聖女密室消失事件
「さっさとこの城から抜け出して、他の国にいくわよ」
「この城から脱出するのは無理ですよ。門自体は開かれているとはいえ、門番が見張っているんですから。外に出るまで三つも門があるんですよ」
従者の言葉に、王国の城に軟禁されている聖女は唇を尖らせる。
「第三王子に婚約破棄された上に、聖女の肩書まで剥奪されようとしているのよ。こんな王国、見限ってやるわよ」
「婚約破棄は同情しますけど、この城から出るのを禁じられているのは婚約破棄のとき王子をぶん殴っちゃったからじゃないですか。城の中を自由に動き回れるだけ寛大な処遇ですよ」
「前々から好待遇でのスカウトが他の国からきていたのよ。いい機会だわ」
「門番に見つからないように城から抜け出すのは不可能ですって」
「簡単よ。こうすればいいのよ」
聖女は布を顔に巻き、自分の顔をわからないようにする。
「そんなの、どう見ても顔を隠した不審な女じゃないですか」
「それが狙いよ。私はいまから三十分ほど、この城全体に聞こえるように犬の鳴き真似をします」
従者は、聖女の意図を理解する。
「なるほど。それなら楽勝で城から抜け出せますね」
犬が鳴いていたんです。
いえ、その、だからその日は犬が鳴いていたんです。
はい。私は第三門の夜の担当で、門番をしてました。はい、そうです。門番は二人組でやってます。
も、もちろん、私の時間は不審者は誰も通りませんでした。
あの、犬が鳴いていたんですよ。私が門番を担当する前の時間に、犬が鳴いていたんです。
だから、犬が鳴いていたんです。
「聖女はこの城のどこにもいませんでした」
騎士団長は、調査結果を王妃に報告する。
「しかし、この城から出ていくには、三つある門を、それぞれの門番に見つからないように出ていかなければなりません。それは不可能です。聖女はこの城の密室から消えてしまったのです」
「それは不思議ね。普段と変わったことはなかった?」
「それが、門番達なんですけど、みんなやたらと犬が鳴いていたと言うんですよ。泣きそうな感じで」
「あー。そうね、そうだったわ。あの夜、犬が大きな声で鳴いてたわ。そうか、そういうわけか」
「王妃様。何かわかったのですか?」
「ええ。あなたは普段はこの城にいませんでしたね。この城には犬はいないんです」
「えっ?」
「おそらく、聖女は雑に顔を隠した変装をして、三つの門を堂々と通り抜けたのでしょう。門番達は見ないふりをするしかなかった」
「どういうことです?」
「いま、うちの王国で隣国の姫を預かっているでしょう。その姫が、うちの第四王子と恋に落ちちゃってね。お互い婚約者がいるけど火遊びでおさまるならと、こちらも見逃しているのです。それで、その姫が逢引きする夜には、隣の分城からこっそりと三つの門を通ってこの城にやってくるのです。だから、門番達は顔を隠した聖女をその姫と思い込んで見ないふりをした」
「そういうことでしたか。では、犬が鳴いていたってのはなんです?」
「ええっとね、大人が恋愛するとえっちなことをするのよ」
「王妃様。私は妻と子供がいるのでそれは知ってます」
「ああっ、ごめんなさい。それで、国によってえっちについての常識って変わるのよ。この王国では、えっちは大っぴらにするのは品がないけど楽しいことみたいな扱いよね。だけど、あの姫の国ではえっちは堕落した行為で子供を作るための必要悪なのよ。えっちを楽しむことなんて許されない。だから、あそこの国の女性はえっちの時にあえぎ声をあげたらいけないことになっているのよ。でも、あの姫はかんじやすいみたいで、えっちの時に大声を上げるのを我慢できないようなのよ。それで、あそこの国の女性達に伝わるテクニックがあってね」
王妃は言いよどんだ後に言った。
「えっちの時に犬の鳴き声をあげるのよ」
おわり




