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忘らるる神の欠片~眠り男の英雄譚~  作者: rit.
あくと2 戦略的撤退?!
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とおとみっつめ。

 神様の、かけら……か。


 あまりにも現実的ではなくて、思わず胡乱なまなざしを向けてしまったが。

 宿の部屋に入るなり、寝台に倒れこんで、すうすうと眠ってしまったジィンを見ていると、それも真実かもしれないと、少しばかり思ってしまった。


 神様の欠片を拾ってしまった少年の、物語を知っている。

 死のうとしていた少年が、空から降ってきた欠片に当たってしまうという話だ。

 どうせ要らない身体なら、自分によこせという神様に。

 少年はその身を差し出すのだ。

 少年は、神様の力を借りて、乱れた国を治め、最後には王様になったと思う。


 物語はそこで終わっているから、少年のその後のことは知らない。

 けれど、物語であるくらいなのだから、神様の欠片という話は、もしかしたら本当なのかもしれない。


 キアラはひとつ、溜息をつくと。

 寝台で寝息を立てるジィンのきれいな顔を覗き込んだ。

 どうせ泊まるわけではないから、一部屋でかまわないといったけれど。

 同じ部屋で、ほとんど知らない人物が寝ているというのは、やはり少しばかり違和感があると思う。


 まぁ、同じ大地の民だからいいけど。


 眠るジィンの頬をつんつんとつつき、キアラはあまり上等ではないソファに身体を沈みこませた。

 細かい傷がたくさん入ったガラスがはめ込まれた、宿の窓。

 そこからは、天高くそびえたつ、という形容がぴったりの、白いお城がよく見えた。


「おうじさま……」


 ぽつりと呟いて。

 手のひらをぎゅっと握り締める。

 そんなに遠い場所とも思えないのに、どうしてすぐに行けないのだろう。


「ごめんね、力になりに行くって、約束したのに」


 この数年間、幾度も思い返した彼の顔を、もう一度脳裏に描いてみる。

 ほんの少し病的な、白い肌。

 月の光のような、細い金色の髪。青い青い、空のように青い瞳。

 寂しげに、わらう人だった。

 ニンゲンは怖いのだと教えられていたけれど、彼はとても優しくて。寂しそうで。せつなそうで。


 一度でいいから、心から笑って欲しいと会うたびに思っていた。


 彼が、なんのために。大地の民のすまう森にやってきていたのかは知らない。

 大地の民の力を借りにきたのかとも思ったけれど、誰一人として、彼についていった者はいなかった。


 ――私が、私が一緒に行く!


 哀しくて、切なくて。

 そう叫んだあの日を、覚えている。


 ――私が、おうじさまと一緒にいくから!


 あんなに寂しそうに笑う人を、一人にはしておけないと思った。

 けれど、キアラはまだ成人にはなっていなくて。

 成人していなくては、森から出ることは許されていなくて。

 結局一緒に行くことは、できなかった。


 ――キアラが、私の味方でいてくれるのだと思うだけで、心強く在れるよ。


 ――行くから! 大人になったら、きっと会いにいくから! 力に、なれるように……


 

 人間にとっての約束は、大地の民の約束ほどは重くないと、あにさまもあねさまも言っていた。

 けれど。

 おうじさまはきっと、約束を覚えていてくれると思うのだ。

 覚えていてくれると、信じているのだ。


 何年たっても、きっと。

 待っていてくれるのだと、信じている。


「ごめんね、おうじさま。絶対いくから、もうちょっと、もうちょっとだけ、待ってて?」



 すぐに行くつもりだったけれど、マーリと出会ってしまったから。

 おうじさまとおなじ、金色の髪の毛と、青い瞳の女の子みたいな男の子。

 あんなに困っている子をほっていくことなんて、できない。だから。


 もうすこしだけ、まっててほしい。

 おうじさまには、一番大切なひとは味方になってくれなかったかもしれないけれど。

 他の味方はいるでしょう?


 でも、あの子は今、ひとりぼっちだから。


 目に映る全員を助けられるほど、強くないのはわかってるけど。

 それでも、力が貸せるのなら、役に立ってあげたいと思うから。




 お城から視線をそらして、キアラはソファの上で膝を抱え込んだ。

 眠るつもりはないけれど、このあとどれだけ動かなくてはいけないかわからないのだから、少しくらいは休んでおかなくてはならない。

 まぶたのうらで。寂しそうに笑っているおうじさまに、まっててと話しかけて。

 キアラは深く息を吸い込んだ。

回想編をちょっとはしょってしまったので。

次話は新章にいきますー

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