第二話 悪魔の力
バンッ、バン、
俺は3対1に勝てるはずもなく、やり返す術なくボロ負けした。
「ちょ、このおっさんマジであんだけ威勢よくついてきたくせに、くそ弱えやんw」
「それなwマジで雑魚のくせに調子乗るからこーなんだよw」
昔から喧嘩はしたことがない訳ではなかった。
もちろん勝率もトントンでヤンキーほどの喧嘩という喧嘩はしたことがなかった訳だが、さすがに3人には勝てなかったっぽい。
ヤンキーらは3人でかかってきているにも関わらず、集団で群がり、地面にひれ伏す1人を集って笑っていた。
あまりの理不尽に腹が立ったがそれに対抗する力が俺にはなかったようだ。
俺は口腔に広がる血の匂いと共に、3人から見下ろされる敗北感と情けなさと悔しさを噛み締め、唇を噛んだ。すると噛んだところから血が広がったが、俺はもうそんな痛みは感じるほどの冷静さはかけていた。
そして、すぐに1人のヤンキーが調子に乗って言ってきた。
「ほんと、おっさん。あんたみたいな将来もねー廃れた奴が俺らみたいなんにかかってくんじゃねーよ。どうせ、この先も何もできないんだからよ。w」
悔しさの中、やってやろうと意気込み裏までついてきた。でも俺はボコボコにされ負けた。
確かに負けた奴に何かを言っても聞く耳は持たれないのかもしれない。だが、その一言は俺の中の何か大事にしてる気持ちを踏み躙られた気がした。
心の糸が切れる感覚がした。
俺は仕事にもつかず、毎日日当の工場バイトで働き、生活費ギリギリの中、家賃を払う日々、たしかに働くのを避けていたし、たしかにあんまりかっこいいとは言えた生活ではないかもしれない。
ただ、こいつらにこんな事を言われる覚えはなかった。
俺の何を知ってこいつらはこんな事を言うのだろうか。
人への失望などとっくに済んでいたはずだった、だけど、その一言で腹の奥から劣等感と共にドス黒い感情が湧き出てくるのを感じる。
目の前が怒りで見えなくなる。潰したい。悔しい。、、殺してやろう。。。
俺は心の中に秘めていたドス黒い何かが眼前に浮かぶ感覚に襲われる。
「誰がだ。誰がすだれた未来のない奴だ。」
俺の怒りと共に、周りの空気が凍るように冷たくなる。
俺を中心に怒りの気迫はヤンキーたちにも広がり、先刻までとの違いは誰が見てもわかる有様だった。
俺はその怒りのまま、殺意の籠った鋭い眼光で3人を捉え、俺の目には悪魔のような骨の髄を振るわせる狩る者の目になっていた。
だがしかし、これは比喩でもなんでもなく、人間から発せられるようなオーラではなかった。生物的にあきらかに捕食者と被食者の関係性を彷彿とさせる圧倒的な威圧。
目から感じられるのは異界の悪魔をも思い浮かばせる恐怖。一眼見れば、戦ってはいけないのだと赤子ですら分かる形相であった。
ヤンキーは先ほどまでとは明らかに様子が違うのと、これまでしてきた喧嘩からなのか、明らかにヤバい事をすぐに悟る。ヤンキーらに悪寒が走った。
「お、おい、ちょっとやばくね。」
先ほどまで馬鹿にしていた人間だったが、空気が凍るという感覚を初めて味わったのか、すでに足は氷のように固まり震えていた。
もうその中には、舐められたくないなどというプライドを保つことは不可能であった。
ヤンキーは明らかにいま逃げなければただでは済まない事を瞬時に理解する。
「か、かえろうぜ。」
そういい、裏にこいと勇ましく言っていたはずの1人の男が、恐怖に顔色を染め、その場から立ち去ろうとする。
やばい。。このままでは死んでしまう。意識とは別に遺伝子に組み込まれた恐怖心が、彼らの足を自然と退路へと赴けていた。
そして、数刻もせぬまま、何も言わずとも互いにやばい事を悟り、醜態を晒しながら、走ってバイクを止めているコンビニに向かい、道中転けそうになりながらも「やばい。ガチであれはあかん。」そんなことを叫びながら、着いた瞬間急いでバイクのエンジンをつけ、噴かす暇なく、その場から立ち去った。
その頃、俺は自分の中を支配するドス黒い感情に一時的に支配されたが、ヤンキーが立ち去ったことで、その感情は少し落ち着いていた。というより、自分を抑えないと何か危ない気がした。
「だ、大丈夫ですか、、?、」