いつつめ。
膝から力が抜けて、もうたっていることさえも出来ない。
キアラが震える膝をついに地面につこうとしたとき、横合いからのびてきた力強い腕がキアラの腰をさらった。視界の端をかすめた、二の腕の複雑な紋様。心地よく香った、世界樹のにおい。
「なにをしているんだ、キアラ」
背中が人肌にぬくい。
腰を抱えられているせいか、からかうような低い声音が、体の底に響く。
「ここは森でもなければ、仲間内でやってる遊びでもないぞ。失敗すれば、死、あるのみだ」
声が近い。
あたたかな息が、耳にかかって、なんだか背中がぞくぞくする。
「わかってる、けど」
自分の声は、ちゃんと言葉になっているのだろうか。
舌が痺れて、なんだかひどくしゃべりにくい。
「わかっていないだろう。手段を選ぶなよ。命を奪え」
森から遠く離れていても、王都でも。大地の民は、やはり大地の民で。知り合ったばかりだとしても、大地の民の兄らしい性質は万国共通らしい。
兄や姉たちが言いそうなことをジィンも淡々と諭すようにいった。
肯くかわりにキアラが息をついた後、ジィン、と呟くようにくちびるを動かせば。
なんだと低く声が返った。
「マーリは……?」
「その辺りにいるんじゃないのか」
「あの子、を」
「お前のほうが現在危機に面していると思うんだけどねぇ」
マーリを頼む、といいたかったのに。
ジィンの返答は素っ気なかった。
風向きが変わったのか、マーリが遠く離れたのか。
マーリの匂いはもうしない。
身体に力が入らなくて、だらんとジィンの腕に抱えられたままだらけていると、ジィンが呆れたように息を吐くのがわかった。
「おい、あの前向きすぎる質問はどうしたのよ?」
髭面を始めとし、傭兵の面々をまるで無視したその様子で、ジィンはそのあたりに転がっていた木箱にキアラを座らせてくれた。
ほんの少し眉尻を下げて困ったように聞いてくる。
何の話だと視線で問えば。
「選択は二択。もとから助ける気なのか、今助ける気になったのかってあれだよ」
ぽふぽふと大きな手でキアラの髪をかき回し。
ジィンは空いた手で地面に転がっていたキアラの大事な大剣を拾い上げた。
「答えは起きてからって言っただろ?」
キアラには大きすぎるその剣も、ジィンが持つとちょうどいい大きさに見える。ならすように一振りしたあと、ジィンは剣を片手で構えて、いささか横柄に傭兵たちを見渡した。