空白の日常
「今日の天気は雨のち曇りです。なお、北関東は夕方、所々でにわか雨が降るでしょう。」「さぁーてこの後は、最新のスイーツのご紹介!池袋駅直結の…」 ピッ。「(スイーツはあんまり食べないんだよなぁ。今お腹いっぱいだし、そろそろ会社に行く準備始めるか。)」テレビのリモコンは使ったら定位置に戻す。定位置は決まっていてテレビボートの左前側、エアコンのリモコンの右側だ。テレビリモコンには薄くサランラップが巻いてあり、埃がつかないような工夫が施されている。スマートフォンにケースを付けたり保護フィルムを貼ったりするのと感覚的には同じことなんだろうけど、ボタンは押しにくいし、見た目もおばあちゃん家みたいで少しダサいなと思ってる。それでも、今までやって来た事は体に染み付いているもので、そう簡単には辞められないものだ。
「(今日は雨が降っているっぽいな)」。雨の音で目覚めたし、カーテンからは雨の日の光量しか入ってこないし、雨特有の匂いも、ほのかにする気がする。「(雨の日の匂い好きなんだよなぁ)」。そんな誰も聞いてない事を考えながら朝ごはんの食器をシンクに運び、水を出して少しお湯に調整する。「(お湯に振りすぎると熱くて火傷するから難しいのよ)」。逆さジョイ持ってスポンジに少し出す。「(これも加減が必要なのよね)」。最近、洗剤の減りが早く感じるが、筋トレを始めた事が原因なのでは?と昨日から考えている。このように慣れた手つきで洗い物を始めた。皿洗いは好きだし、得意分野だと思っている。限られたテリトリーの中に毎回食器がランダムに積み重なっていて、それをいかに効率よく洗い終えるか、水切り場所に上手く積み上げられるか、パズルゲーム感覚に近いのかもしれない。動物タワーバトルの逆、ブロックスの1人版と言ったところだろうか。そう言うゲームが得意と自負しているし、好きである。だからこそ、キッチン周りの管理者として認定されているのだろう。今日の対戦相手は昨日の夕飯と今朝で出力された食器共か、あまり溜め込む方ではないので、今日のレベルは5段階評価の3と言ったところだ。ちなみにマックスはシンクからフライパンや鍋が溢れるレベルで、食器水切りゾーンに収まらないレベルを指標としている。そんな事言ってる間にレベル3のパズルを難なくこなした。「(洗い物完了っとっ!)」。ちなみに管理者認定されてるキッチン周りとは、シンクだけではなく、まな板ゾーン、コンロゾーン、冷蔵庫内、レンジなども含まれる。ふと、コンロゾーンに目を向ける。昨日の夕飯はピーマンの肉詰めを作った。いつもなら、コンロは使ったらすぐコンロクリーナーで掃除するし、五徳は週に1回は食器と一緒に洗う。別に綺麗好きなわけじゃないと思ってたが、世間的には綺麗好きに分類されるらしい。ピーマンの肉詰めの味付けはトマト煮と決まっている。コンロの所々からちらちらと反射するトマトソースと肉汁が混ざった油が会釈してる。会釈されると反射で会釈してしまう経験は皆あると思うが、後から(あれは誰だったのか?)(もしかして、今ので知り合いカウントされたりしてないか?)(今度会った時は話しかけられるのでは?)などの被害妄想をよくしてのではないだろうか。「(次はコンロだな)」。クリーナーを1枚取る。閉める時は勢いよく閉めたほうがピッタリ閉まって中の水分が抜けない。長年の経験を活かして、「パッッン!!」。これで良い。家のコンロ周りは白いタイルになっていて磁石はつかない。そもそもコンロ周りに何かを常設する事はしない。生活感が出てしまうからだ。タイルについている薄めの赤いソースを拭く。タイルは返事をしない。「(確かに掃除はしやすいんだけど、胡椒とかいちいち引き出しから取らないといけないのが面倒だ)」。