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ハリエンジュ/慕情

大きな窓に映る景色はゆっくりと流れていく。

カタンカタンと小さな音を立てて電車は私と菫ちゃんを乗せて目的地に向かっていく。

隣を見ると端正な彼の横顔。

幼馴染として育った彼とは今まで何度も出かけてきたけれど今日はいつもの外出と

は訳が違う。

互いに気持ちを確認しあってのはじめてのデート。

ドキドキを高鳴る胸。

だけどそれだけじゃない。

私の熱い視線に気づいた菫ちゃんがふとこちらに視線を向け瞳だけで「どうかした?」と問いかける。

その表情に「何でもないよ」というように黙って首を振りながら私は彼を見つめる。

座席に座っていると感じない。

菫ちゃんはここ一年で随分を身長が伸びた。

入学したときは確かに私のほうが大きかったはずだが今では視線が同じ・・・いやもしかした少し上かも。

それにいつもなら白を基調としたどちらかといえば可愛らしい服を着ていたが今日はそんなこと全然なくて違う人といるようでドキドキする。

お出かけというと大抵私がどこに行く、何をすると予定を決めてきたけれど今日は菫ちゃんが全部決めてくれた。

そして私はどこに向かっているのかさえも知らない。

菫ちゃんに聞いても微笑んで(きゃわゆい!!(ノ∀\*))「ひみつ♪」というだけ。

地元の駅を離れて普段は乗らない電車に乗り換えもう随分とたっているけれど目的地はまだなようで窓の風景はすっかりとかわり今では大きな海が顔をのぞかせている。

風景からここがなんなのか探ろうとするけれど全く検討がつかずぼうっとしていると車内アナウンスはある場所で有名な駅名を告げる。


「光流、おりよう。」


ぼうっとそれに聞き入っていると菫ちゃんに声をかけられ、手を引かれる。

電車を降りると冷たい風が頬をなでる。


「菫ちゃん、ここって。」

「水族館。・・・昔、家族で行ったよね。」


駅の階段を下りるとすぐさまに見えてくる大きな橋。

橋を渡ると遊園地も内蔵された大きな水族館が見えてくる。

休日ということもあり、家族連れや手をつないだカップル、友達同士で来たのであろう学生らしい少年少女の姿がある。

すぐさまチケット売り場に並び、入場に必要な腕輪のようなものを購入してくれた菫ちゃんが私に差し出してくれる。


「菫ちゃん、チケットいくらだった?」

「ううん。いいよー。」


財布を出そうとする私の腕を掴み、菫ちゃんが止める。

「でも・・・。」と言いよどむ私に菫ちゃんは苦笑して「光流はご飯おごって?」と小首を傾げて微笑んで見せる。


・・・か、可愛い。


条件反射で上下する顔。

あ。しまった。流された。

ちらりと菫ちゃんを睨むように見るけれど彼は優しく笑うだけ。

私に対する菫マジックは今日も継続中。


+++


薄暗い施設内。

淡くライトアップされる水槽はまるで深海のよう。

地上ではとてとてと危なっかしく歩くペンギンは空を飛ぶように水中を泳ぎ、小さなイワシは群れをつくりライトにきらめく身体を反射させる。

一匹では非力な魚は強靭な肉体を持つ天敵に対し群れをなし、力を合わせて自分たちを一匹の大きな魚だと装い撃退することがあるという。

顔を近づけて魚を眺めているとふと水槽のガラスに菫ちゃんが映って見える。

菫ちゃんは口元を微かにあげてこちらを見ている。・・・こちら・・・ううん。

わたしを見て幸せそうに微笑んでいる。

それに気づいたとき全身の血が逆流するような感覚に陥る。

最近、菫ちゃんは大人っぽくなった。

身長が伸びたということももちろんあるけれど、ふと見せる表情が依然とは違い、なんというか色気が・・・。

菫ちゃんが何故か遠くに行ってしまうような感覚に陥り、名前を呼ぼうと口を開こうと・・・。


「植野くん!!」


遮られる私の声。

顔を互いに見合わせ、瞳を瞬かせながらそちらを見ると四人の男女がこちらを見ていた。

私たちに声を一番最初に声をかけたふわふわとウェーブをかけ全体的に女の子の雰囲気をかもし出す子が菫ちゃんにかけよる。


「沢尻・・・。」

「植野くん奇遇だね!!」


瞳をきらきらと輝かせ菫ちゃんの腕にそっと手を当てる彼女は全体的に「好き」というオーラをかもし出している。

上目使いで菫ちゃんを見上げる彼女はどこからどう見ても守ってあげたくなる女の子。


「美帆。いきなり走っていかないでよ。」

「植野くんてこんなとこ来るんだね。」


彼女の後を追ってこちらにやってきた三人の男女。

黒髪ボブのどこか大人っぽい香りをかもし出す彼女に黒いふちのいかにも真面目そうな男の子。


「やぁ、植野くん。」

「・・・よう、田中。」

「うぅぅ・・・いや、あのほらここ今日は学生パスが安いからさ。」


心のなしか半眼で挨拶する菫ちゃんにどことなく青ざめた表情のいかにも元気印というような茶髪短髪青年が言う。

そのままぎゃいぎゃいと会話を続ける四人。

それは出された宿題が~とか○○先生が先ほど○○駅で奥さんと手をつないで歩いていたとか・・・私にはわからない会話で、その中で私には見せたことない表情で友達と話す菫ちゃんは遠くて。

ただぽつんと眺めていると一人冷静にみんなを眺めている眼鏡の青年と目が合う。


「植野くん、この人は・・・。」

「あ・・・っと、この人は・・・。」

「知ってるー!!・・・隣のお姉さんでしょ?」


説明しようと口を開く菫ちゃんの声を遮る女の子。

ぱちりとでかい目をかち合う。

ニコリと笑う彼女。

でも全然瞳の奥に親睦を深めようとする意志などなくてあるのは敵意。

彼女は知っている。


「違う。光流は・・・。」

「ね、植野君、一緒にまわろうよ!あっちで、大きなジンベイザメいるよ!」


強引に菫ちゃんの腕をひく彼女。

傍若無人な態度だがそんなこともどこか許される可愛らしい女の子。


「すみません。あの子…わがままで。」


申し訳なさそうにそんな彼女の態度を謝る黒髪の女の子はまるでお姉さんみたい。

首を左右に振るけれど気持ち的にはとても不安で。

視界の遠くでは大きな水槽の前にいる菫ちゃんとクラスメイトの彼女。

耐えようとするけれどやはり心の奥深くで何かが襲ってきて・・・。


「ごめん。・・・ちょっとカフェに行ってるって菫・・・植野くんに行っといてくれる?」




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