ここのつめ。~Side:ジィン
今回はジィン視点での話となります。ふたつみっつ続く予定です。
疑ってるなぁ……
大地の民にしては、華奢で小柄な金茶色の髪の娘。
黄金色の瞳は、大型の猫科の獣のようで、かわいらしいと思う。
先ほど知り合ったばかりのこの娘――キアラは、ひどくうろんな眼差しをこちらに向けていた。
おれだってさ。
ふつーに、神様がこの身に宿っているんです、と言われたらこういう反応をすると思うんだ。
いや、もしかしたら、もっとひどい反応をするかもしれない。
※ ※ ※ ※
「待って!」
最初に声をかけられたときは、空耳だと思った。
あいにくと王都ディディンに、大地の民の知り合いは誰もいない。
普通の知り合いだってほとんどいない。
知り合いといえるのは、なんだか後ろ暗い係累がやたらとありそうなのに、美少女のような外見をしたマーリという少年くらいなもので。
あとは知り合いとさえいえないような、顔くらいはしってるかもー?というような関係ばかりだ。
「待って、お願い。あにさま、待って!!」
あにさま、という単語に無条件に体が反応した。
誰が決めたか知らないが、大地の民は皆家族、という主義の下。年長の男はみなあにさま、女はあねさまと呼ぶ風習があるのだ。
王都にきてからこそ、自分をそんなふうに呼称する相手はいなくなったが、昔はあにさまとよく呼ばれていたものだ。――その過去が、足を止めさせた。
厄介ごとには、極力関わりあいたくなかったにもかかわらず、だ。
その瞬間、目深に被っていたローブをつかまれた。
大地の民の外見は、王都で悪目立ちする。その特徴ともいえる獣のような耳を隠すために被っていたローブが、引っ張られた衝撃で、はらりと落ちた。
「……大地の民?」
思わず不審げに娘を見やってしまったのは、大地の民としては、あまりに小柄だったせいだ。
本当に成人しているのか?とさえ思ったが、そもそも大地の民は成人しないうちは森から一歩も外へ出してはもらえないものだ。よほどの事情がない限りは。
その背に、体格に不似合いに大きな剣を背負っているのも、成人の証かもしれない。
「あにさま」
弾んだ声で、キアラは言った。
キレイな黄金色のまなざしが、期待に溢れてキラキラと輝いている。
なんて無垢な表情だろう。
その真っ白な笑顔が心に刺さる。なぜか心臓がどくんとばかりに大きく跳ねた。
「あにさま。私はキアラといいます。お願いです、助けてください、困ってるんです」
逃がすものかとばかりにキアラはローブを握る手に力をこめて、必死な面持ちでそんなことを言った。
はぁ、と間が抜けた声を上げてしまったのは、しょうがない。
同族の娘に助けを求められるとは思わなかったせいだ。
「ね、あにさま。困ってるんです」
確かに、困っているふうではあった。
けれど。なぜにそこで、助けてくださいというのか。
判断を下しかねて、ただ瞬いた。
「おれは、ジィンと言うんだが……」
一応名乗りを返しながら、思ったことはただひとつ。
とりあえず、落ち着こう。
それだけだった。