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ふじ/恋に酔う

「ただいま。」



菫はそういうといつものように靴を脱いで家に上がる。

その間にも学ランの一番上のボタンを緩めほっと息を吐き出した。

そこで幼なじみの顔を思い出して菫はふっと笑う。

光流は菫には秘密にしているつもりらしいが、学ラン好きだ。菫が入学式の日にこれを身につけて挨拶に行った時の真っ赤な顔を思い出す。

菫はクスクスと笑いながら、真っ直ぐにリビングへと向かう。

リビングから見えるキッチンには菫の母が料理に勤しんでいる。

まもなく香ばしい香りが漂ってくるだろう。



「母さん、光流は?」


「帰ってきてすぐそれなのね~・・・菫は。」



呆れながら母はそういったが、その声音は楽しそうだ。



「さぁ・・・?まだ仕事が終わってないのかしらね?光流ちゃんは頼りになるお姉さんタイプだもの。もしかしたら、まだ部長さんが放してくれないのかも。」


「いや、それはないよ。部長の誘いでも光流なら断って俺のとこまでかけてくるよ。・・・だって今日は一緒にケンタ食う約束したんだから。光流なら俺を腹ペコにさせないはずだぜ?」



ニヤリと笑いながらソファーに腰を下ろす息子に母は呆れたようにため息をついた。

光流の前に居る時の菫は恐ろしくキャラが違う。

その使い分けを菫は小さいころからしているのだ。

光流も気づきそうで気づかない。

もしかしら根本的に鈍いのかもしれない。

だって、光流の他の人物は誰もがみな菫の本質を知っているのだから。

目の前の菫といえば、早速ホワイトの携帯を取り出して光流の番号をコールする。

呼び出し音は鳴るものの光流が出ることはない。

菫はちっと舌打ちをするとソファーから立ち上がった。



「母さん、俺でかけてくるわ。」


「ちょ・・・!どこに!?」


「光流のとこ♪」



そういうと菫はまずは着替えにと二階の自分の部屋へと向かった。








「光流の会社から近くて・・・飲み屋で、大勢でも行けるところ。」



菫は携帯を片手にネオン街をゆっくりと歩いていた。

白いダッフルコートを羽織った天使のような容貌の少年は夜の街にはまるっきり似合わない。

っとその時だった。余所見をしていた菫は目の前のがたいの良い人物にドシンと音を立ててぶつかった。

「あ。」と呟いた菫の携帯が宙を舞ってカシャンと音をたてて路上に転がった。



「てめぇ・・・前見てあるいてんのか?」



ぼうっと路上を眺めていた菫に声を掛けたのはいかにもという感じの刺青が入ったスキンヘッドの男。

口元にはにやにやとなめたような笑みを浮かべている。

菫はふっとそいつの顔を見てにっこりと笑うと言った。



「この辺でいい居酒屋知らない?」


「は?」



突然訪ねられたスキンヘッドの男は困惑に顔を歪ませた。

極上のカモを捕まえたつもりだった。・・・こんな場所のこんな時間に居る極上の獲物。

そのはずなのに、そのカモは自分を恐れずにこちらを見つめ返してきている。

かなりむっとした彼はそれをそのまま言葉としてぶつけた。



「知るわけねーだろ!!いい加減にしろや!お前!人にぶつかっといてその態度・・・っ!!」


「な~んだ。・・・んじゃ用は無いから消えて♪」



にっこりと笑う天使のような少年をスキンヘッドの男は唖然と見やった。

そしてその火蓋は落とされたのだ。







「こ、ここです・・・。」



スキンヘッドの男は痛みで顔を歪めがら自分のバイクの後ろに乗っている少年に声を掛けた。

菫は目の前のいかにも居酒屋という感じの店を見るとバイクからひょいと降りた。

そして首をゴキっと鳴らすと後ろにいる男を見た。



「ん。ご苦労。もう、行っていいぞ。」


「は、はい。」



そういうとバイクはすごいスピードでそばにあるゴミ箱を散らしながら去って行った。

