さんざし/唯一の恋
今年のバレンタインデーも終わり、もうすぐホワイトデー。
前まではピンク色と茶色に染まっていた駅前は今ではすっかりピンク色のリボンに白っといったホワイトデーの飾りつけとなっていおり、この2ヶ月は駅前のお菓子屋が異様に張り切っているのが目に見える。
今年ゲットしたチョコレートは1個。
もちろん光流のチョコレートだけだ。
料理が苦手な光流がくれたトリュフは少し硬かったし、苦かったけれど、これを仕上げるために一生懸命に頑張ったんだろうな~と思うとすごくうれしくて一日でぺロリと平らげてしまった。(もう一個貰った高級チョコレートは光流と二人で食べた。)
他の奴が作った手作りチョコや焼き菓子だったなら俺はきっと口に入れなどはしない。
だって何が入っているかわかったもんじゃないし、チョコレートなんて好きな人からだけで十分。
ってなわけで手渡しされそうになったチョコレートはもちろん断り、机に入っていた身元不明のチョコレートは少しは悪いと思うけれど母さんの胃袋へ。
「植野~、お前って本当に罪な男だよな。」
「あ?」
唐突に名前を呼ばれ、俺は読んでいた雑誌から顔をあげる。
黙って俺の前の席に腰をおろすそいつは比較的仲のいいクラスメイトであるありがちなお名前の田中。
「いきなり何の話だよ?」
「一ヶ月くらい前の事です。・・・あなた僕らのクラスのマドンナを振りましたね?」
「・・・?」
「そこで小首を傾げるんじゃねー!!沢尻さんだよ。さ・わ・じ・りさん!!このクラスにいるだろう?」
そこまで言われて「ああ。」と思い出す。
そういえばバレンタインデーにチョコレートを貰った覚えがある。
バリバリ手作りのチョコレートマフィン。
お菓子作りがうまいと教室で言うだけあって焼き加減も形も素晴らしいものだったがどうしても口に入れる気にはなれなかった。
それに俺には光流がいる。
「もらえる訳ねーだろ。俺には光流がいるんだから。」
「ひ~か~る~?」
名前を一言発しただけで田中の目がキラリと光った気がした。
とりあえず気づかないふりして目の前の雑誌のカラーページをくいるように眺める。
コレでも俺は困っているのだ。
「お前彼女いたのかよ!!」
「・・・。」
「ってかシカトかよ!!」
どこかお笑い芸人を彷彿とさせながら奴は俺の手から雑誌を奪いさる。
「何々~?『女性が喜ぶプレゼントBEST10♪』・・・・植野がキモイ!!」
そういいながら奴は震えから自らを守るように両肩を押さえ、俺を化け物を見るような目つきで眺めている。奪い去られたピンクの文字の女性誌は教室の床に叩きつけられた。
自分でもキモイと思うけれど仕方無い。
だってもうすぐ14日なのだ。14にって言うのはホワイトデー。
ホワイトデーはお返し(気持ち)をあげるものだろう。
中学生の時はバイトも何もできなかったから柄にもなく手作りクッキーを光流にあげていたが高校生となった今ではバイトもできるし、奮発しようと決めていたのだ。
その日のために光流にばれないようにアルバイトだってしたし・・・。
しかし・・・肝心の光流の欲しいものがわからない。
光流はきっと俺がやるもの何でも喜ぶと思うがそれでは男の沽券にかかわる。
今年は何としてもびっくりさせるのだ。
そのためにこうして柄にもなく、女のものの雑誌で調べているというわけなのだ。
俺は今は神というべき雑誌を拾い上げると机に置き、そしてそれをまた無言で読み始める。
田中はというと一人コントに飽きたのか先ほどと同じ様に前の席に座ると俺の机にひじを立て俺を眺めている。
「向こう行け。うざい。」
「す・・・菫ちゃん、ひどいよ・・・僕ちん泣いちゃう。」
「・・・。」
「す、すみません!!シカトしないで!!一番堪えるから!!」
お前は俺に何を求めているんだという目でじぃっと田中を見つめると奴は慌てて雑誌の真ん中に載っていたものを指差す。
「これなんか女の子に人気あるらしいよ!!」
・・・不気味なキャラクターのTシャツ。
こんなものを欲しがる奴が本当いるのだろうか?
唸りながらそれを見る俺を田中が小さく笑う。
「・・・何がおかしいんだよ。」
「だってこの植野が『好き』とか女の子に言ってると思うと笑えてきてねぇ~・・・」
「・・・!!!」
それを言われて俺は気がついた。
あれ・・・?俺、光流に好きだと言ったことあったっけ・・・?
