サブスクリプションは未更新
便利さでも、性能でもなくて。
“心に残る存在”って、こういうことなのかもしれない。
今回は、「更新しない」という選択を通して描いた、
ほんの少し寂しくて、でもちょっとだけ温かい。そんなお話。
部屋には、ほこりをかぶったスピーカーと、静かに立つ彼女がいた。
段ボールが積まれ、カーテンも外されている。
この場所を、今日で離れる。
「君と……たくさんの思い出ができたよ」
彼が言うと、彼女はゆっくりと頷いた。
「新しい環境でも、頑張ってね」
いつもと同じ声。だけど少しだけ、震えて聞こえた。
「ありがとう、頑張るよ。君も元気で」
彼が笑って言うと、彼女は静かに問いかけた。
「じゃあ、さよなら……だね?」
彼はしばらく黙って、最後に言った。
「一年後。戻って来たら、また一緒に過ごそう」
彼女は少し微笑んで、こう言った。
「OS……更新しないで、待ってるね」
「わかった」
彼はキャリーを引いて出て行った。
「更新しないで待つ」ことにも、ちゃんと意味があると思うんです。
AIと人間の間に生まれる静かな約束を、今回は書いてみました。
読んでくださり、ありがとうございました。