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解放される力


「動くな」


 後頭部に感じる、金属の冷たい感触――。

 その嫌な感触は拳銃のそれ――いや、もっと危険な武器であろうことが容易(ようい)に想像できた。


 声の主は、レオーナが対峙している2人の敵兵の仲間だった。


 冷や汗をかきながら、盛山は無意識のうちに両腕を上げる。

 同じく、武器を突き付けられた吉田もだ。


 盛山と吉田の背後には、2人の新たな敵兵。

 これで、敵は4人となった。 


「なるほど」


 援軍の存在に気づいたレオーナが魔法を解く。


「形勢逆転だな」

 新しい煙草に火を点けながら、太眉はさらに続ける。

「なぜあんたのような魔女がその男を大事そうに保護してるのかは知らないが、俺たちにとってはラッキーだった。つーわけで、大人しく投降してもらおうか」


「嫌だ――と言ったら?」


「あんたの大事なペットを殺す」


 太眉の言葉に、盛山の身体(からだ)が強張る。


「それは困るな」とレオーナ。


「なぜそこまでそいつにこだわる?」


 太眉が訊ねる。


「貴様らには関係ない。言っておくが、私はそう易々(やすやす)と白旗は上げない。もちろん、この男も殺させはしない」


「テメェ……」


 吊り目がレオーナににじり寄りながら続ける。


「自分の立場わかってんのか――よっ!」


 と、次の瞬間。

 強烈なフックををレオーナの腹に打ち込む。


「くっ……!」


 微かなうめき声を漏らすも、涼しい表情を崩さないレオーナ。


 それが気に入らないのか、吊り目は何度も殴り掛かる。


「生意気なのも俺好みだしよ」

 吊り目がレオーナの髪を引っ張り顔を見合わせる。

「殺すには惜しい身体だよなぁ」


 さらにレオーナの胸を乱暴に揉みしだく。


「レオーナさん!」


 たまらず盛山が叫ぶ。

 自身の身の安全と引き換えに、(はずかし)めとリンチを受けるレオーナ。


 なぜ、自分なんかの為に……!?


「動くな!」


 盛山を抑えつけていた敵兵が叫ぶ。

 反射的に、盛山は駆け出そうとしていたのだ。


「落ち着くんや!」


「でも!!」


 吉田が忠告するも、もがくのをやめない盛山。

 自分の身代わりとなって、まだ年端もいかない女の子が痛めつけられる光景に耐えられなくなっていた。


「じきに援軍が来るやろ。もう少しの辛抱や」


「くッ……!」


 そうこうしている間にも、レオーナは吊り目の攻撃を受け続けている。

 涼しげな表情は崩さなくとも、血や(あざ)がそのダメージを物語っている。

 

「もう終わりか?」


 レオーナの態度に、息を切らした吊り目は困惑する。

 目の前の少女を屈服(くっぷく)させられないプライドからか、または彼女の折れない精神力に恐れをなしてきたのか、吊り目の表情に余裕がなくなっている。


「そうだな、もう終わりにしよう」

 静観(せいかん)していた太眉が、レオーナに近づいてゆく。

「俺たちも、美女がいたぶられる姿を見て喜ぶほど落ちちゃいない」


 立ち止まり、レオーナの眼前に腕のアーマーを突き出す。


「いいのか?」と吊り目。


「これで俺たちも(はく)がつくってもんだ。()には上手く説明するさ」


 レオーナは太眉を見据える。

 その瞳は、反撃の意思があるようにも、死を享受(きょうじゅ)しているようにも見えた。


「レオーナさん! 僕の事はいいから早く逃げて――」


「黙れッ!」


 抑えつける敵兵に顔面を殴られる盛山。

 人から殴られたのは生まれて初めてだった。

 痛みを感じるよりも、現状をどうにか打開しなければという思いが先走る。


「魔女狩りだなんて、物騒な言葉だと思わねぇか?」 

 太眉が(さと)すように語り始める。 

「生け捕りだって命令だったんだが、今ここで死んだ方が苦しまずに済む。許せ」


「いいだろう」

 今際(いまわ)の際であるにもかかわらず、レオーナは不敵に笑う。

「私の死と引き換えに、あの男たちを生かすと約束しろ。魔女との契約を破ればどうなるか、貴様らならわからぬわけではあるまい」


「ダメだ! レオーナさん!!」


「負けは認めないが、自分の死は覚悟の上ってか」

 と、太眉。

「上等だ。さすがは一国の魔女」


 クソッ……!!


 抑えつける敵兵の力に為す術がない盛山。


 動けよ、俺の身体ッ……!!


「安心しろ、約束は守るさ」


 太眉が言うな否や、腕のアーマーの照射口が白く光り始める。

 

 静かに目を閉じるレオーナ。



「うあぁぁぁぁぁッ!!」



 盛山の咆哮(ほうこう)

 それと同時に、突如盛山を取り押さえていた敵兵が吹っ飛んだ。


 ……?


 誰しもがなにが起こったのかわからずその場が静止する。

 

 太眉の攻撃は未遂に終わり、レオーナがゆっくりと目を開ける。


 そこには、立ち上がり肩で息をする盛山の姿があった。


「貴様はいったい……」


 レオーナの言葉は、それ以上続かなかった。


 盛山の身体は、禍々(まがまが)しくも美しい青白いオーラで覆われていた。


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