菫はそれをたいして気にもせずに居酒屋の引き戸に手をかけて開けた。

ガラガラという音と『いらっしゃいませ~』という元気の良い店の主人の声。

主人はこの居酒屋には似合わない菫の姿に顔をかしげた。

いかにも『ここは坊ちゃんがくるような場所じゃないぞ』と言いたげである。

菫はそんなことお構いなしに店内へ足を踏み入れると辺りをキョロキョロと見渡す。

っと、座敷席の場所に置かれた沢山の靴の中にある見慣れた黒いハイヒール。

ビンゴだ。

菫は唇を舌でなめるとそこへ真っ直ぐと向かう。

ひょいっと覗くとそこに見えるサラサラヘアのキツメの美人。

ふっと自然に口元に笑みが浮かぶ。

世界で一番愛しい人。

光流はと言えば後ろにいる菫にはまったく気づかずに友人に何か囁かれると叫んだ。



「っぷは~!!そ、そんなことないもん!」


「なにが、そんなことないの??」



首をかしげた菫がすかさず相槌を打つと驚いた顔をした光流と彼女の隣に座った友人がこちらを見る。



「す、すみれちゃん!!」



目を白黒させながらこちらを見る光流は恐ろしいくらいに可愛い。

自分の腕に閉じ込めたくなるのをこらえて菫はいつものようににこにこと微笑んだ。



「う??なぁ~に~光流ちゃん??」にっこり



その表情に一瞬光流は顔を染めるとキョロキョロとしだす。

そして菫の姿を見ると一瞬、止まり、顔を今度は青くすると叫んだ。



「す、菫ちゃん、え、襟のところにち、血が~!!」



菫は、襟のところをちらっと見ると心の中で舌打ちした。

襟元にはどす黒い何かがこびれ付いている。

先ほど、喧嘩した時に相手の血がついたようだ。

菫はふっと口元を緩めると光流の方に向き直った。



「うんとね~ケチャップだよ~お昼ご飯が、オムライスだったの~」



それはケチャップというには、あまりにもどす黒かったが(心の中で誰もが『いや、血だろ!!』と叫んだが・・・。)光流は安心したようにほうっと息を吐いた。



「そっか~、ケチャップか~菫ちゃんが怪我したのかと思ってびっくりしたよ~」



光流は素直で可愛いなぁ~と思いながら菫は襟元の血を手でこすった。

やはり落ちそうに無い。

少し、気に入っていたシャツだったので頭にきたが目的は果たせそうなのでよしとする。



「そういえば、なんで菫ちゃんここにいるの??」


「光流ちゃんを迎えに来たの~、一緒にお家帰ろ~」



そう。今日はその目的でここまで来たのだ。

これから一緒に帰って一緒に夕飯を食べる。誰にだって邪魔させるもんか。

菫はそう思いながら、とっておきの上目遣いに光流を見つめる。

顔を染めた光流にあっという間に勝敗は決まった・・・。








二人で歩く帰り道。

菫は思い出したように呟いた。



「あ。」


「どうしたの?菫ちゃん??」


「さっきの居酒屋さんに忘れ物しちゃったから、ちょっと取りに行ってくる~少し待ってて~」


「え、え、え、す、菫ちゃん危ないから私が・・・」



光流が言いおわらないうちに菫は駆け出す。

あの居酒屋で行われていたもの。

菫は容易にそれが想像できて唇をかみ締めると来た道を大急ぎで駆け出す。

俺の可愛い光流を合コンとかいう狼の群れに連れてくとはいい度胸じゃねぇか。

ふと先ほどの合コンにいた男達の顔を思い出す。光流に向けていた視線。

・・・出る杭は早めに打てって言うし、馬鹿な奴が光流に手を出さないように仕向けなきゃな~。

と思いながら菫は光流には間違っても見せない不敵な顔で笑った。



人のものに手を出すとバチが当たるんだから。



その後居酒屋が騒然となったのは言うまでもない。











誤字がございましたら、こっそり教えてください。。。

こっそり直します。。。


感想頂けたら・・・こっそりPCの前で踊ってます(ぇ


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