑕だけれど。
見つければ、きっと。なんとかしてくれるかもしれない。
結構不純な動機から、ジィンを探して。
でも、寝ていて。
寝こけていたジィンの代わりに、大地の民の娘を雇うことにして。
意外と使えた『ジィンの代わり』に逃がされて門のところまで逃げてきたのは夕方こと。
約束の時間まではまだ少し猶予があるとはいえ。
いつ見つかるかわからないこの状況――ついでにいうなら、護衛すらもないこの状況で、のんびり夕食をとる気にもなれはしない。
くうくうと空腹を訴える胃をなだめながら、門に程近い木の上から様子をみていた、その時だった。
「……姉さま?」
思わずこぼれた、自分の声にどきりとする。
大きな門を出て行こうとする、簡素な駕籠。その、小さな窓からちらりとみえた、目隠しをされた女の横顔。
ほんの一瞬しか見えなかったけれど、あれはまさしく。
「……どうすれば」
たったひとりの、姉。
神子の神殿の筆頭巫女――神殿で、神官長と同位の彼女が、何故今。この時期に、駕籠に乗せられて王都から出て行くのか。
尋常ではない。
ましてや、数日前に、姉が予知た、砂禍の飛来。
伝説の中に語られる忘れられた神――死すべき宿命の神子の欠片が、禍をまとって降ってくるという。
そんな伝説級のトラブルがやってこようとしているこの時期に、筆頭巫女が目隠しをされて出て行く理由がわからない。