コンロについてる汚れをとる時は、タイルとは違う。こいつは返事をする。「キュッ!キュッキュッ!!」。「(やろ?これくらいでええか?)」。「…。」。彼が無言なのは、昨日掃除をしなかったからではない。LINEで最後に意味のないスタンプを送って自分が最後になるのを避ける人間がいるが、ウチのコンロは違う。用がなくなれば自分から会話を終わらせてくれる。少し寂しいがこれでいい。昨日は疲れていたんだ、色々あったから。それでも、ピーマンの肉詰めを作った。美味しかった。ピーマンを切ってタネを取り挽肉と片栗粉でつなげて蒸し焼きにするそして市販のソースで和えるっ。それだけだ。最後に市販のソースで和えたら料理と言えないのでは?と思ったりする。料理とは何か?みたいな抽象的過ぎる話題は得意じゃない。数学や物理学のように公式がある問題以外は人の数だけ答えがあるもんだと考えている。「(それを多数決などで無理やり正解を作るのが世論というものなのだろうな)」。会社への通勤はドアtoドアで1時間程度の電車通勤、満員電車ではないが、空いてる訳でもない、座れるのはたまにと言った感じで、後10分ぐらいで家を出ないと行けない。今日は水曜日、週の中で1番力が入らない曜日かつ、僕の地区では燃えるゴミの日に当たる。「(燃えるゴミをまとめないとな)」。もちろん昨日は洗い物をサボったくらいなので、ゴミなんかまとめていない。机、洗面所、寝室、キッチン、家に計4つあるゴミ箱からゴミを順番に回収しては、替えのスーパーのレジ袋を入れておく。レジ袋は5〜8円が主流だから週40円の袋代が掛かってるわけだ。ゴミ箱をたくさん配置するのはコストが掛かるわけだが、近くにゴミ箱が無いのもコストが掛かるだろう。一つしかない場合、毎回キッチンのゴミ箱まで捨てに行かないといけない。どちらの方がコスパが良いのか?という疑問に対して計算するコストを経費として計上しようとしたが、僕の中の経理部浪費防止課から突き返されそうなのでやめておく。逆に家まで食材を運ぶという役割を終えた悲しきレジ袋に、ゴミ袋という新しい役割を与えているのだ。僕の中の人事部役割分担課の采配を賞賛しよう。最後のゴミを回収し、半透明な45リットルゴミ袋の口を縛る。蝶々結びだと解ける可能性や少し匂いが漏れる可能性があるので、引き解け結びにすることが多い。もしくは、す、のように縛ることもある。これだと解けにくいし、匂いも漏れないのだ。家出まで、後5分、この5分と言うのが僕は好きじゃない。何かやるには時間が足りないのだ。ベットなどに横になったりしたら運の尽きだ。企画部長はこう発言する「(こう言う日はいつもより早く家を出て、街角で運命の出会いをした場合の応対時間に当てることにしたらどうだろうか?余裕がある男は魅力的ではないか?)」。家から最寄り駅までは一本道で僕が左折や右折をする事はない。なので相手がよっぽどアウトラインからコーナーインして来ない限りありえない話だ。また、朝からそんなに忙しない人が僕の運命の相手というのを、受け入れるのに時間が掛かるだろうし、そんな提案は役員承認が下りる前に取り下げていただくことする。そんな事を考えているとアップルウォッチが振動し家を出る時間になった事を僕に伝える。家の中で会話できるものはいくつかあるが、触れて伝えることが出来るのはコイツぐらいだ。僕はコイツには一目置いている、「(「まだ若いけど将来は有望だ」)」。と、周りの奴らに言うことでコイツが出世した時、「(「ほらな」)」、と言える。見返りなんか求めちゃいない。自分の目に狂いは無かったと思える、それだけで十分なのだ。そんな事を考えながら革靴を履き玄関の扉を開けた。