雑誌に載っている不気味なキャラクターが俺をあざけ笑った気がした。
+++
小さい頃はよく言った。
「ひかるちゃん、だーいすき。」
そういうと光流はにっこりと微笑んで頬にキスしてくれたものだ。
・・・っていくつの時の話だよ!?(田中が乗り移り)
それにしても・・・田中ごときが言った言葉で気づくなんで・・・。
ここは一つホワイトデーを甘い雰囲気にしつつ、その○○(伏字意味なし。)という言葉を光流に。・・・恥ずかしすぎる。
ベットの上で俺は火照った頬を両手で覆い隠しながら天井を今生の敵というように見た。
「俺は乙女かよ・・・。」
非常にキモイぞ。俺。
こういう乙女思考は光流の専売特許だっていうのに・・・。(ばれてます。)
とりあえず・・・俺は身を起すとカドが大分ボロボロになった雑誌(あの後また田中に投げられた)を拾い上げると顔の上に持ってくる。
贈り物を決めなきゃな・・・。
+++
(当日)
学校が終わったら着替えてそのまま荷物を持って外へ出る。
妙に胸がドキドキと音をたてる。右手に持った紙袋にはこの日のために一生懸命決めた贈り物が入っている。
目の前には見慣れた光流の自宅。
勝手知ったる他人の家ってね。俺はドアノブをひねるとそのまま靴を脱いで入りこむ。
「光流ちゃぁ~ん?」
「菫ちゃん!」
一回呼んだだけで二階から光流が嬉しそうな様子で降りてくる。
仕事が早く終わるっていうのは調査ずみ。
今日の格好は黒のロンTにジーンズというラフな格好で光流のスタイルのよさが浮かびあがっている。ひいき目を抜いたって光流はその辺の女よりも可愛いと思う。
笑うとできるエクボがまたたまらない。
「今日はホワイトデーの贈り物を持ってきたんだ♪」
「あ、ありがとう!!とりあえず居間に行こう。今、お母さんいないんだ。」
俺は「そうなんだ~」と言いながら光流に案内された居間に入り込む。
おばさんには悪いけれどいないのは好都合だ。
光流を目の前にして改めて高まる鼓動。
落ち着け俺。ただホワイトデーのお返しを持ってきただけなんだから。
まず紙袋の中からクッキーを取り出す。
○リーズのクッキー。光流の大好物。
「はい、コレ。お返し。」
「わぁ~!!ありがとう!!すごく大好き!!」
その包みを受け取って微笑む光流は本当に可愛い。
笑顔に見とれつつ、俺は小さな紙袋の中からもう一つ贈り物を取り出す。
それは小さな小さな箱。
「もう一つあるんだ。」
「もう一つ・・・?」
「うん・・・。受け取ってくれる?」
パカっと音をたてて箱を開けるとそこにはシンプルなシルバーリングが入っている。輝く宝石も何もないリング・・・情けない話だけれどコレが今の俺の限界地。
光流は魅入られたようにそれを見つめている。
「菫ちゃん・・・?」
「僕・・・俺、光流が好き。」
恐ろしいほど心臓の心拍数が高まる。
今までコレほどまでに緊張したことがあっただろうか?中学の時に一度だけ立った舞台の上だってここまで緊張したことがなかった。
今まで何故か怖くてそらしてた瞳を真っ直ぐに光流に視点をあわせると彼女は少し、潤んだ瞳で俺を見ていた。
「コレで俺と・・・婚約してくれる?」
前のプロポーズは光流から。
今度のプロポーズは俺から。
光流はとうとう涙を溢れさせながら俺の首に手を回して抱きしめてくれる。
ふわっと鼻腔をくすぐる甘い匂い。
俺はその背に手を回しながらふと気づく。
前は光流のほうが10センチほど身長が高かったのに今では俺のほうがほんの少しだけでかい。前に躍起になって牛乳を飲んだことを思い出し、少しその成果が出たのだろうかとほくそ笑む。
「わたしも菫ちゃんが・・・好き。」
光流が小さく俺の耳元でささやく。
その言葉に全身かカーっと熱を持った気がした。
俺の恋人は光流。光流だけ。光流だけが唯一の恋。
「はめてくれる?」
身体をゆっくりと離し、光流が窓から差し込むオレンジ色の光を浴びながら俺に微笑み、言った・・・。
時季はずれパート2・・・